天使のナイフ (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062761383

感想・レビュー・書評

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  • デビュー作とは思えないような緻密な構成と秀逸なタイトル。
    あちこちに散りばめられた伏線が最後にはしっかり回収されるので、全てが明らかになったときに驚きです。
    本作はミステリーですが、少年法という今日でも改正や廃止の議論がなされる難しいテーマについて、立場の違う登場人物を通してそれぞれの視点で考えさせられる作品、という印象です。

  • 荒削りだが読みやすい物語である。
    少年法の改正から数年経つけれど、いったい少年法とは誰のためにあるのだろう。
    加害者が少年だった場合に適応されるこの少年法。
    人格的にも未熟であり更生の余地がある少年法の適応年齢であるとき、その矯正を目的として設けられた法律のはずである。
    だが、少年とはいっても犯罪を犯したことに変わりはない。
    被害者となった者、あるいはその遺族にとっては突然命を奪われることがどれほど理不尽なことなのか。
    加害者の人権や未来ばかりに目をむけずに、被害者の無念を晴らす法律でもあってほしい。
    そんなふうに考えるのは間違っているのだろうか。
    復讐には何の意味もない。
    復讐によって得られるものなど何もない。
    そのことに加害者が気づいてくれたことが救いといえば救いだろう。
    真の贖罪とは・・・を問いかけてくる物語だったように思う。
    考えられた構成のわりに人物描写が弱かったことが残念だった。
    しかし、読者を引き込んでいく力強さや思いがけない結末などを考えると、全体としては読みごたえのある物語だったように感じた。

  • 第51回江戸川乱歩賞受賞作品。
    少年法にスポットに当てた作品で、ぜひ「さまよう刃」と両方合わせて読んで欲しい。
    そして、どれだけの人が泣き寝入りしているか考えて欲しい。
    ラストは涙なしでは読めませんでした

  • 少年犯罪の被害者遺族にスポットを当てているので、同じ著者の作品で、加害者の家族の苦悩を扱った『Aではない君と』と対をなすような作品。この作品については、少年法に守られた加害少年が殺害され、その容疑が被害者遺族である桧山にかかるという点でミステリー要素も強い。
    この方の作品はどれも素晴らしいが、この作品も本当に秀逸。被害者遺族として、殺してやりたいほど加害少年たちを憎んでいた桧山。なぜこれほどまでに被害者の人権は軽んじられ、ただ少年であるというだけで加害者は守られるのか。被害者を置き去りにした更生に、一体何の意味があるのか。そんな虚しさを抱えながら、男手一つで娘の愛実を育てながら懸命に日々を過ごす。
    しかし事件に巻き込まれ、その真相に迫る中で、無慈悲にも命を奪われたかけがえのない存在であった妻の祥子自身がかつて人を殺し、少年院に入っていたという衝撃の過去を知る。この事実を知ったことで、桧山は少年犯罪の被害者遺族でありながら加害者側の関係者にもなってしまい、否応なしに真の「更生」の意義に直面することになる。そんな葛藤の中で桧山は、生前の祥子が、犯した罪に向き合い贖罪を果たそうとしたことに救いを見出していく。
    憎しみの連鎖と少年犯罪の加害者・被害者、その家族の苦しみが残酷なまでに描かれている。
    重くて苦しい、答えのないテーマだが、ありきたりな復讐劇や勧善懲悪ではなく真摯にこのテーマに向き合い続けている著者だからこそ描くことのできる唯一無二の作品。
    『Aではない君と』と合わせて、少年犯罪に対する処罰感情や自分の価値観が大きく揺さぶられる。
    解説で高野和明氏が言っているように「江戸川乱歩賞ぶっちぎりの受賞」も納得の一冊。

  • すごくすごく良かったです。
    被害者と加害者が複雑に絡み合い、どんどん引き込まれてしまいました。
    少年法に守られて事件の真相がわからなかったことが、沢村殺人によって過去の事件に繋がっていく。
    もしも違う対応していたら…
    すぐでは無理でも心から謝罪しづつければ、いつかは受け入れてもらえる時がくる。これでやっと罪を償うということになるのか。
    いろいろなことをとても考えさせられる作品てした。

  • 映像化されたドラマを先に見ていたので思い出しながら読んだ。被害者遺族となる桧山貴志が巻き込まれる真実に近づく過程をゾクゾクしながら読んだ。少年犯罪による法律はやがて改正されるがそれまでは被害者遺族がいかにないがしろにされていたかが分かる。法律について考えさせられた。自分はドラマより小説を先に読んだ方がいいと改めて思った。

  • 薬丸岳のデビュー作らしい。
    知人から譲られ、何の前情報もなく読んだ。
    最初はありがちな展開になりそうだなぁと思っていた。が、最後の怒涛の展開に一気に面白さ爆発。面白いです。少年法ついて考えさせられた。犯罪を犯した者はどう生きるべきか、被害者はどうしたら救われるのか、償いとは何なのか。法律で守られるあるいは罰せられる事の意味について関わった人々は考え続けなければならないのだなぁ。著者は少年犯罪に詳しいのか、他の著書も評価が高いのでぜひ読んでみたい。

  • 『少年法の精神によれば、子どもの犯罪は環境に作用されておこるもの』
    『可塑性に富んだ子どもは多くの手助けがあれば立ち直っていく」』
    子どもに罪はなく、大人が、社会の一員であるあなたも加害者側だと言わんばかりの少年法の精神。不幸にも犯罪に巻き込まれ、加害者が未成年だと知った時の絶望感は他の小説でも何度も読んできた。
    年齢関係なく罪の内容で裁いてよって、被害者遺族が求める情報は教えてよって思う。
    結局この小説の黒幕も同じ。私利私欲の為に殺し、学び、今度は殺人をしむける。更生どこいった?今回の事件の元凶だけに本当に腹立たしい。
    主人公を中心に犯罪者と犯罪被害者がつながりすぎている感はありますがぶっちぎりの乱歩賞、解説までいっき読みでした。

  • 現代の闇かどうかわかりませんが少年犯罪の難しさを扱った作品で、私も『少年犯罪』に対する考え方が少しだけ変わった気がします。
    タイトルも、社会が少年犯罪をどのように扱うか、どのようにして課題を解決していかなければならないのかを表すようなタイトルだなと、読み終わって感じました。

  • 少年事件について詳しく調べ、丁寧に物語を紡いでいるのがよく分かる作品でした。
    張り巡らせた伏線の回収、数々の驚きの真実、まさに傑作です!

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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