ポトスライムの舟 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.33
  • (87)
  • (252)
  • (368)
  • (104)
  • (23)
本棚登録 : 3199
感想 : 373
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769297

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自分の年収=世界一周旅行代!
    それに気づいた主人公が1年間コツコツ貯金する物語……。
    と、表現すれば良いのかな?
    29歳。学生時代の友達は結婚していたり子供がいたり、あるいはカフェのオーナーになっていたり。
    生活スタイルに大きな違いが出てくる微妙なお年頃ですね。

    ページ数のわりに深いお話でした。
    主人公・ナガセが奈良に住んでいて三宮へ遊びに出かけたり……など、関西人には嬉しい舞台設定です。
    また、ナガセをはじめ、友人ヨシカ、ナガセのおかん(「母親」とか「お母さん」とかではなく!)、りつ子の娘・恵奈といった登場人物たちも好きです。


    もう一編の『十二月の船』はパワハラが主題とあって、しっとり穏やかな表題作とは打って変わって重苦しい物語でした。
    一文が長くて段落分けが少なくて、ページ一杯に活字が埋まっているせいか、読むのも息苦しかったほど……。
    結末には少しスッキリしました。以前どこかで見た「誰かにいなくなってもらった集団よりもいなくなった誰かの方がハッピー」という言葉を思い出しました。
    どの台詞が誰の発言か解りにくかったのが残念。
    もう少しすっきりした文章で読みやすかったら☆は1つ増えたかも。

  • 主人公のナガセに共感する部分が多々あった。
    友達は要るけど、何処か信用できない所とか。
    時間を切り詰めて働いて働いて、自分と向き合うのを避けている、逃げているというか。
    ナガセのような人は、色んな所にいるんだろうなぁ。
    12月の窓辺は、私にはどこか非日常すぎて…まぁそれだけ平和という事だけど
    私的にはあまりしっくり来ませんでした。

  • 読み終わってこの感じ好きだなと思っていたら、芥川賞受賞作だったのかと知り納得しました。
    何と無く何もかも上手くいかない時に読んで驚く程共感しました。
    生き方を変えるような本では無いが、少しだけでも確実に前向きになれる気がした。

  • ポースケもいちど見直さなきゃ。

  • 社会出たくなくなるわ。新卒目前にして読むようなものではない。重い。

  • 労働という行為で以てしか「社会」と関係を結べないとするならば、端的に云ってその「社会」は病的だ。その「社会」の中で、人間性を保とうというのは、実に息苦しい事業だ。こうして経済機構でしかなくなってしまった「社会」の中には、暴力が胚胎する。しかし不特定多数の「社会」の中で、名前と顔の知れたものとの共感共苦の可能性も在り得る。そこに、暴力とは別の、今にも息を止められてしまいそうなほどに"弱い"者たちの、淡くも温かい関係があるかもしれない。「労働」とは別の次元にある、関係へ。

    「自分の時間がないことに安心していた。どの仕事も薄給だということが、ときどきナガセを追い詰めたが、それでも働かないよりはましだと思っていた。前の仕事をやめた後、何もしていなかった頃の焦燥を思い出すと、体は熱いのに身震いが起きる」(「ポトスライムの舟」)

    「本当に、毎日仕事以外何にもなくってさ」(「十二月の窓辺」)

  • とてもおもしろかった。

    『ポトスライムの舟』は、決して状況はよくないのに、悲観的になることなく、かといって楽観的なわけでもなく、現実を認識しつつもどこか逃避している主人公が好きだ。
    そんな主人公・ナガセがある日、自分の工場勤務の年収と、一年間の世界一周旅行の金額がほぼ同額なことに気付き、一年後の同じ時までに、丸々一年分の給料を貯めて、世界一周にでも行こうかと考える。
    その一年間の間に起こることは、結構大変なことなのだけども、どこまでもクールなナガセを通してみていると、なんとかなるのかなーとも思ってしまった。

    『十二月の窓辺』はしんどい。
    伏線にもびっくりした。


    二作読んで、がんばって働こうと思った。

  • 2013.11.30 am1:02読了。二編からなる。表題作『ポトスライムの舟』と『十二月の窓辺』。前者の感想から述べる。後者は、前者より内容が重い。社内でのいじめ。上司からの根拠のない圧力。どこかが欠けていく自分の心。自分が最低だと思っていた。だけど「あなたはどうしたって自分よりはましだと思っていた」それは違った。
    淡々と綴られる文章。生々しく描く。登場人物の名前がカタカナ。このことが作品に普遍性を与え、共感を呼びやすくしている。誰にでも起こりうる、いや起こっていることを暗示する。テレビを通した映像のように、どこか現実味に欠ける。この点が、重い内容であるにもかかわらず、作品に透明性を与える。静かな風景。芥川賞はまだ二作目だが、『きことわ』とどこかつながる部分がある気がした。物語の底流をおぼろげながら感じることができたので良かった点は良かった。余裕がなかったら、平坦すぎてつまらない、で終わってしまった気がするから。自由に読書する時間がある今の状況にただただ感謝。

  • お金のため生活のため、働かないと人として駄目なような気がするため、働いています。
    でも時々、虚ろで投げ遣りな気分になることがある。
    どうしても眠くてだるい朝とか。
    甘いミルクティー、本日発売の漫画、休日の予定、カンフル剤になるようなことを思い浮かべ、なんとか起きて会社に行きます。
    ナガセの『世界一周旅行』もそんなものなのだと思います。
    ちょっとしたことで落ち込んだり、幸せを感じたりして日々は続く。
    なにも変わってないようで、少しづつ変わっていく。
    等身大の成長物語です。

  • こうだ!と思ったらなりふり構わなくなるって、誰にでもあると思う。
    それがそのうち、
    こうだ!と思った理由すら分からなくなるくらい慢性的になってることも、誰にでもあると思う。
    だから、
    これもアリだ、と気がつくと、途端に眉間のシワが消えてむしろ驚くこともあるし、
    実はこうだった、と明かされると、己の身勝手さを恥じて消え入りたくもなる。

    読みながら、私のことや、あの人や彼女のことを考えていた。
    胸が痛んで泣けてきたり、
    触発されて奮い立たされたりした。
    私だって、自分のために働いてる。
    私だって、理不尽さに腹たてながら働いてる。
    でも私だって、誰かのことを助けながら働きたい。
    私だって毎日自分のことで精一杯だけど、どこかで誰かの力になっていたい。

    願いが流れていく先が、明るいところであるように。

全373件中 71 - 80件を表示

著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津村記久子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×