骸骨ビルの庭(下) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770224

作品紹介・あらすじ

今も親代わりの茂木の話では、彼らが一緒に育てた桐田夏美から性的暴力を受けたと訴えられ、失意のうちに亡くなった阿部轍正の名誉が回復されればみな立ち去るという。孤児たちの暮らしをなぞるように庭を耕し始めた八木沢は、真実を求めて夏美の消息を追うが…。人間の魂の絆を描いた感動の力作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 戦災孤児について全く知識が無かったので、この本を読むことにより生きることがどれだけ大変だったろうかと思いを巡らせることができた。
    一人一人インタビューしたものを日記ふうにしたためてあるのでグイグイと読めた。

    話の端々に心に沁み入る箇所があった。
    うまくまとめられなかったので再読してピックアップしようと思う。

    宮本輝氏の小説は毎回、事業を起こそうと思わせるものがある。今回は食堂。
    錦繍では今で言うタウン誌を作ったエピソードがあった。
    流転の海を読んで、事業を起こす事が描かれるのは宮本輝氏のお父さまの影響であることがわかる。

    また今回も能を見に行くという箇所があり、たまたま能を見るチャンスに恵まれたのでこれも何かの縁と思い見に行くことにする。

    それから舞台である十三に近々行くので、近辺を歩けたらと思う。

  • 骸骨ビルと言う場所の意味、阿部轍正の存在、そして茂木泰造の思い。終わりに向けて動き出す…。

    パパちゃんに対し周囲からは邪推され陰口を叩かれる中、自己保身しか考えていなかった役所が子供たちを引き取りたいと言ってきた時に、彼が言った言葉。
    「人間としての誇りは捨てんが、小さな自尊心なんていつでも捨てるで」

    これもパパちゃん。
    「人間はその根本の部分に必ず何等かの癖を隠しているものだ。…つらい苦しいことからは逃げるという癖を持つ人間もいる。そのときどきの気分で表情や態度が変わるという癖を持つ人間もいる。…そのことをしっかりと自覚しろ。」
    私に言われているようだ。

    ヴィクトル・フランクル「意味への意志」からの引用。
    「――われわれは他者の人生に意味を与えることはできません――われわれが彼に与えることのできるもの、人生の旅の餞として彼に与えることのできるもの、それはただひとつ、実例、つまりわれわれのまるごとの存在という実例だけであります。というのは、人間の苦悩、人間の人生の究極的意味への問いに対しては、もはや知的な答えはあり得ず、ただ実存的な答えしかあり得ないからです。われわれは言葉で答えるのではなく、われわれの現存在そのものが答えなのです。――」
    フランクルの「夜と霧」も考えさせる言葉が多く、勉強になったなあ。この本も読んでみよ。


    終わりは静かな感じだったが、充足感の得られる内容であった。
    宮本輝さんの本は初めてだった。他の本も読んでみたい。

  • 読み終わって、
    自分はこの物語を字面では最後まで追って行き、
    頭の中でなんとなく話を理解したつもりだけど、
    大事なところを全然理解してないんだろうなあという
    確信めいた気持ちになった。

    理解するには、今の自分には人生経験が足りてない気がする。

    歳をとってから、また再読したい作品。

  • 大阪十三にある通称「骸骨ビル」。開発のため立ち退きを促す担当者として派遣された八木沢省三郎と個性豊かな住人たちとの交流がなんとも楽しく味わい深い。
    敵対する関係のはずがいつしかヤギショー、ヒデト、サクラちゃん、トシ坊、ナナ、チャッピー、ヨネスケと渾名で呼び合う人間関係に入り込んでいく。
    そして中庭に畑を再現し、住人たちから昔の話を聞くにつれ戦後のオーナーたちの苦労を知り彼らに感情移入していくヤギショー。

    ーー人間は何のために生まれてきたのか?
    ーー自分と縁する人たちに歓びや幸福をもたらすため

    戦争から生還し、何かの力によって生かされたと感じた男が、孤児たちを育てて父となることで生を全うするその生き方に心を動かされる。
    滋味深い物語は最後の1ページに至ってさらに大きな感動をもたらしてくれた。
    「雄弁で彩りに満ちた沈黙」のシーンは自然と涙が滲み、後には深い余韻が残った。

    いい作品を読めました。

  • 一気読み。宮本輝は初読み。主人公の八木沢と住人(優等生的な住人)の会話があってこそのストーリー。現代のような隣人どうしが希薄な世の中ではこの様な関係を築くことはないだろう。そう言った意味ではこんな終わり方が良いようにおもう。


  • 宮本輝の作品に共通しているように思うが、この作品にも「光」が登場する。人間の存在を超えた何かが、人の運命を決定しているかのような感覚。苛酷で残酷な世の中に、稀に存在する点のような光と、存在としての人間が生死を超えていく様を現代的な言葉で、日常的な風景の中に、よくもまあ上手く織り込めたものだと思う。
    多くの人の人生が、不思議に結び付けられていく縁を信じてみたくなる作品。

  • 長い…

  • とても面白かった。初めて読んだ宮本輝作品。十三を舞台にして戦後を描く。登場人物の置かれた状況は大変だが、それを不幸自慢にしないところがいい。事実と虚構を混ぜて効果的に伝えるということにこの作品は成功している。生臭くないがリアルに思える。そう感じることの出来る作品だったと思う。後半、物語世界が閉じてしまうのが残念に思えるくらい。どっちを先の読もうか迷った「道頓堀川」も楽しく読めそうだ。芥川賞選考委員の、これが解答例とでもいえるようなそういう感じがしたかな。

  • ビルの住人の戦後の話は、まだまだ続く。そして、成人に達してからの住人の日頃の生活、性質などが少しずつ明らかになっていく。
    父親代わり、母親代わりの二人が住人の戦災孤児の精神構造構築に与えた影響のすごさが描かれている。
    そして、除却するための条件について、色んな思惑が語られる。
    濡れ衣を着せられた父親代わりの人間性も、少しずつ明らかにされ、また、母親代わりのもう一方の主人公の心の奥底のことも次第にわかってくる。
    最終段階に至るまでの関係者の行動・思いが作者のすばらしいタッチで描かれていた。
    関わった人間の99%は、納得いく形でこの物語は終わる。
    世の中で生じる様々な現象、100%すての人間が納得して終わるということない。
    しかしながら、人間として大切な価値観は十分守られ、ストーリーは終結するという形でこの物語は終わった。
    読み終わって、なんとも言えない爽やかさが残るというのは、宮本輝さんの小説感によるのだろう。

  • ヤギショウはんとその家族に不幸な事故や事件が起きるでなく、夏美が骸骨ビルに来るでなく、それでも5月31日に一つの区切りがついてしまった。茂木は諦められたのか? 「子どもたち」は、それを受け入れられたのかが今一つ感じられなかった。戦後、様々な理由で親を失った子どもたちを育んだ骸骨ビルの幕引きが、ひっそりと行われた感じ。重箱の隅的に言わせてもらうと、日記として綴られた本文だが、骸骨ビルに関わる人々の発言をあんなに事細かく書けるのか? その部分にはリアリティを感じず、違和感があった。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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