- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062773737
作品紹介・あらすじ
姉は若くして逝った。弟の私は、姉の夫だった義兄と、遺された一軒家でふたり暮らしをしている。会社では無理難題を持ちかける役員のもとで秘密の業務にあたり、私生活でも奇妙な事件ばかり。日増しに募る義兄への思いと、亡き姉への思慕。もどかしい恋の行方と日常にひそむ不思議を、軽やかに紡ぐ連作集。
感想・レビュー・書評
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「レモンタルト」という言葉に官能を感じたのはこれが初めてである。
私と義兄。それ以下にも以上にもならない関係野中で、穏やかに、激しく燃える「私」の恋心が細やかで淡々とした文章で綴られていく。
解説にもあったように、この小説の中には人名の表現が避けられ、代わりに「私」との関係性やイニシャルが使われている。
これにより、単に「私」がある男に恋をしているのではなく、その相手が姉の夫、「義兄」であることがありありと映し出される。姉の弟である以上絶対崩れない、それでいて脆弱で官能的な関係性。
「姉の海」という表現が、わたしにとっては1番甘やかで印象的だった。「私」の中にも、「義兄」の中にも、常に「姉」という存在がいるのだ。だからこそ、2人の関係性は強く続いているのだろうし、「私」にとってはそれが恨めしくも心地良くもあるのだろう。
大好きな作品、江國香織『きらきらひかる』の読了にもあったような、夢幻的な、切ない後味がたまらない。これからもたまに読み返そうと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「もうずっと前から義兄のことが好きだった」この1文にたどり着くまでの、静かな静かな盛り上げ方が もう ほんと 長野まゆみ。
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叙情的で、あまり今までに読んでこなかった作風。
主人公が職業柄というか、それ以上にさまざまなトラブルに巻き込まれていく中、いつもタイミングよく義兄が現れて助けてくれる。
義兄はどういう生活をすれば、こんなにタイミングよく現れられるんだろう。 -
《もうずっと前から義兄のことが好きだった》
匂い系小説で調べると必ずと言っていいほど名を轟かせる本作。
物語の表面上はミステリーだが、その裏で主人公が義兄への感情を押し殺し叶わない恋に身を焦がす様子が歯痒い。
タイトルであるレモンタルトとの由縁も主人公と義兄が一定以上の距離に縮まることはないと宣言しているようで切なかった。
訳ありな出自故社内に敵が多くトラブル体質の主人公と毎度見計らったかのような最高のタイミングで登場する推理したがりな義兄。
解説に"主人公がトラブルに巻き込まれる元凶には義兄へ寄せる想いがあり義兄は探偵であり真犯人なのだ"とあり、心の中でスタンディングオベーションした。恋泥棒の義兄。憎い男め。
義兄を"ほかのだれのものでもない姉の海"と表現する主人公がこの先も囁かに心地良く泳げることを願う。
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「レモンタルト」というタイトル、表紙や文章全体がおしゃれな小説だった。
事前情報確認せずに読んだため、BLだったのは驚いたが心理描写が丁寧で良かった。