金閣寺の燃やし方 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062777506

作品紹介・あらすじ

「金閣寺焼失事件」に心を奪われた作家・三島由紀夫と水上勉。生い立ちから気質まで、対照的な二人を解剖。面白すぎる新・文芸評論!

感想・レビュー・書評

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  • 2024年1月
    三島由紀夫の『金閣寺』は実際に起きた金閣寺放火事件を題材にした作品であるが、この事件を題材にして水上勉が小説を書いているということは知らなかった。
    三島由紀夫と水上勉、三島は金閣寺の美にフューチャーして作品を仕立て、水上は放火犯である林養賢という人物に焦点を当てているという対比。水上勉に俄然興味が湧いてきた。
    内容はかなりしっかりとした文学評論だけれど、著者の軽快な文章が読みやすく、面白い。

  • 日本海側のジメっとした裏・日本気質の水上勉、太平洋側のカラっとした表・日本気質の三島由紀夫という見たてをもとに、『金閣寺』に表れた作風や気質の違いを対比しながら考察する文芸エッセイ。
    金閣寺放火犯である林養賢を、水上は、貧しい故郷や生い立ちなどの複数の類似点(事件前、若狭で偶然にも林に会っている)から、自分を重ねながら同調的に描いているのに対して、三島は、放火した行為そのものに焦点をあてて、みずからの観念をあらわす美的体現者として、突っ放して描いている。
    つまり両者の核心は、主人公に心理的にアプローチして、その背景に潜行していく水上に対して、金閣寺を炎上させた美的行為そのものにみずからの思想を反映させた三島の構図となり、著者はその全容によって、湿っぽく貧しい裏日本と、乾いた風の吹く表日本の気質の違いを見て取る。
    このエッセイを魅力的なものにしているのは、このような対比から現代にも通じる日本人の気質感覚を導き出しているところである(ここには書かないけど)。

    エッセイが面白い分、
    『金閣寺の燃やし方』
    このタイトルは一考の余地があると思う。

  • 下からの視線の水上勉、上からの視線の三島由紀夫。水上勉は林養賢に同情的で、三島由紀夫はドライな見方をしている。これは、「五番ます夕霧楼」、「金閣炎上」と、「金閣寺」を読んだ時にも感じたことである。重松清氏の解説が秀逸である。

  • 題名が、実に刺激的だ。金閣寺は、美しいがゆえに燃やされるために存在しているのかもしれない。金閣寺は様々な戦乱や戦争を経ても550年間に燃えることはなかった。屹然として金閣寺は存在していた。美しいことは、永遠であってはならない。それをたった一人の僧が燃やした。あくまでも、燃やされる対象としての金閣寺である。だから、燃やし方が重要で、金閣寺が最ものぞむ燃やされ方まで、考えねばならない。しかし、この本は金閣寺の燃やし方よりも、なぜ金閣寺が燃やされたのか?と金閣寺が燃やされたことで、どう思ったのか?のに論点を置いている。
    酒井順子は「金閣寺炎上事件」から、金閣寺に魅せられた男、林養賢、三島由紀夫、水上勉の3人の生い立ちから、金閣寺炎上の価値観と世界観を論じる。3人の男は、金閣寺を燃やすことに意味を与えようとした。
    福井県の寒村で生まれた林養賢。どもりで、貧しい寺の僧の息子。仏教僧の父親から「金閣ほど美しいものは地上にない」と聞かされた。そして、食い扶持べらしに金閣寺の徒弟となる。しかし、金閣寺はそれほど美しいものでもなく、金閣寺の老師は、薄汚れていた。金閣寺を見に来る人も浮かれているだけだ。汚れ、世俗にまみれた金閣寺は、燃やすに値する存在だった。
    著者は言う「本書において、裏日本を体現する作家である水上勉の湿り気と、表日本しか見ようとしなかった三島由紀夫の乾き方とを比較しようとしている」
    酒井順子は、表と裏のあり方について、深く考えるようだ。
    太陽の光を一心に浴びてエリートコースをいきた三島由紀夫。林養賢と同じ福井の生まれで、口減らしのために寺に預けられ、還俗して作家になった水上勉。その二人は、金閣炎上を、自分の人生に照らして物語にした。
    三島由紀夫は大正14(1925)年生まれ。(あれ。私の親父と同じ年に生まれている。)学習院小学から高校、そして東大、大蔵省の官僚というエリートコースをまっしぐらななかで、小説家になった三島由紀夫。祖母に育てられ、身長は164cmで、家に閉じ込められて、ひ弱な顔の長い男だった。そこで、肉体改造をして自信満々の時に、「金閣寺」を書いた。祖父は内務官僚であり、樺太庁長官や福島県知事をしていた。父親は農務省官僚であった。しかし、祖父は農民の家で生まれた。三島由紀夫のルーツは農民だった。表日本の代表であっても、ルーツは人には言えないことを学習院に行くことで理解した。上には上がある。だから、常に上昇志向で、ノーベル賞も欲しかったのだ。師と仰ぐ川端康成にノーベル賞を奪われたことにショックを受ける。そして、美しい死に方を選び、憂国の士として生を閉じる。短く、印象に残る生き方をした。金閣寺炎上は、三島由紀夫の美の様式に関わるもので、金閣寺を燃やした男は、金閣寺とともに死ぬことは考えず、「生きたい」と熱望した。
    水上勉は大正(1919)年生まれ。福井、若狭生まれ。ずっと貧しい生活をし、寺に預けられて、あまりにもひもじいので、寺の池の鯉さえ食べた経験もある。また、偶然にも林養賢にあったこともある。三島由紀夫の美意識による金閣寺炎上ではない、地をはうような貧しい者の視点で、金閣寺炎上を描く。酒井順子は、三島由紀夫ファンであったが、調べるうちに水上勉ファンになって行く。三島由紀夫は、女にもてず、童貞を捨てたのが、遅い。水上勉は女にもて、五番町にも通った。林養賢は女にもてず、金閣寺を燃やすと決意した時に、やっと五番町に通う。
    ひなたである三島由紀夫のコンプレックスと45歳で自決、水上勉は日陰でも充実して、85歳まで生きた。金閣寺は、それぞれの人を変えるほどの存在であるということなのか。
    それにしても、酒井順子。いい仕事している。

  • 面白かった!ただ、句点のつけ方が独特でちょっと読みづらかった。

  • 三島由紀夫も水上勉も読むことないだろうから酒井さんに解説してもらってわかった気になれたのがよかった。

  • 三島と水上を巧みに比較して楽しかった。

  • 金閣寺放火事件に取材した三島由紀夫と水上勉の小説や本人同士を比較したエッセイ。
    ずーっと昔から読んできた著者の本だし、文学批評っていうのもおもしろそうと思って手にとったけど、かなりしっかりした文学批評で、読み応えもあったしほんと面白かった。同じ事件をテーマにしても、作家によってここまで違ってくるものなんだ…。

  • 三島は読んだが水上は読んだことない。実際の金閣寺放火事件の詳細までは知らない。じゃあこれ読んだら両方手軽にわかるんじゃね?ぐらいの軽い気持ちで読んだ ら結構ガッツリと文学批評であった。なんか意外(失礼) 金閣寺放火事件をモチーフにして書いた作風の違う二人の作家を比較する。これ読んでたら「仮面の告白」 の、雪に濡れた革手袋を頬に当てる場面が読みたくなって文庫本探してしまった。見つからなくて本棚が大変なことになっちゃっただろどうしてくれる!

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著者プロフィール

エッセイスト

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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