- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062778398
感想・レビュー・書評
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「大坂町人の言葉、振舞いは江戸の心得では何やら知れがたく、異国のごとし。されど大坂ほど食い物の旨く人品の面白き町は他に無く、まこと天晴れ也」。天下の賄所、商都大坂の青物問屋を舞台とした、青物商い&ラブコメ時代小説。
夫の大坂赴任に帯同した知里は、気っ風のいい江戸っ子気質でとにかく食べ物に目がない。その夫が急死し、忽ち生活に困窮した知里は、生きるため、江戸に戻るため、由緒ある青物問屋 近江屋に、お家さん(志乃)付きの上女中として住み込むことになった。志乃は気位が高くて万事に小うるさく、志乃の根性が試されるはめに。また、近江屋の若旦那(跡取り息子)清太郎は、向こう見ずな "すかたん"=「しくじりの多い者、どことのう調子っぱずれな者」。農家が市場を通さず町中で立ち入りを始めたことが問屋仲間の間で問題となる中、清太郎が知里を巻き込んで大騒動を引き起こす。
本作の随所に大坂名物の食材や料理が出てきて、その度よだれが出そうになる。「大坂にはな、天王寺蕪に難波人参、難波葱、木津瓜に勝間南瓜がある。なすびに独活、慈姑、胡瓜や蕗、牛蒡も旨い」!
蔬菜(そさい)という言葉、知らなかった。やさい、青物のことらしい。
著者の歴史・時代小説はこれで4冊目だが、どれもクオリティーが高くて読みごたえがある。他の作品も読みたいな!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大坂ほんま本大賞受賞作
江戸詰め藩士だった夫が急死し、大阪の青物問屋に女中奉公に出た知里が、遊び人でトラブルメーカーの若旦那にかき回されながらも、野菜に傾倒していく話である。
我が家から歩いて5分ぐらいの所にあった天満青物市場が主要な舞台のひとつなので親しみが湧きます。
高田郁の銀二貫も大坂商人の話ですが、こちらは大坂商人の話ぷらすなにわ伝統野菜の話が加わりさらに興味深い。また、会話が大阪弁なのでテンポ良く話が進む。主人公、知里が関東もんなので所々大坂に関する説明が入るので、大阪以外の読者も楽しめると思われる。
巻末に参考文献も挙げられているが、作中に出てくる大阪代官「笹山十兵衛」は実在の人物で作品の中で描かれている経歴の持ち主のようである。知里が奉公する河内屋も享和元年(1808)付けの八百屋問屋37人の中に屋号があったりしてなにげに歴史物っぽい演出もある。
なんとなく続編を匂わせる終わり方ではあるが、著者の本の作り方からいくと多分一話完結でしょうか。 -
大坂の老舗の青物商 河内屋の上女中となった若後家 知里の繰り広げる物語。旨いもの好きな江戸っ子娘の主人公とくせのある大坂商人たちの起こす事件が楽しく、爽快な時代小説です。朝井まかてさんの作は初めて読みますが、他の作も安心して読めそうです。
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清太郎かっこいい。
不器用だけど筋が通ってる感じ、
嫌いじゃない!!
地道に自分の仕事を頑張ってる人は
報われる。 -
武士の後家が生きていくために大坂の青物問屋に女中奉公に上がり、慣れない風習と仕事に戸惑いつつも市場構造の改革を目指す若旦那を支える話。
一言で言えばこんな感じですが、若旦那は信念と人柄だけで暴走するタイプだし、主人公の知里も最初の頃は単なる使えない女子衆だし、お決まりの敵役もなかなか巧みで一筋縄ではいかないところに加え、御家さんや志乃さんといった格好いい女性達の存在が物語を引き締めている。
当時の大坂の様子が窺えるところも良し。 -
主人公・知里は江戸っ子。藩主の大坂城代赴任に伴い、藩士の夫と共に大坂で暮らすようになるが、一年ほどで夫は病で亡くなる。ひょんなことから青物問屋「河内屋」の上女中となる。そこで遊び人で問題児の若旦那が起こす色んな問題に巻き込まれながらも、若旦那に惹かれていく。憎めない人柄の若旦那と知里がどうなっていくのかと終盤は一気読みでした。知った地名が沢山出てくるし、上方の言葉が心地良い。とても面白かったです。
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高田郁の「みをつくし料理帖」や「あきない世伝金と銀」の様な味わいを感じる小説でした。
商いに対する思い、周りの人に対する思い、何かに取り憑くように事に勤しむ思い、楽しんで読ましていただきました。少し出来すぎた結末に軽さを感じるも、御寮人志乃の最初からの思いも最後に明らかになり、納得。次は、「恋歌」のページを括りたいと思います。 -
しばらくぶりに読む、朝井まかてさんの作品。
筋立の確かさとリズムの良い文章は常のごとく、そこに商売を巡る騒動といくつかの恋が重なり、気がつけば物語の世界にすっかり入り込んでいた。登場人物がみな魅力的で生き生きとしているからか、誰の気持ちもよく分かる気がして、時代物なのに、同じ時間・空間にいるような隔てのなさがある。
重さと軽さのバランスが絶妙。