通商国家カルタゴ (興亡の世界史)

  • 講談社
4.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062807036

作品紹介・あらすじ

経済力と技術力を武器に、東地中海沿岸部に次々と国際商業都市を建設した、海洋の民フェニキア人。オリエントの諸大国に脅かされながらも千数百年をしたたかに生き抜き、その一部は海の彼方にカルタゴを建国、地中海の覇者として君臨する。やがて彼らの前に、強大化した最後の敵・ローマが立ちはだかる。日本人研究者の手による初めての本格的フェニキア・カルタゴ通史。

感想・レビュー・書評

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  •  紀元前の昔、地中海全域に通商ネットワークを広げたカルタゴの、日本人研究者による初の本格的通史である。

     カルタゴはローマによって滅ぼされ、破壊しつくされたため、遺跡もほとんど残っていない。「史料のほとんどは、ある時は隣人であり、ある時は敵対者であった他者から見た『カルタゴ』像に他ならない」のだ。
     勝者の目を通した敗者の歴史にはとかく歪みが生じやすく、一般に知られてきたカルタゴ史もその例に漏れない。だが、著者によれば、「近年の考古学を中心とした学際的研究の成果」によって、「伝承と考古学的遺物との間に横たわる大きな溝は以前よりかなり修復されつつある」という。

     本書はそうした最新の研究成果をふんだんに盛り込み、古代に滅び去った国の歴史を鮮やかに再現したものである。

     著者たちは前半3章を費やし、カルタゴを作ったフェニキア人たちの起源にまで遡る。そのうえで、700年近くに及んだカルタゴの興亡史を格調高く描き出していく。

     とくに、「ローマ史上最大の敵」と謳われた名将ハンニバルによる「ハンニバル戦争」(第2次ポエニ戦争)については、1章を割いて詳細に綴られており、圧巻となっている。
     
     特筆すべきは、後半の随所にあるローマ軍との戦闘シーンの迫力である。とくに、カルタゴ滅亡に至る最後の戦いについては、歴史書であることの限界を踏み越えんばかりに、眼前で戦闘が展開されているかのような映像的描写がなされている。むろん、それは想像の産物ではなく、研鑽から把握した史実を精緻に積み上げたものであろう。

     そして、「カルタゴ『帝国』消滅の過程はそのままローマ帝国の成立過程に他なら」ないから、本書はカルタゴ側から逆照射された“ローマ帝国黎明史”としても読める。

     一国の歴史の再検討が、古代地中海史全体の再検討へと広がっていく――そのような史学の醍醐味が味わえる労作。

  • 2009-11-30

  • アド・アストラつながり。7,8,9章のみ読了。歴史は勝者が書く、とばかりにローマ帝国の視点の者しか目にしたことがなく、カルタゴ視点のものは初めて読むかも。ボリュビオスは、ハンニバル戦争の真の要因は、傭兵浅草寺のサルディニア問題に遡ると指摘。そのため対ローマ復讐へ傾き、その急先鋒がハンニバルの父ハミルカル・バルカであり、彼がスペインへ出発した時には、開戦への秒読みが始まっていた、と。またそれは民会に集結した下層の者たちの支持を受けていた、と。ハンニバルはサグントゥム問題で開戦したが、それよりは不当に奪われたサルディニア島の返還と不当な賠償金の返還を要求した方がよかった、と。アルプス越えは、ハンニバルの名将ぶりよりも、フェニキア人、カルタゴ人が長年に渡って蓄積した地理学的実力の発揮であった。ファビウスの無限の補給と豊富な人員を生かした持久戦はじわじわと効果をあげ。そして明確なプランを描き切る前に、サグントゥム問題で開戦してしまったため、ハンニバルは、あと一突きでローマを陥落させられるチャンスも座視してしまい。ハンニバルのイタリアで試みた、反ローマ、非ローマの緩やかな同盟の結成は叶わず。最後はザマの敗戦を招いた、と。ハンニバルが、ローマに敗れたあとも、貴族層の発言力を弱め、財政改革を行い、一般民衆の税負担を軽減したこと。しかし急進的な改革が反発を受け、国外に逃亡し、シリア王のブレーンとなったのち、自死することとなったことが描かれる。またカルタゴに原因があったかのような滅亡についても、当時のローマが、簡単に戦争を仕掛け、簡単に殲滅する戦争マシーンともいうべき様相を呈していたことを指摘している。それは力のおごりだけではなく、軍事的栄光をめぐる激しい競争に起因していたのでは、と。

  • 内容はそれなりに詳しいのだが、文章がこなれてなくて、とても長い主語や分かりにくい読点の位置で読むのに苦労した

  • ざっとフェニキア、カルタゴ関連を知りたい人にはオススメの良書。専門性、年代、読みやすさのバランスが大変良い。こういう本が出てるのが日本だけということはないと思うんだけどどうなのかなぁ。

  • 類する一般書が少ない中で出版された、カルタゴを知る書。しかし、カルタゴとは何であったか、また何故滅んだのか等、現代にも通じる問題としてカルタゴ帝国を分析した訳ではない。記述の正確さを求めるのも、読み手からすれば、退屈しきってしまうこともある。もう少し配慮が欲しかった。

  • [ 内容 ]
    経済力と技術力を武器に、東地中海沿岸部に次々と国際商業都市を建設した、海洋の民フェニキア人。
    オリエントの諸大国に脅かされながらも千数百年をしたたかに生き抜き、その一部は海の彼方にカルタゴを建国、地中海の覇者として君臨する。
    やがて彼らの前に、強大化した最後の敵・ローマが立ちはだかる。
    日本人研究者の手による初めての本格的フェニキア・カルタゴ通史。

    [ 目次 ]
    プロローグ―地中海史の中のカルタゴ
    第1章 フェニキアの胎動
    第2章 本土フェニキアの歴史
    第3章 フェニキア人の西方展開―伝承と事実
    第4章 カルタゴ海上「帝国」
    第5章 上陸した「帝国」
    第6章 カルタゴの宗教と社会
    第7章 対ローマ戦への道
    第8章 ハンニバル戦争
    第9章 フェニキアの海の終わり

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著者プロフィール

1954年北海道生まれ。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程退学。東京学芸大学教授。共著に『古代ローマ法研究と歴史諸科学』など。

「2016年 『興亡の世界史 通商国家カルタゴ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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