- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062879910
作品紹介・あらすじ
恐怖が娯楽に変わるとき。18世紀のゴシック小説から現代のディズニーランドへ。
感想・レビュー・書評
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まだ早いけど、ハロウィンっぽい選書(m▼w▼)m笑
ヨーロッパの歴史から生み出された幽霊屋敷という「文化的結晶」が、どのようにして日本にまで定着して行ったのかを西洋史建築学者の著者が紐解く。
序章ではディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッド・マンション」(以下H.M.)内の仕掛けを一つひとつ種明かし。マニアの間では周知の事実なのかもしれないが、これが意外なほどにシンプル且つ面白い。
例えば入口付近の「老いていく肖像」は19世紀のヨーロッパで実際に流行したトリックを使用しており(ちなみに「アニメーション」ではない)、他にもその類のものが多数仕掛けられているという。そういう史実的世界観も夢の国は遵守しているんだな〜と感心したのも束の間、話は18世紀にまで巻き戻された。
第2・3章は文学面から見た欧米の霊魂観について掘り下げる。
1764年、英国の作家ウォルポールが幻想小説『オトラントの城』を著す。著者強調して曰く、元は中世の建築様式を表す「ゴシック」というワードが「幽霊が現れそうな雰囲気」という意味に転化された発端の書、つまり元祖ゴシック小説であるという。
そこから『フランケン・シュタイン』etc.とゴシック小説の系譜は紡がれていくのだが、アメリカに渡ってからは、ポーの『アッシャー家の崩壊』がそのバトンを繋ぐ。抜粋された文章からも分かる通り、幽霊屋敷特有の「何かが起こりそうな雰囲気」が如実に表れている。呪いの対象は人ではなく屋敷とその場を支配する空気というわけか。
「わたしは悲しみの全てを呼吸しているような気がした。厳しく、深く、どうしようもない憂愁の気が垂れこめ、すべてに沁みとおっていたのだ」
第4・5章ではいよいよ幽霊屋敷の前身である「幽霊興行」に迫る。
個人的に一番気分が上がった二章かも。18世紀末のパリにて、今でいうプロジェクターを使って幽霊の像を出現させる幽霊ショー(ファンタスマゴリー)が誕生。(発案者は何と物理学者!) 同時期にパリで活躍していたあのマダム・タッソーの幽霊ショーとの密接な関係、そしてロンドンに自身の蝋人形館を開いた経緯も織り混ぜている。
両者が今の幽霊屋敷を成立させる重要な要素であることを再認識した。
第6章とむすびにはディズニーランドのH.M.の誕生譚。
興味深かったのがディズニーランド・パリ版のH.M。東京のゴシック風建築だと幽霊屋敷どころか現地の日常風景に寄ってしまうので、西部開拓時代風のつくりにしたんだとか。写真で見て以来ずっと謎で、まさかここで解明するとは思わなんだ。
人間の手によって作られた怪異をこうして辿っていると、何故だか京極夏彦氏の「百鬼夜行シリーズ」主人公、中禅寺秋彦のあの台詞が頭をよぎった。
「この世には不思議な事など何もないのだよ、関口君」 -
建築史が専門の著者による、「ディズニーランドのホーンテッド・マンションを中心テーマとして、『ゴシック』という概念の変容を歴史的に追ったもの」(p274)。より具体的には、「ゴシック小説の発展と、その流行を受けて盛んにおこなわれた幽霊興行との平行関係とをむずびつけて概観することにより、『ゴシック』敵なるものが、中世のゴシック建築から近代のゴシック小説を媒介として、ディズニーランドのホーンテッド・マンションへと結実していく過程」(p.275)を記したもの。
まずディズニーランドのホーンテッド・マンションを体験したことのない人にとっては出だしがちんぷんかんぷんだろうし、かと言ってホーンテッド・マンションの仕掛けを暴いてやろう、みたいな人にとって、本書の大部分を占める小説や建築の歴史は退屈だろう、という本。「トリックを暴こうと躍起になるのではなく、筆者と同じようなノスタルジックな感覚に浸」(p.277)りながら読むというのが、本書の正しい読み方であることを知っておいた方が良いと思う。ディズニーランドに行ったことがあって、多少なりとも文学に興味があれば、結構読めるのではないかと思う。
まず面白いのはterrorとhorrorの違い。「"terror"は崇高を生み出すが、"horror"が崇高を生み出すことはない」(pp.56-7)というのが、言われてみれば納得。だからディズニー・シーにあるのは"Tower of Terror"なのかと思う。いや、tで頭韻だから"Tower of Horror"にはならないというのもあるのかな。畏敬の念、と言う時の畏れ多い、というのと似ているのだろうか。あとはよく言われることだが、「恐怖を生み出すのに『曖昧さ』は不可欠」(p.107)というのが面白い。エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』が例として挙げられているが、この小説は大学2年の時のアメリカ文学の授業でレポートを書いたこともあって、興味を持って読めた。さらに数々の「幽霊興行」について述べられているが、「ファンタスマゴリー」というのが、当時の文化を知る点では面白い。マダム・タッソーの蝋人形館というのが、なんで色んなところにあるのだろう、と思うが、それについてもその歴史が書かれている。最後に、「ディゾルヴィング・ヴューズ」という技術がホーンテッド・マンションの冒頭で使われているというのも面白かったし、他にもメインではないにせよホーンテッド・マンションで使われている技術について紹介されており、印象に残った。(15/07/03) -
ディズニーランドの人気アトラクション、ホーンテッドマンションを起点にゴシック建築やお化け屋敷等の歴史を踏まえて解説されていく。
ディズニーファンよりかは歴史が好きな人向けだが、これを読んだ後にホーンテッドマンションを訪れるとまた味わい深さが増すと思う。 -
ディズニーランドの人気アトラクション、
「ホーンテッド・マンション」の成立過程を解説。
内部の平面図が載っているのには驚いた!
あの見せ物がどういうカラクリで成り立っているかが
詳細に解説されるのだけど……
やっぱり「伸びる部屋(ストレッチング・ルーム)」では
床が下がっているのか天井が上昇しているのか――については、
謎は謎のままでいいじゃないか、ということで。
それにしても、terrorとhorrorは別モノ、
ってところで膝を打ちましたわ。
後者は恐怖の源を明示する(腐乱死体とかゾンビとか)けれども、
前者は濃密な何ものかの気配だけが場を支配している状態を
指すのだ、と。
曖昧さが人の心を不安にするワケですね。 -
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NDC523
[恐怖が娯楽に変わるとき。18世紀のゴシック小説から現代のディズニーランドへ。]
目次
はじめに 東京デイズニイランドに往きしことある人は…
第1章 ホーンテッド・マンション再訪
第2章 それはゴシック・ストーリーから始まった
第3章 そこに不気味な館は建つ
第4章 ファンタスマゴリーの魅惑
第5章 蝋人形とペッパーズ・ゴースト
第6章 幽霊屋敷のアメリカ化
むすびに ふたたび東京へ
著者等紹介
加藤耕一[カトウコウイチ]
1973年、東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。東京理科大学助手、パリ第4(パリ=ソルボンヌ)大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、東京理科大学非常勤講師、青山女子短期大学非常勤講師などを経て、近畿大学工学部建築学科専任講師 -
東京ディズニーランドファンなら必読?ホーンテッドマンションのトリック解説、幽霊屋敷の歴史、幽霊ショーの変遷を巡り、多様な捉え方をされる「ゴシック」文化を探る。建築史家の加藤先生の著書なので(ファンなので)拝読したが、建築にとどまらず広範に及ぶジャンルの歴史を追っていた。守備範囲は広いが、いずれもディズニーテーマパークのアトラクションかつ「ゴシック」という帰結点があったのでまとまりよく面白く読めた。加藤先生のディズニーランド愛を感じた意味でも良著!
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ふむ
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記録用
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東京デイズニイランドに往きしことある人は…
ホーンテッド・マンション再訪
それはゴシック・ストーリーから始まった
そこに不気味な館は建つ
ファンタスマゴリーの魅惑
蝋人形とペッパーズ・ゴースト
幽霊屋敷のアメリカ化
むすびに ふたたび東京へ
著者:加藤耕一(1973-、東京、建築史)
有難うございます^ ^
普段は季節感関係なしに選んでいますが、今回はせっかくなので…と手にとってみました。
ホーンテッド・マンシ...
有難うございます^ ^
普段は季節感関係なしに選んでいますが、今回はせっかくなので…と手にとってみました。
ホーンテッド・マンションの筋書き(文学面)とセット(映写や人形)の起源に加え、アトラクションの裏話も沢山あって結構楽しめました!
宜しければ是非どうぞ♪(m▼w▼)m