- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062880718
作品紹介・あらすじ
リトル・ピープル、羊男、ドーナツ、井戸、螢、海辺…全作品を通じて、読者に伝えようとしているものとは。謎に満ちた物語世界を案内する入門書。デビュー作『風の歌を聴け』以降、『1Q84』までのすべての長篇に触れながら考察した。
感想・レビュー・書評
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『風の歌を聴け』から『1Q84』にいたるまでの村上春樹の作品のなかから20のテーマをえらび出し、それぞれについて作品横断的な解説をおこなっている本です。
「あとがき」には、著者が母の病床の傍らで村上の「螢」を読んでいて、不思議な心の落ち着きが訪れたという体験が語られています。こうした体験が出発点となっているのでしょうが、著者は村上作品における「生」と「死」というテーマを論じた第一章で、『ノルウェイの森』のなかの蛍をめぐるエピソードと、和泉式部の「もの思へば澤の螢もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」という歌とかさねる解釈を提出しています。
このほかにも、日本神話や『平家物語』、『雨月物語』といった、日本の古典と村上作品とのつながりについて、考察のいとぐちがいくつか提示されていることが目を引きます。著者は、『螢・納屋を焼く・その他の短編』の紹介文を執筆したときに、和泉式部についても論じたことを振り返って、「当時、村上作品はアメリカ文学との関係で語られることが多く(もしかしたら今もそうかもしれない)、日本の古代の歌に触れながらの紹介はまだ殆どなかったと記憶している」と述べています。
河合隼雄との接点を通じて、日本の古典のうちに含まれる神話的想像力に通じる補助線を引くことで村上作品を読み解く試みは、いまではそれほど珍しいものではないと思いますが、本書にはそうした観点から村上作品について考察をおこなうさいに手がかりとなるような視点がいくつか提示されており、興味深く読みました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作品ごとにテーマがあると考えていたけど、ある書き手にとって、自らの書くべきものが一貫して存在するということを知れた一冊。はじめての読書体験。他の人の村上春樹評も読み、相対化したうえでもう一度この人の解釈を見てみたい。
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雨月物語と村上春樹とのつながり等、村上作品の奥行きを、多面的に教えてくれる本。 あちら側とこちら側が、合わせ鏡的な像を共有している、という指摘や、古代神話と村上作品の類似性や、古事記等とのつながり等の指摘には、そうなんだ、という驚きもあり、とても新鮮です。
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図書館で借りたけれど、ほとんど読まなかった。
村上春樹が言うように「読者にとって必要なことは小説の中に全部書いている」
『明快な解答というのは、大方の場合死んだ解答』 -
本棚を見ていたら、以前に買ってまだ読んでいない本書を見つけた。物語に飢えを感じていたこともあり、読み始めた。さすがに村上春樹の関連本である。電車の中でもほとんど居眠りせずに読んだ。
筆者は村上春樹を、日本的なものを追求し続けて来た作家だとする。それを、村上春樹の全作品から後付けようとする。この視点は斬新ではないものの、あまり注目されていないものであり、村上春樹の作品を理解するのに良い視点だと思う。今後の村上春樹研究には欠かせない文献となろう。
この本を読んで、『アンダーグラウンド』や『約束された場所で』などのオウム真理教関連のインタビュー作品も、村上春樹を理解するには必読なのだなぁと思った。機会を見つけて読んでみるか。これらも本棚で眠っているけれど。 -
デビュー作「風の歌を聴け」から「1Q84」までの作品に通底して出てくる20のテーマを、村上春樹本人に何回もインタビューして得られた知見とともに詳しく解説する。
村上春樹は取っ掛かりやすさとうらはらになかなか文章力のある文章を書くので読解の助けになり、より村上春樹の小説を理解できるのではないかと思う。気取った文体や比喩だけが目立つ作家と思っている向きにこそ読まれるべき本である。
ただし、20というきりのいい数で説明できるというのはどうも胡散臭い。きりが良すぎる。
「向こう側とこちら側の論理」とか「羊男」みたいな、より重要なフォーカスをあてて、それらモチーフ同士の関係を中心に説明してもらいたかった。