歴史のかげに美食あり 日本饗宴外交史 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062924764

作品紹介・あらすじ

古来、「歴史のかげに女あり」と言われる。妖艶な美女が歴史を動かしてきた例は少なくない。だが、考えてみれば大事件、外交の舞台裏でより重要だったのは、美女よりも美食ではなかったか。近代日本の運命を左右したステージに饗宴はつきもの。相手を懐柔するためには、美味が必要だった。明治の主役たちは、いかに「おもてなし」に頭を悩ませたか。
黒船来航のペリーは、なれぬ日本料理に閉口した。フランス料理になじめなかった明治天皇の涙ぐましい努力。暗殺された伊藤博文が日本で最後に食べた河豚の味。日露戦争の勝利に外国武官たちからシャンパンシャワーで祝ってもらった児玉源太郎。フランスからミネラルウォーターを取り寄せていた西園寺公望などなど。
史料から明治の世界を生き生きと描き、52歳の若さで惜しまれつつ逝ったノンフィクション・ライター黒岩比佐子が、12品のフルコースで、歴史ファンをご接待!
(原本 文春新書『歴史のかげにグルメあり』2008年刊)

感想・レビュー・書評

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  • 本書と出会うまでは、外交時の食事について考えたことがなかった。歴史を学ぶ際、出来事や人物、経緯等ばかりに注目してしまい、どのような食事で外国人をもてなしたのか、まったく思いもつかなかった。本書にもあるように、黒船のペリー氏にとっては、日本の料理は薄味でボリュームに欠け、さぞつまらなかったことであろう。しかしそんな外国の方々へ気に入ってもらえるよう、懸命に知恵をこらして珍味を用意する先人の姿を想像すると、可愛く思えて仕方がない。

  • 食べることが好きです。

    食材が調理によって姿を変える――千切り、短冊、乱切り、千切る、そぎ切り、ぶつ切り、サイコロ、三枚おろし等々の下ごしらえ。そしてこれらを、焼く・炒める・揚げる・蒸す・煮る等の加熱を施す。あるいは生食も。たった一つの食材でもカットと調理の組み合わせて数え切れないほどにその姿を変化させ、さらに添え物との組み合わせを考えれば無数のバリエーションが存在することになります。

    また食材や調理法には、地方独特のものがあったり、その独自性も風土であったり天候であったり文化であったり、はたまたま歴史的な理由や由来があったりするわけです。

    そう、料理って素敵なのです。これを舌で味わい、感じ、表現する、何と幸せなことでしょう。ついでに言えばその蘊蓄も開陳し、周りが引き始めるくらいが気持ちいい(←アホ)。そういう楽しさ、皆さんは感じませんか笑?

    ・・・
    ということで、本作、食べ物と歴史という私の二大好物がフィーチャーされている作品です。とりわけ江戸後期から明治大正昭和にかけての近現代の歴史事件・人物とそれにまつわる料理について書かれています。

    全部で12章あるので12エピソード、細かく丁寧にそして興味をそそる内容が綴られています。巻末の参考文献が、まあこれほどかという程掲載されており、筆者の綿密さがしのばれます。

    ・・・
    そうした中で、何といっても抜きん出て面白かったのは伊藤博文のエピソード。

    山口県出身の伊藤は初代総理大臣として、とある用事が下関であり馴染みの春帆楼という旅館へ泊ったという。現職総理をもてなそうと女将は奔走するも生憎の時化続きで思うような鮮魚が手に入らない。そこでお手打ち覚悟で禁食令の出ていた河豚を提供したところ、伊藤はあまりの旨さに驚愕、豊臣秀吉が禁令を敷き明治政府も発令していた河豚禁食令を解いたそう。爾来、伊藤はしばしば春帆楼で河豚を楽しんだという。

    さて、その後伊藤は日清戦争を終結させるべく清側の代表の李鴻章と下関で条約交渉を行うことになります。早速伊藤は河豚で饗応をしようとするも、何と李鴻章はこれを断ったそうです。当時72歳という高齢もあり、慣れない異国の食事で体調を崩すことを恐れていたそうです。また休戦条約を結ぶ前に会議がスタートしたため、河豚の毒での暗殺を疑った可能性もあるとか。

    いやー、河豚もったいない!でもわかるかも、等々つい興奮して独り言が出てしまいます。こんなのが書かれていると、一度は現場に赴き河豚を食べてみたいなあと思った次第です。

    ・・・
    それ以外にも、より掘り下げて類書を読みたくなったエピソードがいくつか。

    例えば、江戸幕府最後の将軍徳川慶喜が、開国後の日本で、慣れない西洋式饗応をするべくフランス料理を英国の外交官らに振舞い奮闘した話。英国外交官であったアーネスト・サトウの視点を取り混ぜて書かれています。

    個人的には、まだ洋装も文明開化も始まっていない江戸時代に、メインの料理人はフランス人だったとはいえ、下につく日本の料理人はどれほどフランス料理の調理に驚いたことだろうかと想像を膨らましてしまいます。そういう記録がどこかに残っていないものかな。

    それと、大倉喜八郎の話も興味を引きました。これは食べ物の絡みはあまりないのですが笑 氏の名前はボンヤリとしか存じ上げませんでしたが、政商とか武器商人として大いに活躍した方らしいです。のちの大成建設を設立したり、渋沢栄一とともに帝国ホテルを立ち上げたり。またお子さんの喜七郎がホテルオークラを開業したりしています。女性への関心もなかなか収まらなったそうで・・・笑 破天荒で面白そうな方じゃないですか。

    ・・・
    ということで食事と歴史をうまく組み合わせた、なかなか面白い作品でありました。筆者は早世されてしまったようで、新作を望むことはできないのが残念です。

    歴史好き、グルメな方、蘊蓄好きな方には楽しんで読んでいただける一冊ではないかなと思います。国内旅行の候補地選びに読んでも、また楽しいのではないかなと思います。

  • 黒船来航から日露戦争までに活躍した人物に焦点あてながら、食に関するエピソードを交えて書かれてる本。金カムにもほんのちょこっと関係してくるあたりだし、日本史勉強しなおさないとなぁ。
    それにしても出てくる人たちみんな好感持てなさすぎる笑 金カム見習って?

  • 黒岩日佐子さんの新書「歴史のかげにグルメあり」が文庫化。この調子で「伝書鳩」も文庫化されるといいですね。

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著者プロフィール

1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。ノンフィクション・ライター。図書館へ通い、古書店で発掘した資料から、明治の人物、世相にあらたな光をあてつづけた。
『「食道楽」の人 村井弦斎』でサントリー学芸賞、『編集者 国木田独歩のj時代』で角川財団学芸賞、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』で読売文学賞を受賞。
他の著書に『音のない記憶』『忘れえぬ声を聴く』『明治のお嬢さま』など。10年間で10冊の著書を刊行した。惜しまれつつ、2010年没。

「2018年 『歴史のかげに美食あり 日本饗宴外交史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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