異類婚姻譚 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065132241

作品紹介・あらすじ

専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作で芥川賞受賞!他に「藁の夫」など短編3篇を収録。子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…。自由奔放な想像力で日常を異化する傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 誰もが日々で感じている違和感、夫婦関係の共依存性と危うさをこんなに鮮やかに少しコミカルで少し恐ろしい物語にしてしまう力量を尊敬する。言葉にしてもうまく伝わらない少しの違和感と歪み、それがすぅーと入ってくるから物語は力がある。

    異類婚姻譚
    トモ子のバウムクーヘン
    <犬たち>
    藁の夫

    もちろん表題の異類婚姻譚は力作だけど、藁の夫の余韻も捨てがたい。

  • 私の読解力や想像力が足りなかったらしく4話とも消化できずに終わった…ホラーなはず

  • 芥川賞受賞作品という事もあり、とても期待して読んだわりには、、、?????
    みたいな所が沢山ありました。

    一作目はなかなか面白かったけど、、、4作目の藁???
    私には理解不能でした

  • なんとも言えない不気味な終わり方…

    昔から夫婦は似てくると言われているけど、なんだか不気味な話だなと本作を読み終えた時に感じました
    芯のない者同士が支え合おうとすると、いつしか同化していってしまう感じ
    カタチを変えてしまう感じ
    それが長年連れ添った夫婦にあらわれる「顔が似てきた」
    ブラックユーモアと言うか、心がザワザワした作品でした

  • 「人の形」

    慣れ親しんだ生活の中に異物が一点混ざり込み、それが当たり前として読者の中に溶け込んだタイミングでその異物が“異物らしさ”を表象する。
    読み手は強制的に第三者の立場から読むことになるため、この世界に恐ろしさを感じつつも現在の世界とそう大して変わらない世界に違和感を懐く。
    怖さとユーモアが混ざった文章は、この筆者ならではだなあ。

  • ・異類婚姻譚
    感想がまとまらない
    あとで考える。保留

    ・トモ子のバウムクーヘン
    この世界が途中で消されてしまうクイズ番組だということを理解した。
    ってどんな感じ?

    ・〈犬たち〉
    白い犬と雪深い白い世界が美しい。
    街に誰もいなくなった描写は、本当に自分以外が街からいなくなったのか、それとも自分が異世界に連れて行かれたのか分からなくて、でも不思議と恐怖がない。一番好きな話。

    ・藁の夫
    藁の夫むかつく
    けど、車を傷つけたのは奥さんも悪いしな…とも思ったり。
    全体的によくある夫婦の話だけど、少しのファンタジー要素が混じって不思議な読み心地と、家庭・夫婦の問題以外に伝えたいことがあるんだろうなと思わせる本谷有希子さんの作風がおもしろい

  • 旦那の横柄さとか、家で気が抜けて顔が崩れる感じ、ちょっと自分を顧みてヒヤッとする。描き方が上手だな、と。
    最後、同一化した挙げ句に花になるのはなんだったのだ、、、?結局旦那捨てただけ、、?

    それにしてはなんかほのぼのした読後感で不思議。

  • ブラックユーモアにまみれた現代の寓話

  • 表題作の冒頭一文は、タイトルとの相乗効果で衝撃。以降は、期待感程ではなかった。寓話と言うには粘度が強すぎる。

  • あなたは、『自分の顔が旦那の顔とそっくりになった』らどうするでしょうか?

    夫婦は似た者同士が良いのか?そうでない方が上手くいくのか?このあたりは世の中意見は千差万別でしょう。同じものが好きだからといって一緒になった夫婦が最後まで添い遂げられるかといったらそんなことはありません。嗜好は正反対という夫婦が瞬殺で離婚してしまうかというとそんなこともありません。規則性、法則性がないから夫婦の形も数多あり、考え方も数多あるのだと思います。

    とは言え、それは性格の話です。顔となってくると話は全く異なります。そもそも血縁関係にない男と女の顔がそっくりということ自体普通にはないと思います。もし偶然にもそっくりな顔をした異性と出会ったとしてもそれが結婚というゴールに繋がるとも思えません。

    一方で、結婚した後、嗜好が似てくるということはあるかもしれません。これは可能性としてありうるようにも思います。しかし、顔が似てくる、これはないように思います。そんなことがあったとしたら結婚することに躊躇もしてしまいます?

    さてここに、結婚してもうすぐ四年という夫婦を描いた物語があります。ある日、妻が『自分の顔が旦那の顔とそっくりになった』と気が付いたことから始まるこの作品。そんな作品の他に雰囲気感を共通とする三つの短編が収録されたこの作品。そしてそれは、”あとでじわじわ効いてくる毒が、ここにはたっぷり盛られている”という本谷有希子さんの芥川賞受賞作な物語です。

    『ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた』とふと思ったのは主人公の『私』。『結婚していなかった五年前と、ここ最近の写真を見比べて』、『見れば見るほどに旦那が私に、私が旦那に近付いているようで、なんだか薄気味悪』いと感じる『私』。そんな『私』がそのことを弟に話すと、『うーん、二人が?俺は別に思ったことないけどなあ』、『あれじゃない?いつも二人でいるうちに、表情がお互い似てきたとか』と言われてしまいます。場面は変わり、『旦那に頼まれた小包を郵便局に出しに行った帰り』、マンションに設けられた『住人専用ドッグラン』のベンチにキタヱが座っているのを見かけた『私』は、そんなキタヱに手招きされます。『毎日昼過ぎに愛猫のサンショを』『日なたぼっこさせにやって』きているという『私とは三十歳近く離れている』キタヱはサンフランシスコから夫婦で日本に戻ってきました。そんなキタヱに『旦那と、顔が一緒になってきました』と話すと、『「やだ。」と予想外の食いつきを示し』ます。『結婚して何年だっけ?』と訊かれ『もうすぐ四年です』と答える『私』に、『サンちゃんみたいな、なんでもかんでも受け入れちゃうような子は、あっという間に…かれちゃうんだから』と返すキタヱ。よその住人の犬が吠えたせいで、『私』は『…』のところを聞き逃してしまいます。そして、キタヱは『私の知り合いの夫婦にさあ』とこんな話を始めます。『家族ぐるみで親しくしていた』『古くからの友人夫婦』と10年ぶりに『再開する機会に恵まれた』というキタヱは、イギリスに移り住んだ彼らとロンドンで食事をするために『待ち合わせのレストラン』へと訪れました。『「久しぶり。」と椅子から立ち上がった二人を見た瞬間、目を疑』うキタヱ。そこには、『双子みたいに、そっくりになって』いた夫婦の姿がありました。『一瞬、整形でもしたのかと思っ』たものの、『目、鼻、口を一つ一つ見ていくと、二人はやはりきちんと別人』という二人。『吸い寄せ合ってる感じっていうの?お互いがお互いを真似ちゃってるっていうかねえ』とその似具合を説明するキタヱ。そんなキタヱは、『さらに十年後に』夫婦と再開した話を続けます。『同じロンドンのレストランで待ち合わせをしたキタヱは、鏡のようにそっくりになっていた二人のことを思い出し、少しどきどきし』ますが、そこに待っていたのは『元の、似ても似つかぬ他人に戻っ』た二人でした。そんなキタヱが十年前のもやもやした思いを妻に打ち明けると、『二人の家に誘われ』ます。酔い潰れた夫を部屋にのこし、庭に出た二人。そんな中、『どうしてあたしが元に戻ったのか、教えてあげる』と『妻は笑いを堪えているような口調で』語ります。『あたしがどうして戻れたのか。知りたいでしょう』と言う妻は、『それよ、それ』とあるものを指さします。そんなまさかの説明に『酔いが一気に吹き飛んだ』というキタヱ。そんなキタヱが旦那と似ていくということのまさかの理由とまさかの結末が描かれていきます…という中編〈異類婚姻譚〉。スルスルと読みやすい物語が意味不明な結末へと読者を誘う好編でした。

    “子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって…”と、どこか危うい夫婦関係を匂わす内容紹介が妙に気になるこの作品。2015年に第154回芥川賞を受賞した本谷有希子さんの代表作です。そんな作品の表紙は一見古風な嫁入りを描写したイラストが描かれていますが、よく見ると花嫁を含め婿以外は猫が描かれているという怪しさ満点な体裁をとっています。そもそもが「異類婚姻譚」というなんだか今にも化け物が飛び出してきそうな書名もあって読む前から雰囲気感はバッチリだと思います。とは言え、この作品は化け猫が登場するようなおどろおどろしい物語ではありません。そこに描かれるのは〈解説〉の斎藤美奈子さんがこんな風に表現されるものです。

    “慣れ親しんだ生活のなかで、ふと垣間見てしまった異世界。家族が他人に見える瞬間の恐怖”。

    芥川賞を受賞した表題作はその傾向が特に顕著です。そんなこの作品は表題作が全体の分量の三分の二を占める中編、残りの三編がサクッと読める短編という異形な構成になっています。いずれも斎藤さんが評されるどこか不穏な雰囲気を纏っています。そんな中でも表題作の中に登場する『蛇ボールの話』は深く脳裏に刻まれました。想像するとあまりに不気味でこの作品の内容を忘れても一生私の記憶から消せない…そんな強烈なインパクトを受けました。このレビューを読んでくださっているあなたにはせっかくなので共有させていただきますね。あなたの記憶からも一生消えないと思います。

    『蛇ボールの話、知ってます?』と訊く弟の彼女ハネコは、こんな風に続けます。『二匹の蛇がね、相手のしっぽをお互い、共食いしていくんです。どんどんどんどん、同じだけ食べていって、最後、頭と頭だけのボールみたいになって、そのあと、どっちも食べられてきれいにいなくなるんです』。そんなハネコは、『分かります?なんか結婚って、私の中でああいうイメージなのかもしれない。今の自分も、相手も、気付いた時にはいなくなってるっていうか』。そんな話を聞いて『うろこでびっしり覆われたまっ白な球を思い浮かべ』る主人公の『私』。

    どうでしょうか?私はこの世で蛇が最も嫌いです。こんな風にタイプするだけで意識が飛びそうなくらい大嫌い。そんな蛇が登場する『蛇ボール』。怖いです。気持ち悪いです。やめて欲しいです。しかし、この表題作で取り上げられるのは上記でも触れた通り『ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた』という起点から夫婦の関係性に思いを馳せていく主人公の『私』の物語です。そんな『私』は、どうして旦那と自分が似てきたのかを考え続けます。そんな中に象徴的な登場する『蛇ボール』の話は、『私』にこんな思いを抱かせもします。

    『恐らく私は男たちに自分を食わせ続けてきたのだ。今の私は何匹もの蛇に食われ続けてきた蛇の亡霊のようなもので、旦那に吞み込まれる前から、本来の自分などとっくに失っていたのだろう』。

    そして、基本的にのんびりとした『私』の日常を描く物語は一気に不穏な雰囲気を増していきます。

    『朝起きて鏡を見ると、顔がついに私を忘れ始めていた』。

    まさかの表現で描写される『私』の物語は読者を振り落とそうとでもするように理解不能な表現世界へと突入していきます。これには驚きました。そして、ほぼ振り落とされてしまった私。〈解説〉の斎藤さんの丁寧な説明を読んでそんな物語を振り返りましたが、流石の芥川賞受賞作、なんとも言い難い世界を見る中に予想だにできない結末を見ることになりました。これは、ハマる方にはとてもハマる表現世界だと思います。

    一方で、この作品の魅力は、そんな表題作に続いて上記した通り三つの短編が収録されているところです。決しておまけではなくこれら三作が続くことによって作品としての不穏な雰囲気が強化されていきます。続いてそんな三つの短編をご紹介しておきたいと思いますが、それぞれの短編は一見意味不明な宣言のもとに始まります。合わせてご紹介しましょう。

    ・〈トモ子のバウムクーヘン〉: 『コンロの火を弱火にしていたトモ子は、この世界が途中で消されてしまうクイズ番組だということを理解した』。主人公のトモ子は『普段は甘いものをあまり食べさせない』子供たちに『バウムクーヘンを焼いてあげ』ます。そんなトモ子は『お兄ちゃんの頭の匂いを思いきり吸い込んだ時と、下の子の指をお守りのように握りしめた時だけ』『本当の意味で落ち着く』と感じています。そして、キッチンに立つトモ子は、ふと『リビングが自分を誘惑し、恐ろしい罠に嵌めようとしている』という思いに苛まれていきます…。

    ・〈犬たち〉: 『その山小屋にはたくさんの犬たちがいた。私は犬たちを愛し、犬たちも私を愛した。犬たちは何十匹もいた。そしてどの犬たちもみんな、降ったばかりの雪のように真っ白だった』。『誰にも会わず、暖かく暮らしていた』という主人公の『私』は、山小屋で犬と暮らす中に『彼らが糞や尿をするのを見ること』がないこと、『餌もほしがらな』いことに気づきます。たまたま麓の町で『犬にはくれぐれも用心して下さい』と言われた『私』は、ある日、『山の奥に向かう犬たちをこっそりつけてみることにし』ました。そして、そこに見たものは…。

    ・〈藁の夫〉: 『結婚して半年、自分達の前には、幸せへの道が用意されているという確信は強まるばかりだった』という主人公のトモ子は、自分の夫をこんな風に思います。『トモ子の夫は藁でできている。稲や小麦の茎の部分だけを乾燥させたあの藁 ー 家畜の飼料や、その寝具に使われる植物が、人間のように束ねられ、巻き上げられてできているのだった』。そんなトモ子はある日、夫が『買い替えてまだ一ヵ月も経っていない、真新しいBMV』に乗り込んだ時に『シートベルト』を窓枠にぶつけてしまいます。『ーがっくし』と溜め息を吐く夫との間に沈黙が訪れます…。

    三つの短編の概要を簡単に抜き出してみましたが、なんだか意味がよく分からない…という声が聞こえてきそうです。でも…、

    安心してください!私もよく分かっていませんよ(笑)

    いずれにしても、上記した通り、これら三つの短編も表題作同様に不穏な雰囲気を纏っています。二人の子供の母親であるトモ子が、突然に奇妙な感覚に囚われていく様を描く〈とも子のバウムクーヘン〉はそんなトモ子がどんな感覚に陥っていくのか、ここが物語の筋の部分です。続く〈犬たち〉では、主人公の『私』が共に暮らす犬がいつどこで何を食べ、排泄しているかを知らないというところに不穏さが顔を出します。そして、最後の〈藁の夫〉は、そもそも『トモ子の夫は藁でできている』と意味不明なことを断定する記述の先に、新車を傷つけられた夫が示す反応が物語を薄暗く支配していきます。そんな不穏な雰囲気を味わえるのがこの作品を読む何よりもの醍醐味です。如何にも芥川賞作家さんの物語というその感覚が一つの作品世界を作り上げていきます。なかなかに深入りしそうにもなる四つの物語は、本谷有希子さんという作家さんの個性を強く感じさせる異形のものたちの存在をそこかしこに見せてくれるものでもありました。

    『ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた』。

    そんな言葉の先に旦那との関係性をさまざまに考えていく主人公の『私』が辿るまさかの結末を見る表題作など四つの中短編が収録されたこの作品。そこには不穏な雰囲気の中に見え隠れする異形なものたちの姿を感じる世界が描かれていました。とても読みやすい文体が故にイメージがスルスルと頭に入ってくるこの作品。そうであるが故に、物語が発するホラーっぽさとシュールさがダイレクトに伝わってくるこの作品。

    なんだか癖になりそうな独特な味わいを感じさせる物語の中に、本谷有希子さんの上手さを見た、そんな作品でした。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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