クロコダイル路地 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (1040ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065142523

作品紹介・あらすじ

quo fata trahunt, retrahuntque, sequamur.

運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう。

1789年7月14日、民衆がバスティーユ監獄を襲撃。パリで起きた争乱は、瞬く間にフランス全土へ広がった。帯剣貴族の嫡男フランソワとその従者ピエール、大ブルジョアのテンプル家嫡男ローラン、港湾労働と日雇いで食いつなぐ平民のジャン=マリと妹コレット。〈革命〉によって変転していくそれぞれの運命とは。上巻は貿易都市ナントを舞台にしたフランス編。

「法廷で裁かれるのは〈犯罪〉だ。神が裁くのは、〈罪〉だ」

革命は終わった。
登場人物たちは、フランスを脱出してイギリス・ロンドンへ。ローラン、ピエール、コレットは、革命期に負った「傷」への代償としての「復讐」を試みる。

「革命という名の下になされた不条理に、私は何もなし得ない。ゆえに、個が個になした犯罪の是非を糺す資格も、私は持たない。私は、法がいうところの犯罪者になるつもりだ」

私は、殺人を犯す。それは罪なのか?

あの「バートンズ」も登場!下巻は産業革命期のロンドンを舞台にしたイギリス編。

小説の女王が描く壮大な叙事詩的物語と、仕組まれた巧妙な仕掛けに耽溺せよ。

感想・レビュー・書評

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    quo fata trahunt, retrahuntque, sequamur.
    運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう。
    1789年7月14日、民衆がバスティーユ監獄を襲撃。パリで起きた争乱は、瞬く間にフランス全土へ広がった。帯剣貴族の嫡男フランソワとその従者ピエール、大ブルジョアのテンプル家嫡男ローラン、港湾労働と日雇いで食いつなぐ平民のジャン=マリと妹コレット。〈革命〉によって変転していくそれぞれの運命とは。上巻は貿易都市ナントを舞台にしたフランス編。
    「法廷で裁かれるのは〈犯罪〉だ。神が裁くのは、〈罪〉だ」
    革命は終わった。
    登場人物たちは、フランスを脱出してイギリス・ロンドンへ。ローラン、ピエール、コレットは、革命期に負った「傷」への代償としての「復讐」を試みる。
    「革命という名の下になされた不条理に、私は何もなし得ない。ゆえに、個が個になした犯罪の是非を糺す資格も、私は持たない。私は、法がいうところの犯罪者になるつもりだ」
    私は、殺人を犯す。それは罪なのか?
    あの「バートンズ」も登場!下巻は産業革命期のロンドンを舞台にしたイギリス編。
    小説の女王が描く壮大な叙事詩的物語と、仕組まれた巧妙な仕掛けに耽溺せよ。
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000318850

    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000189740
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  • のめりこんで読んだ。毎晩1時間読んだ。毎晩フランスやロンドンにとんだ。

    フランス革命。裕福だということだけで父や母をギロチンで殺されたロレンス。彼の崇拝するフランソワ。フランソワの誰よりもそばにいたピエール。反乱の中離れ離れになったことで悲劇を辿ったコレットとジャンマリ。革命で神への信仰を捨てた祭司のエルヴェ。テンプル家を利用し稼ぎ、コレットとダヴィドを鍵のかけたまま放置し餓死させようとしたブーヴェ。コレットをはねたことで、彼女を最後まで庇護していくことになったダヴィド。コレットとジャンマリたち貧民にも優しかったドニ神父。気の良い酒屋のママのブランシェ。ロンドンのメイやスティーヴ。後半登場するバートンズの面々。

    ロレンスやピエールがあれほどまでに崇拝したフランソワは呆気なく殺され、神を信仰したドニ神父も捕虜船の中で死んだ。革命に翻弄された人々の物語であり読んでいてとても辛かった。

    特に辛かったのは、どんどん歪んでいくコレットだ。大好きな兄と切り離され、権力者や庇護者にしがみつかなくては生きていけず、そのために自分を犠牲にしていった。濡れた砂のような目という表現が度々出てきたが、これほど光のない目を指す表現はないだろう。

    ブーヴェは8年暗闇の中監禁され墜死させられたけれど、本当にそこまでロレンスやコレットは彼が憎かったのだろうか。何かで隙間を埋めなければ鰐にのみこまれてしまうから、異常なまでに復讐に執着したのではないか。
    自分が生きるだけで精一杯で、大切な人を守れない。どれほど悔しかっただろう。

    決して癒されることはないだろうけれど、どうか鰐を見なくて済むようになってほしい。

  • 視点人物となるのは、ロレンス、ピエール、ジャン=マリ、コレット、メイ。
    そのうち「私は」云々と語るのはロレンス。
    実はいま、ロンドンで手記を書いている。ピエールも。
    ロレンスがこだわるのは、鰐。
    ピエールがこだわるのは、形(自分はフランソワの従者という形をとる)。
    フランソワへの愛というか憧れというか、においてふたりはどこか似ている。自傷癖もまた。
    この叙述の仕方が後半に来てぐいぐい面白さを加速される。
    「死の泉」や「薔薇密室」を思わせる形式だ。

    彼らと同じ経験をしても陽性のジャン=マリは、語りの位相が異なるのと同時に、生まれも育ちも自意識のあり方も異なる。

    後編においてはさらに、ジャン=マリとコレットの「ありえた少年期」を繰り返すかのような、スティーヴとメイが視点人物として参入する。
    ひとつの作品で味わいが随分変わってくる。

    フランスにおけるナント編は、いわば革命における屈辱編。あるいは革命という名の大量殺人。
    イギリスにおけるロンドン編は、いわば革命後の清算、復讐編。あるいは個人の罪と罰。

    時系列はきれい。ただし視点人物をスイッチすることで、肝心の視点をぼやかす。
    それを終盤、いままで手記の形式にしていたロレンスとピエールの語りを、互いに読ませる(手の内を明かす)ことで動かす。

    わかりやすい苦悩は、ジャン=マリと、まあ、コレット。
    苦悩以前なのは、スティーヴとメイ。
    若干わかりづらく奥深いのは、ロレンスとピエール。
    最後まで内心は謎と設定されるのは、エルヴェ。
    不可知領域にいる(が実はたぶん奥深くない)のは、フランソワ。

    クロコダイルって何、ということは繰り返されるが、つまるところ、
    社会的現実に生死が翻弄される人物が、人の道を踏み外し畸形になること、だ。
    さらにつづめていえば「美しい歪み」とでも言えるか。
    それはイコール皆川博子だ。

  • 文庫本で1000ページという途方も無いような分厚さに、読み始めることを何度も躊躇してしまったが、読み始めてしまえばページを捲る手は止まらず最後まで駆け抜けた。前半は特に苦しく救いもなく、とにかく重たい。後半、イギリスに舞台を移すと、バートンズも出てきてやっと少しホッとした心地だった。それまでがあまりに辛く、残酷な描写に想像が追いつくことが怖くて、文字をきっちり拾えないこともあった。人間はこんなにも残酷で狂った生き物なのかと恐ろしくなる。戦争の息遣いの生々しさ、環境の劣悪さ、不条理、希望のない未来、理不尽な死、すべてを細かに絡め取り、深く沈み込んでしまう。こんなにも揺さぶられる読書体験はもう二度と出来ないかと思う。

  • おもしろいとかおもしろくないとか、そういうレベルの話ができないほどに圧倒された読書であった。登場人物の誰にも感情移入せず、共感せず、恐怖も感じず同情もせず。しかし、おおいに慄きはした。この物語を紡いで見せた皆川博子さんに。ミステリとして読むと肩透かしを食らうのかもしれないが、ひじょうに濃厚な小説、ことば……とにかく文字をうつくしく操って綴られた物語という点では、何を言うにも足りない気持ちになるほどだった。この作品を吸い込むように前のめりになって読めたことで、未だ読んでいない大作にも挑めそう。次は何を読む?

  • まるで鈍器のような重さと厚みに怯み、職場に置いて休み時間に読み進めようと思っていたのに、結局この10日間何処へ行くにも持ち歩いてしまった。そして本を開いてる間ずっと、フランス革命の世をこの身で感じていた。皆川先生はその目でフランス革命をご覧になったのでは、と本気で思う。素晴らしく濃厚で、贅沢な10日間でした。

  • 積んでたんだけどついに読了!
    「竪琴の全音階を奏でるような、秋であった。」
    という書き出し、美しすぎて一行目から虜になる。
    今まで読んだ本の中で(さほどよんでないけど)好きな書き出しランキング1位かもしれん
    皆川博子の幻想小説はいつも、美しい場面からスタートして気づいたら血と汚物と憎悪の中に居る感じがして好きです

    フランス革命のヤバさ、当時のフランスの不衛生さにトキメキが止まらない!フランス行きたい!
    手記形式の進み方も先生のお得意なところなのだろうな
    ホラゲっぽくて私も好きです かゆうま

    ただ、最後駆け足すぎん!?ってなったのでちょっと残念
    制裁の有無やハッピーエンドかそうでないかはこっちの想像の余地を残してくれてるからぼやかしてもらっていいんだけど、事件の真相は細かく書いてくれんかね、と思った
    どうやって捉えて、どうやって監禁生活を過ごして、どうやって死んだのか。それが「コレットを庇おうとしているローラン」の証言からしか得られないのがもどかしい!本当はもっと酷いって言ってたけどその本当のところを教えてよ!え、私見逃した!?

    それはそれとしてこの長い長い物語の最後以外は本当ーーーに面白くて没頭できたのでやっぱり皆川博子スキ…ってなった 次はUを買ってるので読みます 

  • 運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう―。1789年、フランス革命によって階級制度は崩壊し、ピエール(貴族)、ローラン(商人)、コレット(平民)の運命は変転する。三人は、革命期の不条理によって負った「傷」への代償として、復讐を試みるが。小説の女王が描く壮大で企みに満ちた歴史ミステリー。

  • 1,000ページの文庫のあまりの分厚さに読み切れるのだろうかと不安になったけれど、進むうちにどんどん引き込まれて読まずにいられなくなった。
    感想をどう言ったらいいのか…
    臭いと、色と、情景の生々しさ。
    フランスの血と泥の臭いがする重たい空気。ロンドンの霧と煙に汚れた空気。
    圧倒された。革命というものの闇に。人間の残酷さに。
    全てが不条理だ。
    ロレンス、ピエール、エルヴェ、コレットの抱える空虚に恐ろしさを感じながら、メイやスティーヴが前向きに生きる姿には最後まで救われた。ドブソンさんがいい人で本当によかったよ。

  • 分厚い文庫本、二冊に分けて欲しいが
    物理的なボリュームは
    物語のボリュームを前にしてはあまり意味をなさない。
    読み始めたら世界の歴史と筆者の世界に引き込まれ
    21世紀の日本から18、19世紀のヨーロッパに
    ぶっ飛ばされるのだ。

    生活、制度、常識、価値観⇒崩壊
    革命、内戦、処刑、虐殺 血飛沫、泥水
    妄信、依存、無常、不信、不条理、憎悪、恩讐、復讐
    信仰、格差、共謀、共感、死、生、狂気、空虚、

    前半のフランスと後半のイギリス
    フランス時代の陰惨な雰囲気と変わり
    これが革命を経験したか否かの者/国の違いか
    イギリスでは苦しくも楽観的、希望が見える
    庶民の世界をイギリス人の観点で垣間見えるが
    フランス人たちは革命による感情の澱、
    フランス時代を振り切ることができない者として
    織り成す小さなサスペンスと人間模様。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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