- Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065149942
作品紹介・あらすじ
東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かう。天嶮の地、大和は十津川村へと走るバスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、かつてこの道を進んだであろう天誅組の志士たちの、これまで訪れた地や出会った人、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。バスはいよいよ十津川村へと入っていき、谷瀬の吊り橋前で休憩停車する。ここで途中下車した彼は吊り橋を渡る。風に揺れる橋の上で彼は、電気工だったころのこと、中学生時代のことなどを心のなかで唐谷に語りかけるのだった。
二年後、小説の彼の足取りを辿るように、病の癒えつつある「私」はふたたび谷瀬の吊り橋の上に立っていた。橋を渡りながら、「私」は宿のおかみさんと話をした北海道の新十津川町のことを思い出し、唐谷への友情にひとつの答えをみつける。
現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。
感想・レビュー・書評
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2024/1/20購入
2024/3/31読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
天災、人災(歴史)、自殺、病気を通して死を見つめ、そして個人にとっては災害よりも身近な生死が最大の事件であり、その積み上げが世界である事を認識させてくれる良書だと思う。
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紀行文の形を借りて、私小説の手法をさらに深化させた会心作。
健康が許せば日本中を回ってシリーズ化してほしいくらい。
ちなみに、「八木 新宮 バス」でいろんな動画が見つかる。作中で作者が辿った各所を映像で回想するのも楽しい。 -
7/21は佐伯一麦さんの誕生日
近刊『山海記』を。私小説の名手が地誌と人々の営みを見つめて紡ぐ、
人生後半のたしかで静謐な姿。 -
8月4日 吊り橋の日 にちなんで選書
小説内で、十津川村の谷瀬の吊り橋が重要な場所になっている。
日本最長の鉄線の吊り橋「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」など、村内に約60ヵ所の吊り橋があり、その数は日本一といわれる奈良県吉野郡十津川村が制定。
日付は「は(8)し(4)」(橋)と読む語呂合わせから。村の急峻(きゅうしゅん:傾斜が急でけわしいこと)な地形が生んだ吊り橋は、人々にとって切っても切れない命の道。毎年この日は谷瀬の吊り橋の上で太鼓を叩く「揺れ太鼓」という「つり橋まつり」を行い、吊り橋に感謝をする日としている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。 -
416年 日本書紀 日本最古の地震の記述
1666年 越後高田地震
1670年 越後村上地震 -
10年前、2009年に豊橋を出発して伊勢に亘理、吉野から山に入り十津川を新宮まで抜け、串本を回って和歌山まで自転車で走った。
十津川は北海道以上に何もなく、100km走ってコンビニもない。
昼飯どうしようかと、当時はつるんで走る二人で困り、十津川の河川敷にテントを張って野宿したりと、五日間走った。
日本で最長の路線バスは大和八木駅から新宮へ至る、166.9km、6時間半のバス旅だ。
その途中、天辻峠を越えてからは十津川沿いを走る。
十津川は明治に大水害があり、そして近年2011年にも水害に見舞われた。
かつての水害、近年の水害とを東日本大震災の津波被害と重ね、そして自身の過去をも重ね合わせて旅は進む。
南朝時代、明治維新の天誅組、遠い津の川という都から遠く急峻な山に囲まれた土地の物語が語られる。
内容が散文的だ。
バスに揺られながら、歴史が語られ、自身の過去が語られ、そのバスでの出会いが語られ、過去と現在が入り混じる。
そして終わりは唐突だ。
バスに揺られて散逸する思考そのまま文字に起こしたごとく。