もうひとつの曲がり角

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065168806

作品紹介・あらすじ

野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化賞大賞、IBBYオナーリスト賞など数々の賞を受賞する岩瀬成子氏の最新長編作品。

柵には半開きになった木の扉がついていて、その扉に「どうぞお入りください」と青色のマジックで書かれた板がぶらさがっていた。
「いやだ。あたしはそんなところへは、ぜったいに入らないから」ときこえた。
 えっ。どきんとした。
庭木のむこうからだった。わたしにむかっていったんだろうか。
 わたしは耳をすまして、木々にさえぎられて見えない庭のようすをうかがった。
しんとしていた。
だれがいるんだろう。
わたしはぶらさがっている板をもう一度見た。
それから足音を立てないようにして、そっと扉のあいだから庭に入っていった。しかられたら、すぐににげだすつもりだった。ちょっとだけ、のぞいてみたかった。──本文より。

小学五年のわたしと中一の兄は二ヶ月前、母の理想の新しい家、市の西側から東側へ引っ越してきた。この町で通い出した英会話スクールが休講だったので、わたしはふと通ったことのない道へ行ってみたくなる。道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花がちらほらと咲いて・・・・・・。

日本絵本賞、講談社出版文化賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、オランダ銀の石筆賞など受賞の酒井駒子氏による美しい装画にも注目!

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに日本人が共感できるような、子供心にモヤモヤした感覚を思い出す、児童書を読んだ。

    親の、子供の将来を自分のことのように心配する気持ちと、子供自身の気持ちを信じたいことを両天秤にかけての葛藤は辛いことだと思うが、子供自身も辛いことを我が身のように感じられることができない理由は、何なのだろうか?

    子供のいない私には分からないが、おそらく下記の台詞で、ハッとさせられるものはあるのではないかと思う。

    「しなくちゃいけないと言われたから、しなくちゃいけないと思うのは、それは考えてないってことじゃないのかな」

    悩み苦しむ彼女の背中をそっと押してくれた人は、かつて彼女と同じ思いを抱いていたが、それでも今現在、同じ思いを継承した生き方をすることができていることに、彼女自身は何か心動かされるものがあったのだろう。

    ただ、正直なところ、家庭環境によるところも大きいので(特に保守的側面の残る日本の場合)、読んで却って辛く思ってしまうかもしれないのが、悩ましいところ。

    ファンタジックな子供心の温かい交流もひとつの読み所としてあるにはあるが、あくまで主題は上記の
    重いものであり、これを反抗期の一言で片付けるのは、ちょっと違うと思う。

  • 令和2年度 第36回坪田譲治文学賞 | 岡山市
    https://www.city.okayama.jp/bungaku/0000027764.html

    『もうひとつの曲がり角』(岩瀬 成子,酒井 駒子)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000322103

  • はっきりと言葉にできないことが山積みの子どもの心を丁寧に描いていて、じんとした。
    曲がり角を曲がって異なる場所に迷い込んだら大冒険が始まりそうだけど、そうはならないところも面白い。
    日常からほんの少しだけのファンタジーが適切な服用量の子どももいるだろう。
    酒井駒子さんの絵も美しい。

  • 岩瀬成子さん、好きなのだけど、子どもの心情を描くのが上手すぎて、辛くなってしまうことも度々ある。
    これは『マルの背中』や『ぼくが弟にしたこと』みたいに、明らかに問題のある家庭の話ではないのだが、どこにでもある普通の家庭の息苦しさが伝わってくる。
    第1子が中学生になる時期に、賃貸マンションから一戸建て(中古をリフォーム)に引っ越した家族。父は通勤時間が長くなり、母はパート、家事育児、近くに住む老父の世話と、ゆとりのない生活。中古ではあるが新居の手入れもある。中学生の息子と、小五の娘は思春期となり、親の言うことを聞かなくなる。こういう家庭は日本中どこにでもあり、戦争中の外国の家庭や貧困、DVに悩む家庭に比べれば、幸せと言えるくらいだが、じゃあそこにある問題はとるに足りないどうでも良いことかといったら、そんなことはない。本人達にとっては重大で、時には生命の危機にもつながりかねない危険を孕んでいる。
    語り手は小五の女の子なので、彼女が感じ取れる範囲で描かれているので、表現はソフトだが、リアルだった。まざまざと思い出すなあ。全く同じシチュエーションじゃなくても。

    特に、通勤仕事で疲弊している父親が、パート勤めの妻に子どもに関することを丸投げ。妻は子どものためにと家計の負担となっても塾に通わせたり、部活の道具を揃えてやったりしているのに、二人ともやめたいと言い出す。つい口うるさくなる。父親はたまにしか子どもと会わないから、子どもの味方をする。私が悪いの?という母親の怒りとイライラが分かりすぎる。
    でも、岩瀬さんは子どもの心を描くのも上手いので、そんな時子どもはどういう気持ちでいるのかもちゃんと描かれている。

    「学校ってね、そういうところなんだと思うよ。おれ、そういうことがわかったの。生徒は競争させられてんだなって。番号をつけられるの。テストの点数で、あなたは何番目の人だよっていわれるの。それは点数のことなのに、人間の番号みたいな感じがするよ。くやしかったら負けるな、勝て、勝ちつづけろっていわれてる、みたいな」(P79)

    「そんな理由でやめるってお母さんにいったら、『だめ』って、きっと反対されると思うの。(中略)『そんなことだと将来困る』って、お母さんにまたしかられると思う。お母さんは、わたしが将来ちゃんと生きていけるようにって心配してるんだと、それはわかってる。ても、わたし、自分がしたいかどうかわからないことをがまんしてつづけたくないの。」(P180)

    「こうしたほうが」というときのママは、心のなかでは「こうするべきだ」と、ほんとうはすっかり考えを固めているということが、小学生のお兄ちゃんにはわかっていたんだと思う。「うーん」とか、「そうだなあ」と、お兄ちゃんはぼんやりした返事をして、それから最後にはたいてい「わかったよ」と、ママの考えを受け入れていた。(P197)

    「なんでも簡単にあきらめてほしくはないの。朋だけじゃないよ、晴太にしても」とママはいった。
    「簡単じゃないあきらめ方って、どういうの?いまがそのときって、どうやったらわかるの?」(P200-201)

    たいていのおとなは、子どもはいっしょうけんめい勉強するのが一番だと考えている。いっしょうけんめいしたくない、ってことを上手く説明することなんてできるだろうか。(P249)


    よその子が同じようなことを苦もなく続けて結果を出していると、比べないでいるのは難しい。親は子どもの将来が少しでも良くなってほしいと思っているだけなのに、その気持ちは伝わらない。
    私はつい母親の立場で読んでしまったが、子どもの心を考えたら、子ども達の選択は正しかったと思う。
    自分は、子どもの、その時その時の真剣な気持ちにどれだけ向き合っていただろうか。

    子どもだけでなく子育て中の親にも読んでほしい。父親にもね。

  • 英語スクールへ行きたくないと思っている女の子が、支配的な母親に「行きたくない」と言うまでのお話。いってしまえばそんなあらすじですが、丁寧に「なんとなく」な気持ちを表していると思います。

  • 英語教室になんとなく行きたくない朋は、近くの路地に入ってみた。細い路地を進むと、不思議なお話を朗読しているおばあさんに出会い、庭に招き入れられる。次の週、同じ道に入ったはずなのに、道の様子が違い、少し昔風の服を着た女の子と出会う。
    現在と過去を行き来しながら、「したいこと、したくないこと」を考えるようになる朋。すぐ隣にある不思議と子どもの成長を自然に描き出す秀作です。

  • 「小学五年のわたしと中一の兄は二ヶ月前、母の理想の新しい家、市の西側から東側へ引っ越してきた。この町で通い出した英会話スクールが休講だったので、わたしはふと通ったことのない道へ行ってみたくなる。道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花がちらほらと咲いて・・・・・・。」


  • 『そのぬくもりは消えない』
    『マルの背中』
    どちらも大好きだったけど、
    これはまたすごく面白い!!
    ちょっと不思議な女の子、不思議な物語なら、
    駒子さんの繊細な表紙がすーっとそこに連れていってくれるんですよねぇ。

    お兄ちゃんの中学進学に合わせて、市の東側のちいさなマンションから、西側の中古住宅に引っ越してきた朋の家族。ママは新しい家、新しい職場、一人暮らしのおじいちゃんのお世話にとにかく忙しい。

    朋はママの勧めで英会話スクールに通うことになる。
    いつものように土曜日の午後、英会話スクールに行ってみると、その日は塾はお休みだった。

    なあんだ。と、家に帰る前に寄り道をしてみる。
    英会話スクールと郵便局とのあいだにある道の先、
    その曲がり角を曲がると…

    喫茶ダンサーと、庭先で朗読をしてくれるオワリさん。
    その不思議な魅力と、英会話スクールでの違和感に、
    また次の週も英会話をサボって曲がり角を曲がってしまう…。

    ふしぎな曲がり角で出会う、もう1人の少女みっちゃん。
    同じ英会話スクールに通う同級生の麦野さん。
    朋も、どうやらお兄ちゃんも、学校には馴染めていないよう。

    お兄ちゃんは、野球部を、朋は英会話をやめたいという気持ちをそれぞれの方法でママにぶつけていく。

    朋はママを傷つけたくないけど、お兄ちゃんはすっかり反抗期。大人になってしまった。
    パパとママの夫婦喧嘩も、この家に引っ越してから増えてしまった。

    子どもたちの声に耳を貸そうとするけれど、空回りするママの姿にはイライラさせられる。

    パパの家庭での在り方もとてもリアルだ。

    そのリアルさと、少女の心の味方である曲がり角の世界と、岩瀬成子さんのお好きな、タイムファンタジーの世界になんともうまく誘われてしまうのです。

    そしてあっという間に読み終えて、ビックリしてしまう。。

  • 大人だからわかるのか、みっちゃんの正体は途中で完全に出てきますね。わかる子はわかる子でそう思いながら読んでという意図かしら?今回のカバーも酒井駒子さん。装丁は岡本歌織さん。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00614542

    野間児童文芸賞、小学館文学賞、産経児童出版文化賞大賞、IBBYオナーリスト賞など数々の賞を受賞する岩瀬成子氏の最新長編作品。

    柵には半開きになった木の扉がついていて、その扉に「どうぞお入りください」と青色のマジックで書かれた板がぶらさがっていた。
    「いやだ。あたしはそんなところへは、ぜったいに入らないから」ときこえた。
     えっ。どきんとした。
    庭木のむこうからだった。わたしにむかっていったんだろうか。
     わたしは耳をすまして、木々にさえぎられて見えない庭のようすをうかがった。
    しんとしていた。
    だれがいるんだろう。
    わたしはぶらさがっている板をもう一度見た。
    それから足音を立てないようにして、そっと扉のあいだから庭に入っていった。しかられたら、すぐににげだすつもりだった。ちょっとだけ、のぞいてみたかった。──本文より。

    小学五年のわたしと中一の兄は二ヶ月前、母の理想の新しい家、市の東側から西側へ引っ越してきた。この町で通い出した英会話スクールが休講だったので、わたしはふと通ったことのない道へ行ってみたくなる。道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花がちらほらと咲いて・・・・・・。

    日本絵本賞、講談社出版文化賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、オランダ銀の石筆賞など受賞の酒井駒子氏による美しい装画にも注目!(出版社HPより)

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著者プロフィール

1950年、山口県生まれ。
『朝はだんだん見えてくる』で日本児童文学者協会新人賞、『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』で小学館文学賞と産経児童出版文化賞、『ステゴザウルス』と『迷い鳥とぶ』の2作で路傍の石文学賞、『そのぬくもりはきえない』で日本児童文学者協会賞、『あたらしい子がきて』で野間児童文芸賞、『きみは知らないほうがいい』で産経児童出版文化賞大賞、『もうひとつの曲がり角』で坪田譲治文学賞を受賞。そのほかの作品に、『まつりちゃん』『ピース・ヴィレッジ』『地図を広げて』『わたしのあのこあのこのわたし』『ひみつの犬』などがある。

「2023年 『真昼のユウレイたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩瀬成子の作品

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