ヨーロッパ世界の誕生 マホメットとシャルルマーニュ (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065202890

作品紹介・あらすじ

「地中海世界」の没落と「ヨーロッパ世界」の誕生、その背後で決定的役割を果たしたイスラムへの着眼ーー。歴史家が晩年の20年に全情熱を傾けたテーマ。ピレンヌの集大成にして、世界的に参照され続けている古典的名著、待望の文庫化!

感想・レビュー・書評

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  •  はるか以前から創文社版を積ん読のままだったのが、創文社の事業中止に伴い、今般、学術文庫として刊行されたことに感慨を覚えながら、改めて購入することとしたもの。

     ピレンヌ・テーゼという言葉は知っていたが、本書を通読して、その内容が一応理解はできた。全体を通して、ローマ帝国及びその内海であった地中海の圧倒的な歴史的重みと、イスラム勢力の拡大がヨーロッパに与えた歴史的影響の大きさを、そのシャープな叙述で明らかにしているところが非常に印象的であった。

     訳者あとがきにもあるとおり、本書は、綿密周到な「研究」を裏に潜めながらも、研究とは一応区別される「叙述」になっているところに、一般読者としては魅了された。ゲルマン民族の移動によってもローマ世界は連続性を維持していたのであり、それが断絶し、「ヨーロッパ」が誕生したのは、イスラム勢力により西地中海における交通が遮断され、経済的、通商的に大変動を来したことに由来することを、おそらくは膨大な社会経済史的な研究蓄積を背景に持って著者は明らかにしていく。

     同じくフランク王国といってもメロヴィング朝とカロリング朝では国家政体が全然異なること、イスラム以前は東ローマ帝国が西方世界に対しても大きな影響力を持っていたこと、東方教会とローマ教会の対立、そしてヨーロッパ世界の確立に教皇庁の動向が重要であったことなどが、本書の叙述全体によって、立体的なイメージを持って理解できた。

     おそらくは、著者以降の歴史研究の進展により、例えば商業の規模や貿易品の実態を始め各分野で異なる事実や史実評価が出てきているのかもしれないが、本書の面白さに変わるところはないと思う。

     欲を言えば、文庫本として一般読者向けに出すのであるから、本書の扱っている時代が、ヨーロッパから中東に至る500年以上の歴史を扱っているので、年表は付けてもらいたかった。また、人名索引は付いているが、あまり馴染みがないので、王朝各王の系図と在位年が分かる表は欲しかった。

     

  • 複雑。とても細かいところまで書いてあるけれど、理解が追い付かなかった。自分が歴史のどんな部分を掘り下げたいと思っているのか少しわかったような気がするので、その点は良かった。

  • すごく面白かったけど高校教員がピレンヌ・テーゼをインストールしたいだけなら『中世都市』だけもいいかも

  • 本作、世界史の授業でしばしば言及される作品です。出色なのは「イスラムがヨーロッパを形作った」とする言説です。

    もう少し丁寧に言うと、現在のヨーロッパを基礎づけたのはイスラム教の侵入とカロリング朝だという言説。なお本作第二部でのメインテーマです。

    ・・・
    ロジックは以下の通りです。
    5世紀以降のイスラムの急激なる隆盛(アラビア半島からの北上)によって、先ずは商業圏としての地中海からキリスト教徒・欧州人たちは排除される。ローマ時代以降、商業で大いに栄えたマルセイユなどの港湾都市での取引はしりすぼみとなり、ローマ時代は大いに使用されていた香草やハーブ等は600/700年代以降はさっぱりヨーロッパに入ってこなくなったとか。

    その結果、東方世界(現ギリシア・トルコを中心とする東ローマ帝国:イスラムとの対峙で精いっぱい)と西方世界(フランク王国等それ以外のヨーロッパ)とが分断してしまったという。

    さらに、海上貿易の途絶は各王室財政に窮乏をもたらす一方、土地持ち貴族が(税が揚がるから)有利になる。そうこうしている間に、宮宰カロリング一家が無策な王家をのっとって覇を唱えたということのようです。

    丁度そのころ、イコン崇拝問題でビザンツ皇帝と揉めていたローマ・カトリックはシャルルマーニュを皇帝として戴冠することで教会の自治を確保するという形となりました。

    ちなみにシャルルマーニュが皇帝となった当時、俗人教育は完全にすたれ、読み書きできるものはまれであったということらしく、聖職=学者、と同義だったそうです。結果、皇帝の傍に仕える読み書きできる聖職のみがラテン語を使用する一方、皇帝をはじめとした俗人たちは土着の言葉(フランス語等)を使用するという流れになったということのようです。ここに世界語としてのラテン語の命運の尽きようが確認できます。

    ということで、イスラム隆盛→地中海海上貿易途絶→各王国財政困窮→臣下がのし上がる→その臣下(カロリング家)の勢いにローマ教会が乗っかる→ヨーロッパの誕生そして中世の始まり、とこんな感じのようです。

    ・・・
    この言説は、さらに「そもそもヨーロッパとはどの部分のことなのか」とか更なる疑問を呼びそうな気もします。ただ、きっとピレンヌは、同じ土地に同じ民族が住まうけれど、シャルルマーニュ以降は文化の性格が異なる、こういいたかったのだろうと思います。これは中世以降の歴史を学ぶ上では大きなヒントになるのだろうと思います。

    ・・・
    ちなみに第一部は、ゲルマン民族の移動はヨーロッパ文化への影響はほとんどなかったという言説。これは驚きとかは特にありませんが、世界史でそれなりに習う割に影響なかったのね、という軽い驚き。なんでもゲルマン民族はヨーロッパ世界に侵入してきたものの、あっという間にラテン文化に馴染んでしまい、法律も文化もすべてラテン色に染まったということらしいです。

    ・・・
    ということで世界史に興味がない人にとってはさっぱり面白くない本かもしれません。でも歴史の授業が無味乾燥であると感じた時など、こうした書籍は助けになるのではないかと思いました(さらに眠気を催す可能性もあります)。あらゆる物事は必ず因果の糸でつながっています。そして授業では説明されないことが多い物事の因果が、こうした書籍で確認できると、歴史も世界も一層面白くそして身近に感じられるのではないか、と思った次第です。

  • ずっと前に買ったものの手が付かないで放置していたが、ふと読んだら大変面白く、一気に読んでしまった。地図がもっとあるといいのだが。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/768321

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著者プロフィール

アンリ・ピレンヌ
1862-1935年。ベルギーのヴェルヴィエ生まれの歴史家。リエージュ大学でヨーロッパ中世史を専攻。ライプチヒ大学、ベルリン大学に留学。1886年にベルギー・ガン大学教授となる。全ヨーロッパ的視野で、中世の都市および商工業のあり方に重点をおく社会経済史を中心に研究。邦訳に『中世都市:社会経済史的試論』(講談社学術文庫)など。

「2020年 『ヨーロッパ世界の誕生 マホメットとシャルルマーニュ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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