シルクロード世界史 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065208915

作品紹介・あらすじ

かつて、「歴史」を必要としたのは権力者だった。権力者は自らの支配を正当化するために歴史を書かせた。歴史家は往々にして、権力者に奉仕する者だったのである。しかし、近代歴史学の使命は、権力を監視し、批判することにこそある。近代世界の覇権を握った西洋文明を相対化し、西洋中心史観と中華主義からの脱却を訴える、白熱の世界史講座。
近代以前の世界では、中央ユーラシア諸民族の動向が、歴史を動かしていた。騎馬遊牧民はどのように登場し、その機動力と経済力は、いかに周辺諸国家に浸透していったのか。シルクロードのネットワークを媒介とした「前近代世界システム論」とは。ソグド人やウイグル人のキャラバン交易や、キリスト教の最大のライバルだったマニ教の動向などを、ユーラシア各地に残る古文書、石碑の読解から得たオリジナルな研究成果をもとに解明していく。そこから見えてくるのは、あらゆるモノは歴史的所産であり、文化・言語・思想から、政治・経済活動まで、すべては変化し混ざり合って生み出され、純粋な民族文化や普遍的な国家など存在しない、という真実である。さらに、近年日本で発見されて世界的な注目を浴びるマニ教絵画から、日本伝来の史料で明らかになるシルクロードの実像まで。「興亡の世界史」シリーズ最大の話題作『シルクロードと唐帝国』の著者による、待望の書下ろし。

感想・レビュー・書評

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  •  「興亡の世界史」シリーズの『シルクロードと唐帝国』において、決して多くはない騎馬遊牧民側の史料も縦横に読み解き、中華史観を一掃する歴史の捉え方を提示した著者による、新たな一般向け概説書である。

     現在の学会の水準では通説化しているのかもしれないが、非常に刺激的な見方や見解が随所に展開され、また新たな資料群が紹介されるなど、ページを繰るのが楽しかった。

     著者はウォーラステインの「近代世界システム論」に倣って、「前近代ユーラシア世界システム論」を提唱する。それは、ユーラシア北半分の遊牧国家が騎馬軍団の軍事力に依拠して南の農耕国家から資源・財物を恒常的に吸収し、その再分配システムを構築し、国家を維持・発展させた現象を指す。

     具体的には、シルクロード貿易の実態、ソグド系ウィグル人の活躍とネットワークの広がり、マニ教の伝播状況などがダイナミックに語られる。

     そして、最終章では、日本に伝来していたマニ教絵画が紹介される。これはすごい!見る人が見なければ、資料はその価値が分からないということを改めて知らされた。

     東西交流史やモンゴル帝国研究の進展により、単純な西洋中心史観、中華史観は薄らいできているが、何といっても史料の少なさにより、遊牧民の歴史の実相を知ることは難しく、もどかしい。本書は、そうした渇きを癒してくれる一冊である。

  • 此れもアレも未読ですが
    1431夜『シルクロードと唐帝国』森安孝夫|松岡正剛の千夜千冊
    https://1000ya.isis.ne.jp/1431.html

    『シルクロード世界史』(森安 孝夫):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344839

  • 自らが研究してきた、とりわけソグド人が果たしてきた役割の大きさを強調している。加えて、西洋中心史観への強烈な反発を前面に出している。だから、一般向けに、あるいは教科書的に通説に従い微温的な見解でまとめた歴史本が多い中で、個性の強い本である。(トンデモ本ではない)
    ただし自説であるところは明記して、しかも簡潔に根拠も示しているから、他の論述と容易に区別できる。
    他の研究者の営みを乗り越えて先に進むところをを垣間見ることができる楽しさがあって、あちこち付箋だらけになった。とはいえ近頃の、波風を立てることを嫌がる若い人たちからすると刺激的すぎるかもしれない。

  •  興亡の世界史のシリーズを読んでいて、中央アジアやシルクロード周辺の民族興亡がよくわからなかったので、同じ著者のこの本を手にしたのであるが、正直、読破するのがとても辛かったです。歴史学者は資料が好きなのは分かりますが、少しマニアック過ぎる。
     読み出した以上、理解しようと努めたので時間がかかりました。

  • 前近代における世界史を中央ヨーロッパの視点から問い直す一冊。騎馬遊牧民の形成過程、ソグド・ウイグルの位置付け、マニ教・仏教の展開、キャラバン交易の実相など興味深い点が多い。

  •  馬の家畜化とそれと結びつくトルコ系騎馬遊牧民の大移動、遊牧国家の「略奪」の相対化(正当化?)、イスラム化する前のソグドとウイグル、日本との関わりなど。日本仏教とウイグル仏教の漢文仏典受容の共通性は面白い。また、マニ教への高評価や、日本でいう「胡」はペルシアではなくソグド、といった点が著者のこだわりの模様。
     ただ、通史的なものを期待していたがテーマ別の章で、特に学術論文を基にした第4章以降は各論過ぎて、自分に予備知識がないのが原因とは言え頭に入りにくかった。また著者は既に大家なので、自分はこう思う/こうした、という記述が目立つのも、一般書としては気になる。

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著者プロフィール

1948年福井県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院在学中に、フランス政府給費留学生としてパリ留学。金沢大学助教授、大阪大学教授、近畿大学特任教授などを経て、現在、公益財団法人東洋文庫監事・研究員、大阪大学名誉教授。博士(文学)。おもな著書に『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』(講談社)、『ウイグル=マニ教史の研究』(大阪大学文学部紀要)、『東西ウイグルと中央ユーラシア』(名古屋大学出版会)、編著書に『中央アジア出土文物論叢』(朋友書店)、『ソグドからウイグルへ――シルクロード東部の民族と文化の交流』(汲古書院)ほか。

「2020年 『シルクロード世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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