主権者のいない国

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065216866

作品紹介・あらすじ

「なぜ私たちは、私たちの政府はどうせロクでもないと思っているのか。その一方で、なぜ私たちは、決して主権者であろうとしないのか。この二つの現象は、相互補完的なものであるように思われる。私たちが決して主権者でないならば、政府がロクでもないものであっても、私たちには何の責任もない。あるいは逆に、政府はつねにロクでもないので、私たちに責任を持たせようとはしない。
 だが、責任とは何か。それは誰かに与えてもらうものなのか。そして、ここで言う責任とは誰に対するものなのか。それは究極的には自分の人生・生活・生命に対する責任である」
本文より抜粋 


政治が国民にとって「災厄」となった絶望の時代を、私たちはどう受け止め、どう生きるべきなのか?

いま日本でもっとも忖度しない、ひよらない、おもねらない政治学者の最新論考!

国民を見殺しにして、お友だちの優遇や経済を優先する現権力の暴走の根源にあるものとは?
資本主義の「人間毀損」が行きついた果ての「命の選別」を受け流さず、顕在化した社会的モラルの崩壊に立ち向かうための必読書!

序章  未来のために、記憶を想起せよ
第一章 「戦後の国体」は新型コロナに出会った
第二章 現代の構造――新自由主義と反知性主義
第三章 新・国体論
第四章 沖縄からの問い 朝鮮半島への想像力
第五章 歴史のなかの人間
終章  なぜ私たちは主権者であろうとしないのか

感想・レビュー・書評

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  • この本を読むまで、この国の〝国体“について真剣に考えた事は無かったような気がする。昭和天皇は国体護持という命題の虚構性、そしてこの虚構を成り立たせるためにどのような代償が払われたのかを熟知していたという。本著が言うように、日本国の象徴とされた天皇制のありようは明らかに戦前とは異なるが、日本人の精神性は、それが徳川家であれ、天皇陛下であれ、拠り所としての君主をすげ替えたのみで、戦後は、対米従属体制が国体化したに過ぎない。究極的にはアメリカが事実上の天皇の役割を担うことを意味するという論説は、決して誤りでは無い。

    そうした理由もあるだろう。政権支持率にも大して意味はなく、日本人は大人しく増税を受け入れ、政府の言いなり。不満を募らせても、政権交代の受け皿となる野党に期待もできず、投票行動も変わらない。こうした閉塞感の中、相互監視、同調圧力や忖度により社会行動を制限する事で、地道な集団生活を送るのが特性となっている。強いリーダーシップというより、周りを見ながら、社会全体で合議を図るように、炎上や村八分、自警団により軌道修正していくシステムだ。

    随分偏った本だ。安倍批判が見苦しい。著者自身も大衆をB層としか見なしていないから、選択の誤りそのものに対し、馬鹿が馬鹿を選んだという構図で論をエスカレートさせていく。他方で以下のような韓国擁護の論拠も示される。

    フランスがナチスドイツに降伏しヴィシー政権が成立した時、フランスは敗戦国だった。しかしドイツの傀儡と化した祖国政府を認めないド・ゴール将軍がレジスタンス運動を司る自由フランス政府を結成し、それがやがてフランス共和国臨時政府、第4共和制のルーツとなる。フランス人が自国を独力で解放したとは言えない。しかしフランスは戦勝国の立場を得た。戦後のフランスはヴィシー政権のフランスに接続したのではなく、亡命政権に接続したのだ。大韓民国臨時政府とどのような差があるか。

    この国の主権者が不在する問題は、戦争に至る前からポイントオブノーリターンとして、不可逆的に突入した出来レースでもある。米国依存を脱するには核を保有すべきだろうし、疑似的な一党独裁体制を是正するには利権構造を崩さねばならず、警察権も御用学者も中間業者もそれらを票田とした互恵的な構図にも、ありとあらゆる経路依存に破壊的なイノベーションが必要だ。

    安倍政権を批判するまでは誰もが可能な行動だが、この国を良くするには、韓国擁護などを並べる前に、自国第一でのオルタナティブが必要だ。国益を損なう議論と政権交代が混ざるから、左派は信用ならず、大衆は自ず、権威主義や利権、そのおこぼれを目指すしかなくなるのではないか。エリート層にも、マスコントロールの気概見えず。右も左も嫌ならこの国から去れ、の末路か。

  •  読み終えて、「時事」に対して、もう、あほらしくてついていけないという気分で、関心を失っていることについて、正座させられて叱られている気分させられましたが、それはそれで、結構面白い体験でした。
    「白井先生のおっしゃっていることについては、ほぼ、異論はありません。でも、まあ、国なんて滅ぶなら滅べばいいやという気分もあるし、直接の戦争こそ知りませんが、地震とか津波とか、原発のメルトダウンとか、想像を絶した出来事も、それなりに体験しました。トランプとかアベ某とかの、まさかのふるまいも目にしました。こうなったらゴジラ出現も悪くないなという気分なんですよね。」
     まあ、とかなんとかいいながらブログにもあれこれ書きました。そちらもよろしく。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202107130000/

  • 主権者のいない国 白井聡著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/107337?rct=shohyo

    「無責任の体系」ひずみの根源
    評 大塚茂樹(ノンフィクション作家)
    <書評>主権者のいない国:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/544553

    ◆無関心が招いた無策深刻
    [評]松尾貴史(タレント)
    主権者のいない国 白井聡著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/107337?rct=shohyo

    『主権者のいない国』(白井 聡)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000347253

  • オリンピックが強行突破された時に
    自分自身の感情をなだめたくて
    読み始めた一冊

    同時に読んでいたのは
    池田晶子さんの
    「考える日々」

    やはり 考え続けることは
    大切なこと
    と 改めて思う

    苦々しき
    報道ばかりが続いている時に
    読み進めていたので
    なおさら 合点することが
    多かった

    オリムピック・パラリンピックを
    見たくない
    聴きたくない
    思いたくない
    日々を
    慰めてもらった
    一冊でした

  • 国民主権、となっているものの、国民に向き合った政権ではない状態が8年以上続いているのは何故なのか、読み解いてくれる本でした。「主権者たることとは政治的権利を与えられることによって可能になるのではない。人間が自己の運命を自らの掌中に握ろうとする決意と努力の中にしかない。」

  • 出版されて話題になったので買ってはみたが積読になっていた
    出版直後に読めていたらもう少し面白く読めたのかもしれないが、1年後の今読むと少し議論が雑に感じられる

    著者の安倍菅政権に対する評価の表現が辛辣を通り越して感情的な嫌悪感全開で、私も安倍菅政権の政策を評価しないだけでなく、宰相としての安倍・菅にも嫌悪感を感じていたが、飲食店などで隣の席の人が他人の悪口を大声で話しているのを聞いてるような苦痛を感じてしまいよても読み辛さを感じた

    著者の評価のタイミングが、安倍退陣前が前提だったり菅就任後の視点だったり一貫しない。評価の対象となる出来事も、どんな事件かに言及せずに事件名としてしか紹介しないので、執筆のタイミングが分からないことと相待って、どんな事実を前提とした評価なのか分かりづらい。
    評価の基準も明示されておらず、何がその基準から逸脱しているのかの説明もないので、単なる悪感情の発露となってしまっているように思える。

    「主権者のいない国」というタイトルの「主権」が国民主権の「主権」のことで、日本で民主主義が機能してないことがメインテーマの本かと思っていた。読んでみたら違って、その戦後から菅政権に至るまでのその時々の為政者が取った外交方針から読み取れる思想を著者なりに解説してるだけのように思える。それが政治学者の研究対象なのかもしれないけど・・・「なんとかこれからの社会をよくしたい」という気持ちが感じられず、為政者の悪口ばかりを言ってるだけのように感じられる。

    カールシュミットを引用してるけど自由主義、民主主義という概念の使い方も私の理解と違う。
    「主権」と意味も「憲法制定権力」「国家権力を正当化する権威」という意味ではなく、国家の対外的独立性の意味で使ってるみたい。

    要するに勉強不足の私には本書を面白く感じられなかった。

  • なぜ日本の政治はこんなにもダメなんだろう、コロナ対応も他の先進国に比べて遅れてるし、安倍氏も菅氏も、語ることに何の真摯さも感じられない。野党は批判のための批判しかしてないように見えるし。
    子供の頃ってもっと日本は先に進んでなかったっけ?今となっては明るい希望は何も見えない。政治家なんて誰がなっても同じとしか思えないし、古狸たちが未来のことなどおかまいなしに、利権にまみれてるだけ。何でこうなのか、そう思って本書を手に取りました。
    永続敗戦論、菊と星条旗を読んでいないと、深くまで理解できていないかもしれないが、戦後の国体が今なお続いている、というのが今の状況の原因ということなのだろう。
    憲法上戦争のできる軍隊を持っていないから、今なおアメリカに隷属するしかないのか、改憲したらどうなるだろう、二者択一ではない、違う道はないものか、、?

    硬質な文章と、ウィットに富んだ政治批判が小気味良かった。

    ただし、最大の批判の対象は、私自身を含めた、主権者たろうとしない国民に向けられている。

    少し間を空けて、永続敗戦論、菊と星条旗も読んでみようと思います。

  • 2021/05/17
    戦後の国体論を軸に様々な内容が盛り込まれているが、読みながら何度も頷いてしまった。
    中でも「反知性主義」については内田樹編『日本の反知性主義』でもその内容に接してはいたが、改めてその根深さを考えさせられてしまう。
    自分の首を絞めてしまうことになる選択をしてしまうのはそれを認識していないだけでなく、認識すること自体を否定しているから?
    批判や問題提起が勇気ある行為、無力なものの代弁ではなく、カッコ悪い・みっともない行為と見なされてしまうのも思考停止・思考拒否に反するということなのだろうか…もっとそれ以前の問題なのかもしれないが。
    韓国における「親日」の言葉の意味では視点を改めさせてもらえた。

  •  VUCAの環境と長い閉塞感の日本の政治と経済。本書に記された戦後の歴史的背景は根深く、これからも道は険しいとものがあると感じた。
    •戦後の国体とは、戦前の天皇制国家体制の構造が配線を機にその頂点を天皇から米国へと入れ替えながら生き延びてきたことを捉えるための概念。
    •朝鮮戦争こそ戦後日本のかたちを決めた出来事であり、戦後の国体の歴史的起源。
    •内外政ともに数々の困難が立ちはだかる今、私たちにかけているのはそれらを乗り越える知恵ではなく、それを自らに引き受けようとする精神態度である。人間が自己の運命を自らの掌中に握ろうとする決意と努力のみ。

  • 知識と考えが無さすぎて理解が追いつかなかった

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。思想史家、政治学者、京都精華大学教員。著書に『永続敗戦論─戦後日本の核心』(太田出版/講談社+α文庫)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)など。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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