国商 最後のフィクサー葛西敬之

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065241271

作品紹介・あらすじ

安倍晋三射殺で「パンドラの箱」が開き、
一気に噴出した日本政財界の闇――
その中心にいたのは、この男だった。

政界、財界、霞が関、マスメディア、鉄道業界etcすべて騒然!
日本最大級の広告主のために新聞テレビはもちろん
週刊誌ですら触れなかった「アンタッチャブルの男」にはじめて迫る

禁断の「革マル取り込み」で
魑魅魍魎の労働組合を屈服させ、
30年以上にわたりJR東海に君臨。
強大なマスメディアを手懐け
政官界の人事を自在に操り
安倍晋三最大の後見人となった。
国を憂い、国を導くその一方で、
国益をビジネスに結びつける
「国商」と呼ぶべきフィクサーだった。
昭和の終わりに……国鉄解体という
戦後最大の難事に身を捧げた改革の闘士は
平成・令和の「怪物的黒幕」へと
いかにして変貌したのか!

(目次より抜粋)
・政策は小料理屋で動く
・靖国神社総代と日本会議中央委員という役割
・国鉄改革三人組それぞれの闘い
・「革マル」松崎明との蜜月時代
・覆された新会社のトップ人事
・鉄パイプ全身殴打事件
・ばら撒かれた「不倫写真」
・頼った警察・検察とのパイプ
・品川駅開業の舞台裏
・名古屋の葛西では満足できない
・安倍総理実現を目指した「四季の会」
・メディアの左傾化を忌み嫌う理由
・傀儡をNHKトップに据えた
・「菅さまのNHK」
・安倍政権に送り込んだ「官邸官僚」たち
・池の平温泉スキー場の「秘密謀議」
・杉田官房副長官誕生の裏事情
・政治問題化したリニア建設計画
・JR東日本とJR東海の覇権争い
・安倍と葛西で決めた「3兆円財政投融資」
・品川本社に財務省のエースが日参
・「最後の夢」リニア計画に垂れ込める暗雲
・JR東海の態度に地元住民が激怒
・「リニア研究会」という名の利権
・安倍晋三への遺言
・大間違いだった分割民営化
・国士か政商か
・覚悟の死

「権力者には宿命的な不安と恐怖が生まれる。
夢のためには権力を手放してはならない……」
(本書「おわりに」より)

感想・レビュー・書評

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  • 「JR東海の社長、会長に昇りつめ、国士と評されるようになった」財界の超大物、「自ら進める事業や政治への介入が日本の国益になると信じて疑わない」"国商" 、葛西敬之氏の生涯を描いた評伝。

    本書から葛西氏の人物を表す言葉を拾うと、「ときの政治権力の後ろに控え、絶大な力を振るってきた最後のフィクサー」、国鉄改革・分割民営化を主導し「自らのビジネス展開を国の運営に結合させた稀有な企業経営者」、安倍政権生みの親(財界における強い後ろ楯)、政治思想は反共産主義で「親米、保守の論客」、中国嫌い、「経営者じゃなく、一種の思想家」、日本会議及び靖国神社の幹部で「四季の会」主催者、最後まで超電導リニア新幹線実現にこだわり続けた経営者、などなど。

    葛西氏は財界きっての大物政商(著者は、利益誘導というより理念先行型だったため "国商" と呼ぶ)として政争を仕掛け、政治や官邸官僚人事、NHK会長人事に強い影響力を維持し続けた。警察官僚や財務官僚、外務官僚に太いパイプを持ち、安部元首相、菅前首相とも昵懇だったという。日本を陰で動かしてきたフィクサー。"政治は綺麗事でない" を地で行くいくドロドロとした世界。葛西氏を通して戦後日本の政治の裏側を見せつけられた一冊だった!

    コロナ禍でテレワークやオンライン会議が常態化した。更に今後、少子高齢化・人口減少により旅客需要は減り続けるだろう。静岡県との間で揉め続けている中央リニア新幹線、大丈夫なのか?

  • 森功氏、安定のルポルタージュ。
    国鉄民営化を成し遂げた伝説的経営者、葛西敬之氏の評伝。

    国鉄と言えば最悪の赤字体質と頑強で極左組織と繋がった労働組合の印象が強い。実際本書の前半は新幹線建設をきっかけに雪だるま式に借金が増えた過程と、盗聴スパイなんでもありの壮絶な組合の抵抗に紙幅が割かれる。

    この経験から葛西が警察官僚を天下りで積極的に迎え入れ、そこから公安とのつながり強め、その保守的な政治思想から安倍政権との距離が縮まり、ついには外部の諮問委員でありながらNHKの人事にまで介入するフィクサーぶりへと話が広がっていく。

    天下国家を語ること、マスコミの敵視、アジアの大国としてのプライド(リニアへの執着)。ある意味無敵の「昭和エリート」。
    しかし決して体制側だけとは言えない。なにしろあの国鉄を民営化まで引っ張って行ったのだから。
    著者も単なる権力の亡者でもなく、清廉な改革派経営者でもない、この独特の人物の全体像把握には相当苦労した様子が伝わる。

    悲願のリニアの完成を待たずに本人は世を去る。そして安倍元首相が亡くなったのはその数ヶ月後。
    あまりにも「ひとつの時代の終わり」感が強すぎる偶然の連鎖なのである。

  • 国鉄の裏事情、特に労働組合などが印象深い。なかなかおもろしい。

  • 国鉄改革3人組の末弟にして一番の曲者、葛西敬之の評伝。
    …のはずだが、葛西敬之研究本としては浅薄。まず生い立ちや国鉄入社経緯は豪快にカット。葛西が国労や動労の間でうまく立ち回り、国鉄解体を実現する序盤は読み応えがあるが中盤以降は読むのが辛い。著者が憎む安倍首相との癒着やNHK人事介入の話は、JR東海や葛西本人が得た利益が不明確だし、リニア新幹線批判も坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという印象で説得力に欠ける。逆に語るべき新幹線保有機構との対決はまたしてもカット。
    本書は著者のライフワークであるアンチ安倍政権の扇動が目的で、葛西敬之を知るための本ではないのだろう。

  • 葛西敬之の人生の一部を知ることができるだけでなく、今目の前に起きているリニア静岡問題の片鱗にも触れることができる。一端の企業人ではなく国さえも動かしていく。それが国商なのだろう。

    国鉄分割民営化、第2次安倍内閣、官僚やNHK人事などの背景を知りたい人におすすめ

  • ノンフィクション作家が、葛西敬之氏について書いた本。関係者に取材をし、人から聞いた話を主体に話を構成している。全体的に葛西氏に関する調査・研究が浅く、内容に説得力がない。なぜそういう結論になるのか疑問な箇所が多々あった。国鉄の分割民営化から時系列に書かれているが、それを取り巻く政治や労働組合との闘争、また、政治家や官僚、JRなどの人事に関する争いなどが中心に描かれており、肝心の葛西氏に焦点が当たっていないので、葛西氏の人物像が描けていない。あたかもタブロイド紙のコラムの寄せ集めといった感じの内容になっている。内容に興味がわかず、残念ながら勉強にならなかった。
    「(教育再生会議にて)「桃李もの言わざれども、下自(したおの)ずから蹊(みち)を成す」桃やすももの樹は意図して自らの魅力を触れまわれるわけではないが、木の下には自然と人が集まり、雑草が踏まれて小道ができる(優れた教師を学校に登用して環境が整えば、意欲ある生徒が集まり質の高い教育を実現できる)」p14
    「社外取締役は企業の内情に通じているわけではない。したがって企業経営において社外取締役は細かい指示を出すのではなく、大きな方針を打ち出すだけにとどめるべきだ。教育現場に対しての教育委員会も同じだ(葛西)」p21
    「(宇宙政策委員会にて)財政が厳しくなってくると、もっと民間の活力を、とか何とか言う。しかしあれは『大和魂があれば、戦争に勝てる』というのと似たようなものです。私は民間企業に宇宙開発するようなゆとりはそうはないだろうと思います。どうするのだというのを、誰かが決めなければ、日本は進まない」p26
    「(国鉄分割民営化反対論者)国体護持派の強力な後ろ盾が、田中角栄や加藤六月たち自民党運輸族議員だった」p62
    「葛西は国鉄改革で国労を潰すために動労を利用した」p89
    「中国へも新幹線を輸出していますが、それは川崎重工が中心にやったんです。川崎重工が新幹線技術をブラックボックスにしないまま中国に提供してしまったと葛西さんは考えています。葛西流に言わせれば、『その結果、中国が新幹線技術を盗んだ』となるんでしょうね。葛西さんは『JR東海はもはや川崎重工とは契約しない』と切っちゃった。川重に代わり、日本車輌という会社を子会社にして、技術革新を図っているんです」p149
    「(葛西)これまでの言動が単なる会社の経営者と異なり、常に日本の前途を意識していた」p196

  • 人の名前ばかり出てきて、誰が誰と、の話にしかなってないように感じた。
    「夢のためには権力を手放してはならない」
    そうですか…

  • 「国商」葛西敬之を余すところなく描く。流石森功の面目躍如の一冊。上っ面を知っているつもりでいたが、知らなかったことばかりで滅茶苦茶面白かった。西岡研介氏の労作「マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」で松崎明を知るともっと読書に深みが出るはず。

  • 立ちいかなくなっている北海道と四国の会社。福知山線の脱線事故。革マル系組合が歪ませた経営。国鉄分割民営化は成功だったとはいえない。国労が悪者になったがそもそもの赤字の元凶は政治が押し付けた無理な新幹線整備。抱かされていた幻想…水枯れ、残土処理、需要減...。立ち止まり再考すべきリニア計画。寧ろ後押しした安倍政権。その政権は葛西氏が影で操っていたといわれる。2人はもうこの世にはいない。その死がきっかけに何かが変わるのだったらそれはそれで虚しい。主権在民。生きていても変えるべきものは民の力で変わるべきである。

  • 日本の産業史を振り返るときに国鉄という巨大組織の民営化はその功罪も含めて語られる必要のある一大トピックであるが、その国鉄改革を率いた3人組の一人であり、JR東海の総帥、そして安倍晋三を支えた政界のフィクサーとしての顔を持ち合わせた葛西敬之の実像に迫ったルポルタージュ。

    国鉄からJRへの民営化、即ち国鉄改革の本質とは極論すれば労働組合をいかに権謀術数を用いて弱体化させるかという闘争であった、というのが本件について記した優れた幾つかのルポルタージュから私が学んだ点である。葛西敬之がJR民営化以降にどのように政治権力の中枢に影響力を持つように至ったかというメカニズムにおいて、おそらくこの闘争での勝利は原体験として大きな意味を持ち、それこそが彼の主要な行動原理の一つであったというのは言い過ぎではないはずである。

    私自身は葛西敬之という人間の政治思想には全く賛同するものではないが、そうした権力闘争の経験がどのように一人の人間に影響を与えるのか、というドキュメントとして、本書は非常に面白い読み物であった。

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著者プロフィール

森 功(もり・いさお) 
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒業後、伊勢新聞社、「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年には『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝――ヤフーを作った男』『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』など著書多数。


「2022年 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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