猫は知っていた 新装版 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065288214

作品紹介・あらすじ

時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が
引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。
現場に出没するかわいい黒猫は、何を見た? 
ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄妹探偵が、
事件の真相に迫ることに----。
日本のクリスティと称されてデビューした著者による、
今日の推理小説ブームの端緒となった江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和32年に刊行された作品、ということを知った上で読まないと、なかなかに疑問の沸く部分はあるけれど、探偵役の兄妹の活躍が心地よくて、シリーズで読みたいなぁと思わせる作品でした。
    新装版はとても可愛らしい装丁で、女流作家なのもあって文体も柔らかく、それでも江戸川乱歩賞だしなぁという心持ちで読めば、やはりそこは素人探偵といえどコージーミステリとは言えない、それなりの殺人事件が起こります。
    それなりの殺人ってなんだって話ですが。

    時代背景をイメージしつつ読めると、受け入れやすいかもしれません。
    丸く赤いポストだとか。電信柱、という方がしっくり来るような、木製のそれとか。扉を閉めた時に、嵌め込んだガラスが振動でがしゃんと音の立つような古い個人病院だとか、レトロで今は可愛いと人気の赤や黄色、橙の花柄のグラスだとか。
    …全部わたしのイメージですけど。しかも別にそんな表現は、作中に出てきません。なんとなくそんな感じかな、っていうだけです。

    すみません。大半が本の感想じゃないですね。
    作品に戻りましょう。
    登場人物が、表で欲しいほどに出てきます。主人公兄妹と、その2人が下宿でお世話になる、少し複雑なお医者さん一家。核家族に加えおばあちゃんや姪っ子、看護婦さんに患者さん。と、猫。
    連続殺人となりますので、わたしなどは一旦家系図を書きました。
    ボリュームも、容疑者人数も、ちょうど良かったです。初めて読みましたが、とても読みやすかった。
    こちらを処女作に、たくさん作品を残された方ですので(しかも作者さまは殆ど学校教育を受けていらっしゃらないそうです)、ぜひ、他の作品も読みたいなと思う一冊でした。

  •  仁木悦子と仁木雄太郎の兄弟が下宿をする箱崎医院で殺人事件が起こる。
     メインとなる殺人は、平坂殺し。箱崎医院の箱崎兼彦という医師が、平坂の癌を盲腸と誤診。結果として、平坂の癌は発見が遅れてしまう。箱崎は、平坂の性格から、自身がこの誤診により破滅すると考え、看護婦の家永と協力して、平坂の身元が分からないように殺害する計画を立てる。
     兼彦は、家永と協力し、家永の声の質と平坂の声の質が似ていることを利用し、再生速度を遅くして再生するというトリックで、平坂が生きていると誤信させる。顔や指紋で身元が割れないように、水死体にする。
     桑田老婦人は、事件を目撃してしまったために殺害される。孫のユリが指輪や預かったお金を盗まれる。ユリから、お金を盗んだのは次男の敬二。敬二は、滞納していた家賃を払うが、指輪はお金に返れなかったから隠す。
     この敬二によるユリの指輪及び現金の盗難により、桑田老婦人が茶壷を平坂に売ろうとしたことが、事件をややこしくする。このような、登場人物が嘘、隠し事をしているために事件がややこしくなるという構成は、クリスティっぽい。仁木悦子が「日本のクリスティ」と言われるゆえんはこの辺にもあるかも。
     ほかにも事件をややこしくする要素があり、そのうちの一つは、悦子が抜け穴の入口を封鎖してしまったこと。これにより、家永殺しが外部犯ではあり得なくなってしまう。
     人見という看護婦が平坂の付添になるのを拒否した。かつての平坂の悪行。その被害者である工藤夫人が平坂を毒殺しようとしていたというミスディレクションがある。多数の犯罪計画を多重的に描き、ミスディレクションとすることで、サスペンス的な盛り上がりを見せる。クリスティ的な手法。
     平坂の妻である清子夫人と、箱崎兼彦の長男、英一が元同級生で、恋仲だったというのはミスディレクション。英一が犯人ではないかと見せかけ、そこまで動機が完全に隠されていた箱崎兼彦が真犯人というのは、オーソドックスながらうまい。
     仁木雄太郎と仁木悦子が探偵として活動しやすくするための登場人物として、老警部というあだ名の峰岸周作という人物が登場する。そこまでキャラクターが立っているわけではないが、この人物がいることで仁木雄太郎、悦子に情報が入り、変死体の調査をしてもらうなど、筋が進む。このキャラクターの存在が御都合主義的ではあるが、許容範囲内。
     家永殺害のトリックは、猫を利用した物理トリック。このトリックは、いわゆる「推理クイズ集」のようなもので知っていた。猫は知っていたというタイトルも聞いたことがあり、このトリックだけの作品ではないが、このトリックは古典として有名になっている感じ。蛇の毒を塗ったナイフで刺す。眠らせていた猫が起きるタイミングを計り、猫が動いたことでナイフが発射される仕組みという完全な物理トリック。ひと昔前のミステリらしいトリックといえる。家永が「ネコ、ネコが…」といって死ぬが、これが何かという謎ではなく、ネコがトリックに使われているという、そのままの意味というのが、逆に新鮮でもある。
     箱崎兼彦が犯人だということを示す伏線は結構張られている。チミではないネコが気絶していたり、幸子が寝小便をしていたことから、母が行方不明であり、とても寝れそうにないはずの敏枝夫人が熟睡していた=睡眠薬を飲まされた=箱崎兼彦が飲ませた、など。
     入院患者の一人の付添人である桐野夫人は、「もう一本はどうします」という旨の証言を聞く。決定的なことを思い出す前に…という意図で殺害されかけるが未遂に終わる。
     まとめると以下のとおり
     ● 平坂殺人→メインの殺人誤診を隠すために殺害。
     ● 桑田老婦人殺害→目撃したため殺害
     ● 家永殺人→猫を利用したトリック。共犯殺害
     ● 桐野夫人殺人未遂→証拠隠滅
     トータルの感想は、古い作品ながら、クリスティ的な作風のよくできたミステリ。箱崎兼彦が、医療ミスを隠すために、身元が分からないような形で平坂を殺害。このシンプルなスジに、箱崎兼彦の次男、敬二がユリが持つ指輪と現金を盗むという犯行が重なり、結果として平坂と桑田老婦人が取引をしようとしたことが重なる。これを利用して、箱崎兼彦が平坂を殺害しようとするが、結果として犯行を目撃した桑田老婦人も殺害される。
     家永殺しは、ネコを利用した物理トリック。最後の桐野殺しはトリックらしいトリックはないが、読者が箱崎兼彦が犯人と推理できるようにするための犯行ともとれる。
     古い作品ながら、伏線もそれなりに張られており、軽いミステリのお手本のような作品となっている。今よんでもそれなりに面白く、★4とまではいかないが、★3で。

  • 複雑に絡み合った事情と惨劇の真相が、少しずつほどけて行く。ストーリー展開が無理なく、滑らかで心地よいです。幼い頃から大好きな本。10回は読んでいます。それでも楽しめる本。

  • 東西ミステリーベスト100から77位の本作を読了。どうせ昔のミステリと舐めていたら、自分には犯人が見抜けませんでした。

    3つの殺人+αが起きるのですが、抜け道、毒殺、コテコテな物理トリックを用いてよく練られています。

    犯行方法については確かに古いけど、ミステリが確立される初期のルールも明確で無い時代から、フェアプレーに則って読者を楽しませてくれます。

    本作の倍のボリュームで文体も読みにくい、そして謎解きもゴテゴテに装飾された「首無の如き祟るもの」を読んだあとだったので、300ページくらいで文体も軽やか、シンプルだけど筋の通ったトリックの本書が一種の清涼剤のように読めました。

    主人公兄妹のキャラクタや会話文も微笑ましくて凄く良いです。

  • 素人探偵兄妹が巻き込まれた連続殺人事件! 江戸川乱歩賞屈指の傑作が新装版で登場!

  • 昭和32年に書かれた作品ってことを知らないまま読み始めて、解説に目を通すまで気づかないままだった…解説読んだときの衝撃よ…
    作中で次男が他人の免許証借りて車運転してるってくだりがあって、もうこの時点で事件じゃん!逮捕じゃん!と思ってたけど「ま、まあ昭和32年なら…?」と読後に納得してしまった。

    被害者の奥さんと息子の関係を知って息子のために良かれと思って…!?みたいな動機だと思ってたら誤診した上での保身で殺害とか想像の斜め上すぎた。カスじゃん!
    それで恐喝してきた看護師はクズ同士だから別にいいけど、おばあちゃんがかわいそうすぎる…そもそも次男が金を盗まなければこんなことには…クズの血筋…

    ラスト、犯人死亡でなんかいい感じに遺族への配慮が為されることでしょう!は楽観的すぎるのではと思ったけどまあ…昭和32年なら…?

  • タイトルに惹かれて。
    仁木兄妹シリーズ、とても面白いので是非とも全て新装版として刊行して欲しいです。
    防空壕、テープレコーダー、その時代ならではのトリックがあり、面白いです。
    今読んでもちゃんと面白いのは、兄妹のキャラクターもあると思います。
    病室に間借りなんて今では考えられないけれど、当時は普通?
    感染対策としても今では考えられないですね。
    日本のクリスティと呼ばれる所以が分かりました。
    ラストはアクロイド殺しの様です。

  • あー、面白かった。
    ものすごく久しぶりの再読。何度読んでも面白い。
    昭和30年代の作品なのに、全然古臭くない。
    猫のチミちゃんがああいう使われ方をしたのは猫好きとしては残念ではあるけど。
    犯人の動機は身勝手すぎるけど、平坂氏の性格もそうとうなものだよね。
    敬二のキャラクターがけっこうお気に入りなので、もっと登場してほしかったな。
    雄太郎・悦子はシリーズキャラのようなので、他作品に出てたりしたら嬉しいんだけど。

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著者プロフィール

1928 - 1986。小説家。ミステリーや童話を手がけ、1957年に長編デビュー作『猫は知っていた』で江戸川乱歩賞を受賞。明快で爽やかな作風で、「日本のクリスティー」と称された。1981年には「赤い猫」で日本推理作家協会賞を受賞。無類の猫好きとして知られる。

「2023年 『不思議の国の猫たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

仁木悦子の作品

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