旅する練習 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 394
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065338438

作品紹介・あらすじ

第34回三島由紀夫賞、第37回坪田譲治文学賞、ダブル受賞!中学入学を前にしたサッカー少女と、小説家の叔父。2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。ロード・ノベルの傑作! 第164回芥川賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 乗代雄介『旅する練習』講談社文庫。

    この作家の小説を読むのは『本物の読書家』に継ぎ2作目。

    第34回三島由紀夫賞、第37回坪田譲治文学賞のダブル受賞で、第164回芥川賞候補作となったロード・ノベル。

    新型コロナウイルス感染禍という閉塞的な時間の中、自分の好きな事に熱中し、一つの目標に向かい、歩み続ける少女の姿が眩しい。しかし、問題はラストだ。余りにも悲しい唐突なラストは全く予想もしなかった。


    弱小少年サッカーチームで唯一の女子で、一番上手い亜美は、女子サッカーの名門の私立中学校の受験に合格し、入学金免除まで勝ち取った。中学校入学を目前に控える亜美だったが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3月2日から24日まで臨時休校となり、学校もクラブの練習も最後の大会も予定が無くなってしまった。

    亜美は小説家の叔父と2人で利根川沿いに徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指して旅に出る。亜美はリフティングをしながら、入学予定の中学校から出された日記の宿題をこなしながら、ゴールを目指す。そして、旅先で偶然出会った、ジーコを敬愛し、就職を目前に控えた大学生のみどりもまた鹿島アントラーズの本拠地を目指していた。


    全てを裏切るラストに悲しい気持ちになる。亜美のこれからの輝かしい未来に期待していたのだが、それが一瞬にして砕け散る。

    しかし、人生とはそんな儚いものなのかも知れない。

    定価704円
    ★★★★

  • ジーコの話に惹かれました。スポーツのなかでもサッカーだけはなぜか疎遠だったけれど、ジーコの本でも読んでみたくなった!

    誰もが知る日本の名所ではないけれど、地域の特性がよく描かれていて、情景や動物の観察力に長けている著者さんだなと思いました。そして、ちょこちょこ織り交ぜたコロナネタが、「あぁ、あの時そうだったよなぁ」と思い出させてくれて、この本を読んだ2024年のいま、あーわたし生きてるわーって思えました。

  • 乗代雄介『旅する練習』
    2024年 講談社文庫

    第34回三島由紀夫賞、第37回坪田譲治文学賞のW受賞作品。
    コロナが広がり始めた頃の設定で、小説家の叔父と中学に進学する直前の姪のお話。
    姪が以前サッカー合宿の際に宿で借りたままとなっている本を返しに鹿島へ、叔父と二人で歩いて向かいます。
    コロナの始まりのころの不安や、まだ理解できないからこそ納得できないことなどを重ねながら人生を見つめるきっかけとなる二人。
    でもあくまでも個人的主観ですが、僕には文体、文章がどうも読みにくくて。
    文学賞受賞作ではありますが。
    生と死、命を実直に描いた素敵な作品なのですが、最後の最後のクライマックスは腑に落ちなかったです。もしかしたらとは思っていたのですが(思わせる著者の構成はすごいとは思いますが)、安直というか。。具体的展開が急で、そのあとの余韻もそがれているというか。
    あまりネガティブなことは書かないようにしているのですが、設定は興味深かったのに、ちょっと残念でした。

    #乗代雄介
    #旅する練習
    #講談社文庫
    #読了

    • ことぶきジローさん
      自分も余りにも唐突な結末には驚きました。最初は何故という疑問だけを感じましたが、何度もストーリーを思い出す度に忘れられない不思議な小説になり...
      自分も余りにも唐突な結末には驚きました。最初は何故という疑問だけを感じましたが、何度もストーリーを思い出す度に忘れられない不思議な小説になりました。老若男女問わず、人生とはこうした結末を迎えても仕方が無いのかも知れません。実際の人生に於ける様々な結末はハッピーエンドで終わることが少ないのではないでしょうか。
      2024/03/17
  • 最後、丸められて投げ捨てられたような衝撃。

    ***(上↑が読後直後の感想、以下↓振り返っての感想)***
    なぜタイトルが『練習する旅』ではなく、『旅する練習』なのか。
    本文に旅は2回ある。1回目の旅は、亜美のサッカー上達のための練習と、主人公の風景描写の練習の旅。2回目の旅は、主人公1人で1回目の旅をもう一度めぐる旅。
    この2回目の旅の5/26の手記で主人公は「あの旅についてかかなければならない(p150)」と書いている。また、1回目の旅の風景描写にはじめて亜美が登場するあたり(p188)では、1回目の旅の手記を今書き写していることが書かれていて、「この練習の息継ぎの中でしか、我々は会うことができない」とある。つまり、時系列的には1回目の旅(3月)→2回目の旅(5月)→それらを今(6月)振り返っていて、この今の振り返り=この小説自体 が「旅する練習」だと理解した。主人公は小説を通して「終わりのない練習をひとまずここまで続けてきた(p194)」のだ。

    だから、この小説は、「少女と叔父の練習の旅」の話ではなくて「少女と叔父の旅を振り返る練習」の話である。と考えると、初読ではラストの衝撃と悲しみで「なんだこれ…嘘だろ作者…」と作者不信(?)になっていたのだが、もう一度読み直すと違う感想が出てくると思う。

  •  コロナ禍でいろいろなことが自粛されたり、緊急事態宣言も東京で4週間後には出されることになるという世間。

     中学校入学を控えたサッカー少女の亜美と小説家の叔父は、鹿島まである目的のために歩いて旅をすることを計画する。

     亜美はサッカーボールを蹴りながら、叔父は途中で風景を文章にたしなめながら、それぞれの練習の旅が始まる。

     旅の道中で成長していくのがわかるサッカー少女の亜美。

     教室の中で学ぶこともあるだろうけれど、ただ、歩いて6日間旅をするだけでも、学ぶことが大いにあるということなんだろうなと思える作品です。

     旅とは目的地につくことだけではなく、目的地にたどり着くまでの過程が大事ということがそのままわかるわぁと思います。

     また、間にジーコの語録みたいなものも適切に出されるので、ジーコ語録読みたいと興味が湧く作品でもあります。

     何をやるにしてもまずは願いから。

     願いがなければ夢にもならないし、願いがなければ願いを叶えるために動けない。

     確かにそうだよなぁと思えるものがこの旅の中にはいっぱい詰まっているなと思いました。

     ただ、私は、本作品に対してラストは安直過ぎやしないか?と思ってます。

     おそらく、こういうことを伝えたいのかな?と思うところもあるし、作者の意図もあるのはわかっていても、最後だけは私は合わなかったなという作品になってしまいました。

     そういう意味では今の私には合っていない作品なのかな?と思いながらも、こんな旅をしたくなる素敵な6日間だなと思えた作品です。

  • 王道の感動もの。
    歩いて鹿島まで行くという、夜のピクニックと似た話ではあるものの中身は完全な別物。
    小学生の姪の天真爛漫で子供から色々を学ぶ大人の構図や、鳥にまつわる数々のエピソード。
    文章が全体としてまとまってつながりがあり、とても読みやすかった。文量もちょうどいい。
    途中からシリアス感もあり、気になって読み進めてしまった。
    自分の生きざまを仕事に合わせなければならない、はこの本の主旨として秀逸。

  • 亜美が唐突最終ページで交通事故で死んでしまうってどうかと思った。実在のモデルがいるのかな?
    「テストは3点、笑顔は満点、ドキドキワクワクは年中無休なの」

  • COVID-19が流行して休校になった中
    旅をする2人のストーリー。

    姪と叔父という関係の2人が
    自然や歴史、人との出会いを通して
    様々なことを感じていくのが好き。

    そういえばCOVID-19が流行した時
    私はまだ看護学生という立場でした。

    実習、国家試験、卒業式、入舎式、研修、、、
    様々なことが影響を受けて
    中止や延期、オンラインで実施に変わっていった。

    COVID-19が第五類感染症に移行しても
    医療現場では特に変わらない。

    未だに行動も制限されることもあるし
    陽性患者の看護をするときの装備が減ることもなければ
    陽性患者数が減ることもない。

    マスクが絶対ではなくなったからか
    COVID-19+インフルエンザのWパンチかなぁ。

    誰が悪いとか絶対ないから
    看護師としてできることをするしかないですね。

  • 何がどうなっても構わないような妙な気分で、
    自分の気持ちがどちらに転んで行くかもよくわからないまま、
    という表現が,何となく心に残り何度も読んだ

    ラストにさらりと書かれた衝撃は、消化出来るのかまだ分からない

  • まず何よりタイトルが良い。作家の叔父とサッカー少女の姪は春休みを利用し徒歩で我孫子から鹿嶋への旅路を行く。道中で出会う女子大生との交流は少女に新たな気付きを齎し、各々は旅路の果てに人生の岐路に佇む。叔父が綴る旅の情景と心情、各地に根付く作家の言葉、地域の復興に貢献した名将の逸話といった要素が物語に彩りを添える多層的な作品だが、二人の旅の軌跡を容易く打ち砕くラスト一頁がこの物語の終着地点として本当に相応しいのか否か私は判断しかねる。完全なる余談だが、私が少年サッカー時代に憧れた選手こそ、ジーコその人なのだ。

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著者プロフィール

1986年北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年『十七八より』で「群像新人賞」を受賞し、デビュー。18年『本物の読書家』で「野間文芸新人賞」を受賞する。23年『それは誠』が「芥川賞」候補作となる。その他著書に、『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』等がある。

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