超マクロ展望 世界経済の真実 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205688

感想・レビュー・書評

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  • 第1章はわりと面白い話だと思った。
    実物経済での成長が限界へ達し、金融経済へと動いていく。発展途上国に対する先進国の交易条件が悪化するに連れて、資本主義経済が根本的に成り立たなくなっていく。
    歴史的観点から現在の経済の位置づけなど興味深い点もあったが、ただの対談で終わっているような印象を受ける。

  • 【書評】
    エコノミストと政治哲学者の対談本。四つの中心的問い、①資本主義はどのようなもの?②現在はどのような歴史的状況?③資本主義経済はこれからどこへ向かう?④日本経済はどういう方向に向かうのか?を問うている。
     特に①②産業革命より資本の蓄積を可能にした 暴力的側面の指摘は重要。資本主義の歴史は覇権国の歴史であり、軍事力を背景に有利な交易条件を課すことで可能になって来ており、交換よりは略奪に近い。そこには国家の存在(=暴力)が組み込まれているという視点は市場の効率性を疑ってやまない経済学者に必要な視点。
     その覇権の歴史の循環とアメリカ発金融危機をリンクさせ、利子率が先進国各国で低下する中、富が中国へ移るのか否かなど非常に広範囲にわたる議論を展開。資本と国民の関係、市場と国家の関係など資本主義と国民国家の関係を考えるに際して面白い指摘、検討してみるべき主張はある。
     
     一方で、かなり大きな話を多岐に渡って繰り広げており、よく言えば軽妙、悪く言えば散漫な印象がある。本書の前提は少し突飛で、全く技術進歩や環境変化への考慮が少ない点が大きな問題。新たな市場がもはやあまり無く、人間の欲望に制限のかかった前提で議論が進む。
     
     本書の前提とする「製品価格に転嫁出来ないような急激な資源高騰が交易条件を悪化させている」場合、代替資源開発へのインセンディブを促すことになるだろう。実際、技術革新及び、北極海の氷の溶解の影響で新たな石油開発の機会が訪れている。更に、シェールガスやメタンハイドレードなど利用可能な(潜在的に)代替資源が現れている。
     技術革新を利用した米国のネットワークの強さや、国際的に利用可能なアセット(国際機関や有機的同盟)の多さには触れず、(漠然とした経済的な)国力の推移だけで、覇権交代を論じているところに議論の限界がある。今回の金融危機で言うと、米国で発症したが、脆弱性なのは欧州の方だった。これはなぜか?
     
     筆者たちの前提は、構造主義的で主体の選択の幅がない点で運命論的に聞こえる。学術書でない分裏付けも乏しく、対談本である分、予定調和的。会話がポップで面白く、議論の障害となる部分には触れられていない「耳障りの良さ」がある。

  • 私の現在の世界経済に対する解釈と合致する本でした。内容はそこまで濃くないですが、簡潔に要点を押さえてまとまっており、①コストパフォーマンスの高さ、②非常に分かっている(偉そうですんません)世界経済の解釈が行われている、点に於いて☆5にさせて頂きました。

    まず、近代の先進諸国が現在の新興国などで安く資源を買入、付加価値を付け、高く売ることで成長を続けて来たと言うところから始まります。資源ナショナリズムに依って資源の支配権が薄れ、資源価格が高騰し、これによって新興国の交易条件が先進国に近づき、実体経済に於ける先進国の成長モデルが崩壊したと説明されています。

    米国は実体経済で成長を続けることが出来なくなった為、金融経済を拡張させ、莫大な利益を生み出そうとした。ニクソンショックによって金の裏付けが無くなったドルを支えるのは資源、つまり石油であり、イラク戦争はフセインのユーロシフト宣言の結果として引き起こされたものである。何故なら、資源ナショナリズムによって既にセブンシスターズなどに依る石油支配は終わりを告げており、米国はその対抗策として金融経済の拡張、石油の証券化を行った為、実質的にイラクに権益を欲していなかった。金融経済の拡張とドルへの資本の集積の基盤となる原油-ドル支払い制度を守る為にイラク戦争は行われた、と。アメリカに領土的野心が無いことを、地政学(本文では明言されていない)的な見地から、シュミットなどを引用して陸と海のせめぎ合いを例示したところが好印象です。つまり植民地モデルの終わりを示唆している訳です。

    ちなみに資源価格に支払われる価格は5兆円程度から25兆円に拡大し(つまり経済成長分が全て産油国、資源国に流れた)、企業に於ける利益の上昇分を喰らい尽くした。結果企業は人件費を下げざるを得なくなり、これが実質的な利益増加分とされてる。給与の減少傾向は決して不況が原因ではない、と。私もその通りだと思います。

    地政学的なネタとしてユーラシアについて触れたいのですが本題では無いので置いておきます。世界の覇権は実体経済の成長、実体経済の低成長に依る金融拡張と外部への投資、利率の低下、衰退と覇権の移行の連続であると示唆しており、条件空間(法治空間)と平滑空間(条件無し(詰まり外部)空間)のような概念空間を作り出し、これを略奪行為などによって搾取し、実体経済が成長する。これに行き詰まると金融の拡張を行い外部投資が行われ…と言う流れですね。

    現在に於いては投資主体(市場の中心)と投資元の分離が行われている為、これまでの歴史とは違ってきたと言う点にも注目しています。つまり、欧米は実体経済の中心では無くなったが、金融市場の中心となり資本を集め、これを新興国に投資することでバブルを起こし利益を得て来たと。その通りですね。これを自国民に対して行なってしまったのが所謂リーマン・ショックなどだったと。

    また、資本主義と市場経済を同視していない点など、現実的な認識だと思います。ハト主義の人達は如何せん軍事主義を嫌いますが、資本主義の原点が略奪・搾取行為によって成り立ったのは事実であり、市場主義の主体たる経済と市場を形成する政治の別離不可能性を、グローバリズムと軍事プレゼンスの観点から考えているのが中々秀逸ですね。当然とも言えますが。

    バブルの原因に関しても述べていますが、これはいいでしょう。

    実体経済を成長させることの出来なくなった先進国に於いて、低経済成長は必然であり一過性の問題ではないこと、グローバリズムによって先進国と新興国の所得が平均化され、賃金が減少すること、物価が下がること、資源価格の高騰が不可避であること、それに伴う原材料費の上昇を加味した円高の利用が有利であること、金融経済を実体経済以上に拡充した世界でリフレ派のぎ論が無駄であること、あとは日本の末路と明るい話題として環境規制などによる成長領域の創設などについて触れていますね。グローバル化に依って中流階級が減り、先進国に於ける金融主体とバブル実体経済主体が金を得て、それ以外はぐっばいするような構造を捉えているのも中々鋭いと思います。

    議論形式なので読みやすいですし、中々的を得た議論をおこなっていると思います。これに加えて地政学的議論、エネルギー戦略、資本収支戦略、次世代技術戦略を加えると良い感じで世界情勢が議論出来るかなーと。

  • 経済学者である水野和夫氏と哲学者である萱野稔人氏との対談本。

    この本で、アメリカのイラク戦争の目的が理解できたような気がする。水野氏の指摘が正しいか否かはわからないが、イラク戦争の目的を論じた様々な言説の中で、最も腑に落ちる内容だった。

    しかし、萱野氏は実に首尾範囲が広いものだと感心する。

  • 非常に面白かった。その名の通りのこれまでの資本主義の歴史を踏まえた超マクロ展望の視点は新鮮だった。これから両氏の他の著作も読んでみようと思う。

  • 面白い部分もあったが、本当に超マクロな展望であり、なんかふわふわした感じがした。

    現在のデフレは構造的な問題である、だとか、もう先進国の経済成長は望めないというった事を資本主義がどのように発展していったかを踏まえながら説いている。

    産業革命によって資本主義が発展していったという認識があったので、それよりも、植民地主義やイギリスの海賊が果たしている役割が大きい点などは面白かった。

    ただ、やはり思うのは、現在の資本主義はもう限界に来ていて、新興国がこれからも経済成長を目指して発展してくるのであれば、それに対抗して経済成長を目指すのではなく、経済成長がない状態での新しい世界のあり方を率先して目指していくべきだと思う。

    特に課題先進国としての日本は、これからの先進国や新興国の最先端をいっているものであり、人類の今後の道筋を立てるべき社会に変化していくべきだし、原発事故を経験した中で、それを目指さなければならない。

    僕らの子孫が幸せに暮らすためには、本当に変わっていかなければならない時期だと改めて実感した。

  • 「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」でファンになった水野氏と政治哲学者?の萱野氏による対談形式。基本的には上記水野著書にあった、過去の超長期的トレンドに基づいて現代の経済・金融動向を説明する、という内容。萱野氏が加わることによって国家間の覇権の遷移など政治と経済の関係がより充実しているが、その分上記水野著書にあったような統計情報に基づいた説明というのが希薄になってしまっている。ちょっと週刊誌の対談的になってしまい残念。  それにしても、毎度のことながらこの煽りタイトルはやめてほしい。こうしないと売れないのか?

  • 超ロングスパンで見た経済と国家の話。
    ちょっと歴史の勉強みたいにもなる。
    日本のバブルの破裂の部分は、ちょっと陰謀史観入る?

    対談なので読みやすい
    頭の整理にはなるが日々の投資の目安にはならない。

    リフレ派にはけちょんけちょん、水野(190)というのが
    ちょっと面白い。

    46 フセイン、石油代金をユーロで決済
    51 米国の石油はカナダ、ベネズエラ、メキシコから。中東のは少ない
    85 産業革命の油は鯨の油だった

    162 覇権国家の実物経済が衰退すると金融経済が台頭する
    188 市場の矛盾は国家が引き受ける。それが可能なのは徴税システム
    があるから

    191 実物投資で儲からないときにベースマネーを増やしても物価は上がらず資産価格が上昇するだけ
    210 円安と金利上昇が同時に起きる。
    円安は輸入インフレを通して所得減に結びつく

    225 一人当たりGDPが゙3000ドルを超すと民主化運動が起きる

  • マクロな、16世紀以降の世界経済史を水野さんが語り、それに大して萱野さんが国家・政治的な観点からの補助線を引いていき、立体的なカタチで16世紀以降の世界史的な政治・経済の展開、そしてそこから導出される近い将来に成立し得る国際的な政治・経済の体制をダイジェストながら示唆する、非常に濃密な対談をまとめた本です。詳細はそれぞれの方のハードカバーの書籍にあたった方がよいでしょうが、非常に手短に世界政治経済史をダイジェストできる非常にお得な本です。

    星一つ減らさせていただくのは、出てくるデータや議論が基本的にそれぞれの方の書籍との重なりがあり、既に何冊か著作を読んでいる人間にとっては一度読んだ話になるからですが、コンテンツ的には本の代金以上のリターンがあることはまちがいなしです。

  • すごく為になった一冊。経済の行く末を『国家』という枠組みも取り入れて、現在の世界情勢、日本の立場を書いています。今までは市場が拡大することを前提に、経済が回ってきた。しかし世界的飽和状態で低成長のだから資本主義は崩壊していくと言うもの。歴史から見た世界主権の移り変わりも勉強になった。

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著者プロフィール

1953年愛媛県生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。現在、法政大学法学部教授。専門は、現代日本経済論。著書に『正義の政治経済学』古川元久との共著(朝日新書 2021)、『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書 2017)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)他

「2021年 『談 no.121』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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