性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211047

作品紹介・あらすじ

「彼女たちは、なぜ、その仕事をやめられないのか?」

経済的困窮におかれたシングルマザーの中で、デリヘルなどの性風俗店で働く人たちが増えている。
首都圏に比べて賃金も低い、働き口も少ない、行政の公的サービスも十分でないという地方都市において、「性風俗シングルマザー」はどのように仕事と育児をこなし、貧困から脱出しようともがいているのか?

【主な内容】
・子供たちがひしめきあう託児所
・風俗で働いていることを隠して結婚
・子育て支援の充実した隣町に引っ越し
・高時給の仕事を探し、いつの間にかデリヘルに
・離婚できない「隠れシングルマザー」
・接客中に保育園から電話がかかってくる
・スマホで分娩の方法を調べて自宅出産
・「最悪の客」に指名される
・最初の仕事で性暴力被害に
・足りないのは「夫」でも「お金」でもない
・財政難の地方都市が貧困の連鎖を断つためには

【目次】
はじめに
第一章 地方都市の風俗店で生きるシングルマザー
第二章 生活と子育てを安定させるために
第三章 義実家という名の牢獄
第四章 たった一人の自宅出産
第五章 彼女たちが「飛ぶ」理由
第六章 「シングルマザー風俗嬢予備軍」への支援
第七章 風俗の「出口」を探せ
第八章 「子どもの貧困」と闘う地方都市
終章 「家族」と「働く」にかけられた呪いを解く
おわりに
シングルマザーが生活や仕事で困った時の相談窓口

【著者プロフィール】
坂爪真吾(さかつめ しんご)
1971年、新潟生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。
新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。
2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。

感想・レビュー・書評

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  • 女性は(あるいは一部男性も)タイトルだけでドン引きしてしまうかもしれないが、むしろ女性にこそ読ませたい内容である。

    「新しい『性の公共』をつくる」を理念に掲げた一般社団法人「ホワイトハンズ」の代表理事である著者は、これまでも性風俗と女性の貧困をテーマとした著書をいくつかものしてきた。

    私も、そのうち『性風俗のいびつな現場』と『「身体を売る彼女たち」の事情――自立と依存の性風俗』を読んだ。いずれもとてもよい本だった。

    この手の本は、風俗ライターとかが書いた煽情的ルポと、学者が書いた「上から目線」のキレイゴト本に二極分化している。

    前者はどぎついエピソードを列挙するばかりで、たいてい薄っぺらい。
    聞いた話だが、この手の本を書くライターが風俗店に取材に行くと、「さっきの子はフツーすぎたんで、もっと悲惨な子はいませんか?」と店長に聞いたりするらしい。
    要は、そのライターにとって風俗嬢はどぎついエピソードのネタでしかないのだ。

    一方、後者は性風俗の現場を知らないくせにわかったふうな口をきき、「性風俗=悪」の図式から離れられない。

    坂爪慎吾氏の著作はそのどちらにも陥っておらず、極端にならないバランス感覚とニュートラルな姿勢が好ましい。

    本書もしかり。
    地方都市に暮らすシングルマザーを貧困から救う道が福祉の中になく、性風俗がセーフティネットと化している現状を明らかにして、読ませる。

    さりとて、どぎついエピソードをことさら強調するような愚には陥っていないし、煽情的な記述も皆無である。

    ただし、帯には本書の最もどぎついエピソード(シングルマザーが一人で自宅出産した話)がわざわざ引用され大書されており、編集サイドは「どぎつい話で売ってやろう」という姿勢であるように見える。
    これはそういうたぐいの本ではないはずだ。

    舞台となる地方都市・S市は、行政のシングルマザー支援もかなり充実している。
    にもかかわらず、本書に登場するシングルマザーの多くがそれを十分活用せず(活用している人もいる)、生活保護も受給せず、リスクの高い性風俗で働きつづけるのはなぜか? その背景も明らかにされていく。

    これはよくある性風俗ルポなどではない。
    日本におけるシングルマザーの貧困を、地方都市と性風俗という一つの切り口から活写した本なのだ。

  • 先日、婚約者がいるが性風俗で働きたいという女性がいらっしゃいました。気になってしまい購入しました。

    私にも覚えのある体験なので微妙な心持ちになるのですが、叩かない親、風呂を覗かない親が普通だという事を大人になって知りました。
    趣味で心理学の本を読んだりすると、子どものときに親の保護や愛情をもらえないと、一生それを求めて彷徨う可能性もあると聞きます。もしかして、父性を求めている方もいらっしゃるのでしょうか。
    大人が全員、保護者的役割を果たす訳では無いという事も、また辛い現実です。

  • 20代前半の男性ですが、「社会背景を理解するため」「これから二極化が進む中で風俗業の女性たちは何を考えているのか」そういった側面を少しでも理解できればと本書を手に取りました。

    風俗に関わる女性は、やはり自分や周りを客観視できないことで様々な問題が起こっていると感じました。なぜ、その状況でそんなことをする?なぜ、そこで貯金ができないのか、、、本人自身の詰めの甘さも感じました。

    しかし、それの点だけを拾って「風俗に勤める女性は〜」「自己責任だ〜」と論じるのは発言者にとっては些か傲慢で見識の狭さを露呈させます。
    しかし、今日の日本では大多数がこういった論じ方をするでしょう。
    本書ではそこに関して一石を投じるもので、読み応えがありました。

    上記のような論じ方をすれば、そういった女性たちを槍玉に上げて自分のマウントをとって終わりになります。その背景にある、社会的制度の穴や未熟な点などを見落としてしまいます。

    どんな理由であれ、子供を育てるとなれば様々な覚悟やリスクが伴います、そこに社会福祉や補助が充実しなければ、選択肢が風俗関連に偏るのは自明なことです。
    文句を言っても、その風俗業を生かしているのも男性側なのです。

    風俗関連の女性を助ける助けない、どうするか?の議論ではなく、風俗かどうか、シングルかどうか関係なく、貧しい家庭の子供たちを助けるという共通認識の社会シムテムは必須です。
    しかし、今の日本では無理でしょう。地方議会はおじいちゃんやおばあちゃんです。
    65歳以上の方が現役時代に納めた各種保険料は巡り巡って医療費や年金で使い果たし、不足分は現役世代が支払っています。しかし、まだ必要と、議員たちの理想論に付き合わされ、老人を数年生かすために、未来ある子供たちの数十年分のお金を湯水の如く使っているのが日本です。
    皆知りつつ、感じつつ、でも、今が良ければとりあえずいい。誰かがしてくれるだろう。人間の本能的な楽をしようとする考えから、禁忌の扉を開けないように問題を先送りしてるのです。

  • 性風俗に関わるシングルマザーをテーマにしていたが、最終的には現代社会の「家族」や「働く」の課題やその課題を解決する方法(教育の問題点)に着目していた。

    本の内容に、現在の教育では会社員として必要なことしか教わらない。今後の将来を生きていくには従業員だけでなく自営業・起業に必要な知識を身に付ける教育も必要だとの内容があった。
    教育=会社員になるための知識止まりとの考え方、視点を持ったことがなかったので、ハッとさせられる考え方で面白かった。
    近年会社員であっても副業可能な会社も多く、多様な働き方があるので、社会を生き抜くには確かに現在の教育だけでは足りないこともあるのかもしれない。子ども達の将来の可能性を考えると、多様な選択肢を知ること、その中から選ぶこと、また失敗しても原因課題を見つけて、もう1度やり直すことができること、そういうが守られた世界にしていきたいと思った。

    「真の社会的包摂とは「強い人が弱い人を助ける」ということではなく、弱さを認め合った人同士が、社会の不条理に抗いながら、共に支え合って生きていくこと」という言葉が印象的だった。

  • 読み進めていると辛さを感じる一方で、取り上げられている方々の前向きさに驚かされる。もちろん、筆者が現場を回る中で聞き取った情報のうち、公開が可能だと思われるものだけをいれているのだろう。

    本書を読んでいて気づくのは、やはり貧困は連鎖するということだろう。本書に取り上げられている多くの例では、シングルマザーを選択する女性は、やはりシングルマザーの家庭で育っていると記されている。今回は「親」である女性たちに焦点を当てているため出てこないが、この親たちに育てられた子供達も、やはり多くが中卒で学歴を終えてしまい、同じような人生を歩まざるをえないのかもしれない。

    こういった問題を読むたびに、自分だったら何ができるだろうという気持ちと、自分の家族だけは守らなければならないという両方の気持ちが湧き出てくる。本書の筆者やNGO運営をされている方々はうまく両立されているのだろうけれども、残念ながらその両立がうまくいかない家族もたくさんある。うちもその「うまくいかない方」に含まれるだろう。

    本書の最後は、多くの人が"呪い"に囚われているという言葉が出てくる。機能不全の家族に育った身としては、確かそういった"呪い"は存在する。一方で、そういった地縁や血縁を全て捨て去り、呪いから逃げ出したとしても、それはマイナスをゼロにしただけで、戦い続ける人生からは逃れられない。呪いを捨て去った先に救いがないと、弱い人はよりつらい環境に落ち込んでしまうだけなのだろう。

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB29381392

  • 保育所の現実として、この様な家庭事情の方も多く入って来られる。その方々の内情をざっくり知るには良い本。

    育児の大変さはみなと同じと思う。結婚しているからとか、母子家庭だからとか言う事はあまり関係がない。仮に結婚して旦那さんがいたとしても子供が泣き止まない、旦那が何も面倒みてくれないとなると結局自分が子供を見ながらご飯作ることになる。そうなった場合イライラする。でも母子家庭であればもともと旦那はいないからイライラしない。期待する相手、求める相手がそもそもいないので。
    仮に男性と結婚したら、今まで貰えていた手当も貰えなくなり、医療費も上がる、デメリットしかないと思う。

    幼稚園・保育園の時期から子供の「非認知能力」を育てることの重要性が言われている。「非認知能力」とは粘り強さ、人と協調する力、やり抜く力、自制心、感謝する力や社会課題に向き合う力といった数値化できない能力を指します。ある程度集団の中での自分の役割が見えていないと、非認知能力を育てていくことができない。そのため就学前の時点では、集団の中での教育に力を入れていくべきということが明らかになってきている。

    子供たちにとっては、叱られることも褒められることもどちらも「自分に関心を持ってもらえている」と言う経験になっている。子供にとって、自分に関心を持ってくれる大人や他者がいないということほど自己肯定感を損なう経験は無い。叱られてばかりでも自己肯定感を育たないが。

  • 国立女性教育会館 女性教育情報センターOPACへ→https://winet2.nwec.go.jp/bunken/opac_link/bibid/BB11453700

  • こっちにおいでよ。一緒に遊ぼうよ。

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著者プロフィール

坂爪真吾(さかつめ・しんご)
1981年新潟市生まれ。NPO法人風テラス理事長。東京大学文学部卒。脳性まひ・神経難病等の男性重度身体障害者に対する射精介助、風俗で働く女性のための無料の生活・法律相談窓口「風テラス」の運営など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書『性風俗サバイバル』『情報生産者になってみた』(共にちくま新書)、『「許せない」がやめられない』(徳間書店)など多数。Twitter @whitehands_jp

「2022年 『ツイッターで学ぶ 「正義の教室」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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