なぜ東大は男だらけなのか (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087213034

感想・レビュー・書評

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  • 東大内部から、しかも男性教授からのフェアな視点の良書。この人は信頼できるなと、思える冷静さと公平さと聡明さを感じながら読んだ。

    日本全体の大学における女子学生比率は46%と決して低くはないのが、東大は20.1%。ほぼ半数を女性が占める海外の主要大学と比べて極端に低い。
    いまだに存在する「東大女子お断り」のサークル。東大男子の差別問題に対する鈍さを表している。

    1987年の東大総長森亘の卒業式での祝辞が紹介されているが、これがまた、すごい。

    「昔であれば末は博士が大臣かと言って押すな押すなと現れた花嫁候補も今日はない。明治の頃は国全体が若き医師に燃え、欧米並みに学問を尊敬した日本の社会も今や老いて金の亡者となり果てた結果、博士の価値は著しく下落した。また大臣になる確率も何万分の1とあって、気の利いたナウイお嬢さんは皆他に行ってしまう。東大出と聞いただけでイメージが合わないとして敬遠。かくして神様が東大的に割り当ててくださるのは、ほぼ東大と同様にダサイ女子大学の卒業生程度である」

    感動的なまでに、鈍い感性で笑ってしまう。賢いのだろうか?この方は?

    現在では大学生の57%を女性が占めているプリンストン大学が共学化にあたって、どのような手立てをしたかが詳しく述べられている。ライバル大学が共学化をしたことが直接の原因であるのだが、プリンストン大学の用意周到な女子学生の手立ては本気度を感じる。割り切ってやる時はやるこういう姿勢、日本は学ぶべきだろう。

    クオータ性を取り入れたら、という提案をしているのだが、それは女子に有利だからずるいという反論を想定して、筆者は
    「男性の入学者が半数程度であるのが当たり前であり、8割を占めているのが問題なのである。これを人工的に抑制するのはずるいのだろうか。自分は差別していないのになぜと言う男性もいるだろうが男性優位の構造の社会に来ていると言う事は、自らも差別の構造の一部になっているのだと言う意識も必要である」と述べている。

    なるほどなと思う。よくぞ言ってくれました。

    東大に入るのは、今や中高一貫校の特殊な学習が必要となっている。無理に無理を重ねて、受験に特化した特殊なスキルを習得しなくてはいけない。そんなムリを重ねることに「NO」と言うことができるのは、女性だと言えなくもないと思う。男性へのプレッシャーが、この結果を生んでいるとしたら、頑張るのは女子学生ではなくて、むしろ男子学生?
    「頑張らない」ということを頑張れ、と言ってるのだけど。

    そういう意味でも、すっきりとクオータ制を取り入れてみるのもいい考えだと思う。そうしたら、つまらないこと「頑張る」男の子が減って、日本が突出している中年男性の自殺率も減るのでは?
    絶対に彼らは既得権を手放さないと思うけどね笑

  • ■どんな本か
    自らもマジョリティ(男性日本人)側に立つ東大教授が、東大における男女不均衡をその歴史紹介・米大学との比較等を通して、問題提起する本。

    ■内容
    ・東大の男女比は8:2
    ・そしてその比率は20年間ほとんど変わらない
    ※女性の大学進学率は5割を超えたというのに
    ・日本に高校は4856あるのに、トップ20校の合格者が4割以上を出している
    ・特に開成始めとした男子校10校で25%を占める
    ・教員の男女比は多少改善したものの16.7%
    ・サークルで東大女性が敬遠される理由は、女に求めてるものが華やかさやサポート、そして頭の悪さだから
    ・銅像にも女性はいない(いても現世とかけ離れてる)動物像も雄(苦笑)
    ・戦後、1946年には女性入学するも(1.9%)、準備できてないから女子トイレも十分にない有様
    ・女子学生亡国論なるものがあった
    ・東大闘争ではひたすらおにぎり握らされた学生も
    ・プリンストン大学は、経営判断としての危機感から共学化進んだ

    ■著者の主張
    問題を大学全体で共有して、解決に努力せよ。
    女性以外のマイノリティ含め、ブレイクスルーに貢献せよ。クォータ制導入せよ。

    ■印象に残った文章
    【クォータ制を導入することで、女性だから採られたと思われたくない人も少なくない。(中略)しかし忘れてはならないのは、これまで採用されてきた男性教員は多分に男性であるというメリットを享受してきたということだ。『自分が男性だから採られた』という意識を持つ男性教員はほとんどいないだろう。女性にはそう思わせて、男性は思わなくても良い構造、それこそが問題である。】

    ■感想
    東大の副学長さんだそうで、いわばトップ層の人がここまである種自虐的に(銅像の動物が雄しかいないとかネタでしょ)、紹介してるのは興味深い。実際、書き進めていいのか迷いもあったことがあとがきで明かされる。

    改めて、悔しい思いを重ねてきた多くの女性の苦難を思う。頑張って優秀な成績取って大学に入って、トイレがなくて男子トイレに駆け込むとかほんとありえない。自分が失敗しても、女性全体のせいにされがち、という傾向は今の時代にも大いにある。
    東大の男女不均衡問題は、社会と同じ縮図。東大卒は特に力を持つ・影響力を持つ人が多いだろう。こんな閉ざされた世界で育ったら、おかしな感覚のままな人がいるのも納得。

    中高一貫男子校がこれだけ多いのは知らなかった。(とはいえその事実は、5年でカリキュラム終えて高3を受験に当てられるやり方が今の受験に有用であるという裏付けでもある。)数日家を空けて、洗濯物をほっぽって出かける、そしてそれをよしとする母親像も容易に想像できる。結婚したらそのサポートが嫁に代わるだけだから、こういう育ち方をした人が育児しないんだろうなと邪推。

    ただ今の学生は男性でもリベラルか感覚の持ち主も多くいるだろう。その感覚が潰されないといい。

    男だけの単一社会で何が問題なのかはきっとマジョリティ側だとわからない。それこそ、日本トップの教育で気づきを作り出してほしい。
    女だらけの会議とか、留学生だけのサークルに参加、とか機会作らないと無理かもだけど。

    努力をして実力で入ったと自負してるだろう学生に、頑張ったことが報われると思えることは環境のおかげである、と入学式で言える上野千鶴子は最高だし、その人選ができる東大も変わってきてるとも感じた。

    男女差別が語られれる一方、自殺は常に男性が多い現代社会において男性ならではの生きづらさもあるかとは思うがそこには触れられていない。

    性別という括りで、選択肢が縛られたり、容姿をとやかく言われたり、不要なプレッシャーを感じることのない世の中にしていきたい。

    今は小さな娘が、将来性別に関係なく(頭がよくなるかは別にして!)どんな選択も取れるように願う。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/572945

  • 出版社(集英社)のページ
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721303-4
    内容、目次、著者プロフィール

    著者による内容紹介、引用再構成
    ① なぜ東大生の8割は男性なのか?「男女比の偏りが慢性的な差別的発言を生んでいる」という女性学生の危機意識
    https://shueisha.online/articles/-/250106
    ② 東大に蔓延する女性差別の伝統“東大女子お断り”サークルの実態…優位なジェンダー秩序を維持するための「他大女子への”バカいじり”」
    https://shueisha.online/articles/-/250107
    ③ 男だらけの東大で学んできた女性の歴史…女性入学者ゼロだった学部、「私設秘書」に登用された才女、「点取り虫」「ギスギスしてドライ」と揶揄された過去も
    https://shueisha.online/articles/-/250108

    野矢茂樹による書評(2024.04.06朝日新聞「好書好日」)
    https://book.asahi.com/article/15221351

  • 「男だらけ」の歴史の部分は興味深い内容であったが、海外事例と解決策の提示はそうでもなかった。機会の平等は確保すべきだが、あまりにも結果の平等を追い求めすぎるのもどうなのかと。なら、まずは男性を排除している女子大を解体するのが先決ではないか。

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著者プロフィール

東京大学大学院情報学環教授

「2020年 『東大塾 現代アメリカ講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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