土に贖う (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087444513

作品紹介・あらすじ

【第39回新田次郎文学賞受賞作】

大藪春彦賞受賞後第一作!
明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)
昭和初期、北見ではハッカ栽培が盛んだった。リツ子の夫は出征したまま帰らぬ人となり、日本産ハッカも衰退していく。「全く無くなるわけでない。形を変えて、また生きられる」(「翠に蔓延る」)
昭和三十五年、江別市。蹄鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)
昭和26年、最年少の頭目である佐川が担当している組員のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺してといてこれか」(「土に贖う」)など北海道を舞台に描かれた全7編。
これは今なお続く、産業への悼みだ――。

【著者略歴】
河﨑秋子(かわさき・あきこ)1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞を受賞。『颶風の王』で2014年に三浦綾子文学賞、2016年にJRA賞馬事文化賞を受賞。2019年『肉弾』で大藪春彦賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • よかった。ふるさとに帰省したような気持ちになれた。凍てつきはすれど春を伝えようと意気込んだあの風を感じた。私の実家そばの野幌、江別が出てくる。煉瓦工場があったとは知らなんだ。土と格闘しそして土に多大なる恩恵を受けてきた人々が家族のように愛おしくなる。単行本を、北海道の母に送った。

    短編集。
    一編一編、感想を書きたい。
    再読しながら書いていこう。

  • 河﨑秋子『土に贖う』集英社文庫。

    第39回新田次郎文学賞受賞作。北海道を舞台にした7編の短編を収録。

    いずれも自然を相手に北の大地で必死に働きながらも、時代の波には逆らえずに敗者となった人びとの物語だ。いつも陽が当たる勝者に対して、敗者はいつも日陰の存在というのが世の常である。この短編集の中で、そんな敗者にも陽の光を当てようとする著者の思惑は見事に昇華されている。

    やはり、河﨑秋子はただ者ではない。

    『蛹の家』。明治時代の札幌で養蚕を営む一家が夢破れる過程を描いた物語。養蚕に精を出す父親の姿を見詰めながら育つ少女が少しずつ知る厳しい社会の現実。一つの産業が根付きながら、廃れ去る過程というのは極めて残酷なものだ。★★★★★

    『頸、冷える』。戦後、北海道で毛皮を目的にミンクを育てていた男が挫折した理由は一体何だったのか。冒頭で郷里に戻る男が描かれるが、その正体が判明する終盤に全てが明らかになり、愕然とせざるを得ない。★★★★★

    『翠に蔓延る』。昭和初期の北見で盛んだったハッカ栽培は後進国の台頭により次第に衰退していく。ハッカ栽培を手掛けていたリツ子の夫は出征し、帰らぬ人となる。それでもリツ子は息子とハッカ栽培を守ろうとするが、時代の波には逆らえない。★★★★

    『南北海鳥異聞』。殺生の果てに地獄を見た男が堕ちていく果ては……羽毛を目当てにアホウドリを捕る男。アホウドリを撲殺するうちにそれが愉悦に変わる。流れ、流れて、北海道に渡った男は白鳥を捕ろうとするが。これまでの短編とは毛色が異なる。★★★★★

    『うまねむる』。古く遠い記憶に思いを馳せる。昭和35年、江別市で蹄鉄屋を営む父を持つ雄一は、小学校の畑を馬によって耕される様子を見ていると、馬が足の骨を折り、倒れる様を目の当たりにする。時代は変わり、車社会の現代。★★★★

    『土に贖う』。昭和26年、最年少のレンガ工場の頭目である佐川が担当している組員の一人が急死した。需要が増え、人手に頼らざるを得なかった工場の仕事に無理があったのか。★★★★★

    『温む骨』。『土に贖う』の続編。時代は現代となり、レンガ工場で働く父親を持つ息子の話。息子は趣味の陶芸を仕事にするが、父親の焼くレンガから自分の未熟さを知る。★★★★★

    本体価格680円
    ★★★★★

  • 河﨑秋子 集英社文庫北海道に入植したご先祖さまはどんな思いでこの地に辿り着いたのか。開拓民は東北の農家の次男三男が多いというのは嘘かほんとかはわからないけれど。何某かの期待はあっただろう。自然だけはべらぼうにあり、可能性だけは無限に広がるのが北海道という土地なのかもしれない。養蚕、レンガ工場、ハッカ栽培…。当たれば大きいが、しくじれば命すら奪い取られる地。華やかな時代もあっただろうがこの本に収められている短編の主人公たちは皆、辛抱強く、たくましく、でも、どこかしなやかで、したたかだ。解説にあった「生命の秤」が腑に落ちる。

  • 北海道が舞台であり、親近感増す。
    自分の幼少期の情景が浮かぶ。
    力強い筆致、心地よい。

  • 北海道の歩んで来た産業史とその産業に関わってきた人々の生活を感じる短編集。
    お蚕さんに、ハッカ、煉瓦、そして馬。ミンクの育成とアホウドリの話は衝撃を受けつつ、そんなこともあったのだろうなと、小説なのだけれどノンフィクションを読んでいるような感覚にもなる作品たちです。
    本を読むことにのめり込めます。

  • 北海道 昔の暮らし 死生観 土

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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。最新刊『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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