かたづの! (集英社文庫)

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著者 : 中島京子
  • 集英社 (2017年6月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (489ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087455939

かたづの! (集英社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代にたった一人、奥州南部藩に実在した女大名の祢々(後に清心尼)を主人公にした歴史時代小説。
    祢々は八戸南部氏の当主・直政の妻となるが、夫や幼い嫡男が不審な死をとげる。
    これはかねてより八戸を狙っていた叔父の仕掛けた陰謀だと確信した祢々は城を継ぎ、女亭主となった。
    その後も叔父の策略によって次々に襲いかかる難事に翻弄される祢々の長い闘いが始まった―。

    中島さん初の時代小説。
    実在した女大名を描いた物語ということで面白そうだなと思って手に取りましたが、読んでみてびっくり。
    なんと語り手は祢々のそばに寄り添うカモシカで、死んで角だけになっても「片角(かたづの)」として彼女を助けるという存在。
    遊び心が効きすぎたぶっとんだファンタジー要素におののきながらも、読み進めていくうちにすぐ夢中になりました。

    多くの困難に直面しながらも祢々は領土と領民を守るため、悩み苦しみ、時に毒づきながら、たくみな手腕で難事を乗り切っていきます。

    「戦でいちばん重要なのは、戦をやらないこと」
    「戦いが起きてしまったら勝つのではなく負けぬことであり、なるべく傷が浅いうちにやめること」

    領土と領民を守るために語られる彼女のこの信条は現代でも実現が難しいものであり、子どもを産むことができる女性ならではの考えだと思いました。
    藩内の争いが激化して一触即発の危機を迎え、血の気が多い武士たちは争いを起こすことですぐに死に向かおうとします。
    「何でもいいから思う存分叩きたい」「戦いで死ぬのは本望 。自分が討たれることで新しい筋道が立つのであれば、それを大義として死んでもいい」などという男性ならではの荒い理屈には辟易しましたが、それは領土問題や差別問題に揺れる現代日本の姿そのもので、考えさせられました。

    彼女に降りかかる艱難辛苦は過酷すぎて、読んでいてつらくなってきますが、河童や大蛇などの伝奇的なエピソードが随所にはさみこまれているので軽妙でユーモアあふれる筆致になっています。
    史実や伝説を交錯させて、不可思議な世界で遊ばせてくれるので飽きません。

    また、彼女の一生は男たちに翻弄されるものでしたが、耐えて忍んで…という印象ではなく、さっぱりとした、感情的にならない少年のような気質が気持ちいいんですよね。
    読んでいて、友達になりたいくらい笑。

    「片角」が最終的に辿り着いた世界で見つけたものは――読み手もまた最後に不思議な伝承あふれるみちのくに誘われ、深い余韻に浸ることができます。

  • 南部に実在した女性大名・祢々を描いた作品。
    正確には領地を幕府から与えられたわけでは無いので大名ではありません。幕府から認められているのは対抗する祢々の八戸南部家はその分家で、藩内の城持ちの(非正式な)支藩です。
    史実に沿って描かれる時代小説ですが、語り手が一本角のカモシカの霊だったり河童がちょろちょろ現れたり、伝奇要素がかなり混ざっています。
    中島さんの特徴は不思議なユーモア感です。まっとうに南部の藩内抗争を描くと、そういったユーモア感が出しにくいがために伝奇要素を取り入れたのではないかと思います。
    しかし、なんとなく中途半端な気もします。思い切って真正面から描くか、妖怪変化の類を使わず祢々の近くに面白い人物を置いてその人の視点で描くとかしたほうが良かった良かったような気がします。

  • ときは江戸時代、徳川家康が天下統一を成し遂げようとする頃から2代目将軍秀忠の頃、ところは現在の青森、八戸辺りから岩手の遠野周辺を仕切っていた南部藩所縁の年代記。しかし、このお話は一風変わっています。語り手は羚羊(カモシカ)それも一本の角しか持たない鹿の角が死後も「南部の秘宝」と呼ばれて意思を持ち語りだすのです。
    かたづのが出会いを語るその人は、後に女性ながら八戸の南部氏の第二十一代当主になった祢々(ねね)。まだ15歳でしたが、第二十代当主となった直政氏のご内儀となっていたのでした。祢々の波乱万丈とも表現されるその後の人生を、かたづのは当に直に側で見聞きして語ることになります。時には人の中に入って降臨し、南部に伝わる小正月の行事の「叱り角」として登場します。祢々は夫や子どもを政略の果てに殺され、叔父の政略を逃れるために尼になり、戦で大切なことはやらないこと、と無駄な血を流さないことを信条に女大名として藩を導いていきます。
    遠野の民話で有名な河童の挿話があり、ペリカンや蛇が化身として登場するのも、殺伐とした争いの世の中を描きながら、ほのぼのとした味を醸しだしています。

  • 戦国の世の末期、主人公は知恵と工夫で領民を守り、ひたすら生き延びる策をさがす。いつ戦争が起きてもおかしくない日本の状況と重なる。
    困難に耐える力、帚木蓬生氏のいう「ネガティブ ケイパビリティ」が思い浮かんだ。両者とも戦争を回避する方法を教えてくれている。

  • 祢々と羚羊の出会いから始まる。祢々は不思議な魅力に溢れる女性で羚羊はじめ、河童、猿など生きとし生けるものから愛され、加護を受ける。祢々は何事にも冷静で、ずっと先を見て判断を下す。(時々、毒も吐くが)そして人間だから動物だからなど差別せず、心と眼差しを傾ける。夫、息子、娘、最後には故郷を捨てざるを得ず、幸福とは言い難い人生だったかもしれないが祢々は知っていた。味方がたくさんいることを。だからこそ波乱に満ちた人生を生き抜くことができた。羚羊、河童の祢々への敬愛が微笑ましく、そして素晴らしいのが本書の魅力。

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かたづの! (集英社文庫)の作品紹介

柴田錬三郎賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、河合隼雄物語賞の3冠を受賞し、王様のブランチブックアワード2014の大賞にもなった話題作の文庫化。実在した南部八戸の女大名の一代記。(解説/池上冬樹)

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