楊令伝 5 猩紅の章 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467475

作品紹介・あらすじ

推戴した帝が暗殺され、聞煥章の燕建国の野望は半ばにして潰えた。燕軍は瓦解し、北の戦線は終熄する。梁山泊軍は、楊令の作戦によって河水沿いの地域を一気に制圧した。一方、江南では宋軍による方臘信徒の殺戮が凄惨を極めている。しかし度人の声はなお熄まず、呉用は決死の覚悟で勝利のための秘策を練る。方臘自らが前線に立ち、ついに童貫軍との最後の決戦が始まった。楊令伝、狂瀾の第五巻。

感想・レビュー・書評

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  • 「方臘殿に、お伺いしたい」
    燕青は、階を見あげて言った。
    「この乱で、血が流れすぎた、とは思われませんか?」
    「燕青、叛乱では、血は流れないのか?」
    「多すぎたのではないか、と申し上げております」
    「ひとりの血も、百人の血も、同じだ。一万であろうと、百万であろうと、俺の信徒どもは、死ぬほうが幸福だと信じたのだ。大地は血と同時に、信徒の喜悦も吸った」
    「わかりません」
    「わかる必要はない。俺は叛乱を起こして、面白かった。生きて生きて、生ききった、といま思える。教祖だけやっていては、そんな思いは得られなかったと思う」
    「流れた血が多すぎました」
    「どれほど多かったのだ。半分だったら、それでよかったのか?」
    「いえ」
    「血は流れるものだ。生きていれば、血は権力に吸われる。その権力に刃向かって流した血ならば、吸われる血よりましだっただろう、と俺は思う」
    「言い訳に聞こえます、方臘殿」
    「燕青、言い訳をしているのは、おまえだ。梁山泊は、これから宋と闘うのだろう。その時に流れる血の言い訳を、いまからしているのではないか」
    一瞬、そうかもしれないと燕青は思った。志のために流す血、と言える。しかし、方臘は笑い飛ばすだろう。
    「流れる血に意味はない。血は、ただ流れるだけだ。それが、連綿と続いた、人の世というものだ」
    方臘は再び背を向け、階を上っていった。

    方臘対童貫の戦に決着がついた。方臘側の犠牲、70万。ほとんどが信徒で、抵抗もなく死んでいった。燕青は、この小説では珍しく、何度も何度も繰り返し方臘に詰め寄った。ここでの問答は、この巻だけの問題ではなく、所謂「革命」の何たるかを問う永遠のテーマだからだろう。もちろん、ここでは結論は出ない。

    この巻で楊令は一挙に「水滸伝」以上の革命拠点を占領してしまう。しかし、それでは終らない。これから、「革命」が始まる。

  • 期せずして宋の北と南で同時に起こった新興国の勃発。
    制圧するために国の軍を2つに分け、北と南で戦が始まる。

    北部は、童貫の右腕である趙安(ちょうあん)が率いる宋軍が燕国を制圧するために闘っていた。
    そのすぐそばで、宋の領土を制圧し、梁山泊軍はじわじわと領土を広げていく。
    燕の皇帝耶律淳(やりつじゅん)が暗殺され、宋が勝利したと同じころ南では。

    童貫の動きを読みに読んだ呉用が、必勝のための作戦を立てるが、ここにきて方臘の部下たちの反対に会い、力で押し切られてしまう。
    そのため絶好の機会を失った方臘軍は、一気に童貫軍に責め立てられる。

    このあたりから徐々に方臘軍に余裕がなくなってくる。
    童貫たちも心身ともに消耗していて余裕はないのだが、そういう時に崩れない強さを持っている。
    このまま方臘たちと運命を共にしたいと願う呉用だが、「ここまで」と、武松や燕青が迎えに来る。

    今巻は、いよいよ童貫と梁山泊が対峙するため、懸案事項を整理しましたの巻。
    皇帝をめぐる取りまきたちの暗闘や、李富と青蓮寺や聞煥章との関係が変わりつつあることなど、まだまだ気になることはあるけれど、いよいよ次からは童貫対梁山泊になっていくのかな。

    あ、一番気になるのは、最後に出てきた「誘拐されて聞煥章に買われた扈三娘の息子たち」
    もう絶対幸せになれない気がする。
    いろんな男の人生を狂わせるなあ、扈三娘。

  • 呉用は方蠟の側にいて、随分人が変わったなと思う。
    戦は生き物だという事、現場の事は机上では理解しきれないという事。
    やっとそれが分かったのだろうか…

    方蠟は、妙なカリスマ性がありますね。これが宗教の力なのか?
    地を埋め尽くす信徒達、呟きからやがては地鳴りにかわる「度人」。
    仲間の死肉を喰らいひたすら前へ進む度人は、不気味としか言いようがない。
    どこまでも冷静に、そして冷酷に対応する童貫は尊敬に値する!

    ところでギョッとしたのは毒蛇。た、食べるんだ…

  • 童貫対方臘戦、終結。
    5巻にして感情持っていかれる、いい戦だった。
    方臘の肝が座ったキャラクターが好き。

    最後かなり気になる終わり方したな。ぞくぞく。

  • 著者:北方謙三(1947-、唐津市、小説家)

  • 水滸伝に引き続き、一気読み。
    単なる国をかけた闘争を描くだけでなく、『志』という不確かなものに戸惑いつつも、前進する男たちの生きざまが面白い。壮大なストーリー展開の中で、たくさんの登場人物が出てくるが、それぞれが個性的で魅力的。よくもまー、これだけの人間それぞれにキャラを立たせられな。そして、そんな魅力的で思い入れもあるキャラが、次から次へと惜しげもなく死んでいくのが、なんとも切ない。最後の幕切れは、ウワーーっとなったし、物流による国の支配がどうなるのか気になってしょうがない。次の岳飛伝も読まないことには気が済まない。まんまと北方ワールドにどっぷりはまっちまいました。

  • 童貫率いる禁軍と方朧軍との最終決戦が濃密に描かれた前半の山場と言える第五巻。
    信徒の波を蹂躙していく童貫。その手足となり戦場を駆ける岳飛。決死の覚悟で智略を尽くす呉用。戦局は地獄の殺戮戦から精鋭部隊同士の手に汗握るぶつかり合いへ。
    これまでシリーズ通して憎まれ役・堅物だった呉用をここまで感情豊かに表現した北方氏の筆力は凄まじい。方朧という希代のカリスマに魅せられ、導かれるように変化していく姿が実に生き生きと描かれている。
    今後、梁山泊に戻った呉用がどうなっていくのかにも注目していきたい。

  • ●1回目 2008.6.20

    水滸伝・楊令伝シリーズ登場するたくさんの人物の中でも、この方臘という人物はひときわ魅力的だ。おなじ反乱軍の頭領といっても、梁山泊の宋江とは比較にならない存在感を放っている。濃厚で怪物的。

    蒼天航路の董卓にオウム真理教の麻原彰晃が加えた感じといえば、その怪異さが伝わるだろうか。梁山泊一の理論派である呉用がその魅力に飲み込まれていくというのも面白い。
    作者の北方謙三は、よくもまあこんな人物を創造したものだ。

    その方臘が率いる宗教軍団と宋の最精鋭軍を率いる童貫将軍との殺戮戦を描いた巻。


    ●2回目 2015.1.31

    童貫 対 方臘・呉用の戦いについに決着。
    北と南の動乱の間にぬって着々と力を蓄える梁山泊。
    宋の衰亡ぶりが明らかになってきた。

    聞煥章の企みによる衝撃の展開は次巻に。

  • 方臘の乱終結!

    最初は嫌な集団でしたが本巻では見直すどころか、格好良いと思える奴までいました!

    ポイントンは
    1.童貫を打てるのか!?(打てない場合は何処まで禁軍を削れるか?)
    2.呉用は帰ってこれるのか?

    本巻で結論は出ます。


    そして北のほうでも小さくない動きがあります。


    中央政府では新たなメンバーが参入し、李富とあの人の間も怪しいものになって来ました。


    そしてラストの話が梁山泊に翳りを見せます。

    次巻が楽しみです。

  • 方臘の乱、決着。
    それにしても信者をああいう風にして戦をするとは。宗教って何だろうね?
    いよいよ、宋と梁山泊との本格的な戦いが始まるのか。
    話はどんどん盛り上がってくる…。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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