ねじの回転 上 FEBRUARY MOMENT (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478891

感想・レビュー・書評

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  • 二・二六事件、昭和11年2月26日からの四日間、陸軍青年将校が下士官を率いて起こした日本のクーデター未遂事件。この事件をきっかけに軍部が力を得て第二次世界大戦へと繋がっていくとされる歴史の分岐点。この作品ではその史実を取り上げていますが、単純な歴史ものではありません。

    『「あなたは過去に行けますよ」と言われたら、人はどんな行動をとるだろう?全人類で一つだけ、過去が修正できると言われたら?人はいったいどの過去を修正しようと考えるだろうか?君だけが過去に行けるし、修正できる箇所はたった一つだけと言われたらどうするか。』、これは恩田さんが描くSF長編小説!恩田さんのSFが読める!という喜び。

    でもそれだけも終わらないのが恩田さん。『キティ、キティ? やだ、どこに行ったのかしら。』『噂には聞いていたが、これが「シンデレラの足」か。随分太い足だな』真面目な史実を舞台にSFが展開し、そこに恩田さんらしいはちゃめちゃな世界感が乗っかる世界感。これぞ恩田ワールド!が展開します。

    恩田さんの上下巻ものでは、上巻でストーリーを理解しようとしてはいけません。『決起から収束までの四日間を、忠実に再現しなければ、俺はいつまでも成仏できないのだという。自分が結末を知っている運命をなぞることが、こんなにも苦しいこととは思いもよらなかった。』、史実にも登場する栗原中尉が語ります。時間遡行技術により過去に戻り過去をやり直せる機会を経た、史実では銃殺刑になったはずの人物がとる行動の意味。歴史が微妙に変わっていく瞬間、第二次世界大戦を経て現在の日本に繋がるその後の分岐点にいた人たちが死んでいく、歴史が繋がらない…これはこの時代の歴史をよく知っている人ほど、ぞくぞくするような展開なのではないでしょうか。

    『神は人間に好奇心という起爆剤を与えたんだ。人間が得た最大のギフトは知能じゃない、好奇心だ。』歴史を作っていくのは好奇心。もの凄い破壊力を持った人類の叡智。こうして歴史は変わっていく。

    一方で恩田さんは国連から派遣されてきたジョンの言葉を通して、この事件をこのように語ります。『確かに、これは日本的な事件だな。責任の範囲と所在の曖昧さ、コミュニケーションよりも隠蔽を「和」と呼んで尊ぶ欺瞞。非常に日本らしい。 』強烈な皮肉、今も引き継がれる日本らしさ。『和』。こういう視点から恩田さんが書くセリフはとても珍しくて新鮮です。

    『正規残存時間、シンデレラの靴、HIDS(歴史性免疫不全症候群)、ピリオド、懐中連絡機、王子の手』、例によってよくわからない名詞が続々登場します。でも、よくわからないからこそ知りたいと思う。よくわからないからこそ知りたいと願う。よくわからないからこそ次に進もうと思う。ということで下巻もとても楽しみです。

    でも、自分にはその前にやることがある…。

    二・二六事件、この作品では、基本、史実を投影しているはずなのに、学校で習ったはずなのに、超有名な事件なのに、登場人物を誰も知らないという情けなさ。学んだものを学校に置き忘れてきたことに気づく反省の読書。

    知らなくても十分楽しめるのはわかっていますが、反省の意味を込めて、下巻を読む前にこの事件について少し知識を得て来たいと思います。

  • 過去に遡って歴史を確認、修復していく国連の担当官がやってきたのは二・二六事件の直前。
    史実とSFの要素が絡まったストーリーで、初めは何が起きているのかよくわからなかったが、いつの間にか、どう展開していくのか先を気にしながら読んでいた。
    恩田陸の想像力はスゴい。

  • 「二・二六事件」に題材をとった歴史改変SFだ。宮部みゆきも「蒲生邸事件」で同じく二・二六事件を舞台にしていて、かぶるのかなあとちょっと不安になったが、いやいやこれは恩田陸独特の世界観があって、読みごたえがあった。むしろこちらの方が断然面白い。未来からやってきた国連の人間たちが、実際の事件をもう一度なぞっていくはずなのに、誤差がいろいろと出てきて、おいおいこれで大丈夫なのか、歴史がぐちゃぐちゃになるぞと読者を不安がらせるところも上手い。先を読みたくて、すぐに下を読むこと請け合い。

  • 舞台は二・二六事件
    史実に詳しくないから最初は入りづらかったけど、
    歴史を知らなくてもまったく問題なし
    未来のために過去をなぞって修復する
    正しい場合は「確定」、違う場合は「不一致」になりやり直していくはずが徐々に不一致が不一致でなくなり…

    当時の電話を盗聴していて、オヅとクロサワ映画好きのアリスが感慨深くなるのに共感
    たしかに当時の会話は現代よりも優雅で美しいんだろうなあ

  •  ほんと恩田陸は才能あるな。何書いてもうまい。これはタイムトラベルもののSFなのだが、二・二六事件の当事者たちが生き生きと描かれていて歴史小説かと錯覚してしまう。これを読んで二・二六事件の本を読みたくなったという書評があったがまったく同感。未来の国連が過去の史実と事実との乖離による不具合を是正するために、ターニングポイントとなる事件の主要人物数人の協力を得て過去の大事件を再現し、史実に基づく再確定をやり直すという設定。時空バリアを何重にも張ることにより、繰り返される時間の中の予期せぬ事象をうまく説明し、物語としての整合性をとってあるところなどさすがにうまい。二・二六事件でクーデターに成功しつつありながら、一転逆賊とされて処刑された青年将校たちは、国連から受けた使命の重要性を認識しながら、一方ではクーデターが成功していたら日本の未来は変わっていたのではとの誘惑に駆られる。国連側にしても密かに太平洋戦争の結末を修正しようという目論見もあり、それを阻止するために体を張って歴史の渦に飛び込む若者もいる。しかし、仮に一人の東条英機を暗殺したとして、はたして歴史は大きく変わっただろうか。結局大きな流れは止められないのではという気がする。

  • 数年前に手放してしまったが、面白かったという思いが強く残っていたので再読。開始30ページで心を掴まれた。なんて面白い作品!
    恩田陸の気味の悪いミステリーがとても好きだが、これはまた格別。自分がシンデレラの靴に選ばれたなら、栗原のように動かないと言えるだろうか?
    早く下巻が読みたい。

  • 時間を遡ることが出来るようになった世界で、過去に戻った人が重要人物を暗殺した事でとんでもない未来になってしまったことから、国連は歴史を再生して再確定する計画を始めた。(明言されてないけどホロコースト云々なので暗殺されたのヒトラーなんじゃないかと思っている)
    日本がやり直すのは「二・二六事件」。その時代の人物で、やり直している歴史だと知っているのは3人。でも、細かい部分で史実との差異が表れ、死ぬはずではなかった人物が殺されたりしても「不一致」とはならないことで、「正しい歴史など存在するのか?」「これは“新しい世界”なのでは?」と思い始めた彼らは、日本が辿る悲惨な歴史を変えられるのでは…という思いに駆られていく。3人のこの意識の変化の流れがわかりやすいし理解できるのもどこか悲しくなります。歴史好きならこう思うのは一度や二度ではないので。

    かなり面白いです。歴史改変SF。「歴史は自己を修復する」やバランスを取るという説はよく耳にしますし(「戦国自衛隊」も「百年法」も既読)、この作品も悲惨な戦争の歴史は改変したもののHIDSという激しい新陳代謝で短時間で老化し死に至る病気が蔓延して未来の世界は滅びかけています。
    大勢が合ってたら細かい部分の相違は問題ない…というのも本当はそうでなく、、、相違も実は大変な違いだったのでこれから先の歴史の大勢と合わなくなってしまうのはどうするのか。
    この時代でもHIDS罹患者が、という不穏なラストも良いです。歴史ハッカーは何者だ。ハラハラと下巻へ。

  • 最初はどういうことか良くわからないまま読んでたけど、どんどん世界に引き摺り込まれていく。
    ちょいちょい出てくる少年が何者なのか。
    誰がハッキングしてるんか。
    歴史は変わってしまうのか。
    下巻が楽しみ過ぎる。

  • バランス、それこそが神の摂理だ。
    世界は常に均衡していなければならない。例外や過剰は許されないのだ。
    神の摂理は、不自然なもの、いびつなものを見逃さず、均一であるのも許されない。

    一つ印象に残っているのは、陛下が残した手記の中で、日本国民のことを「徒に付和雷同する」と評していたことだ。そうなのだ、決して戦争は軍だけが行うのではない。殺せ、奪え、あの陣地を取ってこいと銃後で囃し立てたのは国民なのである。目の前に提示された情報を吟味することなく、すぐに浮き足立って他人の尻馬に乗り、その場の雰囲気に酔うのは日本国民特性である。

    なぜかは知らないけど、神は人間に好奇心という起爆剤を与えたんだ。人間が得た最大のギフトは知能じゃない、好奇心だ。

    2.26事件を史実通りやり直そうという話。
    ほっとけば同じように展開する、というようなことを言っていたのが印象的。下巻の展開が気になる。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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