生きぬくことは冒険だよ (集英社文庫)

著者 :
制作 : 長谷川 昌美  小田 豊二 
  • 集英社
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本棚登録 : 39
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087487596

感想・レビュー・書評

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  • 長谷川恒男さんご本人の思考や思想が十分に伝わる一冊でした。
    アルピニストの強さと弱さ、その2つが往き来しながら心情を表現されており、山男のリアルが伝わってきます。
    特にナンガパルバットでの交信記録は繊細さと荒々しさ、ある意味情緒不安定な様子は山の先輩を思い出し、やっぱり山男は共通でこうなんだと納得する自分がいました。
    長谷川恒男さんの考え方は共感出来るところや教訓にしたいところが非常に多いです。
    私も一人の山の人間として、自然を楽しみ味わいたいと思いました。
    アルプス三大北壁登攀については敢えて淡泊に書かれており、細かな様子が知りたい場合は別の書籍に譲っている感じです。

  • マッターホルン、アイガー、グランドジョラスの三大北壁の冬期初単独登攣を成し遂げながら、ヒマラヤ・ウルタルⅡ峰で遭難死した世界的アルピニスト「長谷川恒男」の軌跡を辿る山岳ノンフィクション作品『生きぬくことは冒険だよ』を読みました。

    「山際淳司」の山岳ノンフィクション作品『みんな山が大好きだった』を読んで、「長谷川恒男」のことが気になり、読んでみたくなった作品です。

    -----story-------------
    マッターホルン、アイガー、グランドジョラスの三大北壁冬季単独登攀をなし遂げた男「長谷川恒男」。
    寒さ、恐怖、そして孤独を乗り越えた時、彼は生の、より深い、より輝いた世界を見いだしたのだった。
    “挑戦”の登山家が「思考を越えた意識」によって山に誘われ、自然と一体化した無我の登山に至る心の軌跡を綴る。
    1991年10月、ウルタルII峰で雪崩に逝ったアルピニストの熱きラスト・メッセージ。
    (解説「夢枕 獏」)
    -----------------------

    「長谷川恒男」が遺した未発表の原稿に、ナンガパルパット単独登攀の際のトランシーバー交信の記録や講演録、インタビューなどを加えて「長谷川恒男」が亡くなった翌年の1992年(平成4年)に発表された作品です。

     ■三大北壁への道
      ・序章 なぜ、山に登るのか
      ・第一章 マッターホルンへの道
      ・第二章 マッターホルンからアイガーへ
      ・第三章 グランドジョラス
     ■交信記録 ナンガパルバット単独登攀
     ■講演録 自然と人と―私の山登り
     ■インタビュー(抄)
     ■クライマーは神になった 小田豊二
     ■「カミサン、行ってくるね」 長谷川昌美
     ■文庫のためのあとがき 《シャングリ・ラ》で伝説と化した男 長谷川昌美
     ■長谷川恒男年譜
     ■解説 岩壁の表現者(ダンサー) 夢枕獏

    「長谷川恒男」は、6年前に読んだ「夢枕獏」の長篇山岳小説『神々の山嶺』に登場する主人公「羽生丈二」のライバル「長谷常男」のモデルにもなっている人物… 『神々の山嶺』は大好きな作品なので感慨深いものがありました、、、

    そして、「長谷川恒男」の率直な心情が隠すことなく描かれていて、意外な内面を知ることができました… 登山に取りかかる前の倦怠感や恐怖、登攀中の逡巡や臆病さ等、心の弱さが飾り気のない素直な言葉で表現されており、文章としては物足りなさを感じつつも、そのことが逆に人間としての魅力を感じさせる作品でしたね。

    印象に残ったのは「長谷川恒男」が登山を人間と自然の接点として考えていたこと、

    「山登りとは、自然との接点をもつ、ひとつの素晴らしい方法だと考えている。
     ついこのあいだまでは、自然というのは人間にとって身近な存在だった。
     私たちは自然のなかに溶けこんで生活していた。
     寒波がくれば、あるいは日照りが続けば、すぐ御飯が食べられなくなる……。
     いつも自然に左右されてきたのが人間ではないか。
     人間は本来、自然のなかでしか生きられない。

     山に登り続けているうちに、こういうことを考えはじめていた。
     登山は、自然とのよりよい関係を求める方法だ。
     山には、とても快い、優しい自然がある。
     花を楽しみ、新鮮な空気を胸いっぱい吸いこむことができるのがそれだ。
     一方、寒くて、困難で辛い、どうしようもない自然がある。

     厳寒期に岩の壁を登るのは、自然のなかの最も厳しい面を見せつけられるものだろう。
     しかし、優しい自然と厳しい自然の両面がなければ、自然は自然とはいえない。
     人生においても、この二つの面、快く楽しい面と厳しく辛い面を体験していないと、自然な人間ではないと思えてくる。
     片方だけしか見せない自然は不自然だ。

       ~中略~

     私は自然から得た糧をどこで生かすのか。
     それを自然のなかにまた還元することが必要なのではないか。
     では、還元するにはどうしたらいいのか。

     山に登ること、そのものが、大自然に、山に、還元することだと気がついた。

     自然から受けた恩恵は、自然に返さなければいけない。
     それが人間の使命だ。
     金銭においても、精神においても、自分が得たものは必ず還元しなくてはならない。
     
     山で生きている人間は山へ、自然のなかで生きている人間は自然へ。」

    山村で育った子どもの頃は、自然に近い環境で生活しており、自然から得た糧は自然に返していたと思うんですが、今は何も還元できていないですねぇ… 今でも何かできることがあるかな、考えさせられましたね。

  •  
    ── 長谷川 恒男/長谷川 昌美・編《生きぬくことは冒険だよ 1992‥‥ 集英社 19980320 集英社文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4087487598
     
     星野 清隆     登山 19‥‥‥     Pakistan 19911010 4. /ウルタルII峰で雪崩遭難
     Hasegawa, Tsuneo 登山 19471208 神奈川 Pakistan 19911010 43 /雪崩遭難
    ♀Hasegawa, Masami    19‥‥‥ ‥‥             /恒男の未亡人
     
    …… ハセガワメモリアルスクール(長谷川記念学校)を1997年に開校。
    https://mama-sketch.com/hasegawa-school/
     
    https://www2.nhk.or.jp/archives/jinbutsu/detail.cgi?das_id=D0009250357_00000
    …… 登山においては世界的に冬至から春分までを冬季とみなす。
    ── 《山と渓谷 201203‥ 201402‥》
     
    (20220706)

  • アルプス三大北壁冬季単独登攀時の精神状態がリアルに綴られていて面白かった。最高の技術をもった人が、いい意味でも悪い意味でも極限の状態で登っていたんだなぁと、あらためてすごい偉業だと思った。

  • 世界一周中に奇跡的に出会った素晴らしい一冊

  • 長谷川恒男の冬期三大北壁登攀日誌に講演録やウルタルII峰での無線通信録をまとめた一冊。

    奥さんのあとがき、文庫版あとがき、夢枕獏の解説まで全てが良いです。
    惜しい人を短命で亡くしてしまった。
    彼が生きていればいまの山ブームも違ったものになっていたのでは。
    よく見ると私の父と同じ歳でした。

  • マッターホルン、アイガー、グランドジョラスの三大北壁冬季単独登攀をした長谷川恒男さんの本。 彼がパキスタンで雪崩にあって亡くなってから15年がたつ。 彼は、山に「登る」のではなく山に「とりつく」という表現を使う。 巨大な氷の垂直な壁を、まるで虫がとりつくように、登っていくのだ。 行きたくない、怖いと思いながらも、研ぎ澄まされたような感覚で、取り付かれたように山に向かっていく。 氷を削って、寝る場所をつくり、氷の上でビバークする。寒さ、孤独、恐怖を乗り越え、自然と一体になった時に登頂することができる。 それは、まるで修行僧の心のありようにさえ似ている。この本の間に挟まれた写真、それは白黒の写真なんだけれどどれも美しい。山の高貴さ、尊厳、怖さが伝わってくるような写真だ。 しかし、植村直巳さん然り、長谷川恒男さん然り、そして、日本のみならず世界の登山家が数多く、山で遭難している。 自然の中では人間のなんとちっぽけなことか。いどんでも、いどんでものみ込んでしまうような大きさだ。

  • マッターホルン、アイガー、グランドジョラスの三大北壁冬季単独登攀をした長谷川恒男さんの本。

    彼がパキスタンで雪崩にあって亡くなってから15年がたつ。

    彼は、山に「登る」のではなく
    山に「とりつく」という表現を使う。

    巨大な氷の垂直な壁を、まるで虫がとりつくように、
    登っていくのだ。

    行きたくない、怖いと思いながらも、研ぎ澄まされたような感覚で、
    取り付かれたように山に向かっていく。

    氷を削って、寝る場所をつくり、氷の上でビバークする。
    寒さ、孤独、恐怖を乗り越え、
    自然と一体になった時に登頂することができる。

    それは、まるで修行僧の心のありようにさえ似ている。
    この本の間に挟まれた写真、それは白黒の写真なんだけれど
    どれも美しい。
    山の高貴さ、尊厳、怖さが伝わってくるような写真だ。

    しかし、植村直巳さん然り、長谷川恒男さん然り、
    そして、日本のみならず世界の登山家が
    数多く、山で遭難している。

    自然の中では人間のなんとちっぽけなことか。いどんでも、いどんでものみ込んでしまうような大きさだ。

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