青い麦 (集英社文庫)

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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087602012

感想・レビュー・書評

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  • 春の雨のような色《つるにちにち草の淡青色》の目の、ヴァンカという名の少女はほっそりした十五歳半。

    少年は十六歳半。避暑に来るたびにたくましさを増して成長するフィリップという。

    子供の頃からの仲良しなのに、なんだか気持ちがしっくりしない夏がやってきた。

    ふきげん、尊大な態度、言い合い。いらだたしい恋。

    そこへ美しい年上の女性、白衣の婦人、ダルレイ夫人が登場。少年は手ほどきを受けて…。

    通俗的、不純、絵に描いたような避暑地の出来事みたいなんだけれど、コレットの感性はゆたかで、みずみずしくうつくしい文章となる。

    わたしは堀口大学訳を18歳の時読み、忘れがたく思ったのだが、今回手塚伸一訳(集英社文庫)を再読した感想は、よりういういしさがいとしく、味わい深かく魅了された。

    なるほどコレットが分別盛りの50代に書いたのだから、そうなのだと思うし、また恋愛の情熱には年齢がないというテーマなのだから、コレットの筆力がすごいということ。

    少女のこころの大人っぽさと、少年のからだばかりは成長しても、不器用でぎこちないこころとのぶつかり合いの果てには何が…何処へ行くのか。せつない。

    やっぱり若い複雑なこころの「恋愛の妙」に惹かれてしまう、名作。

    でも、恋愛の本場フランスであってもスキャンダラスな作品との評が当時(1923年)あったのだそう。ふーうん。

  • ある年上の女性の出現によって、ふたりの少年少女の心は次第に引き裂かれながらも互いに求め合う。

    ブルターニュの自然とともに不思議なきらめきを放ちながら読者を引きこみます。

    すばらしい。

  • あともう少し、夏を感じていたくて手にとった青春小説。はやく自由に、はやく大人になりたくて、どこかへ駆け出したくてたまらないのに、行き場のない感情を抱えたまま、くすぶって、傷つけ合って。海に浮かぶ波のように揺れ動く早熟な恋心、瑞々しくて青かったです。

  • 大人を知ってしまった少年。どんどん歯車が狂っていく様を見ていると心に苦いものが残ります。好きです。

  • 15歳のヴァンカ、16歳半のフィル。毎年夏を家族とともに別荘ですごし、兄妹のように仲が良い二人。そんな二人の性の目覚め的なものを描いた作品。といってもフィルは魅力的な人妻に翻弄されてヴァンカを抱く前に体験してしまうんだけど。なんというかラストのフィルのがっかり感は勝手な奴め、と思うんですが。まぁこういうことは古今東西、本当に普遍的にことが運ぶんですなー。

  • 情景が綺麗、心理描写が上手い。
    終わり方はちょっと物足りない。

  • よか☆

  • コレット初読み。カポーティの『叶えられた祈り』に登場していて気になった作家だったので。子どもから大人へと移り変わっていく少年少女の心境、描写が素晴らしい。16〜17歳の微妙な年頃の少年少女をうまく描きだしてると思う。最後はなんか鳥肌がたった。フランス文学ってなんでこう美しいんだろう。景観のなせるわざなのかな。2011/421

  • まだ早いから苦いのだ


     ただでさえ、作者と作品を切り離して考えることは難しい。コレットは特に、スキャンダラスなエピソードがいくつも脳裏をよぎってしまう作家ですが……、一時的にでも著者略歴と分けて、『青い麦』という小説ただそれだけを、素直に受け取ってみたいもの★

     まずは、ブルターニュの海岸の、精微な風景描写のすばらしさ。風に混じる塩の匂いやその地に根づく植物の色彩、砂の感触などを、コレットの即物的な表現はなんといきいきと伝えてくれることでしょう☆ この舞台に立つ少年少女の日焼けた素肌感、伸びやかでまだ細い10代の手足も鮮やかに描き抜かれ、明快なイメージを送ってくるので読欲をさそわれます。

     微妙な年頃にさしかかっているフィルは、日ごとに女っぽさを増す幼馴染のヴァンカに見とれながらも、美しいマダムの家に忍んでっちゃいます。つまりは、本気の恋もよく知らないまま、浮気が先に立ってしまうのです★ ご婦人の登場はおフランスっぽい雰囲気で、フィルならずとも惹かれるでしょう。

     しかし、その体験は、マダムがくれたオレンジエードのように、乾きを癒すどころか彼を苦しめたのでした。
     フィルが味わった苦さは、大人が味わう過ちの味とはまた違っています。自分にどんな変化が起きているのかも分かっていない少年時代。本命のはずのヴァンカとの重なりも甘い思い出とはならず、最後にフィルは、塩水混じりのような苦さをこめて、夜をふりかえることに。
     小説の主題は性の目覚めにあるわけですが、まるでフィルやヴァンカの細い手足のようによく引きしまった文章は、禁欲的ですらあります。にやけた感じやだらしのないところが、少しも見当たらない。

     苦しそうな喪失感。フィルの経験は「した」というよりも「なくした」痛みが強いのでしょう。年上の女性には傷つけられて、年下の女の子のことは傷つけた。まだ早いから青くて苦い☆ そんな味がにじむ物語です。

  • 夏のブルタニーニュ地方の潮風を感じられる文章。フィルの思春期特有の他者への侮蔑の眼差しに時折苛々させられた。婦人の手によってフィルは「一人前の男」になったと一足先に大人になったつもりでいるけど、そんな事を思うくらいにはまだまだ子どもなのだと思う。その証拠にヴァンカは初体験が済んでも何も変わらず鼻歌さえ口ずさめる余裕がある。

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