- Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087603491
作品紹介・あらすじ
『ビラヴド』-忽然と現れた謎の若い女はそう名乗った。女の名は逃亡奴隷のセテが、自らの手で殺した娘の墓碑銘「ビラヴド(愛されし者)」と同じだった…。南北戦争前後の時代を背景に、黒人女性の半生を通して、黒人奴隷が自由の意味を知り、自由を獲得するためになめた辛酸を壮大なスケールで描いた愛と告白の物語です。本書は『ビラヴド愛されし者』の文庫化で、93年度ノーベル文学賞受賞作家の代表作。
感想・レビュー・書評
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書棚の大整理をしたら発見されたので読みました。登場人物たちから発せられ、立ちのぼり、ぐわんぐわんに響き渡る声に包まれるこの感覚は『苦界浄土』ぶりか。文体というか表現が独特で、ところどころ滝沢カレンさん風に感じられてしまったのだが、そこがかえって引っかかりとなって、当人だけにしか感じえない生身の何かに手を伸ばして触れているような味わいがもたらされた。あと、ひとりひとりに順にスポットが当たりつつ、圧巻の合唱で幕が下りるこの感じはミュージカルにも似ている。訳者あとがきにも「コーラス」「ハーモニー」という表現が使われていて納得。こういう内容の物語を「面白い」というのは憚れるようだが、ゴースト・ストーリーとしても面白かった!
以下、訳者あとがきで印象的だったこと
*「人から人へ伝える物語ではなかった」がまったく反対の主張「これは忘れてはならない物語だ」を含んでいる。(pass on)
*「同胞と共にあってこそ存在する『自身』という、黒人共同体の個と集団との関係は、西欧の個人主義とは異なった歴史の中から育ったものである」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000213053
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これは訳者が悪いのか私の察しが悪いのか、文章は読めるのですが、散文のようでまったく頭に入ってきませんでした。もうちょっと分かりやすくしてくれても良かったんじゃないかなぁ…。何度か「もうやめよう」と思ったんですがなんとか最後まで読み切りました。翻訳物は難しいなぁ。
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白人に我が子が『汚される』のを恐れるあまり、我が子を手にかけてしまった黒人女性セスを中心に、白人による黒人虐待を描いた物語。白人に『汚される』くらいなら、『死ぬ』ほうがずっとまし…セスとビラヴドとストーリーをはじめとして、登場する黒人たちの苦悩や悲しみが、ひしひしと伝わってきました。当たり前にある差別・偏見・暴力。人種差別が身近でない日本人であっても、心に残る場面が多い本でした。
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【概要・粗筋】
時代は奴隷制度廃止後のアメリカ北部。124番地の家に、娘のデンヴァーとかつて自分の手で殺した娘ブラブドの幽霊と共に暮らす逃亡奴隷・セテのもとに、かつて奴隷仲間であるポールDがふと訪れ、その幽霊を追い出す。三人で町にきたサーカスを見に行った帰りに、娘と同じなの名をもつ身元不明の女が突然現れる。逃亡奴隷・セテとその家族の悲劇的な姿を描く小説。
【感想】
マジックリアリズムあふれる小説で、かつ、その内容の重厚さに決して読みやすいとは云えないのだけれど、読み始めるとスラスラ読み進めてしまった。
奴隷制度があった時代で、黒人を主人公にした小説を始めて読んだので、奴隷制度の過酷さに圧倒された。第二部最後のスタンプとポールDの以下の会話が印象的だった。
「『教えてくれ、スタンプ』ポールDの目はショボショボしていた。『このことを教えてくれ。クロンボはどれだけ耐えなきゃならんのだ? 教えてくれどれだけだ?』『精一杯だ』スタンプは答えた。『できる限りだ』『なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ?』」
訳者あとがきに書かれているように、多くのテーマを含んでいる小説なので、一度だけではなく二度、三度読むに値する。 -
南北戦争前後の時代を舞台に、逃亡奴隷の女性セテとセテに関わる人々を描いた作品。
表題の「ビラヴド」すなわち「愛されし者」は、すでに失われてしまった存在でもある。
失われて、そして幾度も回帰してくる亡霊のような幾人もの「ビラヴド」に、読者もまた取り付かれてしまう。
圧倒的にすばらしい小説だった。 -
課題で読んだ本。
ノーベル文学賞を受賞したトニー・モリスンの代表作で、南北戦争時代の、黒人達の生き様を描く。
重々しい内容ではあるが、詩的な表現で割かし読みやすい。
伝えられない、しかし忘れてはいけない、そんなアメリカの、そして全人類の記憶の一冊。 -
重かった。疲れた。最近、読みやすいミステリーばかり読んでいたせいか、骨のある文学作品は脳にこたえた…。
明確に何が起きたのかがなかなか説明されない。抽象的な比喩表現の連続、行ったり来たりする場面と時代、延々と続く登場人物の思考。これがまた抽象的でサラッと読んだだけでは意味が分からない。最初は翻訳のせいかなぁと思ったけれど、そういう作品だった。
1800年代中ごろ、黒人奴隷制度で揺れる米国が舞台。人間が人間として扱われなかった時代。限界を超えた痛みを心に負った人間の苦しみが描かれる。黒人である作者が壮絶な同胞の歴史を血のインクで書き記したような重さ、においがあった。
二度、三度読み直し、分析を重ねるともっともっと作者の意図をくみ取れると思う。でも、しばらくは読めないなぁ。 -
読みこむと重苦しくなりますが、すごい密度をもった小説です。
幻想と苦しみ、悲劇、最後の解放と浄化が切なくて胸を打ちます。
読んで損はありません。