チャンセラー号の筏 (集英社文庫)

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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087605716

感想・レビュー・書評

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  • ヒーロー不在に妙に納得……。


     現実に起きた海難事件をモティーフに、極限状態に置かれた人間の姿を炙り出した難破漂流譚です★ 大西洋の真っ只中で出火し、航行不能に陥った商船チャンセラー号。筏を作って沈みゆく船から脱出するも、漂流の日々に苛まれ、心身ともに追い込まれていく一同の運命は……!?
     とある乗客の手記という形式をとったサバイバル作品です。何が起きたのかわからない混乱状態から始まるのも、引きこまれる雰囲気が。その後は、記録者である乗客が余裕をなくしたのか、はてまた記録調だからか、無駄な装飾のない文章で進み、おかげで快速で読めます。

     ところで、人間というのは、人間を演じているところがあるのだと思うのです。しかし、火災に見舞われる、乗っていた船が沈む等の大惨事に巻き込まれると、人間としての仮面をはぎ取られて、より本質的な部分が露わになったり、より動物的な反応が出たりする……★
     不謹慎だろうなとは思うものの、海難小説を読む際、そういった要素に関心を寄せています。その点に関心がなければ、大規模な事故事件を扱う小説は読まないかもしれません。

     さて実話をベースとする本作は、ジュール・ヴェルヌの他の冒険小説とは大きく異なる特徴を帯びています。その特徴とは、チャンセラー号の筏に、強力なリーダーシップや抜きんでた頭脳を発揮する天才が乗っていなかったことなのだ★ ヴェルヌ著作の大半は、賢く勇敢なカリスマがみんなを引っ張っていくワクワク探検隊の物語。ですが、本作でそこまで印象に残るキャラクターは、いなかったと言ってもいいほどです。
     このように娯楽色の薄い物語をどう捉えるかは、読者に委ねられるわけで。「なんだか盛り上がらないなぁ」という感想を持つ人もいるかもしれません。しかし、「現実にはそんなスーパーヒーローはいないよね★」と私は妙に腑に落ちたのでした。

     きっと、本当に大変な時には、ヒーローはいないのです。

  • 登場人物が多すぎず、かつ個性豊かで誰が誰か分からなくなる事がなくてとても読みやすかったです。どこまでも深い海の恐ろしさや飢え・乾きの苦しみ、極限状態で変わっていく感情の描写に引き込まれました。漂流という誰もが重苦しい気持ちになる状況下でもミス・ハーベイとアンドレがすっと風を通してくれるのも辛くなりすぎなくて良かったです。
    帆船の部位の名称がまとまっている画像などを用意しておくと読みやすいと思います。
    それから、ピエ、プスという馴染みのない単位が出てくるので、それも確認しておくと良いです

  • 20160704

  • 訳が良いのか古い小説とは思えない臨場感がある。終盤人肉食を阻止したアンドレがバカなことをした思ったくらい飢餓に共感していた。

  • 船の用語が今ひとつ分からなくて~マストとか言われても「どこ?」と言う状態で読んだのですが極限状態に陥った人間の様にぞっとした。

    遭難し、水も食料も尽きて漂流している筏の上での飢餓との闘い。
    『ひかりごけ』を思い出して読んだ。
    人も見方を変えれば食料になり得てしまうのですね、飢えの前では…。

  • 航海中の火災を原因に帆船から筏に乗り込み陸地を目指す物語。

    実際に1816年に遭難した『メデューサ号』の悲劇をヴェルヌが子供時代に聞いたことが、創作のきっかけになっているそうです。

    正直、途中までだらだらした感があったり、疑問に思うこともあったが(なぜ船長は航路を誤ったのか?など)、飢えや喉の渇きと闘う筏上の人物の描写には迫るものがありました。

    漂流そのものよりも、終盤の核心として武田 泰淳『ひかりごけ』のテーマと同じものが深く心に残りました。

  • これも、2009年に入って新装版になったもの。
    カバーイラストは「気球に乗って五週間」に引き続き、別天荒人さんによるもの。

    ヴェルヌの船好きが、大いに発揮されてる作品。生まれ育ったのは港町ですもんね。
    トップマスト、トゲルンマスト、帆桁…と名称が出てくるものの、さっぱり分からない…。
    「船の歴史事典」を本気で買いたくなった。ヴェルヌは勉強欲を書きたてる作家ですなー。

    続き→http://hihidx.blog115.fc2.com/blog-entry-367.html
    <あらすじ>
    1869年、乗組員、乗客23人を乗せたチャンセラー号はアメリカを出発した。
    しかし、積んでいた積荷に火災が発生。少ない空気で徐々にだが確実に火事は進行していく。
    人々はギリギリまで乗船していたが、ついには筏を作り、船を捨てたのだった!

    風のきまぐれに任せ、漂流する筏。刻一刻となくなる、水と食料。
    「われわれの置かれているような状況にある遭難者について常に言われていることだが、
     それは本当だった。人は飢えよりも渇きに苦しむのだ。そしてまた、渇きによる死のほうが早いのだ」

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著者プロフィール

Jules Verne, 1828 - 1905.
フランスの小説家。
『海底二万海里』『月世界旅行』『八十日間世界一周』
『神秘の島』『十五少年漂流記』など、
冒険小説、SF小説で知られ、SFの父とも呼ばれる。

「2016年 『名を捨てた家族』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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