プロット・アゲンスト・アメリカ (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087607901

感想・レビュー・書評

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  • おそらく名著と呼ばれるであろう類の作品。
    なのだが、私にはだいぶしんどかった。ようやく読み終わった、というのが正直な感想。

    1940年前後の、本当にあった史実から、反ユダヤ思想をもった(これも史実である)チャールズ・リンドバーグが大統領になるというIFを乗せて物語がスタートする。
    アメリカは決して戦争に与しない。そのためであれば、ナチスとでも仲良くするし、そのおかげで我が国は戦争にも巻き込まれず平和ではないか、という主張で妄信的な支持を得る。
    その一方で、彼が発する様々なユダヤ人を圧迫する施策(これがタイトルの”Plot Against America”の由来となる)により、国内にユダヤ人差別がじわじわと、確実に広がっていく。
    その恐怖をユダヤ人の少年(著者の分身であるフィリップ・ロス)の視点で描くという構図。

    物語自体は決してつまらないわけではない。ただ、少年の語り口という設定を考慮に入れたとしても、若干メリハリを欠く冗長な記述が多い。
    ここまで説明しなくてもいいだろうに、という部分が随所に見られ、テンポの悪さを感じてしまう。

    そういう技巧的な部分はもとより、なにより辛かったのはこの「ユダヤ人差別」というテーマそれ自身。
    人間の認知的な欠陥、そして欠陥ゆえ避けられないどうしようもない愚かさが少年という純粋な存在によって観察される。
    しかもその少年自身ももちろん人間であり、その欠陥にくわえ、「幼さ」という欠陥(愚かさ)が見事に記述されている。
    ここは、作者の筆致の粋、技巧的には素晴らしい部分だと思うが、この部分が技巧によって際立つにつれ、読む方としては辛くなる。

    さらに私は声の大きい人間が大嫌いなので、この物語に出てくる数々のアジテーターと、それに扇動される民衆がきつくて仕方ない。

    ただ、こういう物語は、今でこそ読まれるべきだとも感じている。
    この物語で描かれている”IF”は、今、世界各地で現実になっている。
    余裕がなくなった人間は、簡単に人を区分けして、自分の側ではない人間を排除することで安寧を得ようとするのだ。
    だってそれが、一番認知的負荷がかからない楽な方法だから。
    人間の脳は、負荷がかかるのを避けるように出来ている。
    だから、見た目とか、ちょっとした考え方とか、目に見える単純なもので脳に楽なように区別する。
    これ以上機能的に進化しないと、なくならないんだよ。Discriminationって。
    こんな偉そうなこと言っている私だって、条件が揃ったら差別的思考に陥る。
    避けられない。

    そういう現実を改めて見せつけられるという意味でも、辛かった。
    ただ、何百万年後にちゃんと進化するためには、この現実を今、考える必要があるんだと思う。

  • 2018年に亡くなったとき「知らなかった、なにか読まねば」と思ってから早6年、ようやく初フィリップ・ロス。いわゆる歴史改変小説で、もしも1941年に反ユダヤ主義者だったリンドバーグが大統領になっていたら?というお題目で、ニュージャージーに暮らすユダヤ人一家に迫る脅威を7歳の少年の目から描いたもの。と言っても、おじさんが7歳時代を回顧しているかたちゆえ、前半はどうにも固い印象で物語が進んだ。でも、最後まで読んでみれば、ここぞというところでしみじみ胸を打つ場面をぶち込んできたり、最後はみんなの好きな陰謀論でニッコリさせてくれたり、さすがにうまいなという印象。そのいっぽうで、小説の出来とかとは関係なく、私はどうしても変なことが気になって仕方なく…リンドバーグはたしかに差別主義者でナチスと組んだヤバいやつだけれど、アメリカをヨーロッパの戦争に巻き込ませないという考えで、そのおかげで1941年12月にも真珠湾攻撃は起こらない。もしも私が白人マジョリティだったら、ドイツでナチスがユダヤ人にしていることは言語道断とはいえ、自分の国が戦争に参加しないこと自体はありがたく思ってしまうんでは?一方でたとえばリンドバーグが終戦まで大統領を務めるというさらなるパラレルワールドがあったとして、そしたら日本に原爆は落ちなかったかもしれないけど、日本はアジアの植民地でさらに悪いことを重ねていたよね?そういったさまざまなifが頭の中を飛び交い、戦争に反対することと人命を守ることが必ずしもイコールではないこの世界について、ずーんと考えこんでしまった。あと、アメリカでは、ユダヤ系が政治経済全般に力を持っているせいで容易にガザ虐殺に反対できない、と物の本で読んだけれど、1940年時点でここまで肩身の狭かったユダヤ人がいつのまに権勢をふるうに至ったのか。本書でもリーマンとか富豪の名前は出てくるから、ユダヤ系の中でもずっと格差があったのか、その辺も知りたいと思った。とにかくわたしはもっと歴史を勉強しなければ…。

    • meguyamaさん
      難しくはないし、読みにくくもないです!ミステリとかのエンタメと比べるとちょっとあれですけど。映画で言えば「ヒューマンドラマ」?とかにジャンル...
      難しくはないし、読みにくくもないです!ミステリとかのエンタメと比べるとちょっとあれですけど。映画で言えば「ヒューマンドラマ」?とかにジャンル分けされるような、いいお話でもあります。niwatokoさんもフィリップロス未読なんですね。亡くなったとき、アメリカ文学の大御所だと知り、それなりに邦訳もあるのに、なんでスルーしてきたんだろう?と我ながらビックリしたのをよく覚えています。
      2024/05/20
    • niwatokoさん
      そうなんですね!ヒューマンドラマっぽいならちょっと読めそうな気がしてきました。そういえば確かドラマ化もされてるんですよね。あとフィリップロス...
      そうなんですね!ヒューマンドラマっぽいならちょっと読めそうな気がしてきました。そういえば確かドラマ化もされてるんですよね。あとフィリップロスは「さよならコロンバス」が映画もあって有名じゃないですか?って読んでも見てもないですけど。わたしはアメリカ好きとかいいながらほんとに有名作品とか古典とか読んでなくて(読めなくて)……。
      2024/05/20
    • meguyamaさん
      「さよならコロンバス」知りませんでした…。新訳も数年前に出てるみたいで、こちらはロマンスなのかな、読みやすそうですね?
      https://w...
      「さよならコロンバス」知りませんでした…。新訳も数年前に出てるみたいで、こちらはロマンスなのかな、読みやすそうですね?
      https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255012117/
      私もアメリカ好きだったはずなんですけど、考えてみたら一時期アーヴィングやカーヴァーやオースターをよく読んでいただけで、たんなるはるき好きだっただけなのかも…と思えてきました。
      2024/05/20
  • 『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが・・・』(集英社) - 著者:フィリップ・ロス 翻訳:柴田 元幸 - 内田 樹による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(2018/05/23)
    https://allreviews.jp/review/2275

    ファシズムに傾倒していくもしものアメリカを描いたドラマ『プロット・アゲンスト・アメリカ』現実のアメリカ大統領選まで約5か月 翻訳家・柴田元幸氏による物語・原作・その背景の徹底解説 | 株式会社スター・チャンネルのプレスリリース(2020年7月9日)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000502.000008010.html

    プロット・アゲンスト・アメリカ フィリップ・ロス|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー
    https://www.bungei.shueisha.co.jp/contents/plot/index.html

    プロット・アゲンスト・アメリカ/フィリップ・ロス/柴田 元幸 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-760790-1
    (単行本)
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-773486-7

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著者プロフィール

フィリップ・ロス(Philip Roth)
1933年3月19日、米国ニュージャージー州ニューアーク市に誕生。1959年、短編5作と中編1作を収めた “Goodbye, Columbus”で全米図書賞を受賞。1969年、4作目の小説 “Portnoy’s Complaint”(『ポートノイの不満』)を発表すると、批評的にも商業的にも成功を収める。著書は全31点。ピューリッツァー賞、マン・ブッカー国際賞などを受賞。全米批評家協会賞と全米図書賞は2度ずつ獲得している。2012年に執筆活動を引退し、2018年5月22日に85歳で死去。
注:本書では中編小説“Goodbye, Columbus”のみの日本語訳を収録

「2021年 『グッバイ、コロンバス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

フィリップ・ロスの作品

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