著者の専門はアメリカ政治、文章は堅めでおちゃらけたところとかないんだけど、わかりやすく読みやすかった。挙げられている映画やドラマは、知る人ぞ知るとかB級といわれるものとかも多くて、そもそもアメリカの映画やドラマがすごく好きで相当見てる人なんだろうなっていうのがわかる。
本当に、アメリカの文化や政治、日常生活の細かいことまで、アメリカ映画やドラマはけっこう見てるし!と思ってるわたしでも、知っているようでよく知らなかったことがいろいろわかってすごくおもしろかった。
特に、つねづねわからないと思っている宗教と人種について、「エスニシティ」(民族性。育った文化とか)という言葉を使って説明しているのが、すごくわかりやすくて少し腑に落ちたような気がした(少し、だけども)。宗教と人種と「エスニシティ」はオーバーラップするけど完全一致ではないっていう。「私はカトリックです」と言うとき、信仰宗教を言ってるだけじゃなく、「プロテスタントではない」「ワスプではない」=アイルランド系やイタリア系移民である!っていう移民の誇りも含んで、エスニシティを表明している、とか。そして、「~です」と強調するときは「~でない」ことを本当は言いたくて、「私は保守的です」と言ったら、「大きな政府とかヒッピーは無理、自分はリベラルではない」ことを本当は言いたい、とか。
あと教育とか学歴とか就職の話もおもしろくて、細かいところでは、履歴書には取得学位と成績平均しか書けない、っていうのとか。だからハーバード大学に入学しても中退したら高卒だし、ハーバード大学入ってもそのなかでいい成績がとれないなら履歴書の成績平均が悪くなるから、だったらもっと下の大学に行ったほうがいいとか。大学の成績平均なんて日本じゃにあんまり気しなくない? 大学入試の話も興味深くて、アメリカの大学入試、成績よりも人物性としてその大学の風土に合うかどうかをすごくジャッジされるという意味で就職活動に近いっていうのもおもしろかった。

へえー、と思ったのは、ドラマ「アリー・マイ・ラブ」は意外と「地雷」だそうで。アリ―が男に媚びているととるか、いやそれでもキャリア女性の地位向上に貢献したとするかで意見がわかれるらしい。見てないんだけど見たくなった!
あと、私が大好きなドラマ「スーツ」では、高級スーツを着ているNYのエリート弁護士が汚い屋台のホットドッグを並んで買うところに視聴者がグッとくるとか。そうなんだーと思った。

2024年4月18日

読書状況 読み終わった [2024年4月18日]

「The Boy from the Woods 」(訳書はハーラン・コーベン「森から来た少年」)の続編。前作で結局、幼いときに森に放置されてひとりで生き延びたとおぼしき主人公の、なぜ放置されたのかっていう謎は解決しないままだったので読んだんだけど、その謎も解けたし、おもしろかった。謎が解けるまでもけっこう紆余曲折というか予想外の展開だったし、それに絡んでほかにも、リアリティショー番組の実態とか、DNA鑑定で血縁者をさがすサイトの話とか、いろいろ興味深かった。
リアリティーショー番組の話だけど、人間の有名になりたい欲、承認欲求ってやっぱり恐ろしいなとか。SNSの闇の部分も怖いし。
あと、大きなテーマではないんだけど、「殺されたのが警官だと警察は大騒ぎして絶対犯人を捕まえようとする、警官の命は一般の人の命より大切だっていうのか?」みたいなことを登場人物のひとりが言うところがあるんだけど、そうだよね!と思った。確かにミステリ読んでても「警官殺し」は特別に悪いみたいなことがよく出てくるので。

これはこの2冊で完結なんだろうか。シリーズになってもいいのに。

2024年4月13日

読書状況 読み終わった [2024年4月13日]
カテゴリ 洋書

脚本&プロデュースのティナ・フェイのファンだし、ミュージカルということで見たけどおもしろかった。2004年のオリジナル映画版は見てるけどあんまり覚えてなくて、でも、なんかもっとティーン映画ぽかったような記憶が。もちろん2024年版もティーン映画なんだけどもっとコメディ寄りで、ミュージカルだけに迫力があったような気がする。
ハイスクールでの意地悪な女子のいじめみたいな話(コメディで)なんだけど、「気に食わない人がいても共生していかなきゃならないんだから、そういう人のことはただ放っておけ」とか「人の言うことは気にするな、人にどう思われるかも気にするな、善人ぶらなくてもいい、ひとりでごはん食べてもいい、とにかく自分らしくあれ」みたいなことは全世代に通じるよな、と思った。

ティナ・フェイが歌いだすとおもいきや、歌わず普通に話すところがいちばんおもしろかったかも。

2024年4月7日

読書状況 読み終わった [2024年4月7日]
カテゴリ 映画

短編が5編、どれもまったく安心できず不穏でつらく希望もない話なんだけど、ものすごく引き込まれて読んでしまった。安心できないのに、なぜかほっとするような気もしてくるのはなんでだろう。人間ここまでだめになってもいいんだって思える気がするからかも。

精神を病んだ恋人を支えるのに疲れてアルコールに依存するようになる女性の話とか、年下の恋人ができて自分の老化や顔立ちが気になりだし、美容整形にはまる女性の話とか、立場や境遇としては自分とは重なるところのない人たちの話なんだけど、すごく気持ちはわかるというか。(こうやって書くと登場人物が普通じゃないすさんだ人たちみたいにきこえるけど、出版関係とか普通の会社の社員で優秀だったりする普通の人たちで。その普段の仕事ぶりはお仕事小説みたいにも読めるし、ユーモアもあって、最初から最後まで暗い話とかではない。)

アルコールに依存するとか美容整形にはまるとか、やめたほうがいいのはあたりまえだし、主人公たちもやめるべきなのはわかっているし、なんで自分がそうなっているかとかも分析できていたりして、ただ考えてないとか愚かでそうなってるわけではなく、考えてわかっていてもそうなってしまうところになんだかほっとするような。こうしたほうがいい、こうすべきだ、ってことはわかっているのに、そうできないことってあるよね、っていうふうに。
主人公が、乖離性のない人間にとまどいを感じる、人間的な矛盾や非合理性がない人を不可解に思う、っていうところがあるんだけどまさにそれ。人間だからだれだって矛盾や非合理性があるのが普通だよね、っていうのに共感する。あと、自分の変えるべきところを変えることができずに漫然と生きていってしまうとか。矛盾だらけで、わかっているのにできない、っていう自分をまあしかたないと思えるような。

朝井リョウ氏の解説もすばらしかった。金原ひとみ作品の魅力をすごくうまく言い当てていると思った。以下要約になるけれど、<主人公の頭のなかの論理が極まるにつれ視野狭窄していき、急な坂を転がり落ちる物体から付着物が飛び散るように、外付けの倫理や見せかけの正義感、世間へのおうかがいなどがどこかに飛んでいき、語り手の核そのものが駆け抜けていく、すごいものが通り過ぎていったと思わせる>。そう、世間一般で正しいとされていることとか常識といわれるものがふっとんでいく爽快感みたいなものがある。あと、<金原ひとみという作家は“管理される”ということに小説という形で徹底的に抗っている>とかも。
朝井リョウ作品も最近読んでなかったけどまた読みたいと思った。

2024年4月2日

読書状況 読み終わった [2024年4月2日]

プロローグとか最初のほうの、散歩する意義、みたいな話がおもしろかった。たとえば、「『退屈な仕事に忙殺されて暇がない』という状態で生きている者はなおさら、暇な時間を自分の楽しみのためだけに費やし、退屈を忘れたいと思う。だが、暇と退屈を自由気ままに使いこなすのは、案外難しい。ブルシット・ジョブに慣れ過ぎた身体をいざ気ままに動かそうとしても、なかなかうまくいかなかったりする。~誰かのせいで暇を奪われ、退屈を強いられているなら、自分を解放するために最初に取るべき行動、それが散歩である。」とか。まさに暇だ退屈だといつも言ってるけどどうしていいかわからないわたしは散歩すべきなのかも、と思った。

あとは、まあよくあるって言ったら失礼だけど、文学者で散歩好きだった人の話とか、島田氏が実際にいろいろな町を歩いた話とか。散歩っていっても本当に郊外をただ歩く散歩もあれば、「飲み歩き」みたいな散歩もあって、散歩って自由なんだなとも思った。

もっと深い哲学っぽい、自然のもつ宗教的な意義みたいなこととか、他人と出会うこととかいろいろ書かれていたとも思うけど、なんか箸休め的に軽く読んでしまったな、とも思う。

2024年3月30日

読書状況 読み終わった [2024年3月30日]

「喜べ、幸いなる魂よ!」で本当に遅れすぎでファンになって近年の佐藤亜紀作品はけっこう読んだけど、デビュー作にして代表作ともされているこれは読まなくてはいけないのでは、と思っていて。いやでもわたしはファンタジーとか奇想とか奇妙な話が苦手なんだが、と思いつつ、読み始めるとやっぱり、主人公は、肉体はひとつだだけどふたり、他人からはひとりにしか見えないんだけど本人はふたりと認識している、って、どういうこと? シャム双生児みたいな?それとも二重人格者みたいな? いったいどういう話?とか思って、たぶんこれ発刊当時(1991年)に読んだら挫折しただろうなと思った。さらに肉体から抜け出るとか奇想度は増していき、半信半疑というか手さぐりという感じで読み進めていったら、後半なんとなくわけがわかってきたのか急に強く引き込まれ、最後まで読んだとたんまた最初っから読みはじめてしまった。続けて再読。そうすると最初読んだとき意味がわからなかったり、読みとばしていたことがつながったりわけがわかってさらにおもしろかった。
佐藤亜紀作品って二度続けて読んでしまうな、二度続けて読んでもおもしろいし、さらによくわかる。

舞台はナチスが台頭してオーストリアを併合するあたり(こういうのも説明はされないんだけど、検索して、そういうことかとわかったりするのも興味深い)、「肉体はひとつだけどふたり」の主人公はウィーンの没落しつつある貴族青年、彼(彼ら)の冒険譚のような話なんだけど、ちょっとひねくれた?恋愛モノでもあり青春モノでもありという感じで、雰囲気はいかにも退廃した貴族っていう気だるい陰気な感じなのに、なんだか私には切なくもさわやかにも思えて。後味も悪くない。「自由」を感じる。主人公(たち)が根は育ちのいい善人だからなんだろうか。

発刊がもはや30年前の1991年でデビュー作だけど、今読んでもまったく違和感がなくて、文体ももう完成されてる感じ。文章が海外文学の翻訳みたいなんだけどリズムがよくてするする読めるというか。すごく好き。

2024年3月30日

読書状況 読み終わった [2024年3月30日]

戦後直後くらいに生まれた女性不三子と、1967年生まれの男性飛馬それぞれの視点で、1967年から2022年までが描かれるんだけど、ノストラダムスの大予言、こっくりさん、口裂け女、(このあたり若い人わかるのか?)、超能力、オウム真理教、自然食信仰、近年のことではワクチン陰謀説とか、SNSのデマとか、宗教的、スピリチュアル的、オカルト的なことがらが続々出てきて、最初は、どういう話?とか思ったんだけど、だんだん「信じること」「救いを求めること」みたいな話かなと思った。とにかく1964年生まれのわたしは年代的にドンピシャ(って死語?)なこともあってすごく興味深くおもしろく読んだ。
それにしても、最初の1960~80年代あたり、わたしももう生まれていたけど、今から見れば世の中全般がすごく貧しくて、発展途上で、固定観念とか家父長的な縛りがきつくて、人権も自由もなくて、高度経済成長期とかいわれるけど、実はこんなにけっこう陰湿な感じの時代だったか、と愕然とする感じだった。当時はそんな意識なかったけど。でも、不三子が、あの時代の貧しさははじまりの貧しさで未来を夢見ることができたけど、今困窮している家庭とかの貧しさは先にある夢につながるようには思えない、って思うところがあるんだけど、本当にそうだなとなんだかすごく気落ちした。

だまされたとかまわりに流されたとかではなくて、自分でちゃんと調べて考えて選んで決めたとしても、必ずしも幸せにはなれないし、あとから正しかったとも思えないし、っていうのがせつないと思った。
「何がただしくてなにがまちがっているか、ぜったいにわからない今を、起きているできごとの意味がわからない今日を、恐怖でおかしくならずただ生きるために、信じたい現実を信じる」。それは、戦争中とかもそうで、なんでみんな戦争に勝つとか大儀とか信じんだろう、とかわたしもすぐ考えがちだけど、それだって、当時の人々が自分でちゃんと考えなかったから、とかではないんだなと腑に落ちたというか。そうするしかなかったという感じがわかったというか。

ラストでは主人公のふたりは中高年になっていて、子ども食堂を手伝っていたりはするけれど、充実していて幸せとかではなくて、ある意味虚しくて、先も見えず、信じるものもない感じなんだけど、それでも、他人に救いの手をさしのべることはできるか、と考える。実際に手をさしのべられるかは別にしても、考える、だけでも、救いとか希望がある感じがしてよかった。

2024年3月23日

読書状況 読み終わった [2024年3月23日]

最近見ていたドラマ「グッドファイト」で主人公の女性弁護士がものすごく故ルース・ギンズバーグ判事を尊敬していて。で、そうだこの映画見てなかったと思って見てみた。アメリカ最高裁判事だったルース・ギンズバーグ判事が若いころの実話ベースの話。

もっとルース・ギンズバーグすごい!みたいな成功感動話なのかと思っていたらそうでもなくてよかった。結婚後、幼い娘もいるんだけどハーバードロースクールに入学して、夫がすごく素敵な人で家事も子育ても引き受けてくれて(夫がアーミー・ハマーでかっこいいし素敵だったんだけど、彼もなんか不適切行為のスキャンダルあったよね。残念)、娘が大きくなったら反抗期っぽくなって、とか家庭生活も描かれていたのは楽しかった。

で、男女平等裁判、法律にある男女差別を正すために、男性が差別された(母親の介護をしている男性に税控除が認められなかった)っていうのを持ち出すところに、賢い戦略なんだなとか思って感心した。裁判ていうと、刑事裁判で陪審員がいて、っていうのがおなじみだけど、この最高裁の控訴審っていうのも知らなかったので興味深かった。模擬裁判がおもしろかったし。こういう法律や裁判についてもっと詳しく見たかったかも。

ドキュメンタリー「RBG 最強の85才」も見たくなった。

2024年3月20日

読書状況 読み終わった [2024年3月20日]
カテゴリ 映画

コロナ禍の頃の話で、夫、子どもと暮らしてパートで働く女性、調理師で妻と幼い子がいる男性、フリーカメラマンで独身の女性、三人の視点でごく普通の日々の暮らしが語られ、特に事件やなにかが起きるわけでもないし、解決とか結論めいたものもまったくないんだけど、よかった。三人それぞれの、コロナ禍での不安、思い出す過去の地震災害やテロ、自分自身の過去、嫌な記憶など、はっきりした言葉にはならず、自分でもよくわからないままあれこれ思いを巡らせている感じがいい。読みながら自分でもあれこれ思い出したり、とりとめなく考えたりするし、人ってこういうふうにもやもやうだうだ考えてるよね、っていう感じがリアルというか。いろいろ思っていてもうまく言葉にできないし、人にも伝わらないし、考えても結論は出ないし、どうしていいかわからない、っていうのに共感したというか。

三人とも、いわゆる「意識高い」とかではなくて、考えないといけないと思いつつも考えてなかったり、まして声を上げるとか行動するとかではなく日々に流されているような感じもリアルで。これはコロナ禍のオリンピックやほかのイベント開催の是非についてだけど、「どこかで誰かがやっていて、自分たちはそれに関わることができないし関わりもない、という諦念みたいなものが漂っている」っていうの、すごくうまく表現してるとか思った。

三人それぞれの思いや、人にしゃべったことに共感するところがたくさんあった。例えば、個人的には、独身フリーカメラマン女性の、子供がいる人に対してみんななんでこんなに偉いのかなと思うとか、子供産んでなくて申し訳ないって気持ちは消えない、とか。

あと、みんな人それぞれ言葉にできないうまく語れない思いはあって、それをわかったようなひとことで片づけたり、ひとくくりにするようなことはききたくないし、自分も簡単に言わないようにしたいとか思った。ネガティブな言葉に対してただポジティブなアドバイスをするのとか、あと「なんでもない日常がすばらしい」みたいなこともいいがちだけど、それも「わかったようなひとこと」だよなあ……。

2024年3月16日

読書状況 読み終わった [2024年3月16日]

どういう話かは知っていた(アフリカ系アメリカ人作家が、売れるにはもっと黒人ぽい作品を書けって言われて、いかにもな貧困とか差別とか犯罪とかの小説を書いたらものすごく評価されてしまって、っていう話)ものの、それほど見たいとも思っていなくて、期待せずふと見てみたら、すごくよかった。
勝手にもっと皮肉たっぷりの辛辣なブラックコメディかと思って構えていたらそうではなく、むしろ家族もの、ラブコメディとさえ思える感じで、ユーモアがあっておもしろかった。出版界事情とかがうかがえるのも興味深い。
もちろん深く考えたら、人種差別とか、偽善とか、逆差別とか、出版界とか映画界の問題とか、いろいろ考えられるけど、そう深く考えなくても楽しめたのがわたしとしてはよかった。
でも、他人に求められることと、自分が求めていること、嘘をつくこと、とかについてちょっと考えさせられる。

2024年3月10日

読書状況 読み終わった [2024年3月10日]
カテゴリ 映画

訳書はハーラン・コーベン「森から来た少年」。
幼いころ置き去りにされて森にひとりで棲んでいて発見されたという過去を持つ男性が主人公。彼が、いなくなった高校生をさがすことになって、っていうミステリ。主人公が森に置き去りにされたいきさつとかが事件にかかわってきて判明するのかと思ったら、それはどうやら続編とかになるみたいで、いなくなった高校生の話は別の大きな事件につながっていくんだけど、正直途中で、なんかけっこう長い……とちょっと飽き気味だった。が、しかし、ラストの事件の真相のさらに真相が衝撃的ではっと目が覚めた。そこからこれはすごいと一気に夢中になった。でも、もうちょっと早く夢中にさせてほしかったかも。あと、やっぱりラストで、主人公と一緒に事件を追う女性弁護士の息子(主人公の親友でもあった)の事故死の知られていなかった事実もけっこう衝撃的だった。

ひとりで森で棲んでいた主人公が、(里親家庭に引き取られて大人になるまで普通に暮らしてたんだけど)、40代になった今、森の奥深くで「エコカプセル」なるハイテク化されたテントみたいなやつに住んでいるとか、そういう話もおもしろかった。
続編で、主人公が森に置き去りにされたいきさつとかがわかりそうなので、これは読むしかない。

2024年3月10日

読書状況 読み終わった [2024年3月10日]
カテゴリ 洋書

 ゼイディー・スミス、現代アメリカ小説の代表的作家、みたいな感じに憧れて読んでみたいと思っていて、この本が文庫化されて買ったはいいけど長らく積んであったのをやっと読んだ。意外と古くて2001年刊行だった。
 饒舌で猥雑で、けむに巻かれる感じ、いったいなんの話?って思う感じ、ジョン・アーヴィングぽさを感じたけれど、ちょっと読みにくい、長い、おなかいっぱい、とか感じてしまったし、正直、あんまりよくわからなかったかも。きっともっと歴史とか宗教の知識が必要で、わたしには難しかった。雰囲気としてはユーモアもあって、難解、とか、暗い、とかいう感じではないんだけれど。
 思いっきり簡単にいうと、バングラディシュからイギリスに移民した家族の話、なんだけど、ほかにさまざまなルーツや宗教や信条をもつ家族がかかわりあっていって。いかにも現代的でリベラルで知的で洗練されているっぽさを出す家族が、あーいかにも映画に出てきそうー、アメリカにもいそうー、と思ってそれはおもしろかった。
 自分の人種的なルーツや伝統を誇りに思って守っていくこととか、自分の信条を貫くこととかは、確かに大切だろうけど、あまりこだわりすぎるのもいかがなものか、っていうのを感じた。ものを考えないとかなりゆきまかせとか優柔不断みたいなこと(登場人物でいえばアーチ―みたいな?)も、悪いばかりじゃなくて、そうやって穏やかさとか平和とかが保たれていくってこともあるのでは、と。

2024年2月25日

読書状況 読み終わった [2024年2月25日]

刑務所の受刑者たちの演技ワークショップだったのが外部の劇場で上演することになり、っていう話で、演目は「ゴドーを待ちながら」。「ゴドー待ち」、有名な不条理劇で、「ゴドー」って人が来る、ってことなんだけど、ゴドーとはだれなのかなんなのか、いつ来るのか来ないのか、なんで待っているのか、まったくわからず、結末もない、っていう劇で。いろんな解釈でいろんな演出ができるからおもしろいのかもしれないけど、わたしは昔からすごく苦手で、それがちょっと心配だったけど、映画は、長々舞台を見せられることもなくて、テンポよくてすごくおもしろかった。まったく演技経験もない受刑者への、発声練習とか、早口言葉とか、そういう基本の演技指導も興味深かったし、だんだん受刑者同士が結束していくようなところとか、舞台での成功とか、途中けっこう感動的だった。このまま感動的に終わるのかなと思っていたところで、予想外のラストには驚いたけど、逆に、予想できるようなありがちな感動モノに終わらないところがよかった。

2024年2月25日

読書状況 読み終わった [2024年2月25日]
カテゴリ 映画

U-NEXTなんて変わったとこから出てるなと思ったけど、100min.NOVELLA、ってことで100分で読める中編小説、みたいな。確かに1時間強で一気読みした。
とある会社の、代表者を決める投票をめぐる駆け引きだのあれこれが書かれた、津村さんぽい会社小説、なのだけど、最初はなんだかファンタジーかSFか奇妙な話か、と思ってちょっと身構えた。でも、津村さんならではのユーモアある文体と、うんざりな会社あるあるで、するする読めた。おもしろかった。
読みながら、これは会社だけの話ではなく、もっと広く現代社会の「選挙」を描いたものなのかもな、と思った。票がほしくて個人個人に利益をちらつかせてとり入ろうとしたり、ネガティブキャンペーンがあったり。デモができなくなる危機とか。
給料が上がるとか人員削減されないとか自分に直接関係あることには興味あるけども、だれが代表者になるかはどうでもいい、むしろ投票とかそういうごたごたに巻き込まれたくない、できれば棄権しときたい、みたいな人たちはどうするのか、みたいな。
主人公は、とくにどちらを支持するとかでもなく、ただひたすら巻き込まれず順調に仕事したいと思うだけなんだけど、PCをすぐ買い換えますよという甘言も断固として断り、とりこまれそうになっている人を助け、棄権はない、とする。こういう主人公の態度がわたし(たち)のとるべき態度なんだろうと思いつつ読んだ。あんまり希望をもつような心はずむような感じではないけれども。

2024年2月18日

読書状況 読み終わった [2024年2月18日]

もういつまでも読んでいたい。いつまででも読める。
癒される―。大好きだ。
日記第二弾。小学生の娘さんと中学生の息子さんと三人暮らしの毎日、ごはんやおやつに何食べたとか学校のこととか本当に普通のことしか書いてないけど最高に楽しい。
文章がめちゃめちゃうまくて文体もユニークでユーモアがあって、切り口も目のつけどころもすばらしいのはもちろんあるんだけど、お子さんたちの賢さ、優しさ、かわいさ、おもしろさがすごい。不機嫌になったり、けんかしたりとかないのかなあ。そういうところは書かないようにしてるのかもしれないけど、でも実際まったくないのかもしれないと思えるくらい、お子さんたち素敵だ。わざとらしくポジティブとかでもなく、なんだろう、著者が子どものいい面しか見てない、見えない、とかあるのかも。
エモーショナルすぎるところもないのもいい。センチメンタルになりそうな場面でもちょっと引いた感じで見ているというか。
日記だからかな。
同著者のエッセイが出ているけれど、どうだろう。
なんか近年、わたしはエッセイが苦手になった気がして。日記は淡々とできるけど、エッセイとなるとテーマがありオチがあるような気がして、それが重く感じそうというか。

あと、ものすっごく共感したところがあって、家から出て外でだれかに会うと、ひとりのときは不安で大丈夫じゃない状態にあったとしても、人の前ではある程度「大丈夫な自分」を出すので、それによって本当に大丈夫になっていく、っていうところ。まったくそのとおり、と思った。それで実際に自分が大丈夫になったことってこれまでに数限りなくあった気がする。

2024年2月17日

読書状況 読み終わった [2024年2月17日]

リンカーン弁護士シリーズ最新刊。ボッシュが調査員としてミッキーと一緒に仕事するので、けっこうボッシュが活躍するシーンも多くて、なんだか両方のシリーズのいいとこどりのような、得したような気分になった。法廷シーンも充実してるし、すごくおもしろかった! 事件も変わってるとかではないし、調査も普通に地道なんだけど、ミッキーの法廷テクニックはやっぱり型破りなところがあるし、ボッシュの経験を生かした勘も冴えていて、スリリングで。ミステリ読んだの久しぶりな気がするけど、やっぱりおもしろいミステリは奇をてらわなくてもおもしろいとか思った。

ボッシュが刑事を引退して弁護側の調査員になったことで、刑事のころだったらバッジを見せるだけで調べられることでもただの調査員だとそれができない、っていうのとかも、そもそも検察側って大きい権力があるんだよな、っていうのをあらためて思ったりした。

あと、AI生成の資料とかが法廷で証拠として認められるのか、とかも、今っぽいなと思って興味深かった。

ボッシュシリーズの前作で、これでボッシュ最後になるのかも?とかひとりで心配したんだけど、そんな感じはなくてすごくほっとした。むしろ、ボッシュが治験に参加しているっていうのが現代的というか、よくありがちな、余命を賭けて、みたいな話になっていないところがすごくよかった。ボッシュにはずっと元気でいてほしい。

2024年2月11日

読書状況 読み終わった [2024年2月11日]

宮内悠介初めて読んだんだけど、なぜか勝手にもっと激しいというか濃いというかそういう感じを予想していたので、まったく逆で、静かで淡々としたあっさりした感じで、そのギャップに勝手に驚いたんだけど、派手さはないけどよかった。ほかの小説は違うのかもしれないけど。すごい参考文献の量だったので、もっとみっちりたっぷり書いてもよかったのに、と思わなくもなかったけども。個人的に長い小説が好きだし。

ストーリーは、エストニアの、ラウリ・クースクというコンピュータプログラムの天才的素質をもった人(架空の人)の半生を取材するという形で描いたっていう。子どものころに天才的才能を発揮していた人たちが、社会情勢のせいや、またほかの事情のせいで、その才能で偉業をなしとげるとかはなく、ごく普通の人として生きている、みたいな話で、なんだか地味だけど新鮮だった。リアルというか。でも、悲しみとか後悔とかうらみとかいったネガティブな感情がなくて、なんだか明るくすがすがしい感じがあってよかった。
ラウリをさがしている、っていうところが、ミステリアスでもあって、ミステリが解けたとき、いい意味で予想を裏切られたし、わたしはけっこう驚いたし感動もした。

旧ソビエトやエストニアのことがわかるのも興味深かった。エストニアがITの発達している国だとか知らなくて無知さを恥じる。。。
コンピュータの話も、苦手だし興味もないけどおもしろく読めた。データがあれば国が滅びないっていう話はちょっと意外というか、そうかも!と感心した。マイナンバーカードも、わたし個人はなんか信じられなくて否定派だったんだけど、推進すべきなのではっていう気もしてきたし(もちろん信頼できる国というか政府がちゃんと管理できるなら、だけども)。
バルト三国やロシアについてもっと知りたいと思う。

あとどうでもいいけど、参考文献に「ビーチャと学校友だち」が出ていて、思い出してすごく懐かしかった。子どものころ読んですごくおもしろくて大好きだった記憶があって。ソビエトの子どもの学校生活が描かれていて、チェスとか算数の解き方とかものすごく印象的だった。

2024年1月20日

読書状況 読み終わった [2024年1月20日]

昔、十代後半から二十代のころは自分が好きな作家一位は村上春樹で、新刊が出ればジャンル構わず内容構わず長編も短編もエッセイも紀行文も翻訳もとにかく本になったものは全部買って全部読んでいたのだけど、十年前くらいからは、長編小説が出たら読む、程度になってる。だから今作も、読んだ方がいい気がする、と思いつつ、なかなか読めなかったのをやっと読んだ。

この長編の元となっている短編「街と、その不確かな壁」は(本になっていないから)読んでいないけど、それを組み込んだ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は発刊当時にすぐ読んでいて、大好きだと当時思っていて、二、三度くらいは読んだかもしれない。

で、今作、正直、読みながら「長い……」と思ってしまった。つまらないとかはなくて、どんどん読めるし興味も続くんだけど、やっぱり読んだことある知ってるって感じるし、おんなじような話がどこまで続くのかな……って何度か思っちゃったし。
あと、村上春樹の本質的というかキモとなる部分って奇想幻想ファンタジー的なマジックリアリズム的な部分なんだろうけど、私はそういうのがもともと苦手で、私が好きなのは、彼がよく描く、コツコツ静かに仕事をしつつ、週に一度買い出しに行って、スパゲティつくったりアイロンかけたり、音楽をきいて本を読んで、たまにカフェでコーヒーのんで、っていう、孤独で単調ながらも個人的で都会的でスタイリッシュな生活の描写で。そういう感じの生活に憧れてた。でも今回はなんだかそれもあんまり楽しそうに感じられなくて、なんか暗い、って……。
あと、たとえば、思い出すと、「ダンス・ダンス・ダンス」で女の子と一緒にハワイに行くとことか、ユーモアがあってちょっと笑える感じで楽しくて、同時に、物質的?資本主義的?な現代社会を皮肉るようなところがすごく好きだったんだけど、そういうところはなくて、つまり現実的な生活部分もファンタジー部分に近くて、だからずうっと暗い感じが続いてつらかったというか。
でも、こういう奇想幻想的な部分、ほかの作家だったら読み通せていなかった気もして、やっぱり村上春樹だからこその説得力があるというか、なぜか納得して興味を失わずに読み続けられたとも思う。筆力のすごさ。

どんなにファンタジー的な世界が心地よさそうであっても、やっぱりつらくても現実世界に生きなくては、っていうテーマは感じられて、そこは好き。(壁に囲まれた世界から出てくれることを願いながら読んだんだけど、それはだれでもそう? そうじゃない人もいるんだろうか……)

書評とかもさらっと検索して読んでみたんだけど、鴻巣友季子さんが「鴻巣友季子の文学潮流」(好書好日)で書かれていることにすごく共感した。つまり、「この先を読みたい」っていう。現実世界に戻ることに決めて、戻ったあとどうなるのか、どうするのか、どうしたらいいのか、っていうのを読みたい。(この先は自分で考えろ、っていうことなんだろうか……)。

2024年1月14日

読書状況 読み終わった [2024年1月14日]

びっくりするくらいものすごくおもしろかった。おもしろいって言っていいのかわからないけど、こわいもの見たさというか、こわいのに目を離せないというか、心わしづかみにされたようにぐいぐい引き込まれて、後半なんて本当に読むのがやめられなかった。
水商売しかできないシングルマザーの母親に育てられて貧しい生活を送っていた主人公が、15歳で家を出て母の友人や知り合った女の子とスナックをやって一緒に暮らしはじめ、やがて犯罪に手を出していく、っていう話。

最初のほうは、例えば、子どもが、家のなかで服がたたまれているだけで明るい気持ちになるとか、繁華街に出かけたりしたことがないとか、映画で見るようなことは自分には関係ないことだと思うとか、わたしなんかがあたりまえと思ってきた普通の生活を与えられない子どもがいて、だれからも守られず、気にかけられず、救いの手も差し伸べられないっていうのがすごく苦しくて悲しかった。そういう親の元、家に生まれたっていうだけなのに、普通の生活ができない、普通に働くことすらできないっていう。そうしたら水商売とか犯罪に手を染めるしかない。正しいことではないけど間違ってはいないというか、それしかない……。

でも、ユーモアがあって笑えるというか滑稽に思える部分も多くておもしろいし、主人公にはじめて友達ができてみんなで働いたり一緒に住んだり、途中、青春モノのような感じもして読んでて楽しいところも多かった。

あと、カードを使った犯罪とか(これがいわゆる「出し子」ってやつなのか!と。言葉としては知ってるつもりになっていたけど、実際こういうことをこういう感じでやっているんだな、とリアルにわかる感じがして興味深かった。そして、やっぱり、正しいことではないけれど、生きていくためにはこうするしかないって人もいるんだろうなとも思った。)、死んでしまった人の話とか、ミステリとしても読めそうな感じ。

設定が当時のことを20年後くらいに思い出すって形になっているわけだけど、結局、20年後もあまり変わらず幸せにはなっていないっていうのが、なんだかけっこうつらかった。ラストは、本当のことや正直な気持ちを伝えられたっていうことで少し救いを感じる部分もあったし、そして、ひどいことばかりじゃなくて心から楽しかったこともよかったこともあったと主人公が思えたことも救いだったけど、登場人物のひとりが言ったように、すべてはもう終わったことだ、っていうのも感じてせつなかった。終わるまで待つしかない、っていうような会話も途中であったけど、そんなふうに、人生過ぎていってしまうな、というか。
……というふうに読み終わった感情はけっこうぐちゃぐちゃに乱れていて、そのへんもなんだかすごいものを読んだという気がしたり。

2024年1月6日

読書状況 読み終わった [2024年1月6日]

木内昇さんの著書は何冊か読んでいて(本棚内検索したら5冊読んでた)すごく好きなものもあったけど、最近はあまり読んでいなくて、でもこの本は23年のベストにやたら出てくるので読んでみようと。確かに、文章うまいのでするする読めるし、ユーモアもあっておもしろく、悪い人が出てこなくてすがすがしい。けど、まあ予想してたとおり、っていう感じもあったかな、戦中から戦後のホームドラマっていう感じで、「朝ドラ」にできそうな。
でも、ひとくちに戦中戦後とか言って、知識としてはどんな世の中だったかって知っているような気になっているけど、表面的なことじゃなくて、ごく普通の人たちの本当の暮らしが感覚的にわかるようだったのがよかった。例えば、戦中食料不足がひどかったのは知ってるけど、戦後もすぐに改善されたわけじゃなくて、だから数年たっても子どもが食べものに執着するとか、また食べものがなくなるんじゃないかと怯えているとか、なんか、ああ確かにそうだろうなあとか思った。何度も私は感想に書いてる気がするけど、戦争終わってすぐ戦後、高度成長期がきたわけじゃない、とか。ほかにも自分では知ってるつもりになっていても全然わかっていないことばっかりなんだろうな、と。
あと、主人公の夫になる権蔵のキャラクターがよかった。とにかくひ弱で、戦争に行っていない引け目とかいろいろあって、最初は人生を投げているダメ男みたいなところからだんだん変わっていくんだけど、人生投げていたからこその人格というか、かえって余裕やゆとりがあるような感じがよかった。

2024年1月3日

読書状況 読み終わった [2024年1月3日]

おもしろかったし、すごくよかった。すごく好き。訳書が出たらもう一度読みたいかも。
ここの感想にも先日書いたけど、読みはじめて「Our Town」という舞台の話が出てきて、知らなかったので映画化された「我等が町」を配信で見てみたのだけど、見て大正解だった。っていうか見ないとこの本の内容がよくわからなかったかも。

ストーリーは、アメリカで果樹園を経営する一家の、妻ラーラが主人公で、娘が三人いて、コロナのせいで大学から実家に戻っている娘もいて、久しぶりに家族全員でさくらんぼの収穫に忙しくするなか、娘たちにせがまれて、ラーラが若いころの一時期だけ女優をしていたこと、今や人気スターになっている男性俳優とつきあっていたことなどを話していく、っていう。ミステリではないから事件とかではないし、それほど驚くような話とかではないのだけど、ラーラの過去が少しずつ明かされていくのがなんだかスリリングに感じて引き込まれたし、最後に、ラーラ―が娘たちにも夫にも話さなかった事実がわかったときはけっこう衝撃的だった。

過去パートで、高校生のラーラが町で行われる舞台のオーディションを受けて、プロデューサの目に留まって女優の卵としてLAに行き、映画やCMに出て、やがてトム・レイクという町で「Our Town」の舞台に出ることになり、って具合に、エンターテイメント界の舞台裏とか、演劇ができるまで、みたいなことがわかるようなところもすごく楽しかった。
あと、湖があって美しいトム・レイクでの日々は青春恋愛モノみたいにきらきらしているし、あと、果樹園の様子だとか風景描写も美しくて、さくらんぼ農園行ってみたい、とか思った。

若いころの輝くような夢や希望や期待や冒険があって、でも、つらい経験や挫折やひどく傷つくこともあって、夢や期待は結局かなわなかったりするけれど、そこからまた立ち直って、年をとっていく。今の、穏やかで落ち着いた生活に満足していて、挫折や心の傷があっても、そのことで苦悩したり後悔したりしない、そういう人生は愛おしい、みたいなことをすごく感じた。
後悔したりしない、っていうのは人それぞれなのかなあとかも思ったけれど。ラーラはそういう人だったわけで……。

あと、最初、いかにも農家の主みたいな感じがした夫ジョーが、若いころなにをしていたかがわかったとき意外性に驚いて、なんだかそれがすごく印象に残っている。ジョー素敵、 ラーラ―、ジョーを選んで大正解とか思った。

2023年12月29日

読書状況 読み終わった [2023年12月29日]
カテゴリ 洋書

Ann Patchett「Tom Lake」を読みはじめたら舞台劇「Our Town」(我等の町)が出てきて、わたしはその舞台劇を知らず、検索したら映画化されていたので、急遽見てみた。
1940年のモノクロ映画。描かれているのはさらに昔の1910年とかで、アメリカの小さな町の普通の人々の暮らしが紹介され、隣家どうしの娘と息子が恋して結婚式を挙げ……っていう話。
普通にホームドラマだなーと思いながらほほえましい感じで見ていたんだけど、ラスト15分くらいで一変、別にホラーとかじゃないけど、なんか恐怖にかられて食い入るように見てしまった。超びっくり……。
その結婚した娘が、出産時に死にかけて死後の世界の手前?まで行くのだ。
で、亡霊のような形で、記憶にある昔の日に戻るんだけど、そこは自分の16歳の誕生日で、両親ともに若くて元気で、自分も若く、ごく普通の日の朝の光景で。亡霊の娘は、こういう普通の日がすばらしかった、もっとこういう日を大切にすればよかった、とか思って、12年後にわたしは死んじゃうの!弟も死んじゃうの!、とか母親に向かって言うんだけど、そこにいる母に自分の姿は見えないしきこえないし、っていう。なんかこのあたりが怖くてたまらなかった。両親も自分も若かったころの生活を見る、とか考えただけで泣けてしまう。だから今の日々を大切にしなくては、っていう話なんだろうけど、なんかものすごく人生のはかなさを突きつけられた感じというか。人はどうせ死ぬ、とか、死んでしまえば終わり、とか、時間はどんどん過ぎていく、とか、いいときは続かない、とか暗く考えてしまった。
モノクロっていうのもなんか怖い。

結末としては、娘は生き返るんだけど、あまりに一瞬過ぎて、見たあと、え、死ななかったってことで合ってる?、と思って検索してしまった。死ななかったってことでほっとしたところもあるけど、でもいつかは死ぬ、と思うと気が沈んだ。

2023年12月9日

読書状況 読み終わった [2023年12月9日]

賞も取ったし話題になっていたのは知っていたけど、わたしが読むジャンルではないな、っていう思い込みがあってまったくスルーしていたんだけど、最近、「国内小説でも海外まで広がりのあるもの」みたいなのを読みたいと思っているので読んでみたら、まさに圧倒されて茫然とした。スケールが大きいし、すごく引き込まれるし、今の社会についていろいろ考えさせられたし。麻薬組織の話なんかはドン・ウィンズロウかと。いや残酷さやグロさはドン・ウィンズロウより上かも?っていうくらい。まあその残酷さやグロさは強烈すぎて薄目でしか読めない感じもあって、むしろわたしは臓器売買の話が興味深かった。興味深いとかいうと語弊があるけど、いやこんなことまさか…と思うけど意外とリアルで現実にありそうで恐ろしすぎた。臓器売買、臓器移植ビジネスって究極の資本主義ビジネス……。資本主義のなれの果てというか、金儲け主義の行きつく果てを見た気がする……。結局、お金のある人が弱者を犠牲にしてなんでも思いどおりにするような恐ろしさ……。しかもお金があれば罪悪感を抱かないまでいけるような恐ろしさ……。
最初わたしは愚かにも、麻薬組織の話と臓器売買の話にどういうつながりが?って思ったんだけど、臓器移植ビジネスと麻薬組織、裏社会が結びつくっていうのも考えてみればそうだよねと思った。著者のインタビューで、日本で大麻関連の事件があっても、大麻くらい、っていう人もいるけれど、麻薬のせいでメキシコなどでどれだけ多くの人たちが犠牲になって死んだりしているか、って言っているのを読んだけど、確かにそのとおりだし、そして麻薬組織の金がほかのどんな恐ろしいビジネスにまわっているのかって考えると、たかが大麻、とか思えないっていう。こんなふうに、本を読むことで、世界を広く知ることができる、広い視野をもつみたいなことができるってすごいとかまで思ったり。
麻薬組織の話とかってちょっと「悪の美」とか「家族の絆」みたいなちょっと美しげな話にもなったりするんだけど、そういう要素はこの小説ではわたしは感じなくて、ひたすら「悪」としか思えなかった。アステカ文明の話で、神に捧げるいけにえとかもその文明の貴ぶべく伝統みたいに美化されるのもどうなのか、とか思ったけど、でも、人間が群れをなして生きていくには、人間の集団に必ず生じる連鎖する憎悪や殺意を消すためにいけにえが必要、っていうのは、なんだかすごく納得した。残虐に人を殺す人たちの憎悪や怒りが黒い煙となって吸い取られていく、みたいな描写が印象的だった。
で、わたしはどうしてもこの麻薬組織ファミリーは応援する気にはならなくて、だからこの結末には救われた気がして涙が出た。コシモのナイフづくりの師匠だったパブロの良心に救われた。なんというか浅い善意みたいなものではなくて、魂の良心、みたいなものを感じた。私はキリスト教も聖書もまったく詳しくないけど、「『わたしが求めるのは憐みであって、いけにえではない』とはどういう意味か、行って学びなさい」、っていうのに心打たれた。

2023年12月2日

読書状況 読み終わった [2023年12月2日]

「夕暮れに夜明けの歌を」の奈倉有理さんと「同志少女~」の逢坂冬馬さんが実の姉弟、って知ったときは確かにびっくりしたけど、もはや有名な話なのかな、そのおふたりの対談。
もっと文学文学した内容かと予想してたら、わりと意外(でもないかもしれないけど)なことに、現代日本社会の話がすごく興味深くてよかった。

おふたりの子供のころとか育った家庭の話とかは、まあそうだろうなというか、こういう姉弟が出るべくして出たというか、ご両親ともやっぱりすごく知的で文化的で現代的、っていう印象。私とは年代が20年くらい違うとはいえ、親が、好きなことをさがしさない、とか言うとか、あんまり考えられないし。

それより、おふたりとも、ファシズム化傾向にある今の日本の社会について、戦争と平和について、などについて深く真剣に考えているのが伝わってきてすごくよかった。どういうふうにファシズムというものが進んでいくのかとか、なんで日本人はデモをしないのかとか、日本のメディアの状況とか、いろいろ海外と比べて説明したり、読みやすくわかりやすいうえ、すごく考えさせられる。そういうものごとに対する、小説やエッセイや翻訳の書き手として、あるいは読み手としての立場というか、ありかたというか、私は単なる読み手だけど、なにができるだろうかとか自然に考えさせられるというか。とりあえず、もっと本を読もう、と思った。
ほんと、逢坂さんには、ご自身おっしゃっているように、これからも、小説以外でも、現代日本についてガンガン言っていただきたい!
先日、歌われなかった海賊へ」を読んだときは、小説にしてはあからさまに登場人物に著者の意見を言わせすぎ?のような気もちょっとしたんだけど、この対談読んで、言いたいんだなってことがよくわかった。いいと思う! 一方で奈倉さんは、同じ思いでも、直接的にあからさまには言わずに思いを伝えたい、という考えで、それもよくわかった。

2023年11月23日

読書状況 読み終わった [2023年11月23日]
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