ラウリ・クースクを探して [Kindle]

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  • 朝日新聞出版
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感想・レビュー・書評

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  • 第170回直木賞候補作。
    IT先進国エストニアで歴史に翻弄された一人の男の半生を描いた作品。それは、ソビエト連邦の体制側からも反体制側からも描かれる歴史であり、プログラミングによって居場所を見つけた孤独な少年の成長する姿であり、運命に流され、悲劇を乗り越え、再生する物語でもある。
    現地取材の過程で、歴史を紐解きながら段々と確信に迫っていくという手法によって、まるで映像のドキュメンタリーを見ているかのように物語の世界に入り込みました。
    「生きるってのは人とのかかわりあいだよね。こうやっていろいろな人と出会って、感情が交錯して、だからこそ、この世は水晶みたいにきらめいている。」

  • あっさり読み終えてしまい、こんなもん?と思ったけど、後からじわじわくる。
    ソビエトの崩壊により翻弄され、人生も変わってしまった若者たちの物語。エストニアがデジタル大国なのはコロナの流行が始まった頃、聞いた事はあったのだが、そのきっかけはやはりソビエトの侵攻で、バルト3国のそれぞれの方向性の違いなど、興味深く読んだ。
    ラウリが居場所がなくて逃げ込んだ教会には、かつてパルチザンの協力者の子どもだった牧師のリホがいて、ラウリに大事な事を伝えてくれる所がよかった。リホの他にもラウリを支援してくれる両親や先生方、そして親友となったイヴァンなど心に残る交流が描かれている。
    ラウリが子どもたちにプログラミングを教えるために、大学へ行こうと考え、新しい知識を身につけていく下りは、先日読んだ「リスキリング」そのものだなと思った。日本よりハードルは低そう。ソビエトの隣に位置するエストニアならではの事情もあるだろうが、スピード感が違うように思う。
    ラストは幸せな感じでよかった(^-^)

  • 宮内悠介初めて読んだんだけど、なぜか勝手にもっと激しいというか濃いというかそういう感じを予想していたので、まったく逆で、静かで淡々としたあっさりした感じで、そのギャップに勝手に驚いたんだけど、派手さはないけどよかった。ほかの小説は違うのかもしれないけど。すごい参考文献の量だったので、もっとみっちりたっぷり書いてもよかったのに、と思わなくもなかったけども。個人的に長い小説が好きだし。

    ストーリーは、エストニアの、ラウリ・クースクというコンピュータプログラムの天才的素質をもった人(架空の人)の半生を取材するという形で描いたっていう。子どものころに天才的才能を発揮していた人たちが、社会情勢のせいや、またほかの事情のせいで、その才能で偉業をなしとげるとかはなく、ごく普通の人として生きている、みたいな話で、なんだか地味だけど新鮮だった。リアルというか。でも、悲しみとか後悔とかうらみとかいったネガティブな感情がなくて、なんだか明るくすがすがしい感じがあってよかった。
    ラウリをさがしている、っていうところが、ミステリアスでもあって、ミステリが解けたとき、いい意味で予想を裏切られたし、わたしはけっこう驚いたし感動もした。

    旧ソビエトやエストニアのことがわかるのも興味深かった。エストニアがITの発達している国だとか知らなくて無知さを恥じる。。。
    コンピュータの話も、苦手だし興味もないけどおもしろく読めた。データがあれば国が滅びないっていう話はちょっと意外というか、そうかも!と感心した。マイナンバーカードも、わたし個人はなんか信じられなくて否定派だったんだけど、推進すべきなのではっていう気もしてきたし(もちろん信頼できる国というか政府がちゃんと管理できるなら、だけども)。
    バルト三国やロシアについてもっと知りたいと思う。

    あとどうでもいいけど、参考文献に「ビーチャと学校友だち」が出ていて、思い出してすごく懐かしかった。子どものころ読んですごくおもしろくて大好きだった記憶があって。ソビエトの子どもの学校生活が描かれていて、チェスとか算数の解き方とかものすごく印象的だった。

  • 第170回直木賞候補作のこちらを読んだ。
    宮内悠介さんの作品を読むのは初めて。

    静かに淡々と進んでいくお話だった。
    でも没入感がすごくて、あっという間に読み終わった。
    最後の方は驚きと共に伏線も回収されていったので、読後感が良かった。
    表紙もとても素敵。


    読み終わった後に思ったのは、今は世界中が混乱していて、今後またラウリ達のような人生を歩む人が出てきてしまうのではないかということ。
    こちらは、宮内さんの創作だけど現在進行形で、起こるかもしれない出来事に胸がギュッとなった。

  • まあまあ

  • 最初は何の話だっけこれ?となるが、第二部あたりまで読んでください。特にエンジニアかじってる人。プログラミングの話なので、少しでも知識あると面白いかと。
    なんかソ連ってすごい昔なイメージだったけど、こうやって読むと最近ですね

  • ラウリは昔の宮内悠介を投影しつつ描かれた人物なのかな。家庭環境、政治、世情、友情、生まれ持った個性はどれもコントロールが効かないものだけど、個人との関わりが確かにある。その手触りを感じる作品。

  • 読み始め、淡々と続く話で、これってなんの話?
    恋愛?、SF?、歴史的偉人?とかかかなと思ってたんで、途中で読むの止めようかなあと思った
    それでも今話題のロシアと周辺国の話だしなあと読み続けたら、第2部の最後で泣く羽目になった。電車の中なのに。
    もう最後まで目がうるうるで、下向きつつ電車を降りた

  • 淡々と書かれた文章が翻訳された文章みたいで本当にその国の人が書いたのではないかと妙にリアルに感じた!語り手は彼だったんだね。共産主義国家と民主主義国家の狭間。侵略者と被侵略者の狭間。時代と時代の狭間に生きた人たちの話…これは昔話ではなくつい最近の話なんだよな。複雑な気持ちのまま読み終わったけど、この気持ちを忘れちゃいけないと思った。

  • こころのよゆうがなく、小説から遠ざかっている。久々に1冊読了。

    「…俺たちは屑だが(中略)プライドはあるんだ」
    「わたしを不幸だと決めつけるけんりあなんか誰にもない」
    現状を反映してか、心にのこったのは傷を負った人たちの言葉。

    大英帝国をはじめ植民地保有国
    ナチス
    ソビエト
    ロシアとアメリカ
    そして、パソコン
    日本も

    のちの世は、どう評価するのか。
    客観的に見られるほど先に、人の世はあるのだろうか。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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