方舟を燃やす

著者 :
  • 新潮社 (2024年2月29日発売)
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感想 : 5
4

戦後直後くらいに生まれた女性不三子と、1967年生まれの男性飛馬それぞれの視点で、1967年から2022年までが描かれるんだけど、ノストラダムスの大予言、こっくりさん、口裂け女、(このあたり若い人わかるのか?)、超能力、オウム真理教、自然食信仰、近年のことではワクチン陰謀説とか、SNSのデマとか、宗教的、スピリチュアル的、オカルト的なことがらが続々出てきて、最初は、どういう話?とか思ったんだけど、だんだん「信じること」「救いを求めること」みたいな話かなと思った。とにかく1964年生まれのわたしは年代的にドンピシャ(って死語?)なこともあってすごく興味深くおもしろく読んだ。
それにしても、最初の1960~80年代あたり、わたしももう生まれていたけど、今から見れば世の中全般がすごく貧しくて、発展途上で、固定観念とか家父長的な縛りがきつくて、人権も自由もなくて、高度経済成長期とかいわれるけど、実はこんなにけっこう陰湿な感じの時代だったか、と愕然とする感じだった。当時はそんな意識なかったけど。でも、不三子が、あの時代の貧しさははじまりの貧しさで未来を夢見ることができたけど、今困窮している家庭とかの貧しさは先にある夢につながるようには思えない、って思うところがあるんだけど、本当にそうだなとなんだかすごく気落ちした。

だまされたとかまわりに流されたとかではなくて、自分でちゃんと調べて考えて選んで決めたとしても、必ずしも幸せにはなれないし、あとから正しかったとも思えないし、っていうのがせつないと思った。
「何がただしくてなにがまちがっているか、ぜったいにわからない今を、起きているできごとの意味がわからない今日を、恐怖でおかしくならずただ生きるために、信じたい現実を信じる」。それは、戦争中とかもそうで、なんでみんな戦争に勝つとか大儀とか信じんだろう、とかわたしもすぐ考えがちだけど、それだって、当時の人々が自分でちゃんと考えなかったから、とかではないんだなと腑に落ちたというか。そうするしかなかったという感じがわかったというか。

ラストでは主人公のふたりは中高年になっていて、子ども食堂を手伝っていたりはするけれど、充実していて幸せとかではなくて、ある意味虚しくて、先も見えず、信じるものもない感じなんだけど、それでも、他人に救いの手をさしのべることはできるか、と考える。実際に手をさしのべられるかは別にしても、考える、だけでも、救いとか希望がある感じがしてよかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月23日
読了日 : 2024年3月23日
本棚登録日 : 2024年3月23日

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