続きと始まり (集英社文芸単行本)

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  • 集英社 (2023年12月5日発売)
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感想 : 3
4

コロナ禍の頃の話で、夫、子どもと暮らしてパートで働く女性、調理師で妻と幼い子がいる男性、フリーカメラマンで独身の女性、三人の視点でごく普通の日々の暮らしが語られ、特に事件やなにかが起きるわけでもないし、解決とか結論めいたものもまったくないんだけど、よかった。三人それぞれの、コロナ禍での不安、思い出す過去の地震災害やテロ、自分自身の過去、嫌な記憶など、はっきりした言葉にはならず、自分でもよくわからないままあれこれ思いを巡らせている感じがいい。読みながら自分でもあれこれ思い出したり、とりとめなく考えたりするし、人ってこういうふうにもやもやうだうだ考えてるよね、っていう感じがリアルというか。いろいろ思っていてもうまく言葉にできないし、人にも伝わらないし、考えても結論は出ないし、どうしていいかわからない、っていうのに共感したというか。

三人とも、いわゆる「意識高い」とかではなくて、考えないといけないと思いつつも考えてなかったり、まして声を上げるとか行動するとかではなく日々に流されているような感じもリアルで。これはコロナ禍のオリンピックやほかのイベント開催の是非についてだけど、「どこかで誰かがやっていて、自分たちはそれに関わることができないし関わりもない、という諦念みたいなものが漂っている」っていうの、すごくうまく表現してるとか思った。

三人それぞれの思いや、人にしゃべったことに共感するところがたくさんあった。例えば、個人的には、独身フリーカメラマン女性の、子供がいる人に対してみんななんでこんなに偉いのかなと思うとか、子供産んでなくて申し訳ないって気持ちは消えない、とか。

あと、みんな人それぞれ言葉にできないうまく語れない思いはあって、それをわかったようなひとことで片づけたり、ひとくくりにするようなことはききたくないし、自分も簡単に言わないようにしたいとか思った。ネガティブな言葉に対してただポジティブなアドバイスをするのとか、あと「なんでもない日常がすばらしい」みたいなこともいいがちだけど、それも「わかったようなひとこと」だよなあ……。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月16日
読了日 : 2024年3月16日
本棚登録日 : 2024年3月16日

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