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感想・レビュー・書評
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「夕暮れに夜明けの歌を」の奈倉有理さんと「同志少女~」の逢坂冬馬さんが実の姉弟、って知ったときは確かにびっくりしたけど、もはや有名な話なのかな、そのおふたりの対談。
もっと文学文学した内容かと予想してたら、わりと意外(でもないかもしれないけど)なことに、現代日本社会の話がすごく興味深くてよかった。
おふたりの子供のころとか育った家庭の話とかは、まあそうだろうなというか、こういう姉弟が出るべくして出たというか、ご両親ともやっぱりすごく知的で文化的で現代的、っていう印象。私とは年代が20年くらい違うとはいえ、親が、好きなことをさがしさない、とか言うとか、あんまり考えられないし。
それより、おふたりとも、ファシズム化傾向にある今の日本の社会について、戦争と平和について、などについて深く真剣に考えているのが伝わってきてすごくよかった。どういうふうにファシズムというものが進んでいくのかとか、なんで日本人はデモをしないのかとか、日本のメディアの状況とか、いろいろ海外と比べて説明したり、読みやすくわかりやすいうえ、すごく考えさせられる。そういうものごとに対する、小説やエッセイや翻訳の書き手として、あるいは読み手としての立場というか、ありかたというか、私は単なる読み手だけど、なにができるだろうかとか自然に考えさせられるというか。とりあえず、もっと本を読もう、と思った。
ほんと、逢坂さんには、ご自身おっしゃっているように、これからも、小説以外でも、現代日本についてガンガン言っていただきたい!
先日、歌われなかった海賊へ」を読んだときは、小説にしてはあからさまに登場人物に著者の意見を言わせすぎ?のような気もちょっとしたんだけど、この対談読んで、言いたいんだなってことがよくわかった。いいと思う! 一方で奈倉さんは、同じ思いでも、直接的にあからさまには言わずに思いを伝えたい、という考えで、それもよくわかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読書をすることがどんなに素晴らしいかを姉弟で語ってくれている。本の紹介がいっぱいあったので、ついつい購入してしまった。そして二人は、戦争がない世界へそのあり方を変えるために執筆しているということ。元々ファンだったけど、さらにファンになってしまった。この二人、サイコーです!
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朝日新聞2023年10月21日
サンキュータツオの書評で本書を知った。
「高橋源一郎氏からラジオ出演を
依頼されたとき、姉弟と公言。
高橋氏は椅子から転げ落ちそうに
なったという」
(P48にそのくだりがある)
高橋源一郎が驚く様子が想像できて
可笑しかった。
奈倉の言う
「空想だと思われた小説が予言的な
内容だったとして見直されるとき、
大事なのは『予言かどうか』ではなく、
社会に潜在している問題を作家が
いかに感じとって盛り込んでいたのか
ということ」(P186に発見)
はラディカルだ。
「作家と読者の想像力は国籍年齢性別を
超えるためにある」
「想像力の欠如は、読書体験に由来するの
かもしれない」
というサンキュータツオの感想。
たしかにデリカシーのない人は読書が
足りないのかもと思った。
「好きなことを突き詰めていったら、
その先にたぶん面白いことがあるだろう」
(P11 逢)
「絵画や音楽をやっている人が、
作品そのものや専門分野技術じゃなく
所属で偉さを判断するようになったら
終わり」(P14 奈)※
「さかなクンも、好きなことを突き詰める
人生を送れることがよかったんであって、
『海洋大の客員教授になれてよかったね』
って話ではない」(P14 逢)
「自由だと思い込んでいる不自由が
なによりも自由を奪っている」
(P150 奈)
「本意でない言葉を発し続けていると、
結局は自分自身の心を傷つけてしまう」
(P151 奈)
「もしなにかきっかけがあって
お仕事の声がかからなくなっても、
たぶん僕はずっと小説をかいている
と思う」(P152 逢)
「全体主義体制成立の前段階として、
性的マイノリティを弾圧する」(P211逢)
はすごく怖いことだと思った。
実際に今のロシアや中国や北朝鮮で
行われている。
これって全体主義になるってことだろう。
今まで権力者がなぜ性的マイノリティを
嫌うのか釈然としなかったが
「単一の国家政体のもとに国民が
統合されているという幻想を持とう
とする勢力、ファシズム的な勢力から
すると、性的マイノリティって価値観の
攪乱者」(P211逢)
という説明で腑に落ちた。
国家に縛られる愚を語れるのは、
留学したり、翻訳したり、世界的な視点を
持っているからこそだろう。
ロシア国民の苦悩を市民レベルで知れるのは
勉強になった。
「自分のしていることがなんにつながるのか
考え続けること」
「自分の仕事の内容やひとつひとつの言動は、
戦争をなくす方向を目指しているのか、
それとも戦争をする社会構造に加担して
いるのか。考えるのを放棄しない」
(P224 奈)
「自由がわからないことは責任がわからない
ということと似ている」(P224 奈)