黄色い家

著者 :
  • 中央公論新社 (2023年2月25日発売)
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本棚登録 : 1376
感想 : 152
5

びっくりするくらいものすごくおもしろかった。おもしろいって言っていいのかわからないけど、こわいもの見たさというか、こわいのに目を離せないというか、心わしづかみにされたようにぐいぐい引き込まれて、後半なんて本当に読むのがやめられなかった。
水商売しかできないシングルマザーの母親に育てられて貧しい生活を送っていた主人公が、15歳で家を出て母の友人や知り合った女の子とスナックをやって一緒に暮らしはじめ、やがて犯罪に手を出していく、っていう話。

最初のほうは、例えば、子どもが、家のなかで服がたたまれているだけで明るい気持ちになるとか、繁華街に出かけたりしたことがないとか、映画で見るようなことは自分には関係ないことだと思うとか、わたしなんかがあたりまえと思ってきた普通の生活を与えられない子どもがいて、だれからも守られず、気にかけられず、救いの手も差し伸べられないっていうのがすごく苦しくて悲しかった。そういう親の元、家に生まれたっていうだけなのに、普通の生活ができない、普通に働くことすらできないっていう。そうしたら水商売とか犯罪に手を染めるしかない。正しいことではないけど間違ってはいないというか、それしかない……。

でも、ユーモアがあって笑えるというか滑稽に思える部分も多くておもしろいし、主人公にはじめて友達ができてみんなで働いたり一緒に住んだり、途中、青春モノのような感じもして読んでて楽しいところも多かった。

あと、カードを使った犯罪とか(これがいわゆる「出し子」ってやつなのか!と。言葉としては知ってるつもりになっていたけど、実際こういうことをこういう感じでやっているんだな、とリアルにわかる感じがして興味深かった。そして、やっぱり、正しいことではないけれど、生きていくためにはこうするしかないって人もいるんだろうなとも思った。)、死んでしまった人の話とか、ミステリとしても読めそうな感じ。

設定が当時のことを20年後くらいに思い出すって形になっているわけだけど、結局、20年後もあまり変わらず幸せにはなっていないっていうのが、なんだかけっこうつらかった。ラストは、本当のことや正直な気持ちを伝えられたっていうことで少し救いを感じる部分もあったし、そして、ひどいことばかりじゃなくて心から楽しかったこともよかったこともあったと主人公が思えたことも救いだったけど、登場人物のひとりが言ったように、すべてはもう終わったことだ、っていうのも感じてせつなかった。終わるまで待つしかない、っていうような会話も途中であったけど、そんなふうに、人生過ぎていってしまうな、というか。
……というふうに読み終わった感情はけっこうぐちゃぐちゃに乱れていて、そのへんもなんだかすごいものを読んだという気がしたり。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月6日
読了日 : 2024年1月6日
本棚登録日 : 2024年1月6日

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