カフカ ポケットマスターピース 01 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (808ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087610345

作品紹介・あらすじ

カフカの面白さを1冊に凝縮。新訳『変身(かわりみ)』を筆頭に、短編『お父さんは心配なんだよ』長編『訴訟』など、さらには彼の遺した書簡集や公文書も加え、その魅力を現代に伝える。(解説/多和田葉子)

感想・レビュー・書評

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  • 多和田葉子さんの新訳『変身(かわりみ)』に惹かれて。

    ‘‘グレゴールザムザがある朝のこと、複数の夢の反乱の果てに目を醒ますと、寝台の中で自分がばけもののようなウンゲツィーファー(生け贄にできないほど汚れた動物或いは虫)に姿を変えてしまっているのに気がついた。’’p9

    カフカの『変身』というと、ある朝主人公が虫になっちゃうやつ、と認識されている方も多いですよね。
    それはそれで間違いではないのですが、正確にはウンゲツィーファーという言葉で記されているそうなのです。

    このウンゲツィーファー、ひきこもりの暗喩として見て取れる、という解釈をはじめて知ったのは斎藤環先生の著作だったと思います。カフカの時代にはhikikomoriなんて言葉はなかったのでしょうが、同様の状態はあったのでしょうか。

    私は今回再読して、これは、モンスター小説を、モンスター(グレゴール)側からも、被害者(この場合は家族)側からも描いたダブル・ホラーの面もあるかな、と思いました。グレゴール側からも見ても、家族側から見てもホラー。

    襲ってくるわけじゃなく、同じ家にいるだけで、忌み嫌われるんですね。

    今、ヴィラン(悪役)映画って流行ってますよね。そんな感じ。

    グレゴールは体は化け物じみたものに見えていて、人間の言葉も発せなくなっているけれど、中身はグレゴールのままなのです。
    家族のほうも、一家の大黒柱から、突然モンスターに変身してしまった息子(妹から見たら兄)を持て余し、見たくない、存在すら認められないものに変わります。

    両者のお互いの認識の違いがつらく、せつない。

    また、グレゴールは、言葉を理解してないと思われてるけれど、実は完璧に理解していて、家族に姿を見られないように、空気を読んで、家具の下に隠れちゃったりしていて、胸が痛みます。

    ある意味衝撃のラストシーンは、ホラー映画で、モンスターが倒された後のエピローグ的で、グレゴールに感情移入してきた身としては、複雑な、唯一無二の、この小説でしか感じ得ない(かもしれない)思いを感じます。

    多和田さんは再読してみて、この小説に「介護」を読み取ったのだそうです。

    今なお色褪せない古典。

    後はおいおい読んでいきます。
    何しろ803pもあるので…。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      5552さん
      「名著の話」は出たばかりだから、文庫化はまだ先だなぁ、、、
      5552さん
      「名著の話」は出たばかりだから、文庫化はまだ先だなぁ、、、
      2022/04/08
    • 5552さん
      猫丸さん

      デ・パルマがディ・パーマと呼ばれていたんですね。知らなかったです。
      不思議ですね。日本語表記が違うだけで全然イメージが違い...
      猫丸さん

      デ・パルマがディ・パーマと呼ばれていたんですね。知らなかったです。
      不思議ですね。日本語表記が違うだけで全然イメージが違いますね。

      『名著の話』数年後の文庫化をお楽しみに!
      続編も出ないかな〜。今度は視聴者投票で取り上げる作品を決める、とか。
      2022/04/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      5552さん
      KADKAWAも遣ってくれるワ。三作を厳選するなんて!と思っていたのですが、売れれば第2弾?出ますよね、、、

      読み方のラス...
      5552さん
      KADKAWAも遣ってくれるワ。三作を厳選するなんて!と思っていたのですが、売れれば第2弾?出ますよね、、、

      読み方のラストは、グルーチョ・マルクス。好事家?の間ではグラウチョ・マルクス。。。それより発音的にはマークスらしいが、、、
      2022/04/09
  • カフカの新訳を多和田葉子さんが手掛けていると知り再読
    といっても『変身』のみ再読で、他11編は初読なり。

    全作品についての感想は控えて
    一番ボリュームがあり且つ読了後あれこれ考えを巡らした『訴訟』について書くことにします。
    ちなみにこの訳は多和田さんではなく川島隆さんです。

    訴訟の手続きなんて冗長で煩雑で救いようがないさ!
    そしてそれって訴訟だけに限らないよねぇ。
    っていう主題だと解釈していたのだけど
    まさかのラストを迎え呆然…
    身に覚えもないし拘束されないくらいだし
    罪はないのに訴訟されたのだと思ってた。
    じゃあ死刑になるくらいなんだから
    それ相当の罪を犯したということなのか。
    わからない…多和田さん、help!
    この主人公は制欲を持つが故に有罪判決を受け
    法律の力でその無罪を証明するのは不可能であり
    性を有罪とする判決が全くナンセンスであることを明らかにしている。
    と、多和田さんは解説していた。
    なるほど…
    それにしても悲惨な結末すぎやしないかと思うけれど
    『変身』も同じことが言えるので納得。
    他にも様々な解釈がされているらしい。
    多角であることは読書の醍醐味でもあるもんね。
    すごいわ、カフカ!

  • 読まなければと思っていて、新訳が出たので、やっと読破。
    読むことはできたが、理解までは至らなかった。

  • フェリーツェ・バウアーへの手紙攻撃怖ぇ。
    現代だったらLINEが既読になった瞬間に返信来ないと騒ぐんだろうな未読のままでも騒ぐんだろうな怖ぇ。
    でもそんな人だからこそ作品に潜む緊張感が出せるんだろうな。

  • 再読の『変身』をはじめ、どの作品も最後の最後までどこに向かっていくのか方向性が読めないところが面白い。

    中でも『流刑地にて』は衝撃でした。
    とある植民地の島を舞台に、公開処刑の装置の仕組みについて嬉々として説明する士官。それを半ば冷めた目で眺める旅行者達。
    そして何故テーブルの下に墓石がある?想像するとかなりシュール。

    『訴訟』についても、解説を読むと色々な読み方ができて再読したくなりますね。

    またカフカの書簡についても、かな~りウザイ性格(ストーカーじみてる!笑)が伝わってきて、これまた楽しめました。

  • この分厚さがとてもいいです。

  • ウンゲルツィファーはやりすぎだと思うけど、「お父さんは心配なんだよ」というのは、オドラデクを愛でるお父さんの姿がイメージされてとても心が暖かくなる。

  • カフカと言えば変身が凄く有名でいつか読んでみたいと思っていたが、夢の中にいるような不条理と現実味と受け入れやすさがとつてもなく不気味だった。
    グレゴールの変身にいたっては絶望を感じずにはいられないが、太宰や三島の絶望とは違う、運命的な悲劇を感じる。
    歌姫ヨゼフィーヌも人間に置き換えても十分に伝わる内容であるし、巣穴にいたっても人間の臆病さと自己都合の解釈と停滞による嫌悪だったり、深層心理を文学として表現し、不安にさせるのが上手かった。
    変身はある朝突然芋虫のような姿になってしまう主人公グレゴールザムザ。
    彼は親の借金と妹の生活を支えながら、多くの苦痛と犠牲を強いられていたが、絶望はしておらず、咎められる悪いことは決して行動にしていない。そんな彼に突然の不幸が舞い降りたが、その結果、家族まとめて不幸の泥沼に陥り、本人もその有り様をまじまじと見せつけられる、家庭内がいわゆる地獄となってしまう。一概に善とは呼べないものの、因果と応報していないことそれ自体に不条理を感じる。カフカの作品では不条理な幸せは訪れる事が無く、釣り合いのとれていない不幸のみが間髪入れずに与えられている点に、作者の伝えたいものや好みが見えかくれしているような気がした。
    妹の自らを悲劇の中心に置く陰惨な優越感を、尽くす事の誘惑という表現には感心した。人の心の底にある一部の汚い、疚しい、見たくもない感情をぶつけてくるのは凄いと心の底から思う。これまでの海外の作者の作品はちろちろと見たけども、今のところこれが一番の傑作に感じる。

  • 三宅香帆さんが紹介:
    『お父さんは心配なんだよ』
    小さい問いから大きな問いへ結びつける読む方法で、この小説は読める。この技術、海外の小説を読む時にありがちな、「なんかよくわからないメタファーとか出てきて、よく分からないうちに終わってしまう話」を読むときに最適。
    <大きな問い>
    ・オドラデクってなに?
    <小さな問い>
    ・小説最後の文章に対する違和感
    ・「お父さん」は原文だと「世帯主」「主人」「家主」とも訳せる

    三宅香帆さんの解釈では、オドラデク=人の孤独ではないか。
    カフカの研究者によると、
    オドラデクは、カフカの書いていた小説たちだとか、自分自身の分身だとか、自分の記憶たちだとかいろんな解釈がある。(『読んだふりしたけどぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』p242)

  • 変身、流刑地にてのみ読了

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著者プロフィール

1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。

「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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