- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087715705
作品紹介・あらすじ
江戸時代、“女性"という立場で、清心尼はいかにして有象無象の敵を前に生き抜いたのか。「武器を持たない戦い」を信条とした、世にも珍しい女大名の一代記。著者初の歴史小説にして新たな代表作。
感想・レビュー・書評
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歴史小説が苦手なことを忘れて読み始めてしまった。私には難しかった。
かたづのが語る、羚羊に話しかける少女だった袮々は、苦難の連続の中出家して、心労の絶えない清心様になっていく。羚羊の角がうまい具合に物語にハマっているのがすごい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸時代のはじめに、唯一実在した女大名を描いた作品。
彼女に出会った羚羊を語り手に、ファンタジックな展開を見せます。
慶長五年(1600年)、角を一本しか持たない羚羊が、目力の強い少女に命を救われて、一目惚れ。
八戸南部氏20代当主である直政の妻・袮々でした。
羚羊は城に出入りし、袮々を見守ります。
寿命がつきた後も一本の角に意識は残り、いざというときには思わぬ活躍をする南部の秘宝・片角(かたづの)となるのでした。
幸せな年月が続いたある日。
城主であるまだ若い夫と幼い嫡男が、遠方で命を落とします。
叔父である本家の利直の謀略と思われますが、袮々は女ながらに領土を守ることを決意。
天下分け目の時節、跡継ぎに任せられるときまでと、駆け引きを重ねながら。
家臣との結婚を迫られたり、娘の婚約をほごにされたり、頼りになる人物を召し上げられたり、遠野に配置換えとなったり。
戦で大事なこととは、やらないのが一番。
どちらに参戦しているか、存在を示すだけでいい場合もあると。
父祖の教えを守りつつ、あの手この手で家臣と領民を守ろうと懸命に働く袮々。
河童が出てきて、遠野の領地とつながったり。
「かたづの」として秘宝となっている羚羊の出会う不思議なものたちとは‥
袮々の苦労が実感ありすぎて、その運命が哀しい部分と、妖怪?たち(複数!)の存在感の強さが、摩訶不思議な混ざり具合。
まさかこんなところまで、絡んでくるとは。
河童に惚れられていたという話を、険悪だった母娘が互いにして大笑いするシーンが印象に残りました。
第28回 柴田錬三郎賞
第4回 歴史時代作家クラブ賞作品賞
第3回 河合隼雄物語賞
確かに、インパクトの強い、なかなか出会えない物語です☆ -
歴史に詳しければ、さらに内容がわかり楽しみが倍増しそうなのなのだが、なにぶん歴史に疎くてそこまでに至らなかった。
やっぱり物語は読んでいるときにどこまで頭の中でイメージできるかだわ。
戦だなんだと言っている時代なら、先のことは全くと言っていいほどわからないので、自分だけの心の拠り所があれば、それだけで随分気が休まるのではないかと思う、それが角だったのだなぁ。
何でもいいけれど、頼れる、信じられるものがあるっていいな。 -
江戸時代の初期を生きた、東北南部八戸の女城主祢々の一代記。
地方の領主が主人公という、私には新しい出会いの時代小説。
著者が書くと、時代ものもこんな感じになるのだなと思いながらの読書でした。
地理や時代背景に馴染みがなく、初めはなかなか物語に入り込めなかったため、敢えて南部の歴史を少し調べてから読み進めました。
おかげでかなり良い時間を持つことが出来たと思っています。
語りべが羚羊の魂?だったり、河童やペリカン、白蛇など、その地域に伝わる話を織り交ぜた不思議な趣のある話でした。
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青森・八戸に南部氏という一族がいた。清和源氏の末裔という。
鎌倉から続く家柄であったが、江戸初期、当主と幼い世継ぎが相次いで命を落とす悲運に見舞われる。親戚筋でもある三戸南部に吸収されるかに思われたが、夫とわが子を失った若妻・祢々は、夫に代わり、八戸根城の主人となることを決心する。
これは、江戸期唯一の女大名、祢々(清心尼)の物語である。
著者初めての時代小説である本作は、しかし、そんな前置きが想像させるような、鹿爪らしいお話でも小難しいお話でもない。
何せ、語り手は、少しおっとりした羚羊(カモシカ)の「角」なのだ。
祢々と夫が結婚してまもなくの頃、角が一本しかない珍しい羚羊が、祢々の前に姿を見せる。一本角の羚羊は、土地の伝説から「天竜の片角(かたづの)」と呼ばれ、祢々のお気に入りとして、城に出入りするようになる。祢々のよき友となり、やがて生まれた子供たちのよき遊び相手にもなった。羚羊としての命が終わった後も、魂は角に宿り、南部の秘宝「片角」として祢々の近くに仕え、その危機を救うことになる。
小柄ながら度胸のある祢々は、次々と生じる難問を解決し、「殿様」として八戸を統べていく。美しく気っ風のよい祢々を慕うのは、羚羊だけではない。河童も小猿も、土地に残る怨霊も、影に日向に祢々を守り、困難から救う。
腹黒く、野望を抱く叔父。血気盛んな家臣たち。娘の悲恋。老母の死。遠野への国替え。
さまざまな困難を乗り越えても、なお襲いかかる難事に、祢々は時に悪態をつきながら、時に涙しながら、しかし敢然と挑んでいく。
本作は、時代小説でありながら、遠野や八戸の伝承・伝説を巧みに織り込んだファンタジーでもある。2つの融合を可能にしているのは、みちのくという土地の持てる力でもあるだろう。
著者の筆は、実在のものに少しずつフィクションを混ぜ合わせるさじ加減が嫌みなく、絶妙である。豊富なバックグラウンドがありながら決して押しつけがましくならずに御する「力量」が生む「爽やかさ」が感じられる。
幾重にもオマージュが重ねられ、フィクションの世界に遊ぶ楽しさを存分に味わえる。
長い時を経て、祢々も疾うに世を去り、片角は江戸城のあった町にいる。見せ物となる予定の場所で、片角は西洋のタペストリーに出会う。身分の高い女性と、側にそっと寄りそう一角獣。まるで、あの方と私。織り込まれた文には、「我が唯一の望み」と書かれているという。あの方の望みは、そして私の望みは何だっただろう。
片角の想いはふるさとへと飛ぶ。
そして読者もまた、物語の幕切れに、遠野へ八戸へと誘われるのだ。潮風で胸を満たし、雲海に遊び、羚羊や河童、ももんがと戯れる。
河童や片角を育んだ風の香りを、遥かに思い描きながら。 -
八戸に実在した女大名清心尼
愛する夫、幼い長男、泣く泣く政略結婚で嫁がせた愛娘までが南部藩を牛耳る叔父に奪われる。
頭に一本だけ角を持った羚羊が生きているうちは近くに置いて可愛がり、死んでからも角だけを袋に入れていつも身につけていた。
羚羊は「かたづの」となって清心尼を守り、時には身近なものに取り付いて危機を救う。
八戸から遠野に国替えさせられて続くこの物語には、遠野らしく河童も重要な役割を果たす。
女性を主人公とした女大名の一代記だが、ファンタジックな趣が面白い秀作 -
江戸時代、東北の八戸、遠野に実在した女大名のお話。謀略と争い事の絶えない時代に気丈に奮闘した彼女の、守り神のような存在である一本角が語り手、というユニークな手法で語られる。
ここぞというときに元カモシカの角が人間に憑依したり、時おり登場する河童のサポートなどが、堅くなりがちな時代物をうまく和らげている。ただ、史実を元にした女一代記であるためポイントが絞りきれず、やや散漫な印象も。
忙しい年末年始を挟んだため、読み終えるのに時間もかかってしまったから、そんなふうに感じたのかも。