蠕動で渉れ、汚泥の川を

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 107
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087716665

作品紹介・あらすじ

湊かなえ氏激賞!!

──湊かなえ

貫多、セヴンティーン!
人生はまだ、始まったばかり。
初めての洋食屋でのアルバイトと、波瀾万丈の日々。
家を追われ、猛女に怒鳴られ、途方に暮れる。
待望の最新長篇!

「確かに自分はにはなりつつあるが、
しかしながら、まだには至っていないのだ」

白衣を着てコック帽をかぶった北町貫多は、はじめての飲食店でのアルバイトにひそかな期待を抱いていた。
日払いから月払いへ、そしてまっとうな生活へと己を変えて、ついでに恋人も……。労働、肉欲、そして文学への思い。善だの悪だのを超越した貫多17歳の“生きるため"の行状記!

感想・レビュー・書評

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  •  2年前の初長編『疒(やまいだれ)の歌』につづく第2長編だ。

     『疒の歌』では北町貫多(≒西村賢太)が19歳であったのに対し、本作は17歳の貫多を描いている。港湾人足をやめ、初めて飲食店で働いた日々が素材である。

     ここ何冊かの短編集が低調であったのとは対照的に、本作には一気読みさせる面白さがある。
     ただ、『疒の歌』が賢太の作品では異例に青春小説然としていたのに対し、本作はユーモア小説という趣だ。『疒の歌』にあった哀切さは希薄で、むしろ笑いの要素のほうが強いのだ。貫多の言動やモノローグが、随所で笑いを誘う。

     勤め人としての資質が決定的に欠落している貫多が、当初はうまくやっていたものの、しだいに人間関係に亀裂が入り、最後は勤め先と決裂する……という骨子は、『疒の歌』とまったく同一である。
     10代の貫多は、そのような失敗を何度もくり返していたわけだ。

     本作は、決裂に至る展開に緻密な計算と工夫がある。事実がかなり潤色されているのだろうが、ミステリのどんでん返しのように読者の意表をつく展開なのだ。また、勤め先の飲食店主とその妻など、登場人物の造形も丁寧である。

     その点では、『疒の歌』からの技巧面での進歩が感じられる。
     ただ、好みの問題だが、私は『疒の歌』のほうがずっと好きだな。

  • 相変わらずの西村節、ほんとに楽しい。どうせいつかしょうもないことをやらかすんだろうなーいつそれが来るのかなー辛いなーと負のドキドキ感があるのがたまらなくいい。
    著者の作品では珍しい長編だけど、溜まって溜まってカタルシスが来るのがほんとにたまらなくスカッとする。負のスカッとだが。
    やっぱり女性に対する期待が毎回裏切られるが故のミソジニー的な記述が一番面白い。昔付き合った女の口が臭かっただとか、バイトの女子大生が臭そうな気がするだとか、新しく入ったバイトの女の子のキュロットを臭ったら卒倒しそうなほど臭かったとか、著者の中では女とにおいというものが不可分に結びついている感じがする、

  • ジャンルは私小説なのだが、この「貫多」シリーズは水戸黄門やサザエさんとジャンルを同じくする「すばらしきマンネリもの」だ。目指すゴールは主人公、貫多の爆発。

    中卒、職なし、家賃滞納中である貫多がまず行動するのは職探し。この設定は本シリーズのお約束。ベストセラー「苦役列車」では倉庫管理に就いた貫多だが、今回の仕事は洋食店で弁当配達と調理場の片付け。

    この設定だけでただものならぬ不穏な空気が漂うのが本シリーズの特徴。その空気をさらにどす黒く染めるように、店主の奥さん、バイト仲間の女子大生が登場。その上、よせばいいのに、店主は店の屋根裏部屋を貫多に提供するという暴挙。

    これで燃料は揃い、後は貫多の爆発。今回の爆発も実に美しく、芸術的に見事だ。

    最大の見せ場は女子大生のロッカーから着替えを匂い、後悔する貫多。これほど変態中の変態を描いた小説は他にないだろう。

  • 2023/04/21

  • 相も変わらず屑だ。だがそれがいい。人間はかくしてこうあるべきなのではないか?そう考えずにはいられない。そんなわけはないんだけれども。

  • またか、と思わせる主人公の登場。いい加減辟易しそうなものだが、面白いんだから仕方ない。

  • 貫多、十七歳。
    「自分の駄目の上にも駄目を塗り重ねてきた人生」。
    頑張って、欲望を我慢して週払いの食堂の仕事に就いたものの、貯められず、家賃滞納。食堂の上に転がり込んで寝泊まりするも、ビール飲んだり翌日のお店の食事食べたり、募金箱からお金取ったり。自意識も過剰で、人とやっていくのもむずかしい。足掻いてるけど、つらいー。

  • 馬鹿と天才は紙一重というか、もはやクズとかろくでなしとかを飛び越え、貫多こそ真のエンターテイナーなのではないかと疑ってしまうほど。
    やっていることがもはやコントの域。下手な芸人より面白い。本人は切実なのだろうけれど。

  • かくすれば、かくなるものと知りながら、止むに止まれぬ貫多魂(松陰先生申し訳有りません)
    貫多17歳にして飲食店勤務のおかげで、つかの間の平穏&人並みの極ささやかな幸福を手に入れつつあるかに思えたが・・・結局は貫多の妙に気高い性格により、クライシスを迎えてしまう。
    こんな貫多の性格は程度の差こそ有れ、誰の心にも有るに相違ない。それ故に人を引き付ける小説なのであろう。
    貫多は江戸川区船堀辺りの出身だったのか。個人的にはかなり馴染みのある土地であり、都築道夫を愛読するなど、もはや他人とは思えない。
    そろそろ予定調和でない何らかの進展を期待しています。

  • 著者の十八番と言える下衆な内容。西村作品は概ね読んだが、傑作といえる内容。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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