- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087716757
作品紹介・あらすじ
いつか見つかるだろうか、私の、私だけの。
祖母の法要の日、一堂に会した親戚たち。
同棲していた恋人から家を追い出され、突然実家に帰ってきた娘、梓。
元体育教師、「実行」を何よりも尊びながら、不遇な子供時代にこだわる母、祥子。
孤独を愛するが、3人の崇拝者に生活を乱される大叔母、道世。
死ぬまで自分が損しているという気持ちを抑えられなかった祖母、照。
そして、何年も音信不通の叔父、博和。
今は赤の他人のように分かり合えなくても、同じ家に暮らした記憶と共有する秘密がある。
4世代にわたる一族を描き出す、連作短編集。
【著者略歴】
1983年埼玉県生まれ。筑波大学図書館情報専門群卒業。2005年、「窓の灯」で文藝賞を受賞し、デビュー。07年「ひとり日和」で芥川賞、09年「かけら」で川端康成文学賞を最年少で受賞。2019年4月現在、東海大学の文芸創作学科で教鞭を取っている。他の著書に、『やさしいため息』『わたしの彼氏』『快楽』『めぐり糸』『繭』『ハッチとマーロウ』『ブルーハワイ』など。
感想・レビュー・書評
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青山七恵さんの作品は、前回「風」を読んで、イマイチ入り込めなかったのだが、この作品は新聞の書評で紹介されていて、読んでみたくなった。
ああ、読んで良かったと思う。
これといった事件があるわけでも、和気あいあいとした家族物語でもないので、好みは分かれるかもしれない。
しかし、自分の人生を否定はしないけれども納得もしていないアラフィフには、心の奥にある何かを物語にして見せてくれたような小説だ。
3世代に渡る家と家族の物語。
3世代のそれぞれの立場から、自分自身と家、家族についての思いが綴られる、リレー式短編集。
それぞれの視線は、どこか冷めているのだが、それがかえって読み手の思考を深めてくれる気がする。
血の繋がる家族でありながら、それぞれの個性は全く違い、お互いの考えていることも、手をすり抜けるように掴めない。家族より、他人の方に親近感を覚えてしまったりする…。それでも、家という場所に半ば縛られている。
亡くたった母、照がどういう思いで生きていたのか、ずっと想像を巡らせ続けてきた娘、祥子(59歳)の気持ちが、自分とは全くタイプの違う人物であるのに、よく分かる。
私にもそういう日がいつか来るのだろう。
登場人物の中では、道世おばさんの潔い生き方に憧れる。
2020.3.17
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親戚なぁ、、、ど田舎から東京へ飛び出してきて実家に寄り付かなかった人種としてはなかなか、、、うーん耳が痛いというかなんというか。。。親戚のおばさんや両親・祖母との距離感を改めて考えました。年末年始の帰省を控えていて尚更。自分の家庭を持ったことで自分の親類との関係を見直した経験もあるし、今後もっともっと年齢を重ねたときにどう心境が変わっていくか思考しました。
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法事で一堂に会した三世代をめぐる家族の連作短編集。
同じ家で育ち、暮らしを共にしていても、やがて子どもたちは巣立ってゆくし、新しい家族と新しい家をもつ。
それはすこし寂しいことのようにも思えるけれど、それを上回る安心や安らぎを感じさせてくれるような話でした。大人になっても年老いても、私という人間を足元からどっしりと支えてくれるような。
そういう家を私もつくっていこう。「住む」ではなく、ただ「いる」という(それこそ海鼠のような)生き方に憧れた時期もあったけれど、本作を読み終えた今は素直にそう思える。娘たちは今のところ確かに「うちの子たち」なのだから。やがて彼女らにとっての実家と呼ばれる、そういう場所に私は暮らしている。 -
てえ!
明日することをつらつらと考えながら眠りに落ちるのはとても幸せで、そこが家なんだなと思う。
私もこれまでいくつかの場所を経由しているのだけど、帰りたいなと思い出す場所はいつも、初めて一人暮らしをした街でその頃の家である。いつか今いる場所が家になるといいのだろうなとぼんやり考えながら眠ることにする。 -
同じ家族でも、それぞれが想う自分の家は全く違う。
一人一人が理不尽の埃をためながらも、日々を暮らしている。 -
図書館返却日が来てやむなく返しました。
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家族4代が、それぞれの家族の中での自分を想う。自分と家族が暮らす家を。
おばあちゃんから娘、息子まで、現在から過去と、章が変わるたび視点が変わるので、途中でこんがらがってしまい読みにくかったですが、その分かり難ささえ、家族の関係や感情に似てるようにも思えて、ラストまで読んでそう思えてきました。 -
じわじわと面白かった。
各章で誰の話かあたまがこんがらがるのだけど、進むにつれこれまで見えなかった人物の背景や一面がみえてきて、家への思いに収束していく。
印象的な章は大叔母道世さんと3人の近所のおじさんたちの集まる小さな商店の話。1人で好きなように生きていても、限られていても気のおけない人が毎日やってきてたわいもない日常を過ごして話して帰っていく。それ、幸せだなぁ。 -
血脈で続いていく「家」にはその時代を生きた人々がいて、個々の感情がある。その感情はたとえ母娘の間で理解できなかったとしても、その次の世代の人はわかるかもしれない。そうやって続いてきたものが、ある時、自分の前に豊かに差し出されていることに気がつくのかなあ、と。
個人的には、母の祥子に気を遣っているのに空回りしている口数の少ない梓が好きです。その梓が仕事をやめて実家に帰ってきても、その事実を問いただすのでなく、めちゃくちゃ驚きながらすぐ受け入れる祥子も好きだったりします。