ミーツ・ザ・ワールド

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717778

作品紹介・あらすじ

死にたいキャバ嬢×推したい腐女子

焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の由嘉里。
人生二度目の合コン帰り、酔い潰れていた夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会う。
「私はこの世界から消えなきゃいけない」と語るライ。彼女と一緒に暮らすことになり、由嘉里の世界の新たな扉が開く――。

「どうして婚活なんてするの?」
「だって! 孤独だし、このまま一人で仕事と趣味だけで生きていくなんて憂鬱です。最近母親の結婚しろアピールがウザいし、それに、笑わないで欲しいんですけど、子供だっていつかは欲しいって思ってます」
「仕事と趣味があるのに憂鬱なの? ていうか男で孤独が解消されると思ってんの? なんかあんた恋愛に過度な幻想抱いてない?」
「私は男の人と付き合ったことがないんです」

推しへの愛と三次元の恋。世間の常識を軽やかに飛び越え、幸せを求める気持ちが向かう先は……。
金原ひとみが描く恋愛の新境地。

【著者プロフィール】
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)
1983年東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。04年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。12年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。20年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 銀行に勤める由嘉里は、合コンで泥酔して倒れたところをキャバ嬢のライに助けられ、その流れで一緒に暮らすことになる。

    推し活が生きがいで腐女子を自認する由嘉里の語りが軽妙で、これまでの金原作品とはかなり雰囲気が違って戸惑うが、内容は相当深くて重たかった。

    由嘉里は、自分を肯定してくれ、何にも執着せず消えたいと願っているライに惹かれ、彼女が何とか幸せになって生きてくれるように手を尽くそうとする。

    多様性が言われて久しい。いろんな価値観や生き方を互いに尊重し認め合うことがよしとされる。確かに恋愛して結婚して子どもを育てて、という型どおりの「幸せ」の押し付けは違うと思う。

    では、生きたくない、消えたい、消えているのが本来の自分、というライの「死にたみ」をそのまま肯定していいのだろうか。事情を聞いたり、頑張って生きようよ、などと励ますのは、とんでもなく野暮でダサい行為なのか。難しい問いに由嘉里と一緒に悩んでしまった。

    ハッピーとは言い切れない結末だけど、やれるだけのことをやった由嘉里が清々しくて救われる。尊重はしても迎合はしない。テーマは重いが、由嘉里とホストのアサヒ始め、オシン、ユキとのやり取りが温かく楽しかった。

  • (引用)
    なんかさ、ニ次元と三次元とか、愛とか恋とか、好きとか愛してるとか、恋愛か友情かとか、恋愛か憧れかとか、世の中そういうの細分化しすぎだよ。自分が一緒にいて心地いいものとか、好きだって思えるものを思う存分集めて愛でればいいじゃん。
    ライの態度は基本的に流しだ。実態を掴まれまいとしているかのように人からの言葉や質問をさらっと流す。ぶつかり合うことがない。
    皆何かこういう個人的な救いをストックして、辛いときに頓服のように利用して生き延びているのかもしれない。
    えら呼吸のライが、陸でも普通に生きられる手だてがないか、模索し続けているのだ。水槽の中で普通に生きていられるのなら、私が水槽を持ち歩いて暮らせばいい。
    私たちの街では、いつも人が入れ替わっていくのよ。どんなに頻繁に通ってる常連だってある日突然来なくなったりする。それはもう何人も来ては消えて、二度と会わない人もいれば、二年後とか五年後とかにふらっと現れる人もいる。
    これから先ゆかりんが誰とどこに住むかは、ゆかりんが決められる、っていうか、ゆかりんが決めなきゃいけないんだよ。今ゆかりんは自由で、ゆかりんを縛りつけるものは何もない。自由自由って皆言うけどさ、自由を手放す自由もあると思うんだよ。だから何か、俺が決めてやろうかなって気になったんだよ。
    生きていても死んでいても彼女の存在を祝福したい気分だった。すごく刺さる本を読んだ時その著者がすでに死んでいても悲しくならないし好きな気持ちは変わらない。

  • 自分の常識は必ずしも正しいとは限らない。
    新宿歌舞伎町の中で、歩いているホストだとか
    銀行で働いているOLがイメージ通りの人格や人生を歩んでいるわけではない。
    それらを見つけるためには、人と過ごし様々な生き方を見ることで自分のパラダイムを無くしていくことができる。
    それは人だけではなく、感情にも言える。
    愛だとかそれが人生を豊かにしてくれるとは限らない。
    何かに縋るのではなく、自分の目で様々なことを知り自分らしく生きていくこと・誰かを干渉しないことが自分にとって良い選択になるのではないだろうか。

  • 作者の金原先生自身はギャルなのに腐女子への解像度高すぎて助かった

  • 焼肉擬人化漫画「ミート・イズ・マイン」を愛する、29歳腐女子で銀行員の由嘉里と、強い死にたみ(希死念慮)を持つ美人キャバ嬢のライが出逢い、ライの住む広いマンション(だがゴミ屋敷)で同居し始めるところから始まる物語。

    ここ数年金原さんの小説はけっこう読んだけど、この作品がいちばんコメディ味があると思う。とは言え金原さんの深く重めの思想が散りばめられているからジャンルはコメディではないのだけど、「味はある」という意味で。
    なんと言っても「ミート・イズ・マイン」(略してMIM)の内容の作り込みがすごい。由嘉里の推しは臓物系のトモサンカクで、推しカプは…とか、腐女子の世界を描くににしても、なぜに焼肉漫画?という不思議な面白さ。
    その界隈のオフ会では焼肉を食べに行くのが定番、とか、本当にありそうで。笑

    由嘉里は美人とは言えない、恋愛もしたことがないアラサーで、だけど銀行員でそれなりに収入はあるし、何と言ってもオタ活という趣味があって人生はけっこう充実している。
    「平均」「常識」を夢見て何気なく始めた婚活の最中、酔っ払いすぎてゲロゲロしていた歌舞伎町でライが助けてくれたことで2人は知り合う。
    ライは美人で、由嘉里はそれだけで羨ましいと思うのだけど、ライには誰にも消せない「死にたみ」がある。
    由嘉里はそれを止めたい。ライと分かり合って、ライに希望を持って生きて欲しいと願う。
    ライをきっかけに由嘉里が知り合った歌舞伎町の人々(離婚寸前のホストのアサヒ、ゲイの飲み屋経営者オシン、やさぐれた小説家のユキ)は、ライの「死にたみ」を否定もしないし止めようともしないけれど、由嘉里のライへの思いも否定しないし止めようともしない。
    ある種の諦めがそこにはあって、由嘉里だけがまっすぐに「諦めない」感情を抱く正当な人間として描かれるけど、一見相容れない同士が仲良くなっていくさまが素敵だ。

    ライの元カレの死に対する哲学とか、物語の端々に、感じ方によっては「希望」になる言葉がたくさん散りばめられている。
    金原さんの小説って、死・暴力・セックス・不倫・オーバードーズ…みたいな世界観が多めだから(偏見でなければ)、希死念慮の感覚はあるにせよ、これまで読んできた作品とはトーンが違った。
    なんか、色々考えさせられた。いわゆる標準や平均とは違う自分なりの生き方とか、生きているうちにだんだん分からなくなっていくものを、今一度求めてみたい感覚になった。

    由嘉里は、何でも聞きたがるし、何でも知りたがるし、何でも理解したがる。そして理解し合いたがる。
    だけど人と人はそうはいかない。曖昧で、グレーな感じでやっていかなきゃいけないことの方が多いし、どうしたって理解し合えないことの方が多い。
    けど諦めないことに希望はあるのかも、とも思う。
    由嘉里がライを追いかけるのは、絶対掴めない推しを追うことに似てるのかも。
    …と考えると、なんて含蓄のある物語だろうか、などと思ったりした。

  • 面白かった…!!!!
    個性的なキャラが沢山登場していて、思いつきもしなかったような色々な考え方に触れて、知ることができて、人生観がめちゃくちゃ変わりました…
    読んでほんとによかった…もう1回読み返したいくらい好きな本になったし、特別な本のうちの1冊になった♪(2023.9.)

  • 2023年11月にNHKで放送された、『最高の一通 〜おせっかいな文具店 シロヤギ〜』という番組の中で、とある脚本家に宛てた金原ひとみのファンレターが読まれた時、「この人の書く作品を読みたい」と思った。

    『蛇にピアス』という作品と作家さんの名前を共に覚えたときから早10年以上、私はまだ作品を読んだことがなかった。
    『蛇にピアス』を初めましてで読むのもいいかと思ったけれど、せっかくなら最近のものを、と思っていくつかあらすじやタイトルを探してみる中で、1番興味を引かれたのがこの作品だった。

    金原の文体は、私にとってあまりこれまで出会ったことのないものだった。
    推理小説の解決シーンでもないのに、文字が、迫ってくる。こんなに余白の少ないページがめくってもめくって続くような視界は、小説を読んでいて初めてだった気がする。
    息を吐くのを忘れたように喋る人たちに近い。それが、視界の、ページの隅々で起こっている感じ。

    ゆかりだったら、ライだったら、アサヒだったら、ユキだったら、おしんだったら、、、をどのシーンでも考えた。
    どの登場人物の人生とも全然似てないのに、どの登場人物も「私だったかもしれない人」のように思えた。だけど多分、きっと世界の人のほとんどは、「私だったかもしれない人」なんじゃないかとも思った。きっと、1ミリも被ってないひとなんて、そんなにいないんだろうな、って。
    それが救いのように思えて、だけどなんの救いにもならない日常で、別の救いに救われながらゆかりが立ち上がりつつあるラストがよかった。

    本を読み始める前に、朝日新聞のネットインタビューを読んで、またより作者に興味が湧いた。
    この人の見てる世界を、その見てる世界から生まれる作品を、もう少し見てみたい。
    他の作品も手に取ってみようと思う。

  • GWはまさかのカレンダー通りです。⁡
    ⁡⁡
    ⁡ってな事で、金原ひとみの『ミーツ・ザ・ワールド』⁡
    ⁡⁡
    ⁡なんか読んだ事ある様な感覚。⁡
    ⁡⁡
    ⁡何なんかな?この感触と言うんか感覚。⁡
    ⁡⁡
    ⁡何かと何かが混ざった感じ。⁡
    ⁡⁡
    ⁡死にたいと推したい。⁡
    ⁡⁡
    ⁡ダチョウ倶楽部さんの熱湯風呂の押すな押すなの生死を掛けた推し芸じゃない
    ⁡⁡
    ⁡宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』と二階堂奥歯さんの『八本脚の蝶』がミックスした感じかなっと。⁡
    ⁡⁡
    ⁡推しがいる幸せ、推せる人生、推しが全ての生き甲斐。⁡
    ⁡⁡
    ⁡方や自分の存在意義が無いと言う想い、存在を消したい思い。⁡
    ⁡⁡
    ⁡必死に生きると、必死に死ぬこと。⁡
    ⁡⁡
    ⁡全くの真逆の事じゃが、どちらも『必死』⁡

    ⁡⁡必ず死ぬ事に向かうって方向は同じなのに、思いや考え方は正反対。⁡
    ⁡⁡
    ⁡ライと奥歯さんの想いは似てる様でも、全然違う様な、じゃが何処か重なる意思がある様な。⁡
    ⁡⁡
    ⁡死の自己選択って本人じゃないと、その想いは分からんよね。⁡
    ⁡⁡
    ⁡わしは生きたい。楽しく悔いが少なくなる様に。⁡
    ⁡⁡
    ⁡2022年30冊目

  • 新宿に生きる人たちとゆかりんの出会い。
    自分が理解できないことに理由を求めてしまったり否定したくなる気持ちは誰しもあるけど、それで相手を傷つけたり遠ざけてしまっているかもしれない

    ライの部屋の掃除する描写読み終わった後、自分もしっかり部屋掃除する気になってとりかかれた。すっきりした。感謝

  • 「自分は消えるべき存在。この世界から消えているのが自然な状態」と漠然とした「死にたみ」を持っているライ。
    そんなライに生きていてほしいと奮闘する主人公の由嘉里。
    どうすればライが生きていく希望を見つけられるのか、そもそもなぜライに生きていて欲しいのか、ライに生きていて欲しいと思うのはライのためではなく自分のエゴなのか、由嘉里は自問自答する。


    人の価値観を尊重するってどういう事なんだろう。
    それぞれの価値観を否定しないのはもちろんだけど、大事な領域に踏み込まないように、傷つけないように、距離を取って関わることだけが正解だとしたら、なんだか寂しい気がする。
    否定せず見守る事しかできない事ももちろんある。
    自分が相手に対して何もしてあげられなかったという罪悪感を感じたくない、というただのエゴなのかもしれないけど、相手に対して「なんとかしてあげたい」「自分が考える心身共に健やかな状態に少しでも近づいて欲しい」と思う気持ちってやっぱりあるよな。


    自分はこの本を読みながら、仕事で関わったある人の事を思い出していた。
    私はその人の細やかな気遣いだとか、茶目っ気だとか、話している時に安心する距離感が好きだったし尊敬していた。
    だけど彼は孤独で、生きることに希望を持っていなかった。

    なんとかしてあげたかったし、今より良い状態へ持って行きたかったけど、彼は全くそれを望んでいなかった。

    こうすればもっと楽に生きられるのに。
    もっと人生を楽しめるかもしれないのに。

    そんな思いと、彼の価値観を大事にしたい思いがぶつかり合って、結局私は何もできないうちに、彼は私がもう関われない所へ行ってしまった。

    「もっとなんとかできなかったのか」という後悔や、「彼にとってはこれが正解だったのかもしれない」という諦めを勝手に感じているのは私のエゴなんだろうか。
    別に彼の人生を救う救世主になりたかったわけではなくて、彼には彼の素敵な所を知っている人に囲まれて幸せでいて欲しかった。
    そんなことを思う事自体が思い上がっているんだろうか。
    こうしてモヤモヤを吐き出すのも、アサヒからしたらダサいのかもな。


    どうすれば違う世界を生きている相手とお互いの世界で生き続けられるのか。
    相手への「理解できなさ」とどう接していけば傷つけずにいられるのか。
    少しだけわかったような、やっぱり全くわからないような。


    以下、心に残った箇所。

    ・「それは自分を殺すことと一緒だよ。ライに対して自分の真実を押し付けようとする時、由嘉里だって苦しかったでしょ。それはそうすることで相手の大切な部分を殺してしまうからだよ。私たちは同じ世界を生きてないんだから。こっちのルールを押し付けたら、向こうの世界は壊れる、向こうのルールを押し付けられてもこっちの世界は壊れる。離れた存在と近くで生きてると、必ずどちらかが壊れる」(P192)

    ・「人が人によって変えられるのは四十五度まで。九十度、百八十度捻れたら、人は折れる。それはそれで死ぬよ」(P192)

    ・「誰かとぶつかって怪我しても膿んでも反目しても喧嘩しても結びついても絡まり合っても溶け合っても溶け合った後分裂しても、結局究極この自分と生きていくしかない。どんなにくっついたとしても人は自分の人生しか生きられないのだ。でも全ての人が自分の人生しか生きられないからこそ、私たちは他人を、愛する人を包み込みその人が物理的にいなくなったとしてもその人の目を通して世界を見て、その人と共鳴しながら生きていくことができるのかもしれない」(P232)

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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