小さなことばたちの辞書

  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093567350

作品紹介・あらすじ

ことばに生涯を捧げた女性を描く珠玉の一篇 19世紀末の英国。母を亡くした幼いエズメは、『オックスフォード英語大辞典』編纂者の父とともに、編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室(スクリプトリウム)に通っている。ことばに魅せられ、編纂者たちが落とした「見出しカード」を見つけると、捨てられたことばを救おうとこっそりポケットに入れてしまうエズメ。ある日、「ボンドメイド(奴隷娘)」と書かれたカードを見つけた彼女は、そのことばに親友のマレー家のメイド・リジーを重ね、ほのかな違和感を感じる。そしてこの世には「辞典に入れてもらえないことば」があることを知ったエズメは、リジーに協力してもらい、〈迷子のことば辞典〉と名付けたトランクにそのカードを集めはじめる……。 大英語辞典の編纂が始まる19世紀末から女性参政権運動と第一次世界大戦に揺れる20世紀初頭、辞典編纂に携わった人々と、学問の権威に黙殺された庶民の女性たちの言葉を愚直に掬い上げ続けた、一人の女性の生涯を描く歴史大河小説。 2021年豪州ベストセラー1位(フィクション部門)、NYタイムズベストセラーリスト入り。「ことば」を愛するすべての人に贈る珠玉の感動作。 【編集担当からのおすすめ情報】 皆さんは、被選挙権を含む女性の参政権が世界で初めて実現したのは、オーストラリア(南オーストラリア州)だったとご存じでしょうか。 本作は、そんなオーストラリアで昨年、ベストセラー1位(フィクション部門)となった小説です。翻訳者の最所篤子さんから本作をご紹介頂いたとき、「そんな国だからこその1位だろう」と納得しました。その思いは、原稿を読み終えた後、このような小説が一番読まれているオーストラリアを、心の底から羨ましいと思う気持ちに変わりました。ジェンダーギャップ指数が世界156か国中120位(2021年)という日本でこそ、男女を問わず広く読まれてほしい小説です。 女性の権利を求め闘った先人たちの努力をつぶさに知ることが出来る一方で、「小さなことばたち」を掬い上げ続けることで、女性参政権運動にすら加われない弱い立場の女性たちにそっと寄り添った一人の女性の生涯に胸打たれる作品です。日頃何気なく使っている「ことば」についても、改めて深く考えさせられます。そしてエズメと彼女を取りまく人々との友情、家族愛、仕事仲間との絆、恋愛、数々の別れに何度も泣きます。 ぜひ、お愉しみ頂ければ幸いです。

感想・レビュー・書評

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  • 「小さなことばたちの辞書」書評 「余計者」にこそ宿る人生の機微|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14794543

    ピップ・ウィリアムズ著 辞書に載らない彼女たちのことばをなかったことにしないで 歴史小説『彼女たちの言葉の辞書』
    https://bit.ly/3AWqA4w

    小さなことばたちの辞書 | 書籍 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09356735

  • 大英語辞典草創期の19世紀末から女性参政権運動と第一次世界大戦に揺れる20世紀初頭の英国が舞台。史実や実在の人物をもとに、架空の人物であるエズメを主人公にした歴史フィクション。


    母を亡くした幼いエズメは、『オックスフォード英語大辞典』編纂者の父とともに、編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室に通っている。仕分け台の下が彼女の居場所だった。ある日、ことばがエズメの元におりてきた。それは「ボンドメイド」(契約に縛られ死ぬまで主人に使える召使)のカードだった。

    助手として働くかたわら、辞典には入らない「小さなことばたち」を掬い上げ続けるエズメの生涯が描かれる。抵抗や戦いではなく寄り添うように。

    序盤から哀しい予感に満ちているように感じられて、なかなか読み進められなかった。
    喪失の痛み。リジーの愛情深さに胸を打たれた。


    bondmaid(ボンドメイド)
    愛情、献身、あるいは義務によって生涯結ばれていること。
    「あたしはねえ、あんたがこんなちっちゃい頃からあんたのボンドメイドだったの、エッシーメイ。そしてね、それを喜ばなかった日は一日もないんだよ」リジー・レスター、一九一五年

  • 何か優しさを感じる題名、勝手に言葉にまつわる幻想譚を予想してたけど、社会派で読み応えのある、非常に心に残る物語で嬉しい誤算。
    いやー、面白かった!

    激動の20世紀初頭英国、編纂助手エズメは辞書掲載から零れる言葉を掬い、蓋された人生、失われていく記憶に…

  • 歴史の中に捨て去られそうな、
    庶民のことば、女のことばを拾い集めるエズメ。
    あとがきにもあったけれど、
    辞書に載っている言葉の説明は実際にオックスフォード英語大辞典に載っていたものであるらしく、編纂に関するほとんどの部分が史実に基づいている。
    そう思って読むと、関わった人たちのことばへの熱意、表には出てこない女性たちの活躍が胸に迫ってくる。

    もう1つ、
    この小説が完全なフィクションなら、
    この小説で書こうとしていたことを考えると、
    戦争が勃発することは完全に余分なストーリーだ。
    でも、実際に戦争が起こり、参政権運動や辞書の編纂は中断させられ、たくさんの人が亡くなり、必要のない悲劇が加えられた。
    歴史に忠実に書かれた物語だからこそ、
    戦争ものではあまり語られない副次的な損失が浮き彫りになっていると感じた。

    そして、正直に言うなら、
    この本を読んで女性の権利と戦争について
    どう考えればいいかわからなくなった。
    エズメが女性参政権を求める運動に参加したり、
    女性の権利について書かれた本でもあるけれど、
    後半には男は過酷な戦場にかりだされ、町から消える。男というだけで。
    戦時下、女性が性別だけで守られる存在であったことは、権利の主張とは相反する気がする…。
    私はこういう社会的な事情はよくわからないけど、
    韓国では男性に兵役があって、
    それは韓国のひどい男尊女卑とつながっているように思う。

    このことを考え出したせいで、
    この本のフェミニズム的側面には触れられなくなってしまった…。

  • 「ことば」というものは
    生きものなのだということを
    歴史と共に感じました。

    生み出される背景があり
    使われる歴史があり
    消えていく状況がある。

    傷つけることも
    支え力になることも
    想いを伝えることも
    ことばがそれを担い、関わり合って
    共に生きることもあれば
    時に見捨てられることもある。

    エズメの拾い上げたことばたちは
    小さなことばかもしれないけれど
    確かにそこにあって、生きていたんだ、と。

    そういったことばこそが
    時代と密接にあり
    リアルを表現した生のことばであったんだ、と。

    過酷な歴史を絡めながら
    地べたを這いつくばるように
    それでも生きてきたという証が
    光となって照らされているようでした。

    あるひとりの女性の生涯が言葉の生命と共に在り
    そのことが言葉を用いて
    このように一冊の本になって形を成している。

    想いをかたちに残すように
    小さなことばたちに、確かに触れられるように
    この本は生まれたんだと思うと
    とても尊く、感慨深いです。

    ことばの力の強さ、
    創意溢れる感動的な大作です。

  • 読了後、いい本を読んだという充実感に浸れる稀有な本。しかも、物語は起伏に富んでいて夢中で読みました。

    「オックスフォード英語大辞典」(以下OED)の企画が提起されたのは1857年。そして、ようやく1918年に「V-Z」の最終第12巻が刊行されました。本書は実在のOED編集主幹・マレー博士の自宅敷地内に建てられた写字室を主な舞台に、辞書の編纂者の父を持つエズメの人生を描く大作です。

    私事で恐縮ですが、辞典やことばが大好きで、専攻も外国語でした。したがい、物語の冒頭、若くして世を去った母の名前「リリー」について父と語るシーンでのエズメのひとこと「じゃあ、ママは〈辞典〉に入る?」は印象的でした。
    このエズメの素朴な疑問がこの物語の根底にあります。そしてエズメは「リリー」ということばを一生残る傷痕と引き換えに守ります。冒頭からエズメのことばに対する愛情が鮮明に描かれた秀逸なシーンと思います。
    幼いエズメは写字室に通い、机の下を遊び場にします。そして、ことばに魅せられるようになり、エズメは編纂者たちが落とした「見出しカード」をこっそりポケットに入れ、トランクに隠します。ある日見つけた「ボンドメイド(奴隷娘)」ということば。このことばは辞典に入れられず捨てられてしまったことばです。エズメは、マレー家のメイド・リジーを思い、このことばが忘れられなくなります。そして、辞典に入れてもらえないことばを集めトランクに〈迷子のことば辞典〉という名前を与えるというのが物語の発端です。

    本書が舞台となる19世紀末の英国は男性社会。OEDもきわめて男性中心の事業でした。編纂チームが男性ばかりだった上、編集方針により収録語を文字に書かれたことばに限ったためです。出典となった文献の書き手は、九割方が男性。したがい、OEDは女性のためのことばや市井で一般的に使われていることばは対象外としたようです。一方この時代は女性参政権運動が始まった時代であり、本書は女性参政権運動も重要なエピソードとして取り上げています。
    ただし、本書は単なるフェミニズム文学ではなく、政治的観点から参政権運動を見るのではなく、ことばという観点から見ているという点です。人間は成長によって使えることばが増え、その意味もだんだんと適切な意味に近づきます。それと同じように政治や社会も成熟してゆくにしたがい、ことばも変わってゆくのでしょう。本書は、そういったことを教えてくれたように感じました。政治を一部扱っていますが、政治的物語ではなく、あくまでも「ことばの物語」です。

    本書にはマレー博士、歴史家のトンプソン他、実在の人物が多数登場します。そして、彼らは架空の主人公エズメの存在感にリアリティを与え、物語に奥行きを与えています。したがい、歴史小説としても面白い本です。さらに、エズメが生きた時代は第一次世界大戦の時代。エズメとリジーを初めとする人たちの友情、父との交流、恋愛のエピソードはもちろん、時代を背景とした描写も優れています。
    しかし、やはり、この小説の別の主人公は「ことば」たちです。物語の終盤に登場した「ボンドメイド」の新しい意味づけには実際、目頭が熱くなりました。ついでに言うと原題は「迷子のことば辞典」。邦題を「小さなことばたちの辞書」と「迷子lost」に限定しなかった翻訳者の最所篤子さんのセンスには敬意を表します。また、翻訳も素晴らしいと思いました。

    本書はTwitterの某書店員さんが「とにかくとにかく読んで」と強く推していた本。素晴らしい本をご紹介頂き、ありがとうございました。本書は528ページという分厚い本。長い時間、読書の楽しみや幸福感を満喫できる本です。お勧めです。






  • 映画「博士と狂人」で存在を知った「オックスフォード英語大辞典」の編纂。
    言われてみれば、編纂作業で映像で表にでてくるのは男性だった。男性ばかりだった。
    この小説は、あの時代の女性たち、中産階級以下の労働者たちの「言葉」。中産階級以上の初老の男の耳には、入ったとしてもなかったことにされる「言葉」。
    その言葉は当然辞典には掲載されていない。
    しかし、それらの「言葉」は当時確かにあったのだ。
    言葉をしゃべっていた人たちも、確かにいたのだ。
    歴史に名を残しはしないけれど。

    この話の主人公は、その「言葉」を集めた。無視をしなかった。

    「若い」「女性」
    「結婚していない」「女性」
    「処女ではない」「子供のいない」(?)「女性」

    その時々の立場で言葉を集め続けた。

    見事に辞典の編纂作業と架空のひとりの女性の人生が交錯し、鮮やかに立ち上がって、「そこ」にいた。

    泣いたからいい本だ、とは言えないと思うのだけれど。
    後半くらいから、泣かずにはいられなかった。
    泣きっぱなしだった。

  • 読み終えるのが勿体なく、久しぶりのしみじみと作品の世界に浸りきっての時間を過ごした。
    言語の定義と社会的にもつ定義との隔たり、時は19世紀から20世紀初めにかけて。
    時代の趨勢に突き上げられるかのようにうねりを高めていく女性参政権運動。

    ヒップ・ウィリアムズは見事なまでの人物類型を適切に配置し、実在の人物のモデルになったであろう人物を巧に織り合わせ、アカデミックな作品に仕上げている。
    「OED誕生秘話」は勿論「博士と狂人の間」も恥ずかしながら知らない世界。

    架空の女性エズメの成長して行く姿を通じて、背後にリジ―の存在が重く感じさせられる。
    リジ―やほかの人物に語る言葉を「日本語の方言的な翻訳」にしているところがさりげなく情景を膨らませてくれている。
    性差に拠っても身分によっても言葉があたかも生き物のように姿を中身を変えていくダイナミックなうねり。
    OEDが男たちの努力の結晶であり陽の当たる事物ならポンドメイド~迷子のことば辞典はいわば陰の事物・・しかし、それが持つ社会的意義の大きさ⇒社会的な「権威」に押しつぶされた弱者のこ・と・ばを考え続けた7日間だった

  • 「オックスフォード英語大辞典」の編纂の歴史的事実をもとにしたフィクション。美しい物語という評価が一番しっくりくる作品だった。人生をやり直すことができるなら辞書編纂の仕事には憧れる。学生の頃にはそんなことは思ってもみなかったので選択肢にも入らなかったが。

  • 最後の「ボンドメイド」の意味と文例に長い年月を思って泣いた。ガレスがエズメをエッシーメイと呼びたかったこと、残されたリジーの深い哀しみすべて。死が淡々と描かれているけれど、エズメが少女の頃からの風景を一緒に眺めていたから深い。またいつかゆっくり読み返したい。

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