- Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093798938
作品紹介・あらすじ
望郷と鎮魂の歌が織りなす奇跡
2017年4月に急逝した戦後日本を代表する歌手・ペギー葉山。愛した人々に見守られ、彼女は代表曲『南国土佐を後にして』の譜面を胸に抱いて天へ召された。
彼女の人生を大きく左右することになった同曲のルーツは、戦争中に中国戦線の兵隊たちによってつくられた『南国節』にさかのぼる。元兵士が述懐する極限の戦場、生と死の狭間にいた若者たちが異国の地で故郷を忍び、家族に思いを馳せながら歌い継いだ「望郷の歌」は、同時に仲間への「鎮魂歌」でもある。ペギーがこの歌に出会ったのは、必然だったのか、偶然だったのか。生前のペギーの述懐は、はからずも彼女の「遺言」となった――。
自身もまた戦争に翻弄された少女時代を送ったペギーによって新たな「命」を吹き込まれた『南国土佐を後にして』が国民的なヒットとなったことで、新しい曲が発見された。そしてその曲が、東日本大震災の被災者たちを勇気づけ、大きな影響を与えた。戦地の若者が口ずさんだ歌の誕生から実に80年近くを経ても、多くの名もなき人々が共鳴し合う奇跡の物語は脈々と続いている。
【編集担当からのおすすめ情報】
著者渾身の取材で描き出す感動ノンフィクションです。
●目次
はじめに
プロローグ
◆第一部 苦難を越えて
第一章 鯨部隊の最前線へ
第二章 壮烈な戦闘
第三章 不思議な力を持った歌
第四章 鯨と豹
第五章 大陸から帝都へ
第六章 戦争の犠牲者
第七章 焼け野原からの再出発
◆第二部 勇気と希望の歌
第八章 数奇な運命を辿った歌手
第九章 異彩を放つ「音楽家」
第十章 成長するジャズ歌手
第十一章 異色の音楽プロデューサー
第十二章 開花した「南国土佐」
第十三章 原作者探し騒動
第十四章 ドレミの歌
第十五章 ハチとペギー葉山
第十六章 心のコンサート
感想・レビュー・書評
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胸に迫るストーリーが展開されて、良い本を読むことができた。ただ、「南国土佐を後にして」の曲調がどうにも肌に合わなくて、こればかりはしょうがない。豹のハチ公の話は感動的だった。
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ペギー葉山といえばウルトラの母というイメージです。緑のおばさんといえばペギー葉山という刷り込みが有ります。子供の頃の印象というのは根深いものであります。
当然歌手であることは知っていましたが、近代ポピュラーミュージックの偉人と申し上げても過言ではありますまい。この本を読むと特にそう思います。
ペギーさんへのインタービューがきっかけとなったこの本ですが、主人公は彼女だけではなく、戦場で誰が歌い始めたか分からない「南国土佐をあとにして」という歌、そして遠く故郷を離れ何年もの期間辛い戦闘を経験した「鯨部隊」の方々、「鯨無頼」に拾われ人間を友に育った心優しい豹「ハチ公」沢山の主役達がいます。
まずこの本を読んだ人は「ハチ公」の愛らしさに心癒され、そしてその数奇で悲しい最後に胸が痛む事でしょう。巻頭に写真がありますが結構でかくなっているので、普通にいればビビりますが、こんな立派な豹が子猫さながらに甘えて来たら胸きゅんきゅんでしょうね。
そしてこの「南国土佐をあとにして」という曲の成り立ちは、作曲家の端くれとして驚きと羨望を覚えます。自分が書いた曲が時空を超えて歌い継がれるというのは、何よりも憧れます。
先日読んだ石井光太氏の本でも書いてありましたが、極限の状況で発揮されるヒューマニズムの輝きは本当に美しいと感じました。これだけの内容の本をまとめ上げた労力に頭が下がります。
そして何よりこの本めちゃくちゃ読みやすいです。ルポ系を敬遠する人の中には読みにくさを理由にされる事が多いと思いますが、小説以上にのめり込める本です。超お勧め。 -
恥ずかしながら,この本で「南国土佐を後にして」という歌を知り,ネットで探して聴いてみました。
この歌の来歴を軸に,戦争の悲惨さ,豹と人間の奇跡の関係と悲劇,ペギー葉山さんと小学生の心温まる交流まで,引き込まれるように読みました。
その後,再び「南国土佐を後にして」を聴くと,より抒情的に胸に響きました。
高知県にはまた行きたいところなので,今度は「ハチ」に会いに行こうと思います。 -
副題の「戦争と望郷とペギー葉山」がこの本のすべてを表していますね。物語を聞いているかのように、数奇な運命の数々をひとつの線にしてまとめあげた門田氏お得意の泣かせるノンフィクション。ペギー葉山は、歌ってきた曲の数々を「神様からの贈り物」と仰っているが、神様から歌うことを宿命付けられた一生のような気がします。「南国土佐を後にして」を軸にした数奇な極上のドラマのようなノンフィクションをお楽しみください。私は堪能しました。
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今日ご紹介するのは、大野が誇る郷土・高知のノンフィクション作家・門田隆将先生の新刊「奇跡の歌 戦争と望郷とペギー葉山」である。
大野が思うのは「門田先生はいつも絶妙ないい感じの日本人を取り上げるが、ネタが尽きることはないのかな?」ということだ。
しかし、門田先生については、そのような懸念は不必要なようだ。今回も「日本人的な純日本人」をこれでもかと題材にしている。
では、本作のテーマはというと、ペギー葉山さんが歌った「南国土佐を後にして」についての関係者の物語である。
まず興味を引くのが、「南国土佐を後にして」しては本著にもあるように、作詞・作曲が不詳であり、その原曲が歌われた時代背景、またそれに携わった、関係者の談話。最終的にはペギー葉山さんがそれを歌うことになったのだが、そこに至るまでの経緯を中央大学・法学部出身という、門田先生のロジカル(論理的)かつヒューメイン(人間的に)な物語展開によって、ビビット(生き生きと)に描写されている。
そう書くと、「なんだ、理屈っぽいノンフィクション作品か?」と思われるかもしれないが、それは違う。門田先生十八番の各登場人物の人物表現がまるで現場を先生が見てきたかのように、絶妙なタッチで描かれている。
もちろん、そこには門田先生の創作もあるであろうが、門田先生の各登場人物の描写はいつもながら「純日本的」であり、読むものの涙腺を潤ませることが必至なのだ。
例えば、部下に「命を惜しめ」と命じ、地雷攻撃で支那で亡くなった上官。現地で豹の子供を愛撫しそれに「ハチ」と名付けた高知県出身軍人。嫌がるペギー葉山さんに暇をおしまず頼み倒し「南国土佐を後にして」を歌わせることに成功したNHKの音楽プロデューサー。
そのように、読者に感激を与える人物をいつもの門田節全開で、われわれに一種の爽快感を本作は与えてくれるのだ。
で、門田作品のいつものお決まりの関係者の死去。本作はその役目をペギー葉山さんが負っている。合掌。