人生は彼女の腹筋

著者 :
  • 小学館
3.47
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本棚登録 : 39
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863780

作品紹介・あらすじ

早すぎる死。惜しまれて逝った作家の小説集

51歳で突然この世を去った著者が生前発表した作品の中からセレクト。いずれも単行本初収録。
親友の妻の鍛えられた腹筋に惹かれていく主人公の複雑な心情を描いた「人生は彼女の腹筋」。高級リゾートの取材で出かけたバリ島で虐げられる犬たちを目撃したことから始まる「バリ島の犬」。夜の闇の中で飛行機の離発着を眺めながら繰り広げられる「那覇空港のビーチパーティ」。アメリカのニューオリンズでハリケーンに導かれるように出会う日本人女性と現地老人との交流の物語「ルイジアナ大脱走」。離婚してから4年偶然京都で再会した男女の感情の移ろい「秋になれば街は」。夜の国道沿いの中古車センターで明らかになっていく友人とその妻と僕の真実「完璧な土曜日」。いずれの作品も、「場所」をきっかけに変化していく人と人の関係を、丁寧な筆致、意表をつく設定、鋭い洞察力で物語化した、読む者の心にじんわりと染みこむサプリメントのような小説。

【編集担当からのおすすめ情報】
著者の駒沢敏器さんは、2012年、51歳の若さで突然この世を去った作家、翻訳家です。彼の小説は、豊富なアメリカ文学からの読書体験と、世界を旅して培った鋭いフィールドワークの眼が見事に生かされたもので、これからも素晴らしい物語をたくさん私たちに届けてくれるはずでした。ここに編まれた小説は彼のベストといってもいいものばかりです。こうして1冊の本にしながら、かえすがえすも彼の早すぎる死が悔やまれてなりません。

感想・レビュー・書評

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  • 「惜しまれながら逝った作家の最後の作品集」

    帯のコピーに目を奪われた。
    駒沢敏器という名に出会ったとき、その未知の書き手は既に亡くなっていた。
    『人生は彼女の腹筋』
    というタイトルにも惹かれた。意味不明なのに明らかに何らかの示唆を隠しているという予感がある。
    帯のコピーは、
    「場所と時間、出会いと別れを紡いだ『ここではないどこかへ』の物語」とつづく。

    単行本や文庫本につけられた帯のキャッチコピーに惹かれることは、私の場合はまずない。たいがいは売り手がウケを狙って「煽り」目的で書いた下劣な意図がミエミエで嫌だと思うことがほとんどだ。
    だが、このコピーは上品に抑制が利いていて、秀逸な追悼文だと感じた。
    気がつくと、書店の平台の中でひときわ低くなっている窪みの底から、不可思議な遺言というべきこの一冊を手に取っていた。

    読んで鳥肌がたったなら、その本のレビューを書いて世の中の人の目に触れるところに公開することを、私はセオリーにしている。
    表題作の「人生は彼女の腹筋」の中に鳥肌ポイントはあった。
    それは、友人のインド人ビジネスマン宅のパーティーに招かれた主人公が、意味ありげに、
    「今日、あれはあるのかい?」と、問い。
    「君のために用意しておいた。2階にある。あとで好きなときにやってくれ」
    という会話があって、主人公は多国籍のパーティー客が乱痴気騒ぎをする部屋を離れて密かにあるモノを試す。
    そうして、そこに友人の究極に美しい身体の持ち主の妻が一人でやってきて、セーターを自らたくしあげて見事に割れた腹筋に触れさせさらには胸まで触れさせる。
    ここまで描いておきながら、主人公が「やった」のはドラッグなんかじゃないし、友人の妻とも「やり」はしない。
    世に氾濫したありきたりでワンパターンな映画や小説に毒された読者の下劣な先入観を見事に裏切って見せてくれる(ではやったのは何か、はネタバレになりますからここでは言えない)。
    「ここではないどこかへ」の物語という帯のコピーは、こういう下劣な読者の思惑とは違うところというのがひとつの意味のようで小気味よい。
    もうひとつ、「ここではないどこか」を示唆する意味ありげだがよくはわからないヒントのような箇所があって、私は思わず鳥肌が立った。

    それは、友人の妻の本棚を見て小説家である主人公が本棚の持ち主である彼女の内面について語るシーンだ。
    本棚にならぶ本を見てそれらを選んだ人間の人間性を汲み取るというのは、本好き読書好きの者には一種堪らない誘惑に満ちた行為だろう。
    精神分析者のラカン
    2冊のフロイトとユングが数冊
    かなりたくさんの澁澤龍彦
    量子力学に関する一般書
    19世紀のロシア文学
    僕の最も疎いフランス文学
    大江健三郎がいくつか
    村上春樹もほぼ揃っている
    というような本棚だ。
    その本棚の持ち主である彼女が主人公の小説を読んだ感想を言おうとする。
    その続きを引用するとこうだ。
     ー「君からの感想は聞きたくない」僕は笑った。「楽しく読ませていただいたわ」彼女は言った。
    「言葉のリズムが私には馴染んだのよ。考え方とか内容がどうこうよりもまず、高田さんの文書のリズムは私にはとっても正解だった」
      「大江健三郎を読んでいる君の言うリズムっていうのは、どこまで信用していいのかな。しかも僕はフランス語がぜんぜんできない」ー

    大江健三郎の作品は、おそらくは意味深長なのだろうが正しく意味がくみ取れたと確信が持てたことが私には一度もない。それは、我が国でも随一といっていいくらい文体が晦渋だからだ。もっとはっきりいうと、大江健三郎の書いた文ほど歯切れが悪くてリズムが悪い文はないと私は強く思っている。だから、主人公の気持ちから言わせると、(あんな奴の本をいいと思っている君からリズムがいいとか言われても、信じられないね)ということだろう。そうしてまた、私はフランスとパリの街は大好きで、また小鳥のさえずりのようなフランス語の響きとリズムが大好きだ。だがしかし、哀しいかなフランス語は全く理解できない。だから、あまりにも大きく深い共感からぞくっと鳥肌がたったのかもしれない。

    未知の書き手ではあったが、略歴をみると元雑誌「SWITCH」編集者とある。だから、気づかないうちにこの人の文章は幾つか読んでいるのかもしれない。
    略歴には2012年逝去とだけある。
    この書き手が示唆した「ここではないどこか」とはどこなのだろう。51歳の若さで逝った作家はヒントだけ残した。
    公の略歴には記されていない死因はなんなのか気になってググってみた。
    ウィキペディアになにげに載っていた死因は、

    絞殺だった。

    この書き手の人生は、一体何を示唆しているのだろうか。
    少なくとも、この書き手が否定した下劣でワンパターンなストーリーのようなものではないことだけは確かだろう。
    それが何なのか、考え続けることで追悼とさせていただきたい。
    ご冥福をお祈りいたします。

  • 好きな自分になれる場所。
    若さを失ってしまう代わりに、人はそれとは違う能力を身につけてゆく。
    心の痛みが懐かしさに変わった。

  • 「完璧な土曜日」「人生は彼女の腹筋」「バリ島の犬」「那覇空港のビーチパーティ」「ルイジアナ大脱走」「秋になれば街は」収載。

    著者は村上春樹さんがお好きなのかもしれない……と思っていたら、表題作の主要登場人物の女性の本棚に「村上春樹もほぼ揃っている。」(p.64)とあり、やはり!?とニヤリ。

    出版社(翻訳書専門部署)勤務の藤沢玲子がニューオリンズの書店をめぐる旅を描いた「ルイジアナ大脱走」と、4年半前に別れた元夫婦の京都での思いがけない再会を描いた「秋になれば街は」が好みです。
    この2編を手もとに置いておきたいので、ぜひ文庫化していただきたい!!

  • 1日に腹筋を300回もやる。ワンセット100回で3セット。聡明さと性的な神秘を感じさせる骨格、肩がしなやかに張っていて鎖骨のかたちがとてもいい真理子。「ちゃんと6つに割れてるのよ」{腹筋がかい?}「ええ、触ってみて」
    2012.3.8、たまプラーザのマンションで絞殺遺体で発見された駒沢敏器氏、神経の病気を患い歩行もままならず、不憫に思った母親が殺害との話が伝わっています(真偽のほどは不明です)。51歳没。「人生は彼女の腹筋」(2014.6)には、タイトルの小説を含み、6つの短編が収録されています。著者は片岡義男氏を崇拝されていたとか、なんとなくよく似たテイストを感じます。「人生は彼女の腹筋」は2005.1の作、「秋になれば街は」は2012.1の作です。

  • 『地球を抱いて眠る』が書籍化される前、ホットワイアードでの連載だった時から駒沢敏器さんの文章に惹かれて、『伝説のハワイ』や『ささやかだけど、語るに足る人生』を読んで新著を心待ちにして来ました。

    しばらく名前を見ないな、と思っていたところに衝撃的な訃報。

    これが最後の短編集なのが寂しいです。

  • どれも好きやけど、秋になれば街は、が一番すん、ときた。

  • なんだかちょっと引っかかる短編集。

    きっと消えてしまう傷だけれど擦り傷か切り傷か。

  • フィクションなのかノンフィクションなのか。不思議な後味の短編集。

    特に序盤の3作品が珠玉。

    セクシー・暴力・リズムなどといった身近な言葉を、人物たちの饒舌な語りで鋭く鮮やかに定義づける。
    まるで「セクシーあるある」を村上春樹に言わせたかのようなニヒルな感じ。

    最後の短編はやけに綺麗すぎてちょっとオエッとするが。

    どストライクの作家に久しぶりに遭遇したのだが、ワケありで最近亡くなられたらしい。残念。

  • 完璧な土曜日、人生は彼女の腹筋、バリ島の犬まで読んでやめた。
    どれも物書きが主人公。

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著者プロフィール

1961年東京都生まれ。雑誌『SWITCH』の編集者を経て、作家・翻訳家に。主な著書は、小説に『人生は彼女の腹筋』(小学館)、『夜はもう明けている』(角川書店)、ノンフィクションに『語るに足る、ささやかな人生』(NHK出版/小学館文庫)、『地球を抱いて眠る』(NTT出版/小学館文庫)、『アメリカのパイを買って帰ろう』(日本経済新聞出版)、翻訳に『空から光が降りてくる』(著:ジェイ・マキナニー/講談社)、『魔空の森 ヘックスウッド』(著:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/小学館)、『スカルダガリー』(著:デレク・ランディ/小学館)など。2012年逝去。

「2022年 『ボイジャーに伝えて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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