- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093865722
作品紹介・あらすじ
最注目ミステリー作家が挑む、究極の頭脳戦
正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす――日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願した新人医師・弓削凛は、犯罪者の心の闇に対峙していく。究極の頭脳戦の果てに、影山が見据える未来とは。そして凛が精神鑑定を学ばねばならない理由とは……。
第一話「闇を覗く」 歌舞伎町無差別通り魔事件の犯人・白松京介。重度の統合失調症と診断された彼は、本鑑定を受けるため影山たちの病院に移送された。
第二話「母の罪」 横溝美里は生後五ヶ月の娘を抱き、マンションから飛び降りた。重い抑うつ症状が見られた美里は、面談で「悪魔が娘を殺せと脅した」と言う。
第三話「傷の証言」 高校中退後、自宅に引きこもっていた沢井一也は、姉を刺し逮捕された。影山たちが鑑定に赴くが、支離滅裂な発言をし恐慌状態に陥ってしまう。
第四話「時を刻む闇」 傷害致死で起訴された小峰博康には、精神疾患の疑いが。簡易鑑定を行った影山は「罪を逃れるための詐病」と証言したが、第二審で思わぬ反撃にあう。
第五話「闇の貌」 同僚を刺殺した桜庭瑠香子。過去にも殺人事件を起こしていた瑠香子だが、解離性同一性障害、すなわち多重人格と診断され不起訴となっていた。
【編集担当からのおすすめ情報】
『ムゲンのi』『ひとつむぎの手』『崩れる脳を抱きしめて』で
3年連続本屋大賞ノミネート!
「天久鷹央」シリーズ累計130万部突破、
今春映画化の『仮面病棟』でも話題沸騰!
医療ミステリーの最先端を行く著者の最新作。
主人公は精神鑑定医!
感想・レビュー・書評
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前回の同作者「祈りのカルテ」がエンジェル書物だとしたら、こちらの「十字架のカルテ」、入りから完全なデビル書物だ。
主に精神疾患患者とそれを取り巻く関係者で起こる事件を、精神科医局院長 影山 と見習いの凛ちゃんが彼らと言葉を交わす事によって霞んだ霧の先の真実を晴らす。そんな連作短編集。
影山先生の腐女子受けを狙いに来てるキャラクターが少々鼻についたが、知念実希人さんが作り出す「先生」は大体そんな感じなので、今となってはご愛嬌。許容範囲超えてむしろ好きになってきてます、洗脳。信者爆誕。
彼の「鑑定」と「治療」の切り替えも素晴らしく、なるほどかっこいい。そして凛ちゃんの初々しさ、熱意と青さ。ここからの成長録も見所です。親戚のおばちゃん爆誕。
連作短編とは言え全五章の内、四章までは半分のページ数に収まっている。五章からが「十字架のカルテ」長編の始まりだ。事件の真相を面接という診療で暴く事が必ずしも幸せな未来と呼べるのか、否か。憲法第三九条の永遠のジレンマを見事に表現した中々頭が重たくなる作品だった。
数少ないであろう「心の闇を視る医者」、その道を選び葛藤する彼女の姿と、それを見届ける影山先生。更に今回はミステリー臭がくんくん、凝ったプロットでは無くとも充分な衝撃を食らわされ申しました。
ー問題定義の投げかけーをスルーしても楽しめる作品かと思う。純粋なミステリ好きさんにもオススメしたい一冊だ。
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全体的に軽く、ツッコミ所は少なくはないが、ミステリ要素や社会問題定義とバランスが良くとても読みやすかった。いつか知念実希人さんの、重たいパンチ喰らってみたいなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
深い深い、一冊。
五話からなる、いわゆる人の心を相手にした精神鑑定ミステリ。
メスや薬ではなく、会話だけで心の闇を探り当てていく精神鑑定医。
心の深い深い場所、見落とされがちな真の闇の場所を炙り出していく過程は一種の頭脳戦を思わせ緊張感と共にひきこまれた。
こんなにも心って深いのか…驚きと共に影山医師の言葉の一つ一つが深く刺さり、ふと立ち止まされることもしばしば。
容易に判定することの危険さ、心の真の闇を炙り出すことの大切さを実感。
真の鑑定が、少しでも関係する人たちの心の軽減に、背負った十字架の軽減に繋がれば良いな。 -
知念実希人さんの作品外れナシです。
今回もイッキ読み!(途中お昼寝したけど…)
天久鷹央シリーズとは違う精神科医の話。
池田小の事件の後に「医療観察制度」が出来て…精神病者は刑務所へ行くよりは適切な治療を受けると再犯率は低いらしいです。でも、被害者側からしたら理不尽ですよね。
刑法39条を考えさせられる作品です。
憲法9条より刑法39条を変えて欲しい‼︎ -
精神科医の主人公が被疑者の精神鑑定を精神鑑定のパイオニアの先生のもとで学びながら、過去に起きた親友の殺害事件と絡み合っていくお話です。
タイトルの十字架とは精神喪失者が起こした犯罪による責任の所在を表しています。
刑法39条に精神喪失者の行為は罰しないとなっています。
刑罰は、科される人にとって重大な人権の制約です。どのような意思で他人を死亡させたり傷つけたりしたのかを抜きにして処罰することは許されないという点からですが、この点はとても考えさせられました。頭では理解できても、実際に被害者側の当事者になったら、感情が追い付かないと思います。
心神喪失のため起訴できず不起訴になった場合は医療機関にて治療が行われ、不起訴以後は司法は介入せず、医療機関側にゆだねられます。制度の弱さが浮き彫りになっているといっても過言ではないかもしれません。
また本作は様々な患者さんを通して精神疾患の家族について描かれています。
私自身、精神疾患についてまだまだ理解が及んでいないことも反省しながら、いつだれが発症してもおかしくないこと、病に向かって真摯に対応する必要性を感じる一冊となりました。 -
鑑定という馴染みのないジャンルでした。
刑法39条の「心神喪失者の行為は罰しない」この法は本当に必要なのだろうか。深く考えさせられた。 -
主人公が同じで精神鑑定に関する短編集。
傷の証言の話が一番良かった。 -
Audible読了
興味深く読めた。
新米の助手と、名探偵のドクター。
ミステリーとしては手がかりが後出しで、トリックを楽しむものでもないと思う。患者の持つ痛み、そして心の闇を、金田一少年が解決していくがごとくを楽しむ。そんなエンターテイメントだった。ただ、その題材は深い。
精神鑑定に持ち込まれた被疑者を、無罪の上で強制入院とするか、起訴されて罪人とするか。その者の人生にとっても、社会への影響を考えても、その診断が未来を大きく左右させる。その意味で、私たち一般人はその中身を知らなさすぎる世界。
卑劣な犯行に及んだ人間が、心神に支障があり無罪、というニュースが流れると、そんな馬鹿な!司法はどうなってる!と誰しもが憤りを抱くだろう。
その中を覗かせてくれた。遅ればせながらも十字架の意味に気付き、タイトルセンスのスパイスにもしびれた。
── (未だに)多くの人が、精神疾患に対しては極めて無知だ。無知は恐怖を呼び、恐怖は差別を生み出す。彼らにとって、精神疾患患者がそばに存在しているということは、怪物とともに生活しているようなプレッシャーになる。
患者からすれば、自分たち健常者こそが怪物に見えているということも知らずに。
ドクターが、そう主人公に伝えるシーン。
この精神病の世界も、家庭も、患者自身も、多くは社会から隔離されており孤独だ。いくら発達障害とか、うつ病だとか社会認知が上がってきているとしても、他者に危害を加えてしまったら途端に悪魔扱いされる。
たまたま『名もなき毒』を読んだ後だけに、この差別という強い毒性は、自分の前に強烈に立ち上ってきた。
何か、簡単に納得してはいけないものがあるのを感じる。
一体誰がこの悪魔を産んだ。
いや犯人探しよりも、どう癒すかの方が先か。
すると、罪はどこに消えることになる。
消えない炎からは、悪魔がまた易々と産まれてしまうだろう。
輪郭のない精神医療の中で、自分の仕事の領域をきっちり守る。そんなドクターの姿勢からは、居住まいを正されるような気持ちになった。
読後にもこの作品の真価を見たような気がする。 -
長編かと思ったら同じ主人公を軸に置いた連続短編でした。なのでとても読みやすくさくさくいった。
精神疾患を患っている疑いのある犯罪者と向き合う精神科医のお話
2021.6.5
75 -
読み応えがありました。
医学的に診断するだけではなく、鑑定するために様々なケースに向き合う姿勢がとても真摯的でした。
どんどん成長が見られ、まだまだ未熟な弓削先生でしたが、次回作があればとても楽しみです。