痛みの道標

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093884341

作品紹介・あらすじ

戦後70年、命の重さを問う渾身の人間賛歌

ブラック企業に追い詰められ多額の借金を背負った達希(27歳)は発作的に飛び降り自殺を図り、15年前に死んだ祖父の霊に助けられる。祖父は生前心残りの「人探し」を一緒にすることを条件に隠し財産で借金の肩代わりを提案。そこから祖父の霊とのボルネオへの旅が始まる。
そこで出会ったのは、個性豊かな人々と悲惨な戦争の記憶。将校でも戦闘機乗りでもない大多数を占めた一般兵士の彼らの戦死とは、飢えや伝染病で命を落とす悲惨なものだった。
やがて一行は赤道の街に到着。そこには、この旅に祖父が託した本当の目的が隠されていた。今まで決して口にすることのなかった、「知られざる謀略事件」とは・・・・。そして、そこに隠された,祖父の過去にまつわる真実とは・・・・・。


【編集担当からのおすすめ情報】
著者が過去の資料を調べ尽くし、実際にインドネシアのカリマンタン島に足を運び取材し尽くし、一年半まるまるこの一冊の執筆に費やして挑戦した、渾身のエンタメ反戦小説です。おそらく日本国内ではほとんど知られていない事件をモチーフに描かれた人間ドラマです。この事件は日本ではほとんど知られていませんが、現地では今も毎年慰霊祭が行われ、忘れられることはありません。それは、決して遠い記憶ではありません。
戦争時は軍隊、現代はブラック企業。名前と質こそ違えど、現代も昔も一部の私利私欲のために犠牲になり、苦しむ人々はたくさん存在します。著者の力強い筆に救われ、励まされる方も多数いらっしゃると思います。こんな時代だからこそ、10代の高校生から戦争を経験された年輩の方々まで、現代を生きる多くの方に是非読んでいただきたい、人間賛歌。読後は爽やかで明日を生きる力が湧いてくる小説です。

感想・レビュー・書評

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  • 二冊続けて戦争を描いた本を読んだ。
    ひとくくりに太平洋戦争と言ってもあまりに知らないことが多くて愕然となる。先に読んだ「世界の果ての子供たち」で舞台となった満州については見聞きする機会も少なくはない。だが、この本で描かれるボルネオで繰り広げられた悲劇については全く知らなかった。なんと、太平洋戦争末期では最大規模の上陸戦もあったという。

    この本の主人公はブラック企業に勤める達希。その達希が亡くなった祖父、勉の願いをかなえるためにボルネオに行くことになる。勉にはどうしても会いたい一人の女性がいたのだった。
    達希のおかれた現代を織り交ぜつつ、祖父の過ごした戦時下のボルネオの様子をリアルに浮かび上がらせていく。

    日本の占領軍がとった残忍な行動や上陸戦で生き延びた兵士の過酷さなど、読むのが辛くなることもしばしば。しかし、実際の戦いはこんなもんじゃなかったのだろう。
    わずか3作目にしてここまで重いテーマを扱った作者の熱意に感服する。この本を読まなければボルネオの戦いも知らないままだっただろう。

    物語の設定が私は苦手だったのと、最後ちょっと力みすぎかなとも思うので★4つにしました。

  • 昨日は終戦記念日。たった76年前のこと。
    今の私たちと同じように生きて、家族や大事な人を想い、不安や苦しみを抱えたり、決してかけはなれたところにいるわけじゃないと改めて考えた。
    私の祖父も若い頃戦争で南洋に行った。亡くなった今はもう話を聞くこともできない、この作品を読み、祖父のことを思った。

  • プロローグ、読み直してその意味がわかった。
    読み始めて、何故と思う世界に連れて行かれた。
    プロローグのことは忘れていたので。
    この作家はすごい。
    読者を思いもしない世界に連れていってくれる。
    また、ここまでこの時代について書けるとは。
    最後まで読んで、痛みのことがわかったが、道標については。
    まだまだ読み方が不足している。

  • ブラック企業での仕事に疲れ、ビルから飛び降りた達希を救ったのは15年前に亡くなった祖父勉の幽霊だった。
    祖父に頼まれ人探しをすることになった達希が向かったのは第二次世界大戦の戦地ボルネオ島。そこで知る悲劇と祖父勉の過去。

    まだまだ知らない戦争の悲劇は沢山あるのだと思い知らされました。
    知らないことばかりで、途中何度も検索しながら進める読書となりましたが、出会って良かった。

    現代とその時代をつなぐための設定がうまいなと思います。
    違和感なく読み進めることが出来ました。

    二度と繰り返してはいけない悲劇。
    多くの人が知り、読み継がれる必要のある本だと思います。
    素晴らしい本でした。

  • 1943年に起きたポンティアナック事件を題材にした小説。一種の反戦小説、ファンタジー小説、主人公の成長を描く教養小説の要素もあるが、何よりもエンターテイメントとして良く出来ている。週末、一気読みした。

    主人公はブラック企業に勤める27才の平凡な青年。借金に苦しみ、発作的に飛び降り自殺を図るが、15年前に死んだ祖父の霊に助けられる。祖父は生前心残りの「人探し」を一緒にすることを条件に隠し財産で借金の肩代わりを提案。そこから祖父の霊とのボルネオへの旅が始まる。
    祖父は戦時中、軍の命令で農業に携わっていた。そこで出会ったのは、個性豊かな人々と悲惨な戦争の現実だ。
    戦争は、祖父から大切なものを奪った。そして、祖父の「人探し」の秘密がだんだんと明らかになってゆく。

    本の表紙絵は卵と赤道をイメージしたもの。赤道直下では、うまく置くと卵を直立させられるという。主人公は、赤道直下の街、ポンティアナックにある赤道記念塔で卵を立たせ、観光客の喝采を浴びる。主人公の再生をイメージさせるシーンだ。

    ポンティアナックには一度行った。好きな街で、街の描写を読んでいたら、また行きたくなってきた。戦時中の住民の様子も含め、著者が綿密な取材を行ったことが、推察できる。

    日本軍と現代のブラック企業という腐敗した組織の中で、祖父も主人公も、それぞれ必死に再生しようとする。主人公への感情移入がしやすい展開であり、「読んで良かった」感が得られる。
    お勧めの★4つ。

  • 古内さんの本ということで、あらすじも知らずに買った本でしたが、思っていた方向とだいぶ異なる出だしに戸惑いました。それでも読み進めるうちに話に引き込まれ、一気に読みました。重みを伴った、でも古内さんらしい小説らしい小説でした。

  • 戦争の話と知らずに読み始めたのでよけいに、戦地の凄惨な描写が衝撃的だった。戦争に関わった人々の無念さは計り知れない。

  • 古内さんがこんな小説を書くなんて。
    第二次世界大戦中のボルネオ島の話なので、びっくり。
    いい年になった自分が何も知らなかったのが
    恥ずかしいです。

  • 218再読やったみたい。そんなに印象に残ってないのか?良いストーリーでしたよ。

  • 祖父が経験した戦争を通して、とんでもない状況に耐えられず命を断とうとした孫が、もう一度立ち直るまでのお話。

    霊が見えたり、ファンタジーっぽさは否めませんが、
    不思議とスッと入ってきます。

    戦争についての描写(特に心理描写)が詳しくて、痛いほど良くわかるからかもしれません。


    自分の命は己だけのものではない。祖父が一生懸命生き抜いてくれたおかげでもあるんだということに気づき、前を向く主人公の生き様がかっこよかった。

    同時に、ちょっと目線を変えたり、世界が広がったりすると、意外とちっぽけに思えたりもするんだよなーと。




    「ヒビが入っても、潰れても、心はきっと、何度でも生まれ変わる。」

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年、『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』『鐘を鳴らす子供たち』『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』などがある。

「2021年 『山亭ミアキス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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