天頂より少し下って (小学館文庫 か 11-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094060638

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの川上弘美さん短編集。アンソロで既読のものもあったので、結構寄せ集め的な感じだったのかな。でも全体的にやわらかい、ひらがな多めのトーンで統一されていて、どれもさすが川上弘美な味わい。

    お気に入りは「夜のドライブ」。アラフォー独身女性が母親と旅行にいって夜のドライブをする、それだけのなんてことないエピソードなのだけれど、年齢的に共感できる部分が多く、ラストはほろりとしました。たまに実家に帰ると、ふいに母が老いていることに気づいて「はっ」とすることとかあるんですよね。かつては自分を庇護してくれた存在に、今は頼られるようになっている、そういう立場の変化や気持ちの変化が、不安になることもあるし、切なくなることもある。

    逆にイマイチだったのは表題作。こちらも40代女性が主人公ですがバツイチ、同居している息子はすでに成人、自分には11歳年下の恋人がいるという設定と、ひたすら恋愛モードな彼女の言動に、単に共感できるポイントをみつけだせませんでした。

    ※収録作品
    「一実ちゃんのこと」「ユモレスク」「金と銀」「エイコちゃんのしっぽ」「壁を登る」「夜のドライブ」「天頂より少し下って」

  • 2018年最初の読了本。数年前から少しずつ読んでいる川上先生の恋愛短編集です。自分が姉のクローンだと仰天の告白をする少女の物語で幕を開けますが、二編目以降は現実世界に舵を戻します。

    イイダアユムという男に詩心をくすぐられる女性ハナの恋の玉砕。

    泣き虫な年上の男と数年ぶりに出会った少女の恋の予感。

    派遣先の男とデートしたはいいものの、一緒に鑑賞した映画への評価が180度真逆と知るなり感じた「コレジャナイ感」を、尻尾が生えた友人とシェアする女が巻き込まれたトラブル。

    妙な人間を家に引っ張ってくる綾子さんに翻弄される娘。

    婚期を逃した娘と母の夜のドライブ。

    年下の恋人と社会人になった息子の間で、女と母をすみ分ける女の幸福。

    川上作品の主人公達に共通しているのは、どの女性も今の自分を肯定しているという絶対的な安心感です。私なんて、とか、彼女の方が、とか、この手の短編集にアリガチな劣等感が少しも顔を出しません。時々差し挟まれるフシギ設定も小気味好いスパイスになっています。清々しい女達の物語で2018年の読書が始められてついてるな〜。

    特に表題作の女主人公の恋人に対しての愛情の示し方が、読んでいるこちらが気恥ずかしくなるほどオトメ。アラフォーのおばさんの純情が、少しのイタさ(笑)と少しの不安をはらみつつ、あっけらかんと描かれています。

  • SFまでは行かないけど、少し不思議でおとぎ話ちっくな世界観で川上弘美さんだな〜と思った。登場人物全員モテてそう。クローンの一実ちゃんの話とユモレスクが結構好きでした。
    中学生のときの国語のテストに出てくる小説読んでる気分になった。そんな感じの文章だったんかな〜

  • 短編集。男女の形なんて、それぞれ。川上弘美の文体から、どれだけの安らぎを得たか。文体からというのはおかしいかも知れない。語り口。雰囲気。ずるいと思うのは、彼女の顔写真も込みでの小説のムードがあり、無邪気なストーリーテラーが完成するのである。いつも冷静に自分の感情を、そしてそれは主に相手に対しての自らの感情について、口に出して再確認する登場人物。客観的に描く事での読み手との距離感。計算ではない、文体の魅力。

  • どの短編も独特の雰囲気が漂っていて、それがとても好きです。
    登場人物はどこか風変りで、そこはかとなく悲しい感じ。

  • 『大きな鳥に....』を読んでファンになり2冊目。
    ちょっと不思議で奇妙な恋愛もの(?)短編集なのか?
    夜のドライブが一番好き。
    一人で暮らしている母親を娘(主人公)が車で旅行に連れていく....というだけの話なのに、いつの間にか主人公の気持ちとリンクしてしまいました。
    そして、とても良いお母さんでした。

  • 16/07/25
    “恋をしている女の、埒もないぐるぐる思考”てまさにそれだ笑。いくつになっても恋をしたら、そのぐるぐるに取り込まれちゃうのかな。抜け出せる日は来るのかな。

    ・いつかまた、この瞬間のことを思い出すことがあるのかな。真琴は思う。好きな男たちがいて、でも不安で、どうやって生きていったらいいかわからない幼い子供みたいな気持ちでいる、今のこの瞬間のことを。(P207 天頂より少し下って)

  • また不思議な世界。
    女性の視点の鋭い部分で描くとこんな世界なんでしょうか?
    ちょっと自分には遠い気分。
    そしてなんか不安な感じです。
    まあ「金と銀」の治樹さんのような人はいますね。

  • ほの暖かく柔らかで、少しだけ寂しくなるような短編集。
    夜のドライブが胸に迫りました。

  • ちょっと風変わりな人たちの恋愛を描いた短編集。風変りで、どこか淡々としていてでもクールな雰囲気が、川上弘美さんらしい気がしました。読みやすかったです。

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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