闇という名の娘: The HULDA TRILOGY #1:DIMMA (小学館文庫 ヨ 1-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094065411

作品紹介・あらすじ

米国で映画化決定の北欧ミステリ!

レイキャヴィーク警察・犯罪捜査部の女性刑事フルダ・ヘルマンスドッティルは、”ガラスの天井”に出世をはばまれ、警部止まりで64歳の定年をむかえようとしていた。
ある朝フルダは、20歳も年下の上司に呼び出され、2週間後に部屋を明け渡すように言われる。フルダが担当している事件も、すでに他の者に割り振ったという。
残りの2週間、フルダに許されたのは、未解決事件の処理だった。そこでフルダは、1年前海岸で遺体で発見されたロシア人女性の再捜査を始めるのだが‥‥。フルダを悲惨な運命が襲う。

アイスランドの人気作家ラグナル・ヨナソンによるフルダ・シリーズ第1弾!
誰もが想像できない結末――読み終えてストレスがたまること請け合い(!)です。

元ワーナーブラザーズピクチャーズ(ワーナー映画)の社長グレッグ・シルバーマンが、本作(英題:The Darkness)の映画化を推進中。

感想・レビュー・書評

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  • 北欧ミステリは暗いというイメージがつきまとっていたが、これもやはり暗かった。常習犯である小児性愛者が車にはねられる事件から始まり、これがずっと後まで尾を引く。なにしろ、事件を担当する警部が、犯人が故意に轢いたことを認めているのに、うやむやに揉み消してしまうというのだから闇が深い。被害者の部屋から少年の写真が見つかったが、そのうちの一人が尋問中の母親の息子だったのだ。

    主人公のフルダは定年間近の老警部。捜査手腕に定評はあるが、ガラスの天井に阻まれて、同期の男性の刑事が出世してゆくのを横目に、現場一筋でここまで来た。ところが、上司から二週間たったら後進に道を譲って退職せよと、突然告げられる。今担当している事件は、と聞かれ、上に書いたように捜査は終了しているにも拘らず、犯人が自首するまで待つ、と告げる。そして、その女性には逮捕はしないことを連絡し、知らぬ顔を決め込む。

    残り二週間の仕事として上司に与えられたのが未解決事件。その中から、見つけてきたのがロシア難民の若い娘が溺死した事件だ。頭部に傷があったのに、事故扱いにされていた。担当した刑事が無能でやる気のないので有名な男だった。さっそく、エレーナという娘のいた収容所を訪れるためにシュコダを走らせる。シュコダなどという珍しい車が出てくるあたりがアイスランドの作家が書くミステリだ。

    フルダ自身の生い立ちと現在つきあっている男との関係、被害者であるロシア娘と彼女を誘い出した男との事件当日の出来事が、入れ代わり、立ち代わり語られる形式をとっている。事件を追うことより、フルダという女性が、どんな過去を持ち、その過去により、どんな人間が形成されるに至ったか、ということの方が重要視されている気がする。冒頭に紹介したような、ちょっと考えられない行動を取るにはそれなりの理由がある、というわけだ。

    どんな理由があろうと、許されないものは許されない。そう考える読者はきっと多いだろう。かくいう私だってその一人だ。法に携わる者が法を破っていては、この日本という国ならともかくも、ミステリの世界ではとてももたない。だからこそ、フルダがどんなふうに育ち、結婚し、娘を産み、愛娘に十三歳で自殺され、夫を五十二歳で亡くし、それからというもの、一人きりで暮らしてきた孤独な人生を読者に知ってもらう必要があるのだろう。

    かといって、それだけでは、フルダのとった行為は到底容認できない。勿論、作者はそんなことはもとより承知だ。フルダは毎晩悪夢を見ている。それがどんな夢で、何故そんな夢を見るようになったか、それが、少しずつ読者に知らされてゆく。趣味の山歩きで知り合った、年上の元医師との食事の後の話の中で。互いに伴侶を亡くした者同士、老後を共に暮らすため、少しずつ互いの過去を知りあう必要があるからだ。

    ロシア娘のパートは、少しずつ相手の態度に不信を抱くようになる娘に寄り添い、じわじわと迫りくる恐怖を、ヒッチコックの映画のようなタッチで、ごく短くストーリの節目節目に挿入される。男が誰なのかは一切はっきり書かれることがない。しかし、しっかり読んでさえいれば、この人物しかないと特定できるように書かれている。であるのに、初読時はいつものように読み急いで、つい読み飛ばし、まったくの別人を思い描きながら読まされた。

    伏線の張り方、小出しにされる情報の提供の仕方が堂に入っている。さほど複雑な構造でもないのに、はじめに思い描いた犯人像は二転三転する。ミスディレクションが上手いのだ。事件を追う間に挟まれる、フルダとまわりの同僚との不和、友人のいない老女の孤独感、上司との軋轢、単独行動による捜査ミス、とフルダに襲い掛かる不幸の数々が、一気に犯人を追い詰めようとする読者の気持ちに水をさす。

    見返しの裏に記される<主な登場人物>も、フルダと殺されたエレーナを除けば、たったの十人。そのうち警察関係者と、例のフルダの話し相手の友人を引けば、残りは六人にしぼられる。このリストに名がない人物を犯人にすることができない、というのはこの世界の掟だ。というより、最初からその男にしかこの犯行は起こせない。つまり、ミステリ上級者を犯人捜しの謎解きで満足させようとははなから作者も考えていない。

    あっと驚くどんでん返しが最後の最後に仕掛けられている。この手があったか、とうならされた。それまで、述べてきた、いくら努力しても認められないことに対する不満、職場での孤立無援、仕事を終えた老女に襲い掛かる救いようのない孤独感、夜ごとの悪夢、恵まれなかった過去、これらを解決することは、フルダにとって、殺人事件の解決より、ずっと本質的な問題だったのだ。

    解説は後で読むことにしているのだが、なんと、このフルダという女性刑事を扱った作品はシリーズ化されていて、これが三部作の最終巻だという。四十代、五十代のフルダの活躍を描いた作品が後二作あるというのだ。シリーズ物は、できたら順番に読みたいものだが、まだ邦訳がないらしい。これでもって全篇の終了、ということもあって、思い切った手が打てたのだな、と思った。アイスランドでは二作目の評判が高いらしい。邦訳が待たれる。

  • テンポが良い。1週間の中の話なのかぁ。いくつかの事件がうまく絡んでいて読み応えもある。北欧独特の寒々しく閉塞的な空気感を味わえた。
    最後そう持ってくのね…はじめてのパターン。

  • ミステリーなのだけれど、私小説な、定年退職後の、生活を思い描きながら、日々の暮らしと現在の、取り巻く壁に立ち向かう力が、丁寧に綴られていて、主人公の、気持ちに寄り添う事が、出来る。
    限りある時間の中で事件解決に迫る主人公の最後は、重く心に残る作品でした

  • 64歳の女性警部フルダ。定年を間近に控えているのに今すぐやめろと告げられる。そして最後の捜査。1人で追う不審死。そのなかで語られるフルダの心の内。これまでの人生と警察を辞めたあとの不安と期待。想いの中に揺れが感じられるのがいい。アイスランドの風景や寒さ、暗さもフルダの心情に重なっている。三部作らしくフルダの人生を遡るらしいので次作もすごく楽しみ。

  •  一方の端からもう一方の端へと振れ幅の広さにまず驚く。

     昨年、アイスランドのシグルフィヨルズルという北極に最も近い漁村の警察官アリ・ソウルのシリーズに驚いたぼくは、この人の作品は書かれた順番に読もうと誓っている。なので、アリ・ソウル・シリーズも一作、二作という順に読んで、先に翻訳された五作目はそのまま手元にあるが読まない。この作品はこのシリーズの三作、四作と読んでから取り組むべきなのである。それを感じたのは一作から二作へ渡される作者の想いのようなものだと思う。時間というバトンは決して軽くない。作者はそれだけアリ・ソウルとシグルフィヨルズルの街を丁寧に扱いたいのだと思った。

     さてアリ・ソウルとは遠く離れて、本書はレイキャビークを舞台にした、64歳の女性刑事フルダ・ヘルマンスドッテルをヒロインとしたシリーズ開幕の物語である。若い二十代のアリ・ソウルとまるでできるだけ距離を持とうと企図したかのように、フルダはアイスランド一の、否、唯一の都市で警察人生を今にも終えようとしている定年退職直前の刑事なのである。性別も年齢も、アリ・ソウルからは遠く離れるべく設定したようにしか思えない。そしてこの作品のなんというフィニッシュ!

     どう見ても単独作品に見える本書は、実のところ三部作のスタートに当たる物語である。十代の頃に読んだ安部公房の『終わり道の標べに』の印象的な冒頭の文章を想い出す。

     「終わった所から始めた旅に、終わりはない。墓の中の誕生から語られねばならぬ。何故に人間はかく在らねばならぬのか?」

     何故なら本書は、フルダ64歳。定年退職を目の前に、自分の人生を振り返りつつ、未解決事件い挑もうとすう冒頭。しっかり描き切れてはいない未来設計。人生の終わらせ方を思いつつ、現役生活と仕事に未練を残す。そして古い古い過去の経緯。誰の物語かわからない断章が、現在のフルダの捜査の合間に二つほど語られてゆく。何が、いつの時代に、誰によって進行しているのか? その断章が現在の退職間際の事件捜査にどのように関わってゆくのか?

     未解決事件の謎と、フルダの謎と、それらとは別の物語らしきものも次第に明らかになってゆくという、たまらなく意味深な構成によって引っ張られてゆくその牽引パワーが物凄い。ラストは何となく想像できはしなかったものの、何ともノワールな作りに驚く。

     思えばアリ・ソウルのシリーズの方も十分ノワールの空気感に満ちているのだが、『湿地』その他のエーレンデュル警部シリーズシリーズで独特な世界観を描き出すアーナルデュル・インドリダソンの凄みのことも思うと、殺人事件が年に一回あるかないかという平和な小国アイスランドには、見た目以上に深い闇の奥行が齧られるし、何よりもそれを描き切る作家の上質さには、驚愕を覚えるばかりだ。

     相当優秀な作品で商業的にも売れないものであればまずアイスランド語で書かれた作品は英訳されず、世界に旅立つことができないし、英訳を日本語訳している現状から言えばこの作家はいくつもの言語的ハンディを背負ってこの物語を紡いでいる。そうした逆境だからこそ、この高いレベルでしかぼくらは読むことがない類の作品群なのである。何だかぞくぞくする。

     本シリーズは衝撃の結末を迎えるが、実は三部作の初篇ということで、二作目はフルダの50代、三作目は40代が遡るように描かれているのだそうである。その伏線らしきものを捜しつつ、眼をすがめて読んだ読書経験も、これまたとても不思議なものであった。次作への興味を繋ぐ深い深いエンディングに不思議感と期待感と二つ、我にあり、といった心境である。

  • 謎解きは面白くテンポも良い。そして、あっと驚く結末。
    充分に読み応え有り。
    でも、作者の書きたかったのは、主人公の生い立ち、苦悩、苦境、孤独などなど、
    どこ切っても辛く悲しく、そして憤り。
    こうまで辛い人生でも刑事として自分なりの正義を貫こうとする姿勢は、立派だけど作者は更に捻りをいれてくる。
    正義って見方によって、悪にでもなるし、悪い事をすれば、災厄が自分に返って来る
    なんて、説教臭いけど、いわゆる因果応報ってことだね。
    衝撃的なラストも、僕に皮肉が強すぎて、まるでコメディのように思えて、不謹慎だけど笑ってしまった。
    ともかく、すげぇ~と思わせる作品だった。

  • 終わりから始まるシリーズ。
    主人公フルダは65歳の女性警部で、年下の上司、かつて師弟関係にあった女刑事、理解のない同僚「男性」たちに囲まれて、彩りのない人生を送っている。
    「ガラスの天井」という、ジェンダーやら時代やらの兼ね合いで出世できなかったフルダの最後の事件といったところ。

    自殺した外国人女性(難民)について調べるフルダだが、被害者が外国人であったことからか、事件の風化が早く、登場する人物の大半が、事件について覚えていない・元から興味がない者ばかりで、読んでいてフルダと一緒に疲れてしまった。
    65歳の女ということで、事件関係者になめられているのか、フルダへの対応が悪い人も多く、それも読んでいてつらい。

    つらいなりに読もうとしたあたりで、フルダが「ヘルダ」になっている誤字発見(94p)。小学館の海外文庫、結構誤字多い気がする。

    面白くなってきたと感じたのは、タイトルにもなっている「闇という名の娘」が登場したあたりから。

    生い立ちから最期まで、フルダの人生はあまりにも……あまりにも悲しすぎる。

    二作目、三作目では彼女の過去の活躍が描かれるそうで、本作261pに言及されている「孤島の事件」「農場の惨劇」の確率が高い。
    とりあえず続けて読んでみようかなと思う内容。
    もう彼女の最期を知ってしまったから。

  • 三部作の一冊目。老婦人警部が、現役最後の事件に挑む話。シリーズ全体としては、巻ごとに過去にさかのぼっていき、巻ごとにそれぞれの殺人事件を追う同一主人公によるミステリーなんだけど、主人公の人生そのものの物語にもなっている。良く言えば人間らしい、正直に言えば打算にまみれた主人公は、辛い生い立ちを知った上でも好感は持てなかったけど、それでも続巻を読みたいと思うくらいには、物語としては良かった。

  • 「緑衣の女」に続き2作連続夫(父親)から子を守れなかった母親がテーマのアイスランドミステリだった。辛気臭いシングルマザーの声聴きたくね〜ってブッチするシーン、その後の展開からおっちょこすぎるでしょ?!と思ったがラストまで読むと中盤示唆されるよりも更に似た境遇であり遠ざける理由が出てくるのでまあ…。にしてもトーンはシリアスとはいえフルダ怒涛のおっちょこちょいタイムが続くのちょっと面白いな。しかし夫は夫でしかないのか?父親とは?緑衣の女の方の主人公エーレンデュルも突然父親の自覚持てませんって出てこうとするし、そりゃ恨まれるわというか。自分のお世話できないのに家庭を維持できるわけないよね。

  • 舞台はアイスランド。
    65歳の女性の警部が退職を迫られ、最後に未解決事件に手をつける。
    難民許可を待つロシア人女性の自殺事件。殺人事件として追い始めると、売春容疑が出てくる。入国審査を担当する弁護士、ロシア語通訳、輸入業者と関係者はいるが決め手に欠く。
    彼女の人生の闇と共に謎が解けてくる。
    私小説的なサスペンス。
    アイスランドの風景が新鮮で面白い。
    ストーリーは進み方も嫌な終わり方も、好きじゃない。

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